7-7-2、クラシカジャパン「モーツアルトのある毎日」第12回、
(曲目)クラヴィーア・ソナタ第13番変ロ長調K.333(1990)、幻想曲ハ短調K.475及び第14番ハ短調K.457(1989)、第15番ヘ長調K533&K.494(1990)、ピアノ;ダニエル・バレンボイム、マックス・ヨーゼフ・ザール(1990)、ミュンヘン・ハイムハイゼン城(1989)、

−それぞれ特有の持ち味を持った重い感じの三つのソナタであったが、それぞれの曲の個性を冷静に引き出した立派な大人の演奏−

7-7-2、クラシカジャパン「モーツアルトのある毎日」第12回、
(曲目)クラヴィーア・ソナタ第13番変ロ長調K.333(1990)、幻想曲ハ短調K.475及び第14番ハ短調K.457(1989)、第15番ヘ長調K533&K.494(1990)、ピアノ;ダニエル・バレンボイム、
マックス・ヨーゼフ・ザール(1990)、ミュンヘン・ハイムハイゼン城(1989)
(06年08月31日、クラシカジャパンCS736の放送を、D-VHSレコーダーのLS-3モードで、S-VHSテープにデジタル録画。) 

 
 第二番目の7-7-2は、「モーツアルトのある毎日」からの映像で、バレンボイムのピアノソナタ全集の第5回目としてピアノソナタ第13番変ロ長調K.333、幻想曲ハ短調K.475+第14番ハ短調K.457、および第15番ヘ長調K533&K.494、の3曲を取り上げるものである。このシリーズは95年1月にクラシカジャパンより連続して放送され、既にS-VHSに収録していたが、改めてデジタルで収録し直している。これらは既に評価の定まった演奏であるが、ピアノソナタの映像は意外に少なく、このホームページでは3曲とも初出の映像となっており、極めて貴重なものと考えている。

 第一曲目のピアノソナタ第13番変ロ長調K.333は、プラートとタイソンの研究によって、1783年の末にリンツで、リンツ交響曲ハ長調K.425に次いで作曲されたと推測されている。リンツ交響曲は従来の作品と較べて堂々とした風格を備えた力作とされているが、このソナタも従来パリソナタと言われてきた仲間の曲と較べれば、第一・第二楽章は完全なソナタ形式でしっかりとした揺るぎない構成であり、フィナーレの末尾にはカデンツアが付くなど意欲的な試みが見られ、完成度が高い優れた作品と考えられている。



 第一楽章は、滑らかに歌うように流れる第一主題が美しく、バレンボイムはさり気なく開始して滑らかに早い音符をこなしていた。改まったように始まる第二主題も軽快であり、後半にはスラーとスタッカートの効果が明らかな特徴あるパッセージが現れて楽しくとても印象的であった。これら二つの主題が繰り返されてから、展開部では第一主題の冒頭部が繰り返し様々に展開されていた。バレンボイムは他の曲と同様に、この楽章も冷静に淡々と弾いており、全く乱れのない弾きぶりであった。
 第二楽章は、アンダンテ・カンタービレであり、アリアのように歌うような第一主題が穏やかに始まり、続いて第二主題も歌うように弾かれて、短いながらも完璧なソナタ形式で作られていた。展開部の後に、美しい歌うようなピアノの響きの中に、オペラのコロラチューラを思わせるような装飾の付いたパッセージが続き、バレンボイムは実に丁寧にこの部分を弾いていた。
 フィナーレはロンド・ソナタ形式。踊るように飛び上がるロンド主題で軽快に始まり、ひとしきり繰り返されてから新しい主題とロンド主題が交互に次々と登場するABACABAの形をとるが、Cの部分が展開部とも解釈できるので、ロンド・ソナタ形式と呼ばれる。ロンド主題が登場する毎に、次第に明るさを増していくようであり、一際盛り上がってから、長いフェルマータとともにカデンツアが現れ驚かされるが、ピアニストの表現力を試す場所としてごく自然に用意されていた。バレンボイムは、さり気なくこの難所を乗り切り、再びロンド主題に戻ってから一段と盛り上がってから堂々と終結していた。

   第二曲目の幻想曲ハ短調K.475とピアノソナタ第14番ハ短調K.457では、バレンボイムはこの二曲を連続して一体として区切れなく弾いていた。初めの幻想曲K.475では、最初のアダージョで、バレンボイムはユニゾンで思い切ってゆっくりと開始する。重苦しい主題がじっくりと繰り返されて行き暗い表情が続くが、途中からハッとするような美しい静かな主題が現れホットする。その主題でアダージョの部分を締めくくってから、やがてアレグロで力強い和音とともに激しい速いパッセージが続く。アンダンテイーノに移って暫く三拍子の穏やかな部分が続くが、続いてピウ・アレグロの部分に入りバレンボイムの両手が鍵盤上を駆けめぐり、嵐の頂点に達してから次第に穏やかになり、いつの間にか初めのアダージョが始まっていた。終わってみればこの幻想曲は大きく5つの部分に分かれ、緩急緩急緩と目まぐるしく幻想風に変化が激しいピアノ独奏曲であった。そのため演奏によっては、単独で演奏されても、深い感動を与える名曲であると考えられる。



