7-3-4、モーツアルト生誕250年「Mozart 22 DVDシリーズ(その4)」、
2幕のセレナータ「牧人の王」K.208、指揮と演出;トーマス・ヘンゲルブロック、バルタザール=ノイマン=アンサンブル、ザルツブルグ大学講堂、2006年ザルツブルグ音楽祭、

−主役の有望な若手歌手陣5人が伸び伸びと歌い、指揮と演出を兼ねたヘンゲルブロックがキビキビしたテンポ感覚で指揮をし、溌剌とした新鮮な響きを聴かせてくれた かなり満足度の高い映像であった。−

7-3-4、モーツアルト生誕250年「Mozart 22 DVDシリーズ(その4)」、
2幕のセレナータ「牧人の王」K.208、指揮と演出;トーマス・ヘンゲルブロック、バルタザール=ノイマン=アンサンブル、ザルツブルグ大学講堂、2006年ザルツブルグ音楽祭、

(配役)アレッサンドロ大王;クレシミール・シュビチェル、アミンタ;アンネッテ・ダッシュ、エリーザ;マルリス・ペーターゼン、タミーリ;アルピーネ・ラージアン、アジェーノレ;アンドレーアス・カラジアク、
(ユニバーサルDECCA DVD-UCBG-1187、市販のDVD使用)


 7-4-4は、待望のモーツアルト生誕250年「Mozart 22 DVDシリーズ(その4)」で、初めに2幕のセレナータ「牧人の王」K.208をお届けする。指揮と演出はトーマス・ヘンゲルブロックであり、オーケストラは彼の率いるバルタザール=ノイマン=アンサンブルという南ドイツで活躍する古楽器演奏団体である。このオペラの映像は、このホームページでは初出であるが、映像としては2組目であり、どのような舞台が描かれるか楽しみであった。既に収録済みの映像は、マリナーが1989年のモーツアルト週間において州立劇場で行ったジョン・コックス演出によるもので、私は初めて見たのであるが、宮廷内のホールに仮設舞台を仕立てた幕も楽屋もない丸出しの舞台で、1775年当時の劇場のなかった初演の状態を偲ばせる舞台設営であった。衣裳は18世紀風の貴族社会の豪華なものであったので、それなりに格調が高く、バランスのとれた満足できるオペラの映像であった。



 今回の演出では、現代の舞台において、メタスタジオ時代の古いセレナータを見せ物にする劇中劇的な仕立ての工夫がなされていた。その第一は、序曲の最中に主役の若い女性3人男性2人が現代の平服で登場し、ゲーム感覚でくじを引いて配役を定め、劇中劇を思わせる簡素な衣裳に着替えて改めて登場したこと、第二は、劇は時代と場所を類推させる影絵の背景を持った舞台上の幕付きのステージで進行させ、演技がなされアリアが歌われていた。この影絵は羊飼いの牧場であったり、大王の戦場であったりして動きもあり、状況説明が十分なされていた。
 このような工夫された舞台で、主役の有望な若手歌手陣5人が伸び伸びと歌い、演技も行っており、また、指揮と演出を兼ねたヘンゲルブロックがキビキビしたテンポ感覚で指揮をし、溌剌とした新鮮な響きを聴かせてくれた。これもそれなりに新しさに満ちており、生き生きとした登場人物が舞台で活躍する、かなり満足度の高い映像であった。



 シンフォニーになっている序曲が軽快に始まり出すと、現代のスポーテイな平服の若者たちが5人、舞台上のステージの前に座り込んでゲームか何かに夢中である。くじを引いているようでもあり、見ているとまず大王が引き当てられ、二組の男女のペアーが決められて、それぞれ何かが始まりそうであった。
 進行係が幕を開けると、アミンタが羊飼いの姿で8分の6拍子のパストラル調のアリアを歌い始めていた。カストラートの替わりの女性歌手ダッシュが羊飼いの服装でゆったりと歌っていた。そこへ貴族の娘エリーザが登場し、長いレチタテイーボのあとに第2番のアリア「森へ野原へ」とコロラチューラで歌い出すが、綺麗な声が良く伸びる高度なアリアで、お終いにはカデンツアまであった。続いて舞台の外から大王やお付きのアジェーノレの質問に答えながら、オーケストラ伴奏の後でアミンタが有名な第3曲を歌い出す。これはヴァイオリン協奏曲第3番K.216の開始主題の先取り的アリアであり、「羊飼いで十分に幸せだ」と高らかに歌うが、これもカデンツア付きの大変な難曲であった。



