07-11-1、ランメナウ城でのゲヴァントハウス弦楽四重奏団、
(曲目)第19番ハ長調K.465「不協和音」、第21番ニ長調K575(プロイセン王第1番)、セレナードト長調K.525「アイネ・クライネ」、第14番ト長調K.387、 05年5月、

−ゲヴァントハウス四重奏団のランメナウ宮殿でのモーツアルト室内楽特集−実力者によるお清ましの演奏か−

7-11-1、ランメナウ城でのゲヴァントハウス弦楽四重奏団、
(曲目)第19番ハ長調K.465「不協和音」、第21番ニ長調K575(プロイセン王第1番)、セレナードト長調K.525「アイネ・クライネ」、第14番ト長調K.387、05年5月、

(出演)第1Vn;フランク・ミヒャエル・エルマン、第2Vn;コンラート・ズスケ、Va;フォルカー・メッツ、Ce;ユルンヤコブ・テイム、Cb;シュテファン・アーデルマン、
(06年08月12日、NHKクラシック・ロイヤルシートのBS102の放送を、DーVHSレコーダーのLS-3モードで、S-VHSテープにデジタル録画。)

 このゲヴァントハウス弦楽四重奏団のモーツアルトの四重奏曲特集は、06年08月12日、NHKクラシック・ロイヤルシートのBS102で放送された。この番組は明らかにこの楽団のモーツアルトイヤーに向けた取り組みの一つであり、ランメナウ城の豪華な宮殿風の会場で収録されていた。曲目はハイドンセットから2曲、第一番のト長調K.387と第6番のハ長調K.465「不協和音」、さらにプロイセン王第1番として知られるニ長調K575の他に、セレナードト長調K.525「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」がコントラバスを加えた5重奏曲の形で演奏されていた。弦楽四重奏曲はかってハイドンセット全6曲をハーゲン四重奏団の演奏でアップしていたが、映像のコレクションとしてはこのHPでは未掲載であり、K.387、K.465、K.575が初出となった。また、5重奏曲として演奏された「アイネ・クライネ」K.525の映像もこのHPでは初めてであった。



 ドレスデン近郊にあるランメナウ城の会場は、手入れの行き届いたひと気のない宮殿の中の二階の広々とした一室であり、聴衆はいなくこの映像の収録のための会場であった。
 第一曲はハ長調(第19番)K.465「不協和音」であり、この曲はハイドンに捧げられた6曲の最後の曲とされる。標題のとおり「不協和音」が続く序奏を持つことで有名な曲である。この序奏は、アダージョでチェロから順に和音を構成していき、第一ヴァイオリンが入って不協和音の連続となっていく不思議な形で始まる。初めて聴くとその異様な響きに驚かされるが、良く聴き直すと序奏の直後に始まるハ長調の颯爽としたアレグロを明るく明解に聞かせるための巧妙な伏線であることが分かる。翻ってこのコンサートで、この曲を第一曲に選んだこの四重奏団の意図は、最初に驚かせて後続する各曲を印象づけさせるための伏線のような気がした。
 第一楽章の主部では、第一ヴァイオリンによる明るい第一主題が第二ヴァイオリンとヴィオラにリズミックに伴奏されて軽快に始まり、力強く繰り返されていき、第一ヴァイオリンによる16分音符による素速い印象的なフレーズが奏される。その後三連符のリズムによる軽やかな活気のある第二主題が現れ、次第に加速され高潮してゆく。ゲヴァントハウス四重奏団によるこの序奏から提示部への動きは颯爽としており、第一ヴァイオリンを中心に見事なアンサンブルを見せ、クリアな映像と音響のお陰もあってその演奏に釘付けにさせられた。



第二楽章はカンタービレ(歌うように)と指示されたアンダンテで、展開部を欠いたソナタ形式である。第一主題は第一ヴァイオリンを中心に歌い出す重厚な合奏であり、第一ヴァイオリンとチェロが小さなモチーブを歌い交わす美しい推移部を持つ。フーガのように始まる第二主題には詩があり、穏やかに夢のように推移する。後半部では両主題は変奏で反復されていく。メヌエット楽章は早めのテンポを持つ荒々しい落ち着きのない主題で始まり、トリオでは第一ヴァイオリンの旋律が他の声部の機械的な伴奏のリズムに乗って情熱的に歌い、面白いコントラストを作り出していた。フィナーレは明るいアレグロ・モルトのソナタ形式であり、第一楽章のアレグロと共通の軽快さを持つ。第一ヴァイオリンの澄みきった明るい第一主題と軽快な16分音符によるパッセージが印象的であった。
 このゲヴァントハウス四重奏団は、第一ヴァイオリンのエルマンがリーダーのようであるが、第二ヴァイオリンの日本でも活躍していたズスケが第一ヴァイオリンを助け、内声部の充実に力を発揮していた。私はズスケ四重奏団による四重奏曲セット(1974〜1978)をシャルプラッテンのCDで持っているが、この時にはズスケは第一ヴァイオリンを担当しリーダー格であった。

