7-1-4、モーツアルト生誕250年「Mozart 22 DVDシリーズ(その1)」、
歌劇「魔笛]K.620、ムーテイ指揮、ウイーンフイル、ピエール・オーデイ演出、田中民振付、2006年ザルツブルグ音楽祭、

−分かりやすいメルヘン風の新演出に加え、ムーテイの歌わせ上手のテンポにのって、全員が十分な力量を発揮した素晴らしい「魔笛」−

−追加;08年ザルツ音楽祭のムーテイ指揮オーデイ演出の同じ「魔笛」を見て(追加;08/09/13)−

7-1-4、モーツアルト生誕250年「Mozart 22 DVDシリーズ(その1)」、
歌劇「魔笛]K.620、ムーテイ指揮、ウイーンフイル、ピエール・オーデイ演出、田中民振付、2006年ザルツブルグ音楽祭、

(配役)ザラストロ;ルネ・パーペ、パミーナ;ゲニア・キューマイアー、タミーノ;ポール・グローヴズ、夜の女王;デイアナ・ダムロウ、パパゲーノ;クリステイアン・ゲアハーアー、パパゲーナ;イレーナ・ベスパロヴァイテほか、
(ユニバーサルDECCADVD-UCBD-1047/8、市販のDVD使用)


 2006年のザルツブルグ音楽祭におけるメイン・イヴェントは、モーツアルト生誕250年を祝して、彼のオペラ・舞台作品全22曲の上演であったが、その公演結果がDVDにより続々と発売されることになり、このムーテイ指揮の歌劇「魔笛」K.620が発売の第一号となった。このムーテイ指揮の「魔笛」は、グレハム・ヴィック演出で05年、06年が予定されていたが、この演出が超現代的ですこぶる評判が悪く、06年にはピエール・オーデイ演出に急遽変更されたという経緯があった。この新演出は、オランダで03年より公演されたもので、現代のメルヘンとして描き出した演出とされ、保守的な趣向を持つムーテイにはピッタリであったとされている。



 ムーテイの「魔笛」は、このホームページでは前回の96年のミラノ・スカラ座に続く2回目の登場である。入場すると例によって直ちに序曲が始まる。しっかりとした三和音がゆっくりと高らかに鳴り、序曲がキビキビとして軽快に進行する。正面に起立して弾く5人のコントラバスが目立ち、揃った弦の速い動きの中で、フルートとオーボエが一際美しく歌う。幕に描かれた抽象画は女性が笛を吹いているように見えるかなと考えているうちに幕が開き、タミーノが巨大な何者かに追われて倒れてしまう。緑色の制服をまとった若くて威勢のいい三人の従女が華やかに競って歌い、賑やかな幕開けであった。画質も音色も美しく最高の映像で始まった。



 やがてパパゲーノが何とオモチャの車に乗ってパンを吹きながら登場する。黄色い鳥に扮したダンサーたちを従え派手な衣裳を身につけて、伸び伸びと歌い大きな拍手を浴びていた。続いて巨大な岩山の中で、ごつい風貌のタミーノが絵姿のアリアを歌い出すが、これもゆっくりとしたテンポで力強く歌われた。また続いて夜の女王が派手な衣裳で登場し、ここでもムーテイは遅めのテンポでしっかりと歌わせており、ダムロウは声の力強さと言い、動きの素早さといい、素晴らしい夜の女王を演じてくれた。これら主役三人の上出来な歌と演技で、第二・第三・第四曲の始めの段階から、これは最高の「魔笛」になりそうな予感がした。