 大王とアジェーノレが舞台に登場し、二人のテストに合格した羊飼いアミンタの無欲の正直さに感心した大王は、「18世紀的な啓蒙専制君主の礼賛」の第4番の楽天的なアリアを歌う。この曲の終わりにも珍しくテインパニーの伴奏のカデンツアがあり驚かされた。 続いてアジェーノレは羊飼いの娘に扮した大王に滅ぼされた先王の娘タミーリを見つけ、貴族のエリーザの家に隠れていることを知り、互いに愛を確認し合う。第5番の恋人に再会した彼の喜びと愛の歌は、弦楽の伴奏が美しく、セレナード楽章のような趣があった。タミーリも再会の喜びを神に祈りつつ歌う第6番のアリアは、本格的なソプラノのアリアであった。アジェーノレの調べで、アミンタが王位の後継者アブドローニモであったことが確認され、伝えられて喜ぶエリーザと戸惑うアミンタの複雑な思いが伴奏付きレチタテイーボで歌われ、二人のこれからの不安な気持ちを歌う第7番の二重唱が歌われるが、アンダンテからアレグロへと変化し、第一幕のフィナーレを兼ねた壮大なものであった。終わりのカデンツアの部分は初めて聞くようなソプラノの素晴らしい二重唱であった。


 一面のDVDでは第二幕は続いて始まるが、ここで幕間の音楽としてデイヴェルテイメントニ長調K.131の弦楽合奏の美しいアダージョが演奏され、真に適切でセンスの良さを伺わせた。エリーザが大王のテント作りの陣地を訪ね、アミンタに会いたいというが、忙しいとアジェーノレに追い出され、第8曲の「ひどい人」というアリアを激しく歌い抗議する。大王が逃亡した先王の娘タミーリをしきりに心配するが、アジェーノレの進言で親友のエリーザの所にいることを知り、大王はふとアミンタとタミーリを結婚させようというアイデアに夢中になる。「二人の敗者を同時に救う」という仁政に我が意を得た大王は、フルートとオーボエをオブリガートにした第9番の喜びのアリアを歌う。タミーリを失うことになるアジェーノレは、このアイデアに真っ青になり、アミンタが反対してくれることを期待するが、アミンタは王位を犠牲にしてもエリーザを愛そうと決意の第10番のアリアを歌う。このアリアは美しい前奏と影絵で示されるヴァイオリンのオブリガートを持つ美しいロンドで、このオペラの最高のアリアであった。


 アジェーノレが大王のアミンタとタミーリの結婚話に反対しなかったことを怒る第11番のタミーリのアリアに続き、アジェーノレの失った恋を嘆く絶望の第12番のアリアは、ハ短調で書かれた弦4部の伴奏を伴った情感に溢れた力強い激しい曲で驚かされる。王の姿のアミンタと女王の姿のタミーリを従えて、大王は結婚と即位の式を挙げようと神への祈りの第13番のアリアを歌うが、二人は同意しない。そしてまずタミーリがアジェーノレとの愛の幸福よりも王妃を選ばなければならないかと大王に問いつめる。次いでエリーザも子供の頃から好きだったアミンタを自分から奪うのかと大王を問いつめ、アミンタも国王の衣裳を大王に返却し、自分はエリーザと一緒になるため元の羊飼いになるという。大王はここで初めて王衣を脱ぎ捨て、真剣に聞き役となり、アジェーノレとタミーリ、アミンタとエリーザの深い愛の関係を知って感動する。そして、これが善政だとばかりにこれまでの言動を撤回して、改めてアミンタにはエリーザを妻とした上で王位を与え、王女タミーリは恋人アジェーノレと結婚させた上で別の王国を与えようと言う。そしてここにめでたく「羊飼いの王」が誕生したことを宣言し、フィナーレの喜びの五重唱となり、大王に幸いあれと英断を讃えてのめでたい大団円になった。
 最後に5人が集まって、再びくじを引いていたが、全員がハートを引き当てていた。これは何を意味するのだろうか。劇中劇がハッピーエンドに終わり、5人の遊びのゲームも全員ハッピーに終わったことを喜んでいるのであろうか。



 簡易な衣裳と簡単な道具立てのセレナータであったが、5人の間には人間くさい激情的な面も強調され、ともすれば偶像化されてしまう大王を、劇の最後には裸にしてしまう激しさを持った現代に通づるオペラになっていた。また、現代の平服で舞台に上がってから、「牧人の王」という別の劇を演じた工夫も結果的に成功しており、若い5人の主役が伸び伸びと歌って演ずる時代を感じさせない新鮮な舞台となっていた。彼らは、特典のインタビューの中で、口を揃えて、ヘンゲルブロックのビジョンが明確でやり易すかったと述べていた。
 比較のために聴いたCDのアーノンクール盤のアン・マレイのアミンタ、エヴァ・メイのエリーザの凄い歌唱力には及ばないものの、若い5人の歌も水準が高く、メリハリの効いた古楽器によるアンサンブルも優れており、三組しかないこのオペラの重要な一角を占める新鮮で明るい貴重な映像になったと考えられる。

(以上)(07/03/10)


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