 続くピアノソナタ第14番ハ短調K.457の第一楽章のアレグロでは、重々しい緊張した上昇する和音の第一主題で始まるが、同じハ短調のせいか先の幻想曲の暗いアレグロの気分を引きずっているかのように響く。バレンボイムは緊張感溢れる表情で無心に激しく弾きこなしていた。やがて軽やかに右手と左手が応答するような第二主題に入り明るさを取り戻すが、この楽章は、これら二つの特徴ある対象的な主題で構成されている。展開部では第一主題の冒頭部の音形が繰り返し展開され、緊張感を増しながらフェルマータで再現部に移行していた。バレンボイムはまるでベートーヴェンのソナタを弾くように緊張感を保ちながら力強く弾き進んでいた。
 第二楽章は、アダージョであるが、珍しくロンド形式のスタイルであった。ソット・ヴォーチェの穏やかなロンド主題がゆっくりと現れ、ひときわ高まりを見せた後に繰り返しが行われ、第一のエピソードが温和しく現れる。この主題も、細やかな動きを見せながら、丁寧に弾かれながら繰り返され、再びロンド主題となるが、ここでは見事に変奏されて再現されており、バレンボイムのピアニッシモの美しさが目立っていた。続く第二のエピソードは、ベートーヴェンの「悲愴ソナタ」の第二楽章の冒頭部分によく似た主題であり、変奏されて二度繰り返されて、ロンド主題が再現されていた。フィナーレもロンドソナタ形式であり、ハ短調の三拍子のシンコペーションをもつ第一主題であり、この主題が終始重要な役割を果たす、不安気な感じを持った楽章であった。  この曲のバレンボイムは、幻想曲から一気に全楽章を弾きこなしており、力強さと言い、技巧的な表現の緻密さといい、緊張感溢れる素晴らしい熱演を示してくれた。



 第三曲目は、従来の通称第18番から新全集で新たに第15番とされたヘ長調K533&K.494であり、バレンボイムはこの曲をアレグロ・アンダンテ・アレグレットの三つの楽章を持つソナタとして続けて弾いていたが、この曲は明らかにこれまでのソナタとは異なる曲調で作られている。
 第一楽章は右手だけの旋律で静かに始まる珍しい第一主題で始まり、バレンボイムはゆっくりと開始する。さり気なく動く鍵盤の上の八分音符の動きとオクターブの跳躍が印象的である。一方第二主題は流れるような三連音符が特徴であり、後半の左手だけの上昇音で始まる新しい音形も印象に残る。短調の展開部では、二つの主題が登場しこれまでの曲以上に丁寧に円熟した手法で入念に展開されていた。
 第二楽章は、バレンボイムは異常に遅く丁寧に第一主題を弾きだし、続く左手と右手が交互に出る第二主題も強弱を明確にしながらゆっくりと弾かれていた。展開部では第二主題が中心であるが異様な高まりを見せ、他にはない独創的な雰囲気で演奏されていた。私はこの楽章が昔から好きなのであるが、バレンボイムの弾きぶりは意識的であり、この曲の深遠な深みを引き出すような弾き方は好感が持てた。フィナーレはロンド形式のアレグレットであるが、前楽章の余韻に合わせるようにゆっくりとロンド主題が提示され、次々と新たな主題が現れて行くが、何と軽妙な不思議な味わいを持つ曲であろうか。ロンド主題も新しい副主題も出てくるたびに軽く変奏されながら登場していたが、バレンボイムは音を楽しみながら、もてあそぶかのように軽やかに流していた。

 ウイーン時代に定着してからの3つのクラヴィーアソナタを続けて聴いてきたが、三曲ともそれぞれ特有の持ち味を持ったモーツアルトにしては重い感じのソナタであったが、バレンボイムは淡々として客観的に弾くスタンスは変わらず、それぞれの曲の個性を冷静に引き出した立派な大人の演奏であったと思う。いつも感ずることではあるが、スタジオの音だけの録音と異なって、映像で全てを見せる録音方式なのに、いつも少しの乱れもない見事な演奏を見せるバレンボイムの姿には驚かされる。最近でも指揮者として多忙な中でベートーヴェンのソナタチクルスを続けているバレンボイムの記憶力には、誰しもが驚嘆する凄さを持っていると感心させられた。

(以上)(07/07/20)


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