7-5-5、モーツアルト生誕250年「Mozart 22 DVDシリーズ(その10)」、
宗教的ジングシュピール「第一戒律の責務」K.35、ヨーゼフ・ヴァルニヒ指揮、モーツアルテウム大学交響楽団、ジョン・デユー演出、2006年ザルツブルグ音楽祭、

−とても11歳の作品とは思えない最初の劇作品としてはなかなか面白く、さすがモーツアルトと思わせる内容を持った立派な劇作品で、記念すべき初DVD−

7-5-5、モーツアルト生誕250年「Mozart 22 DVDシリーズ(その10)」、
宗教的ジングシュピール「第一戒律の責務」K.35、ヨーゼフ・ヴァルニヒ指揮、モーツアルテウム大学交響楽団、ジョン・デユー演出、2006年ザルツブルグ音楽祭、


(配役)● 正義;渡辺美智子、● 慈悲;コルドウラ・シュスター、● 世俗精神(悪霊)クリステイアーネ・カルク、● キリスト教精神(修道士);ベルンハルト・ベルヒトルト、●キリスト教徒(頼りない若者);ペーター・ゾン、●(他に黙役として);狩人・ライオン・悪霊たち、
(07年3月21日、ユニバーサルGRAMMOPHON DVD-UCBD-1189/90、市販DVD使用)


 7-5-5では、モーツアルトの11歳の時に作曲された初めての舞台作品、宗教的ジングシュピール「第一戒律の責務」K.35をお届けする。ヨーゼフ・ヴァルニヒ指揮、モーツアルテウム大学交響楽団、ジョン・デユー演出というザルツブルグの皆さんが企画し出演したものであるが、最初の劇作品としてはなかなか面白く、さすがモーツアルトと思わせる内容を持った立派な劇作品であった。3月14日のモーツアルテイアン・フェラインの例会で田辺秀樹先生(一橋大学教授)が解説して下さり、このDVDの素晴らしさを皆で確認することが出来た。以下は、私が担当してまとめた田辺先生の例会記録を基にしてご報告するものである。

  田辺先生のお話では、06年の生誕250年を記念するザルツブルグ音楽祭の最大のイヴェントは、M22と称する22オペラ作品の全曲演奏であろう。その中で「イドメネオ」、「にせの女庭師」、「アポロとヒアキントス」、「ドン・ジョバンニ」などを現地で見ているが、最大の収穫は初めて舞台を見た宗教的ジングシュピール「第一戒律の責務」K.35であった。とても11歳の時の作品とは思えぬほどの面白さがあり、改めてこの作品を見直したので例会で取り上げたものである。なお、この音楽祭の初期のオペラ作品は、いずれも魅力的なものが多かった。



  タイトルの第一戒律とは、マルコ伝第12章第30節にあるイエスの言葉で「心をつくし、精神をつくし、 思いをつくし、力をつくして、主たるあなたの神を愛せよ」という第一の最も高貴なる戒律(いまし め)の責務である。この教えを布教するために、ドイツ語による芝居を楽しみながら分からせる平明な劇にしたもので、全体を三人の作曲家が担当している。ザルツ ブルグのイエズス会では、一般の民衆にこれらの教えを理解させるため、伝統的に寓話的な楽しい舞台作品を上演してきた。

  劇の内容は、なまぬるい生き方をしている普通のキリスト教徒が主人公で、善良ではあるが「世 俗の霊」に直ぐに惑わされて、堅固な信仰を確立することが出来ない。モーツアルトが作曲したのは 、この劇の第一部であり、神を知らぬ人が神の「慈悲」と「正義」の助けによって次第に教化されて いく。そして第二部(ミヒャエル・ハイドン)、第三部(アードルガッサー)と進むにつれて、この キリスト教徒はいろいろな試練を経ながら、最後には真の信仰へと導かれていくものとされている。



