7-12-3、オペラ・ブッファ「フィガロの結婚」K.492、カール・ベーム指揮ウイーンフイルハーモニー管弦楽団&国立歌劇場合唱団、ポネル演出、1980日本公演、

−べームの最後の日本公演記録として新たに甦ったようなライブであり、当時のベストキャストによる見事なアンサンブルが新鮮に響く、NHKの貴重な記録DVD−

7-12-3、オペラ・ブッファ「フィガロの結婚」K.492、カール・ベーム指揮ウイーンフイルハーモニー管弦楽団&国立歌劇場合唱団、ポネル演出、1980日本公演、
(配役)伯爵;ベルント・ワイクル、伯爵夫人;グンドラ・ヤノヴィッツ、フィガロ;ヘルマン・プライ、スザンナ;ルチア・ポップ、ケルビーノ;アグネス・バルツア、マルチェリーナ;マルガリータ・リロヴァ、バルトロ;クルト・リドル、
(07/06/23、NHKエンタープライズのDVD NSDS-9492を利用)

  12月の第3曲目は、カール・ベームの日本への置きみやげオペラとでも言おうか、「フィガロの結婚」日本公演のDVDである。 今年の5月に1980年のベーム・ウイーンフイルの来日記念の「フィガロの結婚」のDVDがNHKから発売された。その昔、初めて自分でテレビから録画した貴重なオペラであった。音はモノラルの貧しいものではあったが、やっとカラーTVが各家庭に定着し、ビデオレコーダーがVHSの時代になりつつあったころであり、カセット録音の時代からビデオ録画の時代に入りかけた頃の産物であった。しかし写りも悪く音も貧しい画像であり、LPやCDの方が遙かに高級であると思って、この自作のオペラテープにはこれ以上熱心にはなれなかった思い出が懐かしい。
 今回、この新しいDVDを見て、しっかりとした画像と見事な録音に驚きながら、当時の日本の映像・録音技術は、今とそれ程遜色がなく素晴らしいものであったことが確認できた。ベームが亡くなる1年前の演奏であり、ルチア・ポップのスザンナは、私がLDで持っている1980年の8月のパリの舞台であるショルテイ指揮の「フィガロ」のスザンナ役よりも、画像も音も優れているせいか、遙かに生き生きとして見えた。ポネル演出なので、既に紹介済みの映画方式のもの(5-10-1)と演奏者も含めラップするところが多いが、オペラの舞台は一回限りのものなので、その違いを検討するのも面白いと思う。



 序曲がゆっくりとしたベームらしいテンポで始まるが、序曲の映像の上側にベームの姿が通して映り、下側に出演者の名前が紹介されていた。ベームの姿は高齢に見え、殆ど軽く手を振るだけで指揮をしていたが、大事なところでは伸び上がって体を揺する仕草は変わらなかった。序曲の最後までベームの姿が映っていたが、私が保有するベームの映像では、この87歳の姿が最も高齢であると思った。
 早速、第一幕が始まるが、スザンナやフィガロの衣裳はポネル版と同じ見覚えのある衣裳や小道具であり伯爵の肖像画まで同じように見えた。スザンナのポップとフィガロのプライが生きの良い声と演技で軽快に第一番・第2番が続くが、この目の前の元気の良い二人が既に亡くなっているとはにわかに信じられない。第三番のフィガロのカヴァテイーナがホルンとピッチカートの伴奏で威勢良く歌われ、大きな拍手が沸いていた。バルトロとマルチェリーナが登場するが、衣裳や舞台の格好は映画と同じで、バルトロのリドルは、「後宮」のオスミン同様に堂々と歌って、健在ぶりを示して拍手を浴びていた。



 ケルビーノが駆け込んできてスザンナからリボンを取り上げ第六番のアリアを歌うが、早いアリアが意外にゆっくりとしっかり歌われこれも大拍手であった。伯爵がこっそり登場し、バジリオも入ってきて鉢合わせになってさあ大変。三重唱になって思わずスザンナが失神してしまう場面も、伯爵が椅子のテーブル掛けを捲るとケルビーノがいた話も、ライブなのに実に上手く成功して、「女はみなこうしたもの」となり観衆は大喜びであった。
フィガロの指揮で合唱団が登場し、「殿様、万歳」となったが、後半の合唱はご機嫌な伯爵が指揮をするなどこれまで気が付かなかった場面もあった。フィナーレのフィガロの「もう飛ぶまいぞ」はプライが見事に堂々と歌い上げ、素晴らしい幕切れとなっていた。





