7-3-3、クラシカジャパン「モーツアルトのある毎日」第6回、 (曲目)ピアノソナタ第1番ハ長調K.279、第2番ヘ長調K.280、第3番変ロ長調K.281、ピアノ;ダニエル・バレンボイム、(1990)、

−いつも安心して音に浸れる正統的な演奏で、まるで音楽を生み出す器械のような人−

7-3-3、クラシカジャパン「モーツアルトのある毎日」第6回、
(曲目)ピアノソナタ第1番ハ長調K.279、第2番ヘ長調K.280、第3番変ロ長調K.281、ピアノ;ダニエル・バレンボイム、(1990)、

(06年07月21日、クラシカジャパンCS736の放送を、D-VHSレコーダーのLS-3モードで、S-VHSテープにデジタル録画。)


 第三曲目7-3-3は、これも「モーツアルトのある毎日」第6回目からの映像で、バレンボイムのピアノソナタ全集から第1番K.279〜第3番K.281を取り上げるものである。このシリーズは95年1月にクラシカジャパンより連続して放送され、既にS-VHSに収録していたが、改めてデジタルで収録し直している。既に評価の定まった演奏であるが、このホームページでは初出の映像であり、曲たちである。

 バレンボイムのピアノソナタ全集の中から初めの3曲を一気に聴いた。彼は同じ宮廷の一室で無心に弾いていた。この人のピアノ演奏は譜面を全く見ない。全てが頭の中に入っており、映像を見ていると、それを両手で鍵盤を叩きながら音にするだけのことを、無心にやっているように見える。どうして間違えないのか、音を外さないのか不思議に思う。生まれながらにしてのピアノの天才であり、正確な記憶力の持ち主なのであろう。それに加えて、彼の音作りは、実に穏当であり、いつも正面からの正統的な解釈をしている。彼のピアノ演奏ばかりでなく、彼の指揮においても同様であり、高い音楽性に富んだ矛盾のない解釈なので、いつも安心して聴くことが出来る。映像を見ていると、まるで音楽を生み出す器械のような人のように見えるが、陰でどれだけの苦労が隠されているのであろうか。このような完全な演奏ぶりは、やはり客席を置かない密室で録音するから可能なのであろう。彼はベルリンフイルとのピアノ協奏曲集でも、公開演奏ではなかった。



 第1番ハ長調K.279は、3楽章ともソナタ形式であり、第一楽章はアレグロで、冒頭のアルペジオや16分音符を主体にする軽快な第一主題が飛び出すが、バレンボイムは軽やかに弾き進み、装飾の多い第二主題も全く破綻なく玉を転がすように進行する。繰り返しではややニュアンスを変えながら反復し、展開部では華やかさを加えて力強く変化を見せ、冴えた技巧を示していた。
 第二楽章では、ゆっくりした煌びやかなアンダンテであり、バレンボイムは装飾音符を丁寧に際立たせながら、第一・第二主題へと歌うように進むが、彼のピアノは流れるように美しかった。展開部では第一主題の音形の微妙な変化を弾き分けながら再現部へと進むが、バレンボイムのピアノが刻印のように明確に印されるように聞こえた。
 第三楽章では、アレグロの早い第一主題が飛び出し、続いてスタッカートの音形を刻む第二主題が軽快に進行する。この音形は展開部にも現れ、変化しながら再現部へと流れ込むが、バレンボイムのアレグロは終始安定したテンポで進み、最後に盛り上がりを見せて終息した。実に破綻のない爽やかな弾きぶりの第一曲であった。



第2番ヘ長調K.280においても、前作と同様に各楽章ともしっかりしたソナタ形式であり、一貫した連作の第二曲目である。第一楽章は、堂々としたファンファーレ風の和音で開始され、三拍子の軽快な16分音符で疾風のように駆け抜ける第一主題に続いて、左手の三和音とともに玉を転がすような右手の早い動きのリズミックな第二主題となり、フォルテとピアノ、スタッカートとレガートなどの変化が目まぐるしく続く。三和音に続く第二主題の力強い変化の激しい展開部に続いて再現部に流れ込むが、華やかなパッセージやアルペジオの続く技巧的な流れをバレンボイムは難なくこなして軽快に弾き終えていた。
 続く第二楽章は、ゆっくりしたアンダンテのシチリアーノの短調の主題が現れ、暗い陰りを持った旋律が続き、一息入れて、エピソード風のさり気ない第二主題が現れてホッとする。バレンボイムの陰りの多いニュアンスに富む寂しげな弾き方はさすがと思わせる。
 第三楽章はプレストであり、早い軽やかな舞曲の第一主題が飛び出していく。明るく親しみやすい主題で、第二主題もこれに似た軽い走り回る主題。バレンボイムは一気呵成に引き続け、力強い展開部で一呼吸の後、型通りに再現部に入り一気に終息する。



 第3番変ロ長調K.281は、連作の第一曲・第二曲が比較的に型にはまった作りであるに対し、第三曲は幾分自由で、即興風なファンタジーに富んだ作りになっている。
 第一楽章は、トリルや多彩なアーテイキュレーションと変化を持った早い主題に続いて分散和音の煌めくような歯切れ良さが目立つ主題が続きとても楽しいが、バレンボイムは珍しく幾分急ぎ過ぎている様子であり、繰り返しでも同様であった。しかし、新しい主題の幻想的な感じの展開部を過ぎてから、自分のペースになったように見受けられた。
 第二楽章はアンダンテ・アモローソとされ、愛情豊かにという珍しい指示のとおり、バレンボイムはゆっくりと味わうように第一主題を弾いており、続く明るく始まる第二主題も一音一音を確認するように丁寧に弾いていた。ここでも幻想的な味わいの展開部があり、前2曲と微妙な違いを感じた。
 フィナーレでは、いきなり明るいロンド主題がテンポ良く始まり、続いて目まぐるしく新しい主題が次から次へと回転するように現れる。数えていくと都合5回ほど、ロンド主題が登場して勢いよく明るくこの楽章を閉じた。

 この一連のピアノソナタシリーズは、ミュンヘンのハイムハウゼン城とミュンヘン官邸のマックス=ヨーゼフ広間で89年〜90年にかけて収録されたものであるが、K.279からK.283の連作は前者で収録されていた。真に不思議なことに、第一番と第二番については、映像がこのバレンボイムのものだけなので、貴重なものと言わなければならない。バレンボイムはピアノの録音をはじめ、オーケストラやオペラの録音まで多彩を極めているが、譜面を見ないでピアノを弾いたり指揮をしたりすることが常なので、彼の記憶力は、モーツアルトを凌ぐものがあると聞いたことがある。この演奏をじっくり繰り返し聴いてみて、そのことを強烈に実感させるものがあった。

(以上)(07/03/08)


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