 動く巨大な岩山、ヒコーキに乗って道案内する三人の童子、パパゲーノが貰った大きな丸い銀の鈴、お腹に2人が乗れる大きな空洞がある巨大な人形の岩など、大きな舞台と機械装置を活用した舞台作りに圧倒されているうちに、モノスタトスがパパゲーノと出会って「こいつは悪魔だ」と互いに驚き、パミーナとパパゲーノの二重唱が美しく歌われた。
 フィナーレに入ると、飛行機の中から三人の童子が「男らしく立ち向かえば勝利する」という案内で、タミーノが第三の扉で老僧と押し問答することになり、パミーナを呼ぼうと笛を吹くと、大きな動物たちがぞろぞろと顔を出して、観客は大喜び。一方のパパゲーノもパミーナとモノスタトス一行に捕まるが、銀の鈴が鳴り出して逃げ出すことが出来て一安心。しかし、ザラストロの登場で場面は一変し、パーペの堂々たる威厳溢れる歌と演技で全体が収まり、第一幕は終了した。観客を喜ばすシーンが連続し、好印象のまま後半に期待を持たせる第一幕であった。






 第二幕は僧侶たちの入場と行進で厳かに開始されるが、ザラストロの第10番の儀式における祈りのアリアは堂々と低い声を響かせ貫禄十分であった。次いで第14番の夜の女王のアリアでは、ナイフを手にして、ザラストロを殺せぬのなら私の娘でないとパミーナを脅す気迫と歌の凄さに驚かされる。また、モノスタトスを追い払ってパミーナに語るように歌う第15番のザラストロのアリア、さらに第20番のパパゲーノの有名なアリアなどは、つい口ずさみながら聴いてしまい、ムーテイの遅めの歌わせるようなテンポにのって朗々たる名調子で進行していた。



 フィナーレでは、二人の衛兵が見守る中で、タミーノとパミーナがやっと出遭い、ピッチカートの伴奏に乗って笛を吹きながら、こなしていく二つの試練は、新しい演出でもあって実に興味津々。大きな噴水が上がって大合唱の中で幕となり、最高の見せ場となった。  一方のパパゲーノは、首吊り寸前で大きな鈴を渡されてこれも一安心。変身したパパゲーナにめでたくパ・パ・パで再会し、これも凄い拍手で大満足であった。終わりに目映い太陽の輝きの中で、ザラストロが夜の世界を追い払ったと宣言し、僧侶たちの祝福の大合唱で幕となった。ストーリーは変わらないが新演出により目先が変わり、歌わせ上手なムーテイの指揮によって輝かしいフィナーレとなった。これが本来の「魔笛」だと素直に思わせる演奏であり、演出であった。



 05年夏の音楽祭で現地で見たヴィック演出(オペラ報告2.参照)と異なり、この「魔笛」は分かりやすく、ムーテイ・ウイーンフイルも生き生きとして、さらに歌手陣もムーテイのゆったりしたテンポにのってベルカント風に朗々と歌い出し、良いことが相乗効果のように重なって、真に見応えのある「魔笛」となったように思われる。中でも「夜の女王」が声も良く伸び体を張った演技をしており、これまで見た最高の女王役と思われた。 彼女の歌は、05年のモーツアルト週間の報告(6)の通り、代役でコンサートアリアを3曲歌ったのを最前列で聴いているが、太い声で体全体で歌う迫力に驚いたことがあり、当時はコヴェントガーデンで夜の女王でデビューに成功した直後であった。



 第一幕のフィナーレや最後の大団円においても余りフリーメーソン的な要素は感じなかったが、これは奇抜な動物になったり、ライオンの変わりをしたり、怪獣や車を動かしたりするダンサーたちのアシストによる動きが、メルヘン色を強く打ちだした所為であろう。95年のスカラ座も立派な映像であったが、今回の映像も、それ以上の歌と迫力を持ったものと思われ、改めてムーテイの力量に敬意を表すべきであると思われる。

(以上)(07/01/24)



−追加;08年ザルツ音楽祭のムーテイ指揮オーデイ演出の同じ「魔笛」を見て−(追加;08/09/13)

