7-4-2、クラシカジャパン「モーツアルトのある毎日」第8回、
(曲目)ピアノソナタ第4番変ホ長調K.282、第5番ト長調K.283、第6番ニ長調K.284「デユルニッツ」、ピアノ;ダニエル・バレンボイム(1990&1989)、

−楽譜の隅から隅まで暗譜して、驚異的な集中力で自由闊達に弾きこなしていくバレンボイムの演奏技術には、瞠目せざるを得ない−

7-4-2、クラシカジャパン「モーツアルトのある毎日」第8回、
(曲目)ピアノソナタ第4番変ホ長調K.282、第5番ト長調K.283、第6番ニ長調K.284「デユルニッツ」、ピアノ;ダニエル・バレンボイム(1990&1989)、

(06年07月21日、クラシカジャパンCS736の放送を、D-VHSレコーダーのLS-3モードで、S-VHSテープにデジタル録画。)

 7-4-2では、3月号に引き続きクラシカジャパン「モーツアルトのある毎日」よりダニエル・バレンボイムのピアノで、彼のピアノソナタ全集シリーズの中から、第4番変ホ長調K.282、第5番ト長調K.283、第6番ニ長調K.284「デユルニッツ」の3曲をお届けする。このシリーズは95年1月にクラシカジャパンより連続して放送され、既にS-VHSに収録していたが、改めてデジタルで収録し直している。既に評価の定まった演奏であるが、このホームページでは3曲とも初出の曲たちである。

 第一曲の第4番変ホ長調K.282は、連作の中の第4曲目であり、アレグロで始まらず唯一アダージョで始まるが、アレグロで始まらないのは他に「トルコ行進曲付き」のイ長調K.331だけである。また、第二楽章は珍しく典型的なメヌエットになっているが、メヌエット楽章を持つのもこの2曲だけである。連作が続くと楽章編成上の新しい変化を求めたくなるのであろうが、この曲はその変化が成功しており、アダージョが醸し出す詩的な美しさがとても印象深いソナタになっており、私の大好きなソナタの一つになっている。



 第一楽章は、ゆっくりと前奏のような繊細な第一主題ではじまり、続いて第二主題もリズミカルにゆっくりと歌われ、前3曲とはがらりと変わる詩情性があり、ウットリさせられる。バレンボイムは一音一音確かめるように丁寧に弾いていた。やがて両主題が繰り返されてから新しい主題で短い展開部が趣を変えるように現れ、バレンボイムは淡々と弾き進めていた。ソナタ形式なのであろうが、再現部では第二主題だけが装飾的な変化を加えながら再現され、繰り返しがないままコーダに進んでいた。バレンボイムの丁寧な弾きぶりもあってこんなゆったりした心温まる楽章は珍しく深く印象づけられた。

 第二楽章は聴感上は典型的なメヌエット楽章に聞こえるが、スコアではメヌエット機▲瓮魅┘奪鉢供△修靴謄瓮魅┘奪鉢気北瓩觀措阿砲覆辰討い拭メヌエット気隆雰蕕紛舛の中に突如としてアルペジオが連続したり、メヌエット兇侶擇笋な響きの中に、絶えず強弱や長短の変化があって、バレンボイムならではの繊細な工夫が目立った楽章であった。
 フィナーレはこの曲初めてのアレグロで、短いながらもソナタ形式で書かれた軽快な主題が転げ回る楽章。即興的に淡々と速いテンポで進むが、途中でアルペジオが変化を与え、バレンボイムはこれを楽しんでいるかのように弾いていた。この楽章のスピード感溢れる活発で明るい気分が全体を盛り上げ、アダージョで始まったこの曲をキリリとまとめ上げていた。


 第二曲のピアノソナタ第5番ト長調K.283は、前4曲までの映像とは異なり、ミュンヘンのハイムハウゼン城の一室で、第6番ニ長調K.284「デユルニッツ」とともに1789年に収録されたものである。この曲では、始めの第1〜3番と同様にアレグロ−アンダンテ−プレストのスタイルに戻り、全ての楽章がソナタ形式で書かれている。
 第一楽章は3拍子の問いと答えを繰り返すような親しみやすい対話的な第一主題で踊るように始まり、華麗な16分音符のパッセージの後に、リズム的な軽やかな変化を持つ第二主題が現れて、軽快に進む。バレンボイムは、リズミックな変化を意識して楽しんでいるかのように淡々と弾いていた。繰り返しの後の展開部では新しい主題が出て短く終わり、二つの主題が変化を加えながら再現されていた。



