7-2-5、モーツアルト生誕250年「Mozart 22 DVDシリーズ(その2)」、 「にせの女庭師」、ボルトン指揮ザルツブルグ・モーツアルテウム管弦楽団、演出ドーリス・デリエ、2006年ザルツブルグ音楽祭、州立劇場、

−ユーモアとウイットに富んだ超モダンな演出により驚かされるが、ボルトンの指揮も良く、サンドリーナはじめ伯爵などの歌手陣も揃って上手に歌っていたので、このオペラの面白さを十分に舞台化した優れたDVDであると評価できる−


7-2-5、モーツアルト生誕250年「Mozart 22 DVDシリーズ(その2)」、
「にせの女庭師」、ボルトン指揮ザルツブルグ・モーツアルテウム管弦楽団、演出ドーリス・デリエ、2006年ザルツブルグ音楽祭、州立劇場、

(配役)Don Anchise;John Graham-Hall、Violante;A.Reinprecht、Belfiore;J.M.Ainsley、Arminda;V.Gens、Ramiro;R.Donose、Serpetta;A.Kucerova、Roberto;M.Werba、
(ニバーサルDECCA DVD-UCBD-1185/6、市販のDVD使用)
 

 期待の女流演出家デリエの歌劇「にせの女庭師」K.196は、06年のモーツアルト週間でライブを見て、その斬新な演出に驚嘆したオペラであったが、今回素晴らしいDVDになっていることを確認した。私の見た感想記は、 06年ザルツブルグ・モーツアルト週間(生誕250周年記念)の概要の冒頭(1)に要約してあるが、さっと流して見た段階でも、印象はほぼ同じであった。しかし、映像では客席では遠目でしか見ることが出来ない歌手の表情などのクローズアップが多くて、その生々しい画面は非常に迫力があり、5.1CHのサラウンド効果もあって、かぶりつきで見ているような感じがした。



 デリエの演出は、舞台設定が超モダンな最新のガーデニング・スーパーの店内であって、市長官役のドン・アンキーゼがサンドリーナに恋をしているスーパーの店長であり、侯爵令嬢のヴィオランテは、造園の専門スタッフの形で女庭師サンドリーナに偽装していた。騎士ラミロは店長の助手、セルペッタとナルドは店員であり、ベルフィオーレ伯爵とその許嫁のミラノの貴婦人アルミンダが、伯父さんの店にやって来て婚約を祝うという設定になっていた。また、この演出では、序曲の進行中に、物語が始まる前に起こった隠された重要な出来事が、無言劇で演じられていた。そして、この事件の後に、侯爵令嬢のヴィオランテが、女庭師に偽装して召使いのロベルトとともに、スーパーで働きながら伯爵を探しているという伏線があった。この無言劇のお陰で、複雑な恋人同士の関係がかなり理解しやすくなり、巧妙な演出であったと思われる。



 序曲がアレグロで軽快に始まるが、幕が開くといきなり小さな部屋の中で、ベルフィオーレ伯爵と侯爵令嬢のヴィオランテとが激しく争っており、伯爵は嫉妬心からの激情に駆られてヴィオランテを突き飛ばしてしまい、アンダンテに入るとヴィオランテがグッタリしてしまった。伯爵は死んだと思って逃げ出してしまったが、そこに彼女の召使いのロベルトが駆けつけ、彼の人工呼吸でヴィオランテは蘇生し、キョロキョロしている。この序曲は名曲なのであるが、舞台の素早い動きに気を取られているうちに終了し、小さな部屋の仕切りを取り外すと、そこはもう近代的なガーデニング・スーパーの中になっていた。第1曲が軽やかに始まり、店内は従業員たちが店の準備をしており、5人の主役たちが重唱で代わるがわる自分たちの恋の喜びと悩みを歌っている。時は春、花が美しく、恋の季節である。どうやら店長は女庭師サンドリーナにぞっこんであり、ラミロはままならぬアルミンダとの恋の悩みを訴え、ナルドはセルペッタが相手にしないことを愚痴っており、セルペッタは冷たくなった店長に復讐を誓っていた。