 ベームの驚くほど遅い序奏で始まる第二幕では、伯爵夫人のヤノヴィッツが窓際に立ってゆっくりと歌っていた。実に美しいアリアであり彼女の姿には風格が漂っていた。映画版では夫人はキリテ・カナワで、ベッドに起きあがって昔を回想しながら歌う場面であった。軍服姿になったケルビーノが登場し、夫人の前でポップのギター伴奏でカンツオーネを歌うが、見事に歌われて夫人と見つめ合ったまま拍手を浴びていたが、ポップの咳払いで気が付くほどの入れ込みようであった。伯爵が登場して一連のドタバタが始まるが、フィナーレに入って「さあ出てこい」と言って「シニョーレ」と言って出てきたのがスザンナだったので、伯爵も夫人もビックリ仰天。女二人に平謝りの伯爵の三重唱となりどうにか二人の許しを得たところにフィガロが登場。伯爵はフィガロに偽手紙の犯人捜しで追求し、四重唱になったところにアントニオが加わって、複雑な面白い五重唱になる。ケルビーノの落とした辞令の件で大騒ぎしながら、滅多に聞かれぬ五重唱のアンサンブルの妙味が発揮されていた。
 そこへマルチェリーナ、バジリオ、バルトロの三人組が登場し、マルチェリーナが契約に従った結婚の実行を伯爵に訴えて七重唱になり、フィガロ・スザンナ・伯爵夫人側が追い込まれる。伯爵を中心に攻撃的な三人組と守勢に立った三人組との対立の七重唱が息詰まるような見事なアンサンブルで高潮点に達して第二幕が終了していた。





 第三幕では、始めの伯爵とスザンナの二重唱で伯爵のしつこい誘いに曖昧な返事を繰り返すしたたかなスザンナの歌と演技が見事であった。続く伯爵の復讐の望みを歌う17番のアリアが朗々として最高の出来ばえで大きな拍手で迎えられた。ベーム版では順序が変わり伯爵夫人のアリアが先に歌われ、憂いに満ちた物悲しいアリアをヤノヴィッツが上手く歌っていた。続いて裁判の結果が出て、窮地に立ったフィガロの出生の秘密が分かって事態は一変し、スザンナがフィガロを平手打ちにしたり、フィガロが新しいマードレとパードレをスザンナに紹介したりする珍妙な六重唱が続いて大笑いであった。手紙の二重唱もベームのゆっくりとしたテンポでヴェテランのお二人がニッコリしながら絶妙に美しい二重唱を歌ってさすがと印象づけた。一連のアンサンブルの見事さはベームのテンポに即応して生まれており、感銘深いものがあった。





 フィナーレでは、バルバリーナのアリアに始まり、2曲のアリアの省略があり、フィガロのアリアに続いてスザンナのアリアとなるが、この2曲のアリアが亡くなった二人の置きみやげとなった絶品のアリアとなっていた。中でもスザンナのアリアは、異常に遅いテンポの中でポップが実に丁寧に美しく歌っており、また静止画のような見事な映像が残されており、彼女を偲ぶ格好のアリアとなっていた。最後のフィナーレでは、やはり怒り狂った伯爵に対し「ペルドーノ」とスザンナとフィガロが謝る場面のテンポが異常に遅く、姿を現した伯爵夫人に伯爵が深々と赦しを請う場面の盛り上がりが際立っており、一転して続く速いテンポの全員の合唱が、最後の場面として見事に決まっていた。  館内が割れるような大変なカーテンコールが長く続いていたが、ベームの姿はポップとヤノヴィッツに手を引かれた写真や、指揮をする姿が何枚か現れ、今は亡きベームの最後の日本公演オペラ記録としての格好が付けられていた。付録の記録は両国の国歌の演奏が収録されていた。




 ベームの最後のオペラ「フィガロの結婚」を見て、ベームの執念のような「フィガロ」の感じを受けた。また各所で異常に遅いテンポの部分に気が付いたが、そこはやはりじっくり歌わせるべき要の部分であって、このDVDはベームを聴くべきオペラであるとつくづく感じさせた。映画とは異なった配役の伯爵や伯爵夫人も素晴らしかったし、早くして亡くなったスザンナとフィガロのペアも活気のある姿が残されており、立派な追悼の記録でもあった。さらに、ケルビーノ・マルチェリーナ・バルトロなどもよく目だって活躍しており、結果的に素晴らしいスタッフ、当時のベストキャストによる見事なアンサンブルオペラとでも言うべき内容であり、オーソドックスな風格のあるウイーン歌劇場の記念碑的な日本公演記録になっていたと言えよう。

(以上)(07/12/22)


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