 第二曲は第21番ニ長調K575であり、プロイセン王四重奏曲の第1番とされる。モーツアルトは1789年4月から6月にかけて音楽上の弟子に当たるリヒノフスキー侯とベルリン旅行を企てたが、帰郷後直ちに書かれた曲とされる。当時のモーツアルトは経済的に逼迫しており、この曲を含むプロイセン王ヴィルヘルム二世に依頼されたとされる3曲K.575、K.589、K590(第1〜3番)の四重奏曲は、注文作品でもあり、チェロをたしなむ王のためにチェロ・パートの重視という観点で、前曲のハイドンに捧げた自発的に作曲した曲とは性格を異にする。曲の構成は、第一楽章がアレグレットのソナタ形式、第二楽章がアンダンテの二部形式、第三楽章がアレグレットのメヌエット、第四楽章がアレグレットのロンド形式となっている。



 第一楽章の冒頭はソット・ヴォーチェ(そっと秘やかに)と書かれており、第一ヴァイオリンの自然に流れ出るような優雅な第一主題で開始され、いろいろな楽器で流れるように反復されていく。ドルチェでチェロにより開始される第二主題は、チェロと両ヴァイオリンによるスタッカートとの珍しい対話であるが、これもいろいろな形で変化されながら反復されていく。チェロが主役になったり高い音域が与えられたり新しい工夫が見られ、両主題とも軽快でありハイドンに捧げた曲よりも気のせいか親しみやすく馴染みが良く聞こえる。
 第二楽章もソット・ヴォーチェと書かれ、チェロを伴奏にして第一ヴァイオリンにより流れるように第一主題が開始される。注目は第二主題であり、第一ヴァイオリンとチェロとが二重奏のように対話がなされる。第二部に移行しても温和しいアンダンテの基調は変わらないが、気のせいかチェロに活躍の場が与えられていた。第三楽章は、前楽章と異なりかなり大きな構成のメヌエットで、堂々たるメヌエット主題が繰り返されるが、二つのヴァイオリンと二つの低声部とが対立して二重の二重奏を演じたりする。トリオでは主題はヴァイオリンで奏されるが、チェロも旋律的な独奏を重ねていた。フィナーレはロンドとされているがかなり自由に書かれたもので、軽快なロンド主題がヴィオラを伴奏にしてチェロで提示されるのが特徴。恐らくモーツアルトにとって初めての試みであろう。主題は両ヴァイオリンのユニゾンで繰り返されていくが、引き続き現れる副主題と互いに絡みあって複雑な対位法的な自由な展開が見られる。再びロンド主題が現れ、チェロの弱奏で冒頭主題が現れたり、これが第二ヴァイオリンやヴィオラにも現れたりしてカノン風な展開が行われるが、後期の四重奏らしく各楽器が様々な複雑な動きを見せながらコーダで盛り上がってから明るく終結していた。
 この四重奏団は、前曲よりも軽い曲調の曲のせいもあろうが、溌剌として伸び伸びと演奏しており、チェロの存在感も増して、さすが伝統ある楽団であると感じさせた。 