 第3曲の店長のアリアは、二人きりになって大喜びでサンドリーナを口説こうと熱心で、フルートやオーボエが明るく歌って応援してくれたが、熱心さの余り体が苦しくなり、テインパニーやファゴットやコントラバスまで動員されて大騒ぎ。舞台でのアリアと珍しい楽器のオブリガートとがピッタリなので面白い。第4曲のサンドリーナは、花作りをしながら伯爵を捜しているのに災いばかりと、ナルドを相手に「女は哀れ」と美しい声で歌うが、身分を隠した女性の姿がよく似合っていた。アルミンダが派手な格好で大袈裟に入場し、少し遅れてベルフィオーレ伯爵が店内のフォークリフトに乗って格好良く登場した。アルミンダを見つけて賛美のアリアを歌うが、うっかりセルペッタに触ったり、花の精に気をとられたり、肝心なところでよろけてしまって、駄目な伯爵の姿に舞台は大笑い。アルミンダが男には騙されないわよと強気の第7曲を歌い、伯爵をどやしつける。



 第8番と第9番が省略。荷札のついたサボテンのお化けがセルペッタと共に登場し、第10番のアリアで従業員の男相手に、「男は沢山いる」と「コシ」のデスピーナ並にナルドをからかう。続く第11番では、サンドリーナが歌に合わせて口が動くオモチャのキジバトに乗り、ヴァイオリンの序奏とピッチカートの伴奏で「キジバトのアリア」を優雅に歌い、万雷の拍手を浴びていた。そこへアルミンダが別のキジバトに乗ってきて、サンドリーナに今日ベルフィオーレ伯爵と結婚すると話したので、サンドリーナは驚いて失神してしまう。
 フィナーレに入って、アルミンダが気付け薬を取りに行っている間に伯爵がサンドリーナを見つけて、愛人のヴィオランテであることに気づくが、お互いに信じられない様子。そこへ店長が駆けつけ、セルペッタが二人が仲がよいことを店長に報告したため、全員が舞台に現れ、サボテンのお化けも加わって大騒ぎの大混乱、店長は怒り出して幕となる。




    第二幕は、アルミンダが愛しているのにサンドリーナに会って以来落ち着かない伯爵を責める第13番のアリアから始まるが、責めたてているうちに口を開けた大きな食虫植物に伯爵が飲み込まれてしまう。奇想天外の事件にアルミンダは驚いて助けずに逃げ出してしまう。血だらけの伯爵を、通りかかったセルペッタが助け出し、早くサンドリーナに介抱してもらえという。セルペッタは、ナルドをからかって情熱的な歌でプロポーズして見せてと言うと、ナルドが大喜びで得意になって歌う第14番の「イタリア風に愛らしく」がとても面白いが、真面目に色々やってもセルペッタが喜ばないので怒ってしまい、大きな笑いと拍手があった。 第15/16/17番のアリアが省略。やがてラミロが殺人犯ベルフィオーレ伯爵の逮捕状がミラノから届いたと得意になって店長に手渡す。ここで歌われる第18番のラミロの「嬉しい希望」のアリアは、語りかけるようなほのぼのとした3拍子のアリアでとても良い出来であった。
 店長は驚いて騙されたとカンカンになり、アルミンダがかばうのを聞かず、裁判官として伯爵を尋問をしようとする。伯爵がしどろもどろになっているところに、サンドリーナが何と食中植物の中から飛び出して、私がヴィオランテ・オネステイですと名乗り、彼は殺人犯でなく、その当人の私が彼を許しますと言って証言する。



