7-7-1、ムターによるクラヴィーア三重奏曲、ハ長調(第5番)K.548、ホ長調(第4番)K.542、変ロ長調(第3番)K.502、ヴァイオリン;A.S.ムッター、チェロ;D.M.ショット、ピアノ;A.プレヴィン、06年4月ピピエーナ劇場、マントバ、

−ムターのヴァイオリンが突出せず、プレヴィンのピアノと融け合うように進み、何度も聞き込むにつれて、曲の良さがしみじみと味わえる演奏−

7-7-1、ムターによるクラヴィーア三重奏曲、ハ長調(第5番)K.548、ホ長調(第4番)K.542、変ロ長調(第3番)K.502、ヴァイオリン;A.S.ムッター、チェロ;D.M.ショット、ピアノ;A.プレヴィン、06年4月ピピエーナ劇場、マントバ、
(07年06月02日、NHKウイークエンドシアターのBS102の放送を、DーVHSレコーダーのLS-3モードで、S-VHSテープにデジタル録画。)

 7月号の第1曲は、最近、NHKで収録したばかりのムターによるクラヴィーア三重奏曲、ハ長調(第5番)K.548、ホ長調(第4番)K.542、変ロ長調(第3番)K.502の3曲をお届けする。丁度1ヶ月前に収録しているので、記憶に残っている方が多いであろう。数年前にムターの夫君となられたプレヴィンは、背中が丸くなりかなりのお年のように見受けたが健在であり、チェロは若いショットが担当し、全員が椅子に座って演奏していた。ピアノ三重奏曲は録音数が少ないので、特にヴァイオリニストが中心の録音は大歓迎である。一度見た限りでは、とても暖かい室内楽という雰囲気の映像であった。このところムターは、ヴァイオリンソナタも協奏曲も映像で全集化しており、ピアノ三重奏曲についてもこの際全集として完結して欲しいとお願いしたいものである。


 

 今回の映像は、ピアノ三重奏曲、ハ長調(第5番)K.548、ホ長調(第4番)K.542、変ロ長調(第3番)K.502の順に演奏されていた。最初の二曲は、考えてみると39番の変ホ長調交響曲K.543の丁度前後に書かれており、三大交響曲を集中して作曲した時期の軽い息抜きの作品とも考えられ、親しい人達の間で演奏される家庭的な音楽として、地味な存在であるが穏やかで捨てがたい味わいを持った曲と考えられる。また、変ロ長調K.502についても、オペラ「フィガロ」K.492を書き上げてから、ピアノ四重奏曲K.493、ピアノトリオK.496、ケーゲルシュタット・トリオK.498、などのピアノの室内楽を直前に連作しており、モーツアルトの最も優れた作品が生み出されていた時期に作曲されている。

 第一曲目のハ長調(第5番)K.548は、ユニゾンで堂々と開始され、プレヴィンのピアノが軽やかに引き継いでいく絶妙な美しい主題で始まるが、やや早めのテンポで軽快に進められる。ムターのヴァイオリンとピアノによりひとしきり交互に受け継がれてから、ピアノで始まりヴァイオリンが繋いでゆく第二主題がさらりと現れる。この主題も地味ではあるが素晴らしく味があり、プレヴィンのピアノとムターのヴァイオリンがきめ細かく、ほのぼのとしたトリオの良さが滲み出るように聞こえる。この二つの主題が交互に現れるソナタ形式で第一楽章が構成されているが、実に味わい深い楽章であり、三人のしっとりしたアンサンブルが心地よく聞こえた。


 

 第二楽章もソナタ形式であるが、長い第一主題がプレヴィンのピアノで美しく現れ、ムターのヴァイオリンが主題の後半を受けて優しく弾かれる。第二主題も単純な音形ながらピアノでゆっくりと現れるが、今度はチェロが丁寧に主題を繰り返し、続いてピアノが別の音形を奏でるとヴァイオリンがこれを受け継ぐと言う具合にまさにトリオの醍醐味が味わえる。
 フィナーレはロンド形式で、弱音のピアノでロンド主題が軽快に現れヴァイオリンに受け継がれ、新しい副主題が次々に登場するABACABAのスタイルで、弾むように明るく進行していく。この曲は地味な感じではあるが、三重奏の捨てがたい味わいが現れる曲であり、ムターのヴァイオリンが突出せず、プレヴィンのピアノと融け合うように進み、何度も聞き込むにつれて、曲の良さがしみじみと味わえる演奏となっていた。

 曲が終わると、ムターへの簡単なインタビューがあり、彼女は9歳の時K.211のヴァイオリン協奏曲でデビューしたと語り、彼女の長い経歴の節目節目でモーツアルトを弾いてきたと話していた。K.304のヴァイオリンソナタの第二楽章を弾く彼女の映像が映り、凄い美人に撮られた姿があって、この曲を愛していることを偲ばせていた。


