7-5-2、クラシカジャパン「モーツアルトのある毎日」第9回、
(曲目)ピアノソナタ第7番ハ長調K.309、第16番ハ長調K.545、第9番イ短調K.310、第8番ニ長調K311、ピアノ;ダニエル・バレンボイム(1990&1988)、

−余り感情に溺れずに明るく淡々と弾き進むバレンボイムの姿が大きく見え、どの曲も安心して浸ることが出来る。−

7-5-2、クラシカジャパン「モーツアルトのある毎日」第9回、
(曲目)ピアノソナタ第7番ハ長調K.309、第16番ハ長調K.545、第9番イ短調K.310、第8番ニ長調K311、ピアノ;ダニエル・バレンボイム(1990&1988)、

(06年08月02日、クラシカジャパンCS736の放送を、D-VHSレコーダーのLS-3モードで、S-VHSテープにデジタル録画。)

 7-5-2では、前回に引き続きクラシカジャパンの「モーツアルトのある毎日」の第9回目として、ダニエル・バレンボイムの演奏するピアノソナタ全集から、ピアノソナタ第7番ハ長調K.309、第9番イ短調K.310、第8番ニ長調K311の3曲を取り上げる。これまで新全集のスコアを見ながら注意深く聴いてきたが、バレンボイムは全て暗譜の演奏であったが、実に原典に忠実に弾いていると思われた。ピアノソナタ全集はLP時代のギーゼキングの生誕200年(1956年)を記念した録音が最初であったが、バレンボイムのこの映像による全集は、没後200年(1991年)の直前に映像としては初めて完成しており、今では全集録音は珍しくないが、いずれも演奏史に残る記念碑的なものと考えられる。
 さて、今回も録画をした順番に聴いていこうとして、第1曲の第7番ハ長調K.309から聴き始めたが、驚いたことにこの曲に続いて、第16番ハ長調K.545が演奏されていた。恐らくこの2曲は同時に続けて収録されたものと思われるので、ここでも第2曲として追加掲載しようと考えた。録画した時には気が付かなかったハプニングであった。



 第1曲の第7番ハ長調K.309は、モーツアルトがマンハイムに着いた頃に書き始め、10日ほど後に完成されたと手紙に書かれているカンナビヒの娘ローザのために作曲されたものと言われる。第一楽章はアレグロのソナタ形式であるが、第二楽章はアンダンテの変奏曲風のスタイルで、第三楽章はアレグレットのロンド形式で書かれており、最初期の作品とは異なりかなり自由な形式で書かれている。  第一楽章はオクターブのユニゾンで力強く堂々と開始され、生きの良い明るい推移部の音形が続いてから、優しい楽しげな第二主題が現れる豊かな楽想に彩られた華やかな楽章であった。バレンボイムは淡々と軽快に弾き進むが、強弱の対比や軽やかなパッセージが鮮やかであった。
 第二楽章はなよなよした可憐な主題が現れ、これにいろいろな彩りを付けて変化していく変奏曲形式で、愛らしい主題が絶えず変化しながら全体で五回現れる。付けられる細かな装飾音が賑やかに美しく流れていくが、ローザ嬢のイメージが込められているのかも知れない。バレンボイムは、余り表情を付けずに、ここでも淡々と弾いていた。  第三楽章はグラツイオーソと指示されたとおりの華麗なロンドであり、明るく軽快な主題が飛び回り、楽しく喜ばしい気分が溢れている。このロンド主題は都合三度顔を出し、終始明るく楽しげに進んでいた。
 このハ長調のソナタは、明るく華やかな楽想を持っており、マンハイム旅行中の解放された快適な気分を表しているような気がする。



 続けて開始された第2曲目の第16番ハ長調K.545も、バレンボイムは実に淡々と弾き進んでいた。第一楽章はドソミソで始まる可愛らしい簡潔な曲であるが、短いながらも口ずさみたくなる第一主題と軽やかな第二主題から構成され、変化を与える展開部も備えた完璧なソナタ形式で書かれており、1音たりとも無駄のない作りに驚いてしまう。
 第二楽章もアルベルテイバスで支えられた美しいメロデイの主題が流れるアンダンテで、この主題が様々に変化しながら推移していく変奏曲のスタイルの楽章であろうか。バレンボイムは、繰り返しを全て省略して弾いていた。
 第三楽章は、軽やかに踊るようなロンド主題が飛び出す見事に簡潔に作られたロンドで、二つのエピソードを挟んでこのロンド主題が三度姿を見せていた。バレンボイムは、三つの楽章を淡々と一気に弾いていたが、この曲は余り装飾音などをつけずにキチッと弾いてくれることが好ましい。譜面を改めてみながら丁寧に聴いてみたが、この曲ぐらいは自分で弾けるようになりたいものだという昔の夢を思い出してしまう。何度聴いても飽きることのない不思議な曲であると思った。



