7-2-4、モーツアルト生誕250年「Mozart 22 DVDシリーズ(その2)」、「バステイアンとバステイアンヌ」K.50と歌劇「劇場支配人」K.486、ユンゲ・フイルハーモニー・ザルツブルグ、フックス指揮、脚本・演出・舞台/衣裳デザイン、トーマス・ライヒャルト、ザルツブルグ・マリオネット劇場、2006年7月、ザルツブルグ音楽祭、

−二つの小オペラを劇中劇で結合させ、主役の子供をマリオネット人形に演技させた演出が成功し、若い出演者達の活躍が実って、注目すべき映像となった−


7-2-4、モーツアルト生誕250年「Mozart 22 DVDシリーズ(その2)」、
「バステイアンとバステイアンヌ」K.50と歌劇「劇場支配人」K.486、ユンゲ・フイルハーモニー・ザルツブルグ、フックス指揮、脚本・演出・舞台/衣裳デザイン、トーマス・ライヒャルト、ザルツブルグ・マリオネット劇場、2006年7月、ザルツブルグ音楽祭、

(配役)フランク/劇場支配人;アルフレート・クラインハインツ、ブッフ/コーラ;ラドウ・コヨカリユウ、フォーゲルザング/バステイアン;ベルンハルト・ベルヒトルト、ジルバークラング・バステイエンヌ1;エヴモルフィア・メタクサキ、ヘルツ夫人/バステイアンヌ2;アレクサンドラ・ザモイスカ、
(ニバーサルDECCA DVD-UCBD-1188、市販のDVD使用)


 歌劇「劇場支配人」のDVDは、短いオペラに劇中劇として「バステイアンとバステイアンヌ」を取り入れた新趣向のものであった。バステイアンヌ役には二人のソプラノを交代で競わせ、舞台をザルツブルグのマリオネット劇で演じさせることも新しく、4人のオペラ歌手とオーケストラも参加して二つのオペラを同時に行う面白い演出であった。これまでのマリオネット劇は、音源はレコードで繰り返し行われていたが、今回はオーケストラも歌手もライブで進行するので、指揮者や人形操作の方は大変であったと思われる。この二つのオペラは馴染みが少ないので、現地でライブで見ても恐らく半分ぐらいしか分からない結果になったであろうと思われ、DVDの字幕を見ながら落ち着いて鑑賞できる映像の有り難さをつくづく感じさせる作品であった。




 DVDは「劇場支配人」序曲で始まる。小編成のオーケストラの素晴らしく活きの良い音で何が始まるか、実にわくわくするような気持ちで聴いている。よく見ると、オーケストラの向こう側に小さな舞台が見え、背番号を付けたマリオネットの小さい人形たちがうろうろしている。序曲は実に軽快に楽しく終わったが、舞台では何かが始まっている。これはモーツアルトのオペラには関係なく、「劇場支配人」というオペラの中に、劇中劇である「バステイアンとバステイエンヌ」を観衆によく分かるようにはめ込むための儀式であった。いろいろな人形からヘルツ夫人とジルバークラング嬢を演ずる人形を選び出し、この人形たちが自分を歌ってくれる歌手を若い5人の歌手から選び出すというオーデイションが20分ほど続く。(分かってしまえば、DVDを見るときは、この部分をカットすればよいが、実に斬新な楽しいシナリオである。)




 選ばれた3番のマリオネット嬢がヘルツ夫人のアリアを歌い出し、オペラ「劇場支配人」が始まる。ラルゲットからアレグロへと踊りを交えて豊かに歌い、難しいコロチューラの部分も何とか乗り切って、「私がプリマよ」という仕草を示す。実に素晴らしい。
 続いてジルバークラング嬢の7番のお人形がロンドを華やかに歌い出し、アンダンテからアレグレットへと進み、これも難しいコロラチューラの部分を歌いこなして見せた。これも素晴らしく見事である。ところが舞台では二人のお人形が、「私が一番よ」と互いに争っている。支配人のフランクも決めかねて、結局、収拾がつかず、これから始まるオペラのバステイエンヌ役を、前半と後半に分けて二人でやって貰うことになった。そして、いよいよマリオネット劇「バステイアンとバステイエンヌ」が始まることになる。