 

 第二曲目のホ長調(第4番)K.542は、親しみやすいピアノ主体による第一主題で始まり、穏やかなヴァイオリン主体の第二主題に引き継がれて進むいかにも室内楽的な雰囲気で始まる。第一楽章は、この両主題が織り成して進行するソナタ形式であり、プレヴィンの温和しいピアノとムターのキリリとしたヴァイオリンを中心に、時々顔を出すショットのチェロの味わい深い響きが印象的であった。

 第二楽章は、ピアノにより人なつっこい感じのする第一主題が静かに優雅に提示され、弦を交えて繰り返され、ピアノが加わって変奏されていく。続いて新しいエピソードが重々しくピアノにより示されヴァイオリンによって繰り返されていくが、ピアノが32音符で彩りを付けるように進み印象的である。二つの主題によるアンダンテ・グラツイオーソの穏やかな変奏曲的な楽章であった。


 

 フィナーレは素敵なロンド主題が勢いよく飛び出すモーツアルトらしいロンドであり、ピアノで示される親しみやすい旋律がとても印象的である。やがて新しいエピソードが顔を出すが、再びロンド主題が明るく登場してこの主題を中心にして、賑やかに進行する。歯切れの良い楽章で、地味な曲ではあるが、室内楽の良さを味わさせる曲と言えよう。

 この曲の後でも、この映像ではムターの語りが入り、彼女はアンドレは最高のモーツアルト弾きだと絶大な信頼を置いており、彼の音色の良さや、ジャズにも通ずるテンポ感覚が素晴らしいと語っていた。プレヴィンはモーツアルトのトリオには、ハイドンの曲には見られないない巧みな味わいがあり、自分はトリオは必ずしも得意ではなく初めての曲もあるが、皆と楽しんで一生懸命やっていると語っていた。



 

 第三曲目は、変ロ長調(第3番)K.502であり、この曲の冒頭のピアノで始まる主題で、「ああ、この曲か」と思い出すお馴染みの旋律であり、6曲のトリオの中では一番親しみやすい曲であろうか。ピアノで軽やかに示された主題を、ヴァイオリンがピアノに合わせながら再現し、三つの楽器が派手なパッセージを加えつつ、この主題を模倣しながら変奏していく。この第一楽章は三部分形式とでもいうのか、第一部が繰り返された後、第二部で新しい主題がムターのヴァイオリンによるゆったりとしたテンポの美しい主題が流れ、ピアノでも反復されて冒頭の主題が展開されていく。第三部分は第一部のほぼ忠実な再現であったが、変調されていた。プレヴィンのピアノによる冒頭の旋律が主体となり、色々な形で現れるのが印象強い楽章であった。


 

 第二楽章は3拍子のラルゲットであり、始めにピアノがゆっくりと軽やかに主題を提示し、ヴァイオリンがそれを丁寧に反復していく。比較的自由な形式を取り、装飾が加えられながら繰り返され、続いて新しい主題がピアノで提示され、同様にヴァイオリンにより反復され後半では変奏されていた。しかし、いつの間にかラルゲットの冒頭主題に戻り、穏やかに心に浸みる見事なアンサンブルを見せていた。
 フィナーレは軽快なアレグレットで、ピアノが転げるように主題を提示していくが、主題の後半のリズムは第一楽章の軽快な冒頭主題に似た明るいリズムであった。続いて軽やかな副主題がヴァイオリンにより現れ、ピアノにより繰り返され変形されていくが、勢いを次第に増しながら、第一主題が現れる。この楽章ではヴァイオリンとチェロとの掛け合いが多く、それにピアノが加わって、見事なアンサンブルを見せる快適なフィナーレであった。


 

 こうして3曲の三重奏曲を立て続けに聴いて、曲の印象を語る必要がありそうであるが、私には最後の変ロ長調K.502が第一楽章の冒頭主題が好きなせいか最も好ましい曲に写った。しかし、第一曲のハ長調K.548の三重奏らしい味わいの濃い曲調にも捨てがたい魅力があり、聴いたときの気分や演奏者たちにより好みが変化しそうな僅かな違いである。
 ムター・プレヴィン・トリオは、ピアノが温和しすぎるという評価があるかもしれないが、ムターが余り突出せず、とてもバランスの良いトリオであると感じた。7組ほどあるCDの優れた演奏の中でも、このライブ演奏は遜色のないアンサンブルを見せているので、是非、まだ存在しない映像による全集の制作に望んで欲しいと思った。

(以上)(07/07/15)


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