8-1-1、ブッフピンダーのピアノ協奏曲シリーズ(その2)、
(曲目)第23番イ長調K.488、第22番変ホ長調K482、第24番ハ短調K.491、指揮とピアノ;ルドルフ・ブッフビンダー、ウイーンフイル、楽友協会ホール、06年5月、

−クラリネットやフルートなどの木管が活躍する素晴らしい後期の3曲が演奏されたが、アンサンブルの良さを持ち味とするブッフビンダーの指揮とピアノのお陰で、ウイーンの聴衆たちとの血の通った暖かな音楽が楽しめた−

8-1-1、ブッフピンダーのピアノ協奏曲シリーズ(その2)、
(曲目)第23番イ長調K.488、第22番変ホ長調K482、第24番ハ短調K.491、指揮とピアノ;ルドルフ・ブッフビンダー、ウイーンフイル、楽友協会ホール06年5月、

(07年07月08日、クラシカジャパンの放送を、DーVHSレコーダーのLS-3モードで、S-VHSテープにデジタル録画。)

 始めの第一曲は、昨年7月にクラシカジャパンで最近収録した映像であり、07年12月号に引き続き第二回目のブッフビンダーのピアノ協奏曲集をお届けする。12月号でご紹介したとおり、ブッフビンダーのウイーンフイルとの楽友協会ホールによる心温まる二夜にわたるコンサートであり、今回はK.488、K.482、K.491という後期の素晴らしい3曲をご報告するものである。
 演奏者のルドルフ・ブッフビンダー(1954〜)は、ウイーンの音楽大学で学び室内楽演奏者としてスタートしているが、後日ソリストとしての活躍を始め、ヨーロッパの主要楽団と協演を重ねて今日に至っている。彼はザルツブルグ音楽祭などのレギュラー・ピアニストとしての実績を持っていたが、たまたま、2006年のモーツアルトの生誕250年の年に彼は60歳の誕生日を迎えた。そして、ウイーンフイルやウイーン交響楽団などとのピアノ協奏曲チクルスを精力的に行い話題になっていたが、新しい2枚のDVDとしてリリースされたのは、今回のこの6曲のようである。



 第一回目の三曲を聴いて、ブッフビンダーは失礼ながらヴィルテイオーゾ的な方ではなく、オーケストラとのアンサンブルを大事にするピアニストであることが分かったが、コンサートの最初の曲は、指揮者としての出番があるオーケストラが長々と主題を提示してゆく曲を選んでいたようだ。この日の第一曲目のピアノ協奏曲イ長調K.488もそうであり、座って両手を振りながら指揮を開始し、オーケストラの弦の美しい立ち上がりやクラリネットやフルートの美しい響きを確かめるようにひとしきり指揮をしながら、ピアノに向かっていた。ピアノの冒頭で一瞬遅れて入る癖はこの曲でも同じであったが、落ち着いたテンポで丁寧に指を走らせていた。オーケストラと交互に第一主題を進めてから、独奏ピアノが第二主題を提示してゆくが実に美しく、コロコロと転げるようなパッセージが光るピアノにオーケストラが絡みつくように追従して、見事なアンサンブルが示されていた。展開部は新しい主題で弦で始まるが、ピアノと木管の競い合いが続いた後に早いピアノのパッセージが現れピアノが目まぐるしく活躍していた。派手ではないがじっくりと絶えず相手を確かめるようにピアノするのがブッフビンダーの持ち味のような気がした。カデンツは備え付けのものであった。