 「英雄」の主題に似た序曲がのどかに開始され、小さな舞台では7番のジルバークラング嬢のお人形が踊っており、傍で羊もうろついている。指揮者と少数のヴァイオリンが目配せしながら息のあった演奏をしており、明るく弾むように序曲が終わる。第一曲は羊飼いの娘のバステイエンヌが、恋人が冷たくなったと悩みながら美しいアリアをゆっくりと歌う。バステイアンと呼んでも返事がないので、寂しいので羊に会いに行こうとホルンが伴奏する第二曲を歌う。そこへ占い師のコラが音楽で登場。女の子の恋の悩みに気がつき親切に何でもお聞きと第4曲を歌う。彼女は昔は良かったのに、彼が冷たくなったと第5曲を歌い、コラが「彼は都会の娘が好きになった」と教えると、「私の望みは彼だけ」と優しく第6曲を歌う。




 コラは「少し冷たくすればいい」と教え、初め嫌がっていた彼女も納得して、第7曲の後半は承諾の二重唱となった。コラが一人になったところへバステイアンがやっと登場し、コラにお礼を言いながら「バステイエンヌの愛だけが喜びだ」と第8曲を真面目に歌う。コラが「彼女には好きな子が出来たぞ」と言えば、バステイアンは「そんなの嘘だ」と驚いて第9曲を歌い出す。コラが「本当だ」といい、魔法の力で何とかしようと第10曲の不思議な呪文を唱え、彼女に会ったら優しくしてやれと耳打ちする。バステイアンが、「愛しい恋人に会いに行こう」ともの悲しそうに歌う第11曲は、美しいメヌエット。とても可愛い清純に響くのが印象的で、繰り返しが楽しい。そこへバステイエンヌがやって来て、「彼は昔は誠実だったのに」と第12曲を歌うが、そこでストップ!がかかり、フランクの命令で、3番のヘルツ夫人のお人形がバステイエンヌに交代する。






 第13曲は、久し振りで顔を合わせた二人だが、会うと互いに拗ねて噛み合わず、「僕はお城に行こう」、「私は街へ行こう」と対立した二重唱になってしまう。二人の人形の拗ねたり慕ったりする仕草や表情が実に見事で拍手が入っていた。バステイアンが、「君が僕を困らせるなら、川に飛び込むか首を吊るかだ」と第14曲のアリオーソで脅しても、彼女はまだ頑張っている。第15番の前半はまだ喧嘩していたが、後半では二人とも気持ちは次第に歩み寄りもう一度やり直そうということになり、終わりには「愛し続けよう」と劇的な二重唱を歌う。フィナーレでは、初めにコラが、「嵐の後は晴天だ。これも魔法のお陰だぞ。」と歌い出し、次いで「結婚しなさい」と二人の手を取って言えば、もう一人のバステイエンヌも舞台に登場し、全員合唱で「コラさん、万歳、凄い魔術だ」と歌う。終わりの三重唱では「結婚できるのも、コラさんのお陰」となり、全員の拍手で大満足の結びとなった。




 これで劇中劇の「バステイアンとバステイエンヌ」は終わったが、舞台では、バステイエンヌの格好をしたヘルツ夫人がうろうろしている。「どうでした?私が第一歌手ね」というと、始めに歌ったもう一人のバステイエンヌのジルバークラング嬢も出てきて、互いに言い争いとなり、オペラ「劇場支配人」が再開され、第三曲目の三重唱が始まる。バステイアン扮するフォーゲルザングが仲裁しても収まらず、曲はアダージョからアレグロへと二人の技巧を凝らした競い合いが続き、三つの声部が重なってこのオペラ最高の盛り上がりを見せる。
 フィナーレは、納得しないソプラノから順に一人ずつ歌い出すが、コラ扮するブッフもこれに加わって、二人とも採用とするが、後日のゲネプロまでどちらがプレミエかは決めないでおこうと決着して、四重唱で芸術のために皆で協力しようという結末になった。最後の四重唱ではテインパニーやトランペットもいつの間にか加わって、盛大に盛り上がった幕切れとなった。




 劇中劇のスタイルも、人形に演技させたマリオネット劇も大成功であった。歌手の皆さんは人形と共演したのは初めてのようであり、主役は人形たちだとその表現力に脱帽したようであったし、指揮者と歌手と人形師の熱意が見事に一致した素晴らしい人形劇となっていた。若さ溢れる二人のソプラノの多少の未熟さがあっても生き生きした声は、子供が主役のこの人形劇に相応しく、魅力があった。ユンゲ・フイルもまずまずの出来であったし、女流の指揮者の熱意や、脚本・演出・舞台/衣裳デザインを全て担当したトーマス・ライヒャルトの素晴らしい着想には深く敬意を表したいと思う。

(以上)(07/02/12)


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