 バレンボイムが弾きだした第3曲目は、イ短調K.310のソナタであり、現在の新全集では第9番の曲であった。第1曲目のハ長調K.309と第4曲目のニ長調K311とがマンハイムで作曲されたとされるに対し、イ短調K.310の曲はパリで作曲されており、新全集ではこの解釈で順番を付けているようである。曲はイ短調で始まるアレグロ・マエストーソの指示通りに、悲しみを全てピアノにぶつけるように激しく壮大に始まる。続いて16分音符が続く一風変わった第二主題も異様な感じを与え、曲のただならぬ様子を伝える。ピアノソナタで始めて見せる展開部でのダイナミックな強弱の変化も激しく、悶々と内にこもった感情を強く外に吐き出すような高まりを見せる。バレンボイムは、終始感情を抑えながら弾いていたが、この曲のこの楽章で初めて、展開部・再現部の繰り返しを行っており、自然な姿で繰り返していたが納得できる演奏であった。
第二楽章は、前の楽章と対象的な美しい穏やかなアンダンテで、飾りの多い歌うような第一主題と細かく呟くように推移する第二主題とが繰り返し登場する。バレンボイムは一音一音心を込めて弾いており、束の間の静けさを保っていたが、展開部では異常な激しい高まりを見せ驚かされる。この穏やかな中間楽章を挟んで、次のフィナーレでは再び緊張した速いテンポのロンド主題が登場し、早いパッセージが続いてこの楽章を盛り上げる。バレンボイムの冷静な弾き方が、ともすれば感情に溺れがちなこの曲を乱れなく締まったものにしていた。モーツアルトが初めて作曲した短調のソナタは、これまでの作風とは異なった激情的な心を暗示する新しい第一歩を示すものとして注目される。
 前半の10曲のソナタのうち、この曲だけがマックス・ヨーゼフ・ザールという宮殿で1988年に収録された映像であった。



 続く第4曲目のピアノソナタ(第8番)ニ長調K.311の第一楽章では、この曲特有の華麗で軽やかな第一主題が走り出し、続いて第二主題も連続して湧き出るように美しく続く。バレンボイムは速いテンポで淡々と飾り気なく弾いており、伸び伸びと明るく弾き進んでいた。展開部では第二主題の終結部の主題が形を変えて何回も力強く繰り返されるが、再現部では珍しく第二主題から提示された後に、コーダで冒頭の第一主題が軽やかに回顧され、全体を明るく締めくくって終結していた。
 第二楽章は穏やかに始まる歌のような主題で、バレンボイムはごく自然なスタイルで楽しそうにゆっくりと弾いていた。繰り返しでは装飾音が際立って美しいが、バレンボイムは落ち着いて淡々として弾いていた。フィナーレのロンドでは、明るく華やかなロンド主題が軽やかに飛び出し、続く副主題も二つ終始明るく軽快なペースで進み、まさに若いモーツアルトのロココ趣味の頂点のような味わいがあった。この楽章では最後にフェルマータのあとに珍しくカデンツアすらあり、バレンボイムは一息入れて軽やかに流していた。フィナーレのロンド楽章としては、これまでの曲の中では最も規模が大きいしっかりした曲のように感じた。



 バレンボイムの演奏で、モーツアルトのピアノソナタをおよそ半分聴いてきた。初めの6曲はミュンヘンの、そして次の3曲はマンハイム・パリ旅行時の作品であった。これからの9曲は全てウイーン時代の作品となるようだ。バレンボイムは、現在日本でベートーヴェンのピアノソナタの全曲演奏を実施しており、指揮者活動ばかりでなくピアニストとしても旺盛な意欲を見せており、そのエネルギーは敬服に値する。このピアノソナタシリーズも、彼の充実した時期における映像の演奏記録として、他に例がないだけに、貴重な存在であろうと思われる。

(以上)(07/05/08) 


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