  演奏はヨーゼフ・ヴァルニヒ指揮でモーツアルテウム大学交響楽団であった。演出はアメリカ人 のジョン・デユーで、06年8月24〜28日に3度、ザルツブルグ大学の講堂で行われたものが、DVDに収録された。配役はモーツアルテウム大学に在学中若しくは卒業したばかりの若手歌手陣が担当している。なお、舞台の背景の絵や、登場人物の衣裳などがバロック演劇的な古風なもので、教育ものには打って付けの感じであった。また、デユーの演出も舞台での動きを重視したもので、楽しい活発な舞台を造り上げていた。

  軽快なシンフォニア(序曲)で始まり、クリステイアン・バッハの影響がありそうな軽やかな序曲でこれまでたびたび耳にしており、あどけなさを感じさせる曲で、キビキビとした好演奏であった。オペラ全体は、8曲のアリアで構成されており、アリアの前 後のドイツ語のレチタテイーボで、劇が進行する。



  最初のレチタテイーボでは、正義と慈悲とが、修道士に対して、お祈りをすれば神のご加護があることを説いていた。第1曲は修道士のアリアで、悪霊のために多くの人が誘惑に負けてしまうことを嘆いて歌い、正義と慈悲に助けを求めていた。舞台背景の繪は、ザルツブルグ市内であり、登場人物の衣裳がバロックスタイルで面白い。第2曲では、狩人とライオンが面白おかしく登場するが、狩人は迫る危機を知らずノンビリしている。狩りにはホルンが響き、アリアの中間部のアンダンテが美しい慈悲のアリアが続き、眠り込む狩人を見て心配していた。続く第3曲は、正義のアリアで、わがままはいけないと惰眠をむさぼる怠惰な若者を正義が起こそうとするが、修道士までが眠り込んでしまう始末であった。



  目覚めた若者は、夢うつつに「目覚めよ」という責務を感ずるが、そこに現れた悪霊が第4曲のアリアで、若者に正義の警告なんて気にするなと誘惑する。3拍子の誘惑のアリアで、オーボエとホルンが活躍し、後半には悪霊たちが出てきて面白く、最後に見事なカデンツアも入り、ブラボーが出た。続く第5曲は信者のアリアで、「あの雷のような言 葉」が聞こえてくると歌う。トロンボーンのオブリガートを伴った厳かなアダージョのアリアで、トロンボーンのカデンツアがあって驚かされる。第6曲は再び悪霊のアリアで、「哲学者(修道士)を思い浮かべろ」と、道徳 を説く修道士を悪霊が嘲笑する。木管のオブリガートが賑やかでここでもブラボーが出た。第7曲は修道士のアリアで、医者に変装した修道士が信仰こそ良薬 だと若者を諭す軽快なアリアであった。そして若者に良薬が入っていると封書を手渡す。ところが世俗の悪霊が再び現世の喜びへと誘うと、若者はいそいそと一緒に立ち去ってしまう。

  それを見て、慈悲も正義もこうした人間に教えを説くことが出来るかと心配するが、修道士は忍耐を持って彼を見守って欲しいと懇願する。フィナーレの第8曲は、修道士と慈悲と正義の三重唱となり「自 らの責務を果たす人間には、恩寵の光が与えられますように!」と歌われ、怠惰な若者を忍耐強く諭そうとして第一 部が終了する。






  このDVDの映像の特徴は、原作のリブレットに忠実であり、舞台の背景や衣裳も古いものであるが、登場人物が生き生きしており、歌手達の歌もオーケストラもまずまずの出来で、初めての映像記録としては素晴らしいものであった。特に世俗精神(悪霊)のクリステイアーネ・カルクは「アポロとヒアキントス」でもメリア(主役)を歌っており注目された。
 この日のモーツアルテイアン・フェラインの例会では、講演前の前奏として、冒頭に会員の岩島富士江さんのオードブル演奏(第8回)があり、6つの変奏曲ヘ長調K.54(547b)の演奏があった。また田辺先生も講演の後に、カールマンのアリエッタ「 ウイーンへの愛」やシュトルツの「ウイーンは夜になって美しい」他1曲をいつものように酒席ピアニストとして弾いてくださった。山の上ホテルの懇親会も盛会であった。

(以上)(07/04/18)(07/05/25改訂)


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