8-10-1、アンドレアス・シュタイヤーのフォルテピアノ・コンサート、ピアノソナタ変ホ長調K.282、グルックのオペラ「メッカの巡礼」の主題による10の変奏曲ト長調K.455、ピアノソナタイ長調K.331、 06年5月11日、トッパンホール、

−シュタイヤーによる地味な生真面目な感じのフォルテピアノ・コンサート。トッパンホールは良く響き、譜面通り丁寧に演奏されていたが、繰り返しでは装飾がかなり自由に扱われていた。K.455は初出であり、映像の少ないソナタでは貴重な存在である。−

(最新のコンサート記録)
8-10-1、アンドレアス・シュタイヤーのフォルテピアノ・コンサート、ピアノソナタ変ホ長調K.282、グルックのオペラ「メッカの巡礼」の主題による10の変奏曲ト長調K.455、ピアノソナタイ長調K.331、 06年5月11日、トッパンホール、
(07年2月2日、NHKBS103のクラシック倶楽部を、D-VHSレコーダーのLS-3モードで、S-VHSテープにデジタル録画。)

 10月分の第一曲目の最新のコンサート記録では、昨年07年2月2日にNHKBS103のクラシック倶楽部から収録した映像であり、8-10-1として、アンドレアス・シュタイヤーのフォルテピアノ・コンサートを取り上げた。曲目は、ピアノソナタ変ホ長調K.282、グルックのオペラ「メッカの巡礼」のアリエッタ「われら愚かな民の思うは」による10の変奏曲ト長調K.455、およびピアノソナタイ長調K.331「トルコ行進曲つき」であり、モーツアルトイヤー06年5月11日に来日記念としてトッパンホールで演奏されたものである。
 シュタイヤーはドイツ生まれであり、ハノーバーとアムステルダムでピアノとチェンバロを学び、1983年から86年までムジカ・アンテイク・ケルンのチェンバロ奏者として活躍後、ソロ活動に専念し、フォルテピアノとチェンバロのスペシャリストとして国際的な評価を得ている。フォルテピアノの演奏する映像は少ないし、曲目が良いので早くアップする順番が来ないかと待ち望んでいたものである。



 ピアノソナタ変ホ長調K.282は、ミュンヘンで作曲された6曲の連作ソナタの第4番目に当たり、この曲だけアダージョで始まり、メヌエットが続くという変化があり、連作の中でこの曲だけが趣向を変えた曲となっていた。このコンサートの最後を飾るピアノソナタイ長調K.331も同じように、アダージョの変奏曲で始まり、メヌエットが続いているが、このピアニストが選んだ二曲は、こうした曲の性格を配慮した何かがあったのであろうか。
 曲は第一主題のゆったりした歩みの可憐なアダージョで始まり、続いて「ため息」音形が甘く続く印象的な主題で、直ぐにリズミックな第二主題になり、装飾的な美しい旋律が続く。フォルテピアノ特有のくすんだような音が快く響きしっかりと弾かれていたが、シュタイヤーは繰り返しに入ると、アクセントを付けたり、装飾を加えたり、テンポを動かしたりと自在に変化を加えていた。良く響くフォルテピアノの機種は、残念ながら分からないので、写真ではマークが良く見える角度の写真を加えた。展開部は新しい主題が弾かれていたが、再現部は第二主題から始まり、あの印象的な第一主題が再現されないまま終わっていた。このピアニストはここでも繰り返し部分を丁寧に演奏しており、むしろ自分のペースで特徴づけながら演奏していた。



 第二楽章はメヌエットであり、明るく軽快なメヌエット主題で始まり、途中のアルペジオ和音の連続が面白く響く。スコアではトリオの代わりにメヌエット兇配置され、がらりとテンポが変わり強弱の変化があって雰囲気を変えてから、冒頭の主題に戻っていた。フォルテピアノ奏者は、申し合わせたようにスコアを見ながら演奏しているが、シュタイヤーも例外でなく、ここでも繰り返し部を変化を付けながら丁寧に弾いていた。
 フィナーレはこの曲初めてのアレグロで、オクターブ飛躍で始まる活発で明るい気分の軽快な主題が走り抜けるような楽章である。シュタイヤーは、この即興的な楽章を淡々と速いテンポで進め、途中のアルペジオが全体に変化を与えるが、シュタイヤーはこの部分を見事に弾きこなしていた。
 この曲は初めの楽章からフィナーレに至るまで即興的な雰囲気を持つソナタであるが、シュタイヤーは、フィナーレで持ち前のスピード感溢れる活発で弾き方で全体を盛り上げ、さすがヴェテランと思わせる演奏ぶりであった。




