7-8-2、クラシカジャパン「モーツアルトのある毎日」第14回、
(曲目)バレンボイムによるピアノソナタ全集(第6回)、ピアノソナタ第17番変ロ長調K.570、およびピアノソナタ第18番ニ長調K.576、ピアノ;ダニエル・バレンボイム(1988&1990)、

−晩年の時期を特徴づける澄みきった透明な音調が始まっており、簡潔さの中にこの特徴を掘り下げたバレンボイムの好演が光る−

7-8-2、クラシカジャパン「モーツアルトのある毎日」第14回、
(曲目)バレンボイムによるピアノソナタ全集(第6回)、ピアノソナタ第17番変ロ長調K.570、およびピアノソナタ第18番ニ長調K.576、ピアノ;ダニエル・バレンボイム(1988&1990)、

(06年09月19日、クラシカジャパンCS736の放送を、D-VHSレコーダーのLS-3モードで、S-VHSテープにデジタル録画。)


 8月号の第2曲はクラシカジャパン「モーツアルトのある毎日」第14回からのバレンボイムによるピアノソナタ全集の最終回であり、第17番変ロ長調K.570、および第18番ニ長調K.576の2曲をアップする。このシリーズは95年1月にクラシカジャパンより連続して放送され、既にS-VHSに収録していたが、改めてデジタルで収録し直している。これらは既に評価の定まった演奏であるが、ピアノソナタの映像は意外に少なく、このホームページでは、かなり前に内田光子の第18番ニ長調K.576を(2-5-2)として紹介している。第17番変ロ長調K.570については初出の映像となっており、極めて貴重な全集記録であると考えている。



 第一曲の第17番変ロ長調K.570については、晩年の1979年の二月にウイーンで作曲された。この時期のモーツアルトを特徴づける澄みきった透明な音調が始まっており、簡潔さの中に各楽章の性格の均衡と対照が見事な作品となっている。バレンボイムは、暫くピアノの前で瞑想してから、ゆっくりした和音とその分散和音が上下する第一主題で第一楽章を始める。バレンボイムは急がずに丁寧にはっきりと弾いており、経過的な主題の後に、第一主題の和音が左手で現れるとても分かり易い第二主題が登場すると、くるくると回転するかのような華やかなパッセージが続き、玉を転がすようなピアノの連続で心地よい。展開部でも二つの主題が上品にさらりと展開され、晩年の作風の特徴が現れていた。



 第二楽章は、ゆっくりしたアダージョで呟くような主題で始まるが、形式はロンド形式でそれぞれの主題が絶えず反復され分かり易い。バレンボイムは省略することなく繰り返しを丁寧に弾いていた。第一のエピソードは唐突に始まる悲痛な感じのする軽い旋律であるが、テンポが少し速まって繰り返された後、直ぐに初めのゆっくりした主題に戻される。第二のエピソードは明るく澄み切った感じで淡々と進み対象的であったが、晩年の作風を感じさせるものがあり再び始めのゆっくりした主題に戻り、さり気なく静かに結ばれていた。
 フィナーレは軽やかなロンド主題で始まり、バレンボイムは軽快に両手を鍵盤上に走らせる。この楽章も繰り返し部が多いが、バレンボイムは、略さずに丁寧に黙々と弾いていた。力強さを感じさせる第一エピソードに続いて、簡潔さを印象づける第二のエピソードなどでは、バレンボイムはあっさりと軽く流すように弾いており、そこには全てを心得た奏者の姿があった。呟くように終わる最後のフレーズが印象的であった。



 第二曲の第18番ニ長調K.576は、1789年の4月から6月にかけて、リヒノフスキー公とベルリンに旅行をし、フリードリッヒ二世のために6曲の弦楽四重奏曲、皇女のために6曲のピアノソナタの作曲を依頼されたとされる。1789年7月に作曲されたこのニ長調の作品は、この皇女のために書かれた唯一の作品に当たるばかりでなく、彼の最後のピアノソナタでもあり、易しいものという依頼にも拘わらず、晩年の枯淡な感性が滲み出た充実した作品になっている。
 いきなり軽快に飛び出す主和音のアルペジオによる上昇で始まる第一主題が華やかで、続く流れるような長いパッセージをバレンボイムは軽々とこなす。ドルチェで現れる優しく歌うような第二主題は皇女を意識した主題であろうが、冒頭主題を材料にした展開部は歯切れ良く響くものの対位法的な複雑さがあり、もはや皇女のためのものとは違う世界であった。



 第二楽章は素朴な美しい主題がウットリするように現れ繰り返された後で、続く第二主題は何と美しく心に響くのだろうか。バレンボイムは、この主題を歌うように響かせ、狂いのないパッセージで見事な響きを暫くの間続けて聴かせる。晩年のモーツアルトの独自の境地が秘められているかのようであった。やがて元の主題が再現されるが、コロラチューラのような細かな変奏がなされ、終わりの寂しげな静かな結びも気になる終わり方であった。
 フィナーレは躍動するような元気の良い軽やかな主題が現れ、繰り返されて経過部を通り過ぎ第二主題が現れるが、これは初めの主題の変奏のようなもの。バレンボイムは生き生きとした感じでこの軽快なこのアレグレットの楽章を弾きこなしていた。

 これでバレンボイムによるピアノソナタの全集の全18曲を6回に分けて聴いてきたことになる。バレンボイムは、大きく2年位に分けて、ソナタ集を続けて収録したことが、会場の様子から類推できるが、兎に角、忙しい人なのに大変な記録を残したものと感心させられる。先が急がれたため、稚拙な言葉でしか表現できなかったが、何回も新全集のスコアを眺めながら、繰り返して聴いてきた。どこかで書いているが、彼のピアノソナタは、私のピアノソナタの哲学である「丁寧に弾く、早すぎないように弾く、音をクリアに出す、」の三条件にほぼ合致しており、概してくせがなく安心できる演奏が多かった。CD全集は沢山あっても、いつも聴くものは数種類のものに止まるが、この映像による全集はそのうちの一つになっており、重要なチェック用の映像になっている。ソナタの映像では何人のピアニストが登場するか不明であるが、ソナタの場合はたとえ1曲でも映像で収録されていれば、その他の曲はそのピアニストのCDを聴きながら、ピアノを弾く姿を類推することが可能なような気がする。不十分な出来ではあるが、取りあえず、ピアノソナタ全曲のアップロードを喜びたいと思う。

(以上)(07/08/09)


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