 独奏ピアノで秘かに始まる第二楽章のアダージョは、シチリアーノのリズムに乗って、モノローグでゆっくりと進み、この主題に応えるかのように第二ヴァイオリンの分散和音をベースに、クラリネットがそしてフルートが新しい旋律を歌い出し、ピアノがゆっくりと静かにフォローしていく。一音一音確かめるように弾くピアノの音が実に印象的であった。フルートとクラリネットがテンポを変えて合奏しながら主題提示する中間部でも、ピアノと木管との掛け合いが美しく続くが、聴くものをいつもウットリとさせる。再びピアノが冒頭の主題を再現し変奏しながら山場を築いていくが、この変奏の妙には何度聴いても驚かされる。最終部でのピッチカートの伴奏でピアノがゆっくりと歌い上げる場面は実に美しく、ブッフビンダーとオーケストラとの一体感をまざまざと示していた。
 フィナーレは馴染み深いロンド主題が独奏ピアノで軽快に飛び出し、明るく輝くようなアレグロでオーケストラと交互に進む。この楽章は何度聴いてもロンド主題に挟まる魅力的な副主題が沢山あって、全体の構成が良く分からない。しかしながら全楽章を通じて、4度ぐらい現れるロンド主題を挟んで、この主題が出るたびに入れ替わる煌めくような副主題がいろいろ現れ、ピアノとオーケストラと木管とが交互に、或いは競い合うように三つ巴となって軽快に進行して盛り上がりを見せていた。そして、ピアノの早いパッセージが連続し、鍵盤の上を走り回る技巧の冴えを見せながら、華やかに力強く楽章を綴じていた。
 親しみ易い名曲に酔った観衆が声を出し最高の拍手で讃えており、このピアニストのウイーンでの人気の高さに改めて一目を置かざるを得ないと感じた。



 第二曲目のピアノ協奏曲は、第22番変ホ長調K482 であったが、休憩も取らずに引き続いて行われた。この曲は、トウッテイで堂々と現れる行進曲調の響きで開始され、フルートが高らかに美しく鳴り響く第一主題と、弦楽器のカンタービレが美しい第二主題から出来ているが、ブッフビンダーはピアノの前に座ってにこやかな表情で両手でオーケストラによる主題提示部の指揮を取っていた。独奏ピアノの登場を明確に印象ずける長いアインガングの後、ピアノが細かいリズムを刻みながら第一主題を奏し、さらにピアノが華やかにパッセージを繰り広げ、独奏ピアノ用の第二主題的な新しい主題も現れた。ブッフビンダーのピアノには、忙しいながら余裕が感じられた。展開部でもピアノが華やかに動き回っていた。再現部では、フルオーケストラの第一主題の冒頭部の後はピアノが主導権を取って賑やかに見事な変奏を加えながら活躍していた。カデンツアは自作のものであろうと思われた。



 第二楽章は静かな弦4部だけで始まるアンダンテ主題が一通り演奏されるが、この曲は変奏曲となっており、続くピアノによる繰り返しが第一変奏となって、後半に変奏が加えられていた。続いてクラリネットが主体の木管だけの優雅な第二変奏が行われ、次いで力強いピアノと弦の伴奏による第三変奏が続いた。フルートとファゴットの二重奏による第四変奏はまるでデイヴェルテイメントのような錯覚さえ起こさせ、続くフルオーケストラとピアノによる堂々たる第五変奏が楽章全体を盛り上げていた。ピアノがひとしきり技巧的なパッセージを続けた後に、結びの形でファゴットとピアノと弦楽合奏による夢のように美しい豊かなアンサンブルの世界が顔を出して楽章が結ばれた。ブッフビンダーの指揮とピアノは、協奏曲としての味のある見事なアンサンブルの美しさを醸し出していた。変奏曲と言いながらまるで幻想曲のようなこの楽章が、ブルグ劇場の初演時にアンコールされたというが、当時の観客は非常にレベルが高かったものと思われる。
 フィナーレの軽やかに戯れるようにピアノと弦楽合奏で始まるロンド主題は実に生き生きとしており、続いてホルンや木管の合奏も加わって、私は映画「アマデウス」の野外でのコンサートの場面を思い出す。輝くような早いピアノのパッセージの後に、独奏ピアノによる第一クプレの旋律も軽快で、木管や弦に渡されピアノで再現されてから再び始めのゆっくりしたロンド主題が現れる。フェルマータの後に現れる第二中間部は、クラリネットが奏するゆっくりしたメヌエット風のアンダンテイーノ・カンタービレとなり、ここでもセレナードのような和やかな雰囲気を醸し出す。そしてピアノと第一ヴァイオリン、クラリネットと木管アンサンブル、さらにピアノと弦楽器のピッチカートという順番に穏やかなカンタービレが繰り広げられ、再びロンド楽章が現れる。短いカデンツアの後に再びロンド主題となってフィナーレが終了したが、サービス満点な賑やかな楽章であった。
 この曲もブッフビンダーの指揮とピアノに対し、大変な拍手が寄せられて休憩に入った。



