7-5-1、ノリントン指揮NHK交響楽団の交響曲第39番変ホ長調K.543ほか、06NHK音楽祭より、06年11月05日、NHKホール、

−ノリントンの古楽器奏法に、N響が初めて挑戦する。果たしてどんな結果を生み出すだろうか。答えは、定期会員の投票によるベストコンサートで何と第1位に選ばれていた。−

7-5-1、ノリントン指揮NHK交響楽団の交響曲第39番変ホ長調K.543ほか、06NHK音楽祭より、06年11月05日、NHKホール、
(06年12月24日、NHK教育TVの放送を、DVDレコーダーのLPモードで、DVD-Rにデジタル録画。) 

 7-5-1では、06NHK音楽祭の番組より、ノリントン指揮NHK交響楽団の交響曲第39番変ホ長調K.543ほか、をお届けする。私はノリントンのこの番組は5.1CHサラウンド映像では収録していなかった。それは、かなり前に、クラシカジャパンで ノリントンの第39番のレハーサルを収録し報告していたこと(4-10-1)と、エルガーのチェロ協奏曲という全く関心のない余分な曲が含まれていたからである。しかし、06年12月24日、NHK教育TVの放送では、4時間近い番組のハイライトで、ノリントンとN響、アーノンクールのレクイエムなど06NHK音楽祭の後半のメインを続けて放送することに気が付いて、DVDレコーダーのLPモードで、DVD-Rにデジタル録画してみた。これには、ノリントンがN響のメンバーに古楽器奏法を指導しながらレハーサルする風景と本放送とが含まれており、実に貴重な面白い放送であった。去る2月24日フェラインの例会で会員の皆さんに見ていただいたら大好評であり、さらに3月25日の池辺晋一郎のN響アワーで、定期会員の投票によるベストコンサートで何とこの39番のシンフォニーが06年の第1位に選ばれていたので、このホームページでも是非取り上げて、ノリントンのこの演奏を改めて評価してみたいと考えた。



 放送の初めに、ゲストとして黒田恭一氏、中嶋彰子氏、ピーター・バラカン氏が登場し、ノリントンの特徴は、モダン楽器のオーケストラに古楽器奏法で演奏させることで、これをN響の皆さんが古楽器奏法に初挑戦するのが面白いということであった。確かに最近は、 サイモン・ラトルがベルリンフイル(6-2-1)と、また アーノンクールがウイーンフイル(7-3-1)とオール・モーツアルトを振っており、海外のトップのオーケストラは古楽器奏法を十分にこなしていた。ノリントンは、ザルツブルグのモーツアルト週間においても、カメラータ・アカデミカ・ザルツブルグの指導指揮者になっているので、毎年のようにモーツアルトやハイドンなどの曲を振り、私には気心の知った指揮者であった。彼の奏法の特徴は、楽器の配置に始まり、弦楽器がノン・ヴィブラートで弾き、音の強弱を強めるため弱音の部分では弦楽器は半分の奏者が休むなどの他、管楽器を強めたり、拍子の取り方を早めるなど気が付くことが多く、あの重厚なN響がどう変貌するかは極めて興味があった。



 リハーサルでは、第三楽章のトリオの演奏で、伴奏の第2クラリネットがより激しく力強く吹くよう指導され、弦楽器ではノン・ヴィブラート奏法を繰り返し練習していた。ほぼ全員が初めて経験したようであるが、ノリントンから1時間ほど辛抱して練習すれば、結果に満足するようになり、感動が待っていると言われていた。レハーサル後の団員の意見では、言っていることがしっかりしているので納得させられてしまったとか、共感する部分が多くやってみたくなったとか、この奏法をやることにより幅が広がり活性化に繋がりそう、などと言っていた。その後、映像ではノリントンへのインタビューがあり、過去の作品はその当時に戻って演奏の仕方を考える必要があり、楽譜にないことも判断して、音楽に生命を与えるように努力していると語っていた。