 ところがヴィオランテは、伯爵のアルミンダとの婚約に対して 怒っており、絶対に彼を許さず近づけさせない。残された伯爵が呆然となって半狂乱で「死をお望みなら、喜んで死んでいこう」と歌う第19番では、不思議と花の精が出てきて伯爵を慰めていた。  セルペッタがサンドリーナが何処かへ逃げたと大騒ぎして、第20番のアリア「この世を楽しく生きるには」を歌うが、ここでも花の精を相手にして皆でワインをがぶ飲みして歌うので驚かされる。逃げ出したサンドリーナが下着姿のまま一人で暗い道を迷って、助けてと歌う半狂乱の第21番のアリアと、誰かが来たと洞穴に逃げて歌う第22番のアリエッタが二つ続けて歌われ、第23番の第二幕のフィナーレとなる。サンドリーナを探して洞穴の中で全員で歌う長い七重唱が続き、まるで「フィガロ」の第4幕のフィナーレの先取りのよう。舞台は暗闇の中で大混乱のまま、互いに求める人を探そうとするが人違い。最後にサンドリーナと伯爵が正気を失って狂乱状態のまま、歌い続けて混乱のまま幕となった。



 第三幕に入り、舞台は再びスーパーの中。第24/25番のアリアは省略され、あなたを愛せないとアルミンダに言われたラミロが、怒り狂って第26番の「他の男に抱かれに行け」と、首吊り用のロープを持って失恋の悲しみと復讐のアリアを歌い退場する。迫力ある名アリアであった。舞台では温室の中でサンドリーナと伯爵が寝込んでいたようであるが、やがて第27番の序奏の美しい音楽が天国から聞こえてきて、二人が目覚めて外に出てくる。夢心地から次第に正気になり、互いに顔を見合わせて挨拶をし、「私はやがて店長の花嫁になります」と言う言葉あたりから元に戻って再びけんかの状態になるが、伯爵が「最愛の人よ、人の気も知らないで」という言葉あたりから音楽が変わり、やっと立派な二重唱となり、ためらいながらも少しずつ和らいで、「愛する力には抵抗できない」と歌い出し、やっと二人は仲直りが出来た。




 フィナーレでは、サンドリーナが伯爵の恋人ヴィオランテ・オネステイであることを皆に明かすと、さすがのアルミンダも伯爵を諦め、ラミロさえ良ければと軟化し、セルペッタとナルドがやっと結ばれましたと温室から出てくると、さすがの店長も「わかった、勝手にしろ」と言い、めでたくここに三組のカップルが誕生した。店長の「私も別のサンドリーナを見つけよう」の言葉で、幸せにと明るい7人の合唱となり、賑やかに終わりの行進曲風の終曲で幕締めとなった。花の精たちが美しく舞台を飾っていたのが印象に残った。


 この長いオペラのユーモアとウイットに富んだ奇想天外とも言える超モダンな演出は、現代のモーツアルト上演の理想的な姿と評価する向きもあるが、何回か繰り返してみると、設定の無理が見えたり、大げさすぎたりという欠陥があり、また省略アリアの多さ(7曲)などの問題が見えてくる。しかし、デリエの演出は、原作のリブレットを崩さずに生かしており、ヴィック演出の「魔笛」や今回のヘアハイム演出の「後宮」のように、原作のストーリイを壊してしまうようなものではなく、私には限界をわきまえたすれすれに近い演出であるように思った。ボルトンの指揮も良く、サンドリーナはじめ伯爵などの歌手陣も揃って上手に歌っていたので、上演機会の少ないオペラでもあり、このオペラの面白さを十分に舞台化した優れた現代的演出と評価できる。




 このオペラの映像としては、私のデータベースに示すように映像で5作目であり、特徴のある楽しみの多い映像が揃ってきた。ドイツ語でジングシュピールの「愛の女庭師」というスタイルをとったユニークなものをはじめ、エストマンとドロットニングホルムズの古楽器による小劇場による18世紀のスタイルのものがある。さらに、没後200年祭のカンブルランの映像やアーノンクール・チューリヒ劇場のオーソドックスなものがあるが、今回の超モダンな映像も他の映像にない大胆なものとして大いに評価できよう。しかし私には、つい前回紹介したアーノンクールの軽快で生きのいい音楽が続いたチューリヒ歌劇場の映像(6-9-3)が強く印象に残っており、省略も少なくスタンダードなものであると考えている。

(以上)(07/02/20)



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