7-10-3、バレンボイムとショルテイの指揮とピアノによる二台のピアノ協奏曲変ホ長調K.365、およびバレンボイムとシフとショルテイの指揮とピアノによる三台のピアノ協奏曲ヘ長調K.242、イギリス室内管弦楽団(8906)、

−ピアニストでもあった老巨匠ショルテイがピアノを弾いて健在ぶりを示したデイヴェルテイメント的な二つの珍しい協奏曲−

7-10-3、バレンボイムとショルテイの指揮とピアノによる二台のピアノ協奏曲変ホ長調K.365、およびバレンボイムとシフとショルテイの指揮とピアノによる三台のピアノ協奏曲ヘ長調K.242、イギリス室内管弦楽団(8906)、
(テルデックのレーザーデイスクWPLS-4034を利用)

 演奏機会の少ない2曲の映像記録を当初から目論んだようなコンサートを収録した珍しいレーザー・デイスクであった。この2曲はCDで聴くよりも映像で見た方が、2人ないし3人のピアニストの共演や競演がよく分かるので遙かに面白く、早くアップしたい曲であった。2台の協奏曲の方は、このホームページ初出である。
 ショルテイのピアノが珍しいが、彼は第二次世界大戦の前後はピアニストとしてスタートしており、1942年のジュネーヴ・コンクールのピアノ部門の優勝者であったという。この映像でショルテイはピアノが弾けて極めてご機嫌のようであったが、ショルテイのピアノが決して上手ではないので、三台の協奏曲は良いとしても、二台の協奏曲は、バレンボイムとシフに任せるべきで、彼は指揮に徹するべきであったと、その昔に見た時の厳しい感想の書き込みが残されていた。
 しかし、今改めてこのデイスクを前にして、既に亡き老ショルテイ(1912〜97)のピアノの前に座るときの嬉しそうな表情や格好を見ると、内容はともかくピアノを弾き指揮をするショルテイの元気な姿を残してくれたことに感謝すべきであろうと認識がすっかり変わった自分に驚いている。このレーザーデイスクは、老巨匠のバリバリと活躍するまだ元気なときの姿を偲ぶ珍しい貴重な映像というように価値が変わってきたようだ。



 そのような気持ちでこの映像を見ると、老巨匠の動きに神経を集中することになり、音楽の方は二の次になるが、そのようなスタンスの方が音楽も楽しく聞こえるようである。始めの曲は、二台のピアノのための協奏曲変ホ長調K.365であり、バレンボイムが第一ピアノ、ショルテイが、指揮と第二ピアノを担当していた。二台のピアノが向かい合って置かれ、オーケストラがピアノを囲み、ショルテイが背を向けて冒頭では起立して指揮をしていた。第一楽章はオーケストラで第一主題が威勢良く始まり、次々に元気の良い軽快な新しい旋律が表れるが相互に関連しており、全体として第一主題部を構成しているように見えた。やがてショルテイがメガネをかけながらピアノの前に座ると、二台のピアノが第一主題の冒頭を装飾しながら力強く弾き出すが、後半は第一ピアノ、第二ピアノの順に交替で弾かれ、新しいパッセージも加わって競演の形となった。ショルテイは一生懸命に負けじと弾いており、手が空くと指揮をするように手を振り、その姿は指揮者としての本能的な仕草に見え微笑ましい。続いて愛らしい第二主題が第一ピアノ、第二ピアノの順に提示され、二つのピアノは速いパッセージを重ね、オーケストラも加わって提示部の終結の盛り上がりを示す。展開部では二つのピアノの力強い音の交換が中心となり、二台のピアノが発するダイナミックな迫力に満ちていた。再現部は二つのピアノが主体になっており、最後のカデンツアでも二台のピアノが競い合いショルテイが頑張っていた。



   第二楽章はアンダンテの主題がオーケストラでゆっくりと優美に示されたあと、第二ピアノにより繰り返され、その後二台のピアノにより装飾的にまた対和風に進められ実に美しい。中間部のエピソードでは二台のピアノのそれぞれにオーボエの悲しげなソロが加わって素朴な響きのする味わいのある面白い楽章となっていた。フィナーレはABACABAの大型なロンド形式であるが、速いテンポの活気のあるロンド主題がまずオーケストラで提示されフォルテで繰り返されて、フェルマータの後第一ピアノに続いて、第二ピアノがオクターブ下で登場し、オーケストラと二つのソロは三つ巴の競演をし張り合うように進む。速いテンポでショルテイのピアノが縺れそうになるが、負けじとばかりに弾いており熱のこもる競演が快く響いた。最後のカデンツアもショルテイが存在感を示すように頑張っていた。
 演奏が終わるとブラボーの声とともに大変な拍手が沸き起こり、二人のピアニストは抱き合って互いを讃えていた。ロンドンでのショルテイの人気の高さは大変なものがあり、この日のショルテイのサービスぶりに絶大の賛辞を送っていた。