 第三曲目は弦楽セレナードト長調K.525「アイネ・クライネ」であり、コントラバス奏者がチェロとヴィオラの後に加わって五重奏曲で演奏されていたが、コントラバスはチェロと同じ動きをしており、いわゆる弦楽五重奏曲とは異なっている。この曲は1787年8月10日の日付を持っており、丁度オペラ「ドン・ジョヴァンニ」K.527の第二幕を作曲していたころに完成されたと推測されている。
 第一楽章は、ユニゾンで力強く第一主題が勢いよく開始されるが、五人による演奏なので印象が異なり柔らかに聞こえ、各声部の動きがよく見えてくる。譜面を追いながら聞いていると、第一主題も第二主題もバランス良く、短いながら展開部もあって、完璧なソナタ形式で出来ており、よく目立つトリルの装飾なども明確であった。第二楽章のロマンツエでは、ABACAのスタイルの愛らしい楽章。美しいABAの後に現れる短調の小刻みに揺れる嵐のような部分が前後の優しく愛らしい部分といかにも対照的で面白い。「ロマンツエ」と題されたK.361の第五楽章や、K.466の第二楽章などにも現れている。  第三楽章のメヌエットでは明解なリズムを刻むメヌエットと、ソット・ヴォーチェで始まる愛らしく流れるようなトリオの部分との対象が見事であり、短いながらも完璧なメヌエットに仕立てられている。フィナーレはアレグロのロンドであるが、軽快に飛び出すロンド主題に対して副主題が一つしかなく、楽章の前半と後半に反復記号が用いられ、変則的なロンド形式と思われる。何回も繰り返して登場するロンド主題は、この有名なセレナードのフィナーレに相応しく、コーダになって見事な盛り上がりを見せて終わりとなった。
 コントラバスが加わって低域に重心が置かれたアイネ・クライネになったが、終始、速いテンポで第一ヴァイオリンを中心に進められ、まことに軽快で颯爽としていた。



 最後の第四曲目は、ハイドンセットの最初の曲である第14番ト長調K.387であった。 この曲は、ウイーンで1782年12月31日の日付を持っており、第一楽章がアレグロ・ヴィヴァーチェ・アッサイのソナタ形式、第二楽章がアレグレットのメヌエット、第三楽章がアンダンテ・カンタービレの二部形式、第四楽章がモルト・アレグロのソナタ形式である。
 第一楽章の第一ヴァイオリンが提示する第一主題の冒頭には、「快活で極めて生き生きと」と書かれており、一小節ごとにフォルテとピアノが入れ替わる躍動的な動きを見せ、聴くものに驚きを与える。ひとしきりこの主題が推移してから始まる第二主題は、対照的に第二ヴァイオリンで伸びやかに現れ、次いで第一ヴァイオリンがオクターブ上で力強く現れ、弾むようなリズムで躍動的に進行する。これらの入念に仕組まれた主題提示に加え、展開部では第一主題の変奏や新たな主題も加わっていろいろな技巧が見られ、提示部に近い長さを持つ意欲的なものであった。この四重奏団は冒頭から力が入りそうなこの曲を、コンサートの最後に配置して、少しでも気楽に演奏しようとしている様に見えた。



 第二楽章はメヌエットであるが、冒頭の3小節目からはピアノとフォルテが交替する半音階の上昇進行となり、これが繰り返し何回も現れるのでもはや踊りの曲とは言えない風変わりな曲調に感ずる。トリオでも短調の装飾音を持った暗い響きが流れ、この楽章の予想外の異様さに驚かされる楽章であった。第三楽章は、第一ヴァイオリンによる荘重なアリア的な主題で始まる落ち着いた曲で始まるが、主題の後半部をエコーのように各楽器が響かせカノン風に展開される長い経過部を持っており、続いて第一ヴァイオリンで提示される地味な第二主題よりも目立っていた。フィナーレは、「ジュピター交響曲のフィナーレ楽章」を思い出させる颯爽とした軽快な主題が流れ、フーガとソナタ形式とを組み合わせようとして模索がなされ、この主題がこの楽章全体を支配していた。後半に現れるパパゲーノ風の陽気な主題が印象的で息抜きをさせてくれていた。

 この映像はコンサートではないので、演奏が終わっても余韻がなく、拍手もないので何か拍子抜けしてしまう。演奏というものには、やはり観客を相手に聴かせて反応をみて、また演奏するということが繰り返されなければならないのかもしれない。この演奏を見てふとそう言う想いが頭を過ぎった。このゲヴァントハウス四重奏団は、ライプチヒのゲヴァントハウス交響楽団のメンバーから構成される伝統ある団体であると考えているが、コンサートマスター級のズスケを第二ヴァイオリンにおいて、アンサンブルの強化を図ったのであろう。モーツアルトイヤーの年にオールモーツアルトの貴重な記念すべき録音を残してくれたことに敬意を表したい。

(以上)(07/11/14)


目次3にもどる
目次2にもどる
目次1にもどる
私の新ホームページへ

名称未設定