 この日の最後を飾るピアノ協奏曲は第24番ハ短調K.491であり、前日の第20番ニ短調に続き同じ短調の曲であった。本日の三曲にはいずれも2本のクラリネットと1本のフルートが用いられていたが、このハ短調協奏曲には、さらに2本のオーボエ、2本のトランペットにテインパニーも加わって、ピアノ協奏曲としては最大規模の二管編成のものであった。
 第一楽章は短調の不気味な厳粛さを持った長い第一主題がユニゾンで重々しく開始され反復されてゆくが、フルートが美しい音色を響かせて目立っていた。ここでもブッフビンダーは座りながら手慣れた調子で指揮を取っていた。やがて独奏ピアノが華やかなアインガングで登場し華麗なパッセージを響かせた後に、冒頭の重い第一主題がオーケストラで華々しく提示され、ピアノが部分動機を材料にひとしきり技巧を見せながら自由に動き回る。やがてピアノは単独で呟くように美しい第二主題を提示するが、オーボエが歌うように反復し、ピアノが速いパッセージで引き継いで、フルートとピアノによる競演が速いテンポで繰り広げられる。木管群の新しい主題提示とピアノがそれを模倣して早いパッセージで繰り返すパターンが賑やかで、ブッフビンダーの技の冴えが随処で見られた。
 ピアノのアインガングの音形で始まる展開部もピアノが大活躍し、再現部でもピアノが縦横の活躍をして、長い技巧的なオリジナルのカデンツアを経て、重々しい第一楽章が終結した。



 第二楽章は独奏ピアノが易しい主題をラルゲットで奏し始め、続いて弦楽器と木管楽器が掛け合い風に穏やかに繰り返していくが、何とこれがABACAの構成のロンド主題Aであった。続いてオーボエとファゴットが対話をする第一の副主題が登場し、ピアノと弦楽器が主題を引き継いで爽やかに対話を重ねる。そして再び冒頭の優しい主題がピアノに戻り、第二のエピソードがクラリネットとファゴットで示されて、ピアノと弦楽器に渡されひとしきり対話が行われていた。この楽章でブッフビンダーが示したピアノは、絶えずアンサンブルの相手を意識した丁寧な美しいピアノであった。
 フィナーレは第二楽章がロンドだったので、速目のテンポの変奏曲形式を取り、オーケストラで主題が提示されるが、第一楽章の冒頭の第一主題の部分動機のような関連主題であった。第一変奏はピアノのソロで速いテンポの変奏が行われ、第二変奏は木管群が主題を示しピアノが速いパッセージでフォローしていた。第三変奏はピアノが力強く付点のリズムで変奏し、オーケストラも力強くこれを繋いでいた。第四変奏はクラリネットが新しい主題を提示しピアノがこれを模倣して変奏していた。第五変奏はがらりと変わって独奏ピアノだけのポリフォニックな演奏になっていた。第六変奏は新しい主題がオーボエで導かれ、フルートが反復してピアノに渡されていた。第七変奏は弦楽器が冒頭の主題を流しピアノがこれを彩り、短いカデンツアが奏され、フィナーレのピアノによる速いテンポの変奏で終結していた。この楽章でもピアノと木管群と弦楽器群とが互いに補い合って持ち味を発揮しており、アンサンブル音楽の妙味を見せていたが、ピアノが常に中心になって見事なバランスが図られていた。

 騒然としたもの凄い拍手の嵐の中で、ブッフビンダーは何回もステージに呼び出されていたが、終いにはオーケストラ団員たちも弦を叩いてブッフビンダーを讃え、とても良い雰囲気の中で映像が終わりとなっていた。クラリネットやフルートなどの木管が活躍する素晴らしい後期の3曲が演奏されたが、アンサンブルの良さを持ち味とするブッフビンダーの指揮とピアノのお陰で、ウイーンの聴衆たちとの血の通った暖かな音楽が楽しめた。

(以上)(08/01/10)


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