 続く「三台の」ピアノのための協奏曲第7番ヘ長調K.242では、右から第一ピアノがシフ、中央の第二ピアノがバレンボイム、左の第三ピアノがショルテイの順に背を向けてピアノに向かい、ショルテイが立ち上がって三台のピアノを取り囲んだオーケストラの指揮をしていた。
 第一楽章では、トウッテイで力強く第一主題が開始され、堂々と主題が示された後に、優雅な第二主題がオーケストラで提示される。この曲のオーケストラの威勢の良さはここまでで、三台のピアノによる冒頭主題の迫力ある導入の斉奏は非常に力強く、後は三台のピアノのそれぞれに任されていく。直ちに第一ピアノが巧みな装飾音を付けながら主題を提示し、続いて第二ピアノに渡されていく。第二主題では第一ピアノにより提示されてから三人のソリストに渡されていくが、オーケストラの手を殆ど借りずに三台のピアノにより追いつ追われつで進行する。三人のうちシフの装飾音の付け方が鮮やかでとても目立っていたが、三人は互いに調子を合わせながら、自分の存在を示しつつ、合奏を楽しむかのように弾いていた。展開部でも殆どが三台のピアノにより力強く活発に推移し、オーケストラは伴奏だけで、続く再現部でも三台のピアノの存在が増していた。カデンツアは聴き覚えのある自作のもので、三人は互いに顔を見合わせながら合わせて弾いていた。



 第二楽章は、アダージョの短いながらソナタ形式であり、オーケストラで美しい第一主題が優雅に提示されて第一ピアノに渡されるが、第二主題はいきなり第二ピアノにより提示される。この楽章では三台のピアノにより、歌謡風の主旋律が綿々と繰り返されていく。第一ピアノと第二ピアノとが互いに入れ替わったり合奏したりして、時には第三ピアノが顔を出したりして、繰り返し変奏をしたり装飾をしたりして歌われていた。三台のピアノの持ち味を生かし、デイヴェルテイメントのような遊びの心も加えたモーツアルトならではの名作と聴くたびに思う。展開部以降も殆ど三台のピアノだけで進行していた。短いカデンツアが三台のピアノで三人三様の弾き方で煌めくような響きが珍しく面白かった。
   フィナーレは、テンポ・デイ・メヌエットと示された三拍子のメヌエットの性格を持つロンド形式で、始めに踊り出すような早いテンポで、第一ピアノがロンド主題を提示する。直ぐにオーケストラとピアノに渡され、さらに新たな主題が導かれて素早く展開されていくが、この楽しげなロンド主題は、ABACABAの形をとって都合4回も現れ、実に華やかであった。第二クープレでは第二ピアノが素早いエピソードで駆けめぐり、第一ピアノもこれを追いかけて目まぐるしく華やかな雰囲気を印象づけて、盛大に盛り上がっていた。



 終わると同時に大変な拍手が沸き起こり三人が抱き合って互いに讃え合いながら挨拶を交わし、ショルテイが満面の笑みで観衆に応えていた。そして、実に暖かな雰囲気の老巨匠を讃える拍手が続き、何度もステージに呼び戻されていた。ベーム・カラヤン亡き後を支えている楽壇最長老のショルテイを讃える観衆たちは、彼の滅多に見られないピアノ演奏というサービスぶりを大歓迎し大喜びした雰囲気が、このコンサートの映像に良く滲み出ていた。
 このデイスクは老ショルテイの芸を讃えるものと考えて一言付け加えると、私がショルテイの新たな存在に気が付いたのは、未だアップしていないが、91年のモーツアルトイヤーの終わりを飾る12月の暮れのシュテファン寺院での追悼コンサートで、ショルテイがレクイエムを振っていた時以来であった。それからショルテイは亡くなるまで、ウイーンフイルを頻繁に振り、モーツアルトもこなせる指揮者として迎えられ、楽壇最長老として活躍していたと考えている。このHPでもショルテイの「魔笛」(ウイーンフイル、1991)があり、当時の彼の評価を物語っていたと思われる。

(以上)(07/10/23)


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