 第二曲は、グルックのオペラ「メッカの巡礼」のアリエッタ「われら愚かな民の思うは」による10の変奏曲ト長調K.455である。モーツアルトの演奏会を訪問してくれたグルックに敬意を表し即興された作品といわれ、二つの自筆の譜面が残されているという。
 主題はオクターブで弾かれる重厚なグルックらしい旋律からなるアリエッタで、シュタイヤーはアレグレットの主題を丁寧に重々しく弾いていた。第一変奏は右手が16分音符で弾かれる速いテンポの変奏で、第二変奏は左手が16分音符で弾かれる力強い変奏であり、シュタイヤーは軽快に弾きこなしていた。第三変奏は右手が三連符で弾かれトリルに特徴がある変奏、第四変奏は左手がオクターブで力強く弾かれ右手は自由な変奏で、第五変奏はただ一つの短調のゆっくりとした変奏であった。シュタイヤーはソナタの時よりも、繰り返し部分も含めて、変化を加えずに楽譜に忠実に弾いていた。第六変奏は、右手のトリルで始まり、それが左手に移ってからまた右手のトリルに戻るトリルの変奏で、第七変奏は主題をもじった気ままな軽い変奏であり、第八変奏は両手の交差を特徴とする力強い重々しい変奏で、最後に短いカデンツアを持っていた。第九変奏はアダージョの左手のオクターブに対し右手が自由な楽想で展開されるゆっくりした長大な変奏であり、第十変奏は速いテンポのフィナーレで、長いカデンツアの後に主題が回想されて結ばれていた。第八変奏あたりからとても充実した曲想になっており、ウイーン時代の作品であることを気付かせた。シュタイヤーは、譜面に忠実に丁寧に弾いており、正面から取り組んだ重厚な演奏ぶりであった。




 さて第三曲はピアノソナタイ長調K.331「トルコ行進曲つき」である。この曲は変奏曲−メヌエット−ロンド(トルコ風)という変わった構成となっており、ソナタ形式のないピアノソナタはこの曲だけである。用紙の研究が進み、ウイーン時代の1783年頃と作曲年代が考えられるようになってから、フォルテピアノのための作品であり、1784年に前後の3曲と一緒に出版された事情から、三部作の真中の曲として前後の曲に対し、大きな変化を求めたものと考えられている。
 第一楽章の主題提示は、シチリアーナ風のゆっくりしたリズムを持った実に優美な主題であるが、シュタイヤーはピアノをよく響かせながら丁寧に弾いていた。第一・第二変奏は右手の動きがよく目立つ変奏であるが、シュタイヤーの指が粒だつように良く動いており、繰り返しでは絶えず意識して変化を付けていた。第三変奏は趣を変えた短調の変奏となり、やはり高音が美しく、途中からのオクターブが楽しい。第四変奏は両手を交差させるなど忙しく、第五変奏はアダージョとなり右手が活躍する。最後の第六変奏はアレグロとテンポをがらりと変わり、シュタイヤーは踊るような感じで軽快に鍵盤を叩いていた。
 第二楽章はおやと思わせるメヌエット楽章で、飛び上がるようなリズムで早めに弾かれていた。メヌエット主題の流れるようなピアノの美しさがキラキラして実に素晴らしい。中間部のトリオも淡々としているが、左右の手が交錯したり、ユニゾンの激しい強奏の部分があったりして変化が多く、繰り返し部では装飾音が多く輝いており、見ていてとても楽しかった。
 第三楽章のトルコ行進曲は、ゆっくりと明るく伸びやかに弾かれていた。この曲は、いつ聴いても楽しい気分にしてくれるが、しかし映像を見ていると、誰でも知っている曲だけに、緊張が強いられるのであろう。シュタイヤーは、真剣な表情で集中力を高めながら弾いていた。どんな大家であってもこの曲は、試されるような気持ちで張りつめたような緊張が必要な曲であると感じさせられた。




 真にうっかりした作業中のミスにより、第三楽章の後半部分のテープを消去してしまい、演奏後の演奏者の表情やアンコール曲などをお伝えできないことを残念に思っている。しかし、このコンサートは非常に生真面目なコンサートであり、演奏者の笑顔は最後まで見られない、実に淡々とした地味な演奏会であった。演奏会の雰囲気がもう少し明るければ、もっと楽しめるコンサートになったであろうと残念に思われた。

(以上)(08/10/07)


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