 コンサートでは、「後宮」の序曲K.384から始まるが、ベースが4人で中央後列におり、大太鼓・シンバルが左奥に、テインパニーが右奥に配列されていた。早めのテンポで開始され、テインパニーの響きが強く、軽快なテンポで生き生きと進められるが、強弱の付け方が明確で、耳を澄ますとトライアングルなどの細かな音が聞こえてくるようだ。アンダンテに入って木管がひときわ伸びやかに歌って、再びアレグロに入り、極めて軽快に古楽器演奏風な味付けを聴かせながら序曲が終わった。続いて、エルガーのチェロ協奏曲であるが、ここではモーツアルトには関係がないので割愛する。



 続いて交響曲第39番変ホ長調K.543であるが、エルガーの曲で楽器編成が少し大型化し、正面のコントラバスが6台に、またよく見るとファゴットが4台に増強されていた。廣いNHKホールでフルオーケストラのN響が古楽器奏法で如何にこの曲を響かせるかが聴きどころである。曲はアダージョの序奏で始まるが、ノリントンはいきなりテインパニーを響かせて16分音符の弦は素早く弾き、テインパニーで付点音符のリズムをとって行進曲のように速いテンポで序奏を進める。古楽器奏法独特の序奏部の進め方であるが、今回は伝統的なアダージョにはほど遠い、序奏全体を捉えるとテインパニーによる行進曲のように響いた。私には苦手のこの序奏ではあるが、本当にこの解釈で正しいのだろうか。
 続く第一主題の始まりでは、ノンビブラートの弱音の弦が澄んで聞こえ、続く「英雄」を思わせる力強い楽想は堂々と進行し、序奏部との対比は実に明解であった。第二主題も第一ヴァイオリンにより歌うように提示され、木管との優美な対話が一きわ冴えて、ピッチカートを伴った厚い響きが快い。どうやらN響の古楽器奏法は、キビキビした動きと共に響きも良く成功しているようだ。



 第二楽章では、アンダンテのゆっくりした楽章の筈であるが、ノリントンは早めのテンポで終始し、ノンビブラートの弦の合奏による優雅な素朴な主題が早めに小気味よく推移した。中間部では木管と部厚い弦楽器との鋭い交錯が繰り返され、深遠な音の響きを聴かせ、後半ではファゴットとクラリネットとフルートによるカノン風の主題の展開が美しかった。メヌエット楽章でも早めのテンポで始まり、壮麗な力強い響きで進行して、堂々としたメヌエットを聴かせ、トリオではリハーサルで繰り返したように、二つのクラリネットとフルートの応答は実に美しく、繰り返しの終わりでは第一クラリネットが装飾音を聴かせるなどのゆとりさえ感じられた。ノリントンは、さすがに体を殆ど動かさず、上下に拍子をとるだけの手慣れた指揮振りであった。



 フィナーレの軽やかな早い出だしはこれまでの楽章と一転し、フルオーケストラが華やかに躍動しながら進行したが、ノリントンは、この交響曲の結論とでも言うべき壮大な完成された素晴らしい音の世界をここで作り出していた。中間部ではフルートとファゴットの美しい対話があり、展開部では高弦と低弦との鋭い対立や突然の意表をつく停止などがあって、聴くものに新鮮な印象を与えていた。ノリントンは終始、穏やかな表情で、ごく自然に指揮をしていたようであったが、N響にとっては初めての古楽奏法への挑戦という新しい1ページを踏み出すものであり、各団員の真剣な面持ちがそれを示していた。

 終わった後の観衆の拍手は大変なものがあった。恐らく普段聴いていたN響とは異なる世界の響きを感じ取ったに違いない。私はこの演奏が、定期会員の投票で06年の第1位に選ばれるとは夢にも思わなかった。この結果は会員が喜んでくれたということを示しており、N響のメンバーにとっても大きな影響を与えるであろうし、今後の行き方に一石を投ずるものであろう。リハーサルで団員の一人が呟いていたが、この奏法をやることにより演奏の幅が広がり活性化に繋がることは間違いないものと思われる。

(以上)(07/05/05)


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