−大きな舞台と動き回る岩山・目障りなダンサーたちのうるさい動き・意表をつく演出の巧みさにすっかり惑わされた−




08年ザルツブルグ音楽祭のムーテイ指揮の「魔笛」の舞台を見て、


1)このツアーの今年のザルツブルグ音楽祭のムーテイ指揮の「魔笛」は、既にDVDとして発売されている06年のM22の「魔笛」(DECCA-UCBD-1047/8)と同じ演出で、出演者が一部変わるという触れ込みであった。この06年のDVDについては、私はDVD発売後直ぐに入手して、M22オペラシリーズの第1号(7-1-4)としてご報告済みであった。従って、この舞台については、自信を持って理解済みと考えていた。
 確かに当日の出演者は、ザラストロがパーペからゼーリッヒに、タミーノがグローヴスからシャーデに、パパゲーノがゲアハーアーからヴェルバーに、夜の女王がダムロウからシャギムラトヴァ、モノスタトスがウルリヒからカーシュバウム、に変わっていたが、それぞれの派手な衣裳は変更がなかった。

2)ところが8月26日(火)祝祭大劇場では、舞台の右側で前から5列目の良い席で見ることが出来たが、実際には舞台が非常に広く、冒頭からまず巨大な岩山などの装置が予想以上に大きく、音もなく動く舞台に圧倒され、パパゲーノの車を押す黄色い衣裳のダンサー達の奇妙な動きに惑わされ驚かされた。その他にも大きな人形や動物たち、空を飛ぶ飛行機やダンサーたち、ザラストロを取り巻く白い獅子のようなダンサーたち、頭の上で火が燃える衛兵(ダンサー)たち、火が燃え噴水が上がる舞台などに驚かされた。  すぐ前の右側の舞台上の動きに惑わされたかもしれないが、DVDで見た以上に、大きくかつ動きのある珍しい斬新な舞台の動きに気を取られ、私には、より効果的に舞台がヴァージョンアップされたように思われた。

 それらに加えて、a)第一幕フィナーレの最後で、天上からロープが下りてきて、タミーノとパパゲーノが宙づりになって退場すると言った不思議な場面、b)第二幕の冒頭でタミーノとパパゲーノが3階に閉じこめられていた4階建ての宮殿の頂上で、上半身が裸体の男女が何かを演じている異様な風景、c)三人の従女が男達を誘惑しようとする光景を監視している舞台上の夜の女王の不思議な存在、d)第二幕のフィナーレの最後で、夜の女王が倒された後そのまま舞台に残り、二人の若者を讃える大団円の中で、助けようとしたパミーナを振り切り、自力で立ち上がってザラストロの方に向かい、和解?しようとしたかのような女王の不思議な行動?、 などDVDでは余り記憶に残っていなかった理解できない場面を幾つか目にして、私のDVDの理解と異なる新たな舞台変更があったものと考えた。

 そのため、オペラ終了後、ビールを飲みながらの集まりでも、06年のDVDの演出がかなり変更され、ヴァージョンアップされたものと考えて、私はDVDと印象が異なる発言を繰り返していた。

3)帰国後、改めてDVDを見直した結果、配役はパミーナ以外の主役は殆ど変わるという大幅な変更があったが、舞台の演出や衣裳は、ほぼ同じであると言うことが分かった。従って、演出にヴァージョンアップがあったという現地での私の発言は間違いであった。充分に時間を掛けてDVDを見ていた積もりであったが、真に不徳の致すところであり、大いに反省している。
 何故、このような間違いを犯したかの原因を考えてみると、基本的には、余りにも大きい舞台をライブで見て、5列目の直前の右側の舞台の動きに気を取られ過ぎて、舞台全体の動きをDVDほど良く見ていなかったことに尽きると思う。また、自動車や大きな動物たちを動かす本来なら黒子役を演ずるダンサーや合唱団たちが、この演出では空を飛ぶ鳥になったり、獅子になったり他の演出にない非常に目立つ奇抜な動きをしていたので、ストーリー以外のところに気を取られたせいもあろう。
 しかし、ライブの舞台で気になった以下のa)からd)までの演出の疑問点については、DVDを見直してもやはり良く理解できず、不思議に思っている。このDVDをお持ちの方は多いと思われるので、この場面を写真にとって以下のように記録し説明しておくので、どなたかお分かりの方は、この演出の意味についてお教えいただきたいと思う。