   第二楽章では、スタッカートで始まる淡々としたさり気ない第一主題と親しみやすい第二主題で構築されたアンダンテであり、バレンボイムは黙々として単調さを避けるようにアクセントを付けて弾いている。一瞬のうちに終わる展開部を経て、装飾的な音形変換を加えながら二つの主題が巧みに再現されていた。3拍子の舞曲調で始まるフィナーレでは、喜び溢れる早いキビキビした主題が飛び出し、軽やかな表情を見せる第二主題とともに明るく進行するが、減7の分散和音が激しく響く展開部を経て、再び明るく躍動的に再現される。隅々にリズム的な工夫が凝らされちる楽章で、バレンボイムは明るくリズミカルに見事に弾きこなしていた。


 第三曲目のピアノソナタ第6番ニ長調K.284「デユルニッツ」は、モーツアルトが手紙で「ミュンヒェンのデユルニッツ男爵のために作曲した」と書いているので、昔からこの曲だけが「デユルニッツ」と呼ばれていた。この曲は、これまでの連作の5曲と異なっていることは、チェンバロやピアノ併用の曲調から、完全にピアノのための大きなダイナミズムが要求されており、6曲中最も規模が大きく、一段と力のこもった作品である。そして、これまではソナタ形式が全楽章を支配していたが、この曲では第一楽章はソナタ形式であるが、第二楽章がポロネーズ風のロンド、第三楽章が変奏曲で構成され、フランス音楽の影響が指摘されてきた。また、後年、モーツアルト自身の手によって、ピアノソナタ変ロ長調K.333などとともにウイーンで出版されていることもこの曲の重視の表れと考えられている。



 第一楽章はアレグロで元気の良い主題で始まり、アルペジオの明るい華やかな和音と速い動きで堂々とシンフォニーのように進行する。バレンボイムはスタッカートの音を明瞭に示しながら、ピアノとフォルテの対比をくっきりと示しながら弾き進んでいた。がらりと暗い表情になる短い展開部を経て、再現部では再び明るさを取り戻し、バレンボイムは軽快に一気に進めていた。第二楽章はゆったりした三拍子のポロネーズ風の優美な主題がアンダンテで現れ、続いて二つの副主題が現れるロンド形式であるが、ロンド主題は絶えず形を変えながら変奏して登場していた。バレンボイムの爽やかな技巧的な弾きぶりが目立っていた。

 フィナーレはソナタとしては初めての変奏曲形式であるが、12の変奏から構成されており、独立した変奏曲にも負けない大規模な楽章になっている。主題は4小節単位のフランス風のアリエッタのような簡潔な主題。第一変奏は右手三連音符の速い動きが特徴の変奏で、第二変奏は左手と右手の対話風のものであるが、右手のパッセージの鮮やかさが目立つ。第三変奏は左手のオクターブのリズムに対して右手の16分音符のリズムが目立つ変奏で、第四変奏は力強い和音に対して左右の16分音符の細かな動きに特徴がある。第五変奏は右手の8分音符のスタッカートの動きが目立っており、第六変奏は左手のオクターブの和音に対して右手が細やかに動く変奏である。第七変奏ではがらりと短調になり右手のトリルが特徴の変奏になり、第八変奏は左右ともオクターブの連打の技巧を示したもの。第九変奏は自由なカノン、第十変奏は右手のトレモロが美しい。第十一変奏はアダージョ・カンタービレのゆっくりしたテンポで煌びやかに装飾されながら歌われており、この曲だけ独立した美しいカンタービレの世界を作っていた。フィナーレの第十二変奏では終曲らしくアレグロでコーダ風にまとめられていた。バレンボイムは性格の異なる変奏を丁寧に弾き分けていた。変奏曲を楽譜を参照しながら聴くと構造がよく分かりとても面白いが、バレンボイムはこの紛らわしい楽譜を隅から隅まで全て暗譜して確実に生き生きと再現しており、その天才肌の実力にただ驚かされるばかりである。

 これで初期のピアノソナタの連作6曲を続けて聴いてきたが、それぞれが個性を持った独立した作品であり、続けて聴いても飽きないような工夫が随所に凝らされている作品群であった。これら6曲の中では、変ホ長調第4番K.282とニ長調第6番K.284が特に充実した作品のように思えた。
 なお、映像の写真については、全3曲の場合を含めて、カメラアングルが限定されているため、同じような写真にしかならなかったことをお詫びする。

(以上)(07/04/09)



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