写真a、第一幕フィナーレの最後で、天上からロープが下りてきて、タミーノとパパゲーノが宙づりになって退場すると言った不思議な場面、



 ザラストロの命令で二人は神殿で試練を受けることになったが、どうして宙吊りになって運ばれて行くのだろうか。

写真b、第二幕の冒頭でタミーノとパパゲーノが3階に閉じこめられていた4階建ての建物の頂上で、上半身が裸体の男女が何かを演じている異様な風景、



 この二人はイシス神とオリシス神とを祭る神殿に仕える従者であろうが、何故、上半身が裸で、くねくねと踊っているのだろうか。

写真c、三人の従女が男達を誘惑しようとする光景を監視している舞台上の夜の女王の不思議な存在、





 宮殿に三人の従女ばかりでなく、夜の女王まで忍び込み、女王は三人従女の動きを監視するとともに、次の場面まで舞台におり、娘のパミーナに短剣を渡して脅していた。

写真d、第二幕のフィナーレの最後で、夜の女王が倒された後そのまま舞台に残り、二人の若者を讃える大団円の中で、助けようとしたパミーナを振り切り、自力で立ち上がってザラストロの方に向かい、和解?しようとしたかのような女王の不思議な行動?、





 夜の女王は最後の幕切れで、無言のままザラストロに会い、顔を合わせてから終幕となっていた。これは何を意味するのであろうか。女王として敗れたことを認め、母親として愛するパミーナをタミーノとザラストロに預け、日の国に任せたぞと言う意味なのだろうか。


 DVDを繰り返し見ても、ライブで見たときの新しい疑問は解けそうもなく、見た人が考えよと言うことなのであろうか。特に、最後の夜の女王の行動は、リブレットでは女王は奈落の底に沈んだことになっているので、新しいことを言おうとしているように見受けられるが、判然としないようであった。

4)以上の通り、今回、DVDでご報告した舞台を、新たにライブで見ると言う珍しい体験をし、印象が強烈だったので記録に残そうと考えたのであるが、結果的には、オペラという舞台芸術は、DVDを見ただけではやはり気づかない深い面が多いという、ごく当たり前の話に気が付いたことになった。ここに、ライブを見ることの重要性を改めて指摘するとともに、DVDを見て分かった積もりになっていた自分の不明を、心からお詫びしたいと思う。

  (以上)(追加、08/09/13)


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ザルツブルグ音楽祭の22オペラ作品のDVD-Video化の朗報

 2006年のザルツブルグ音楽祭においては、モーツアルトの歌劇や音楽劇などの作品を含めた全22の舞台作品が上演された。一つの音楽祭でモーツアルトの全ての舞台作品を上演したのは史上初であり、全世界から「偉業」として高い評価を受けている。このHPでも、たびたび全作品のDVD化がなされないかと希望を申し上げてきたが、この上演のライブDVDが、ユニバーサル・ミュージックのDECCAレーベルから続々リリースされることになった。その内容は、新進気鋭の演出家を起用した新演出、次世代を担う期待の新人歌手、スターダムに登りまさに世界の歌姫となったネトレプコ、伝統的な演出と色彩豊かな舞台で支持を得たムーテイとウイーンフイルの演目など、注目のラインナップで、モーツアルト・イヤーの記念碑的なシリーズと期待されている。各タイトルには10分程度の特典映像付きというのも、魅力的な話である。

 12月5日にはムーテイ・ウイーンフイルの「魔笛」とボルトン・モーツアルテウム管の「後宮」が発売予定となっており、続く第二弾、第三弾が期待されている。以下の予定は、変更の可能性があるようだが、以下のように公表されている。なお、輸入盤についてはかなりの巻が発売されているようであるが、値段は安いが残念ながら日本語は入っていない。オペラや舞台ものの日本語字幕は絶対に欠かせないので、値段が高くなり発売は遅れても、やむを得ないものと思われる。

07年1月24日;「にせの女庭師」、「牧人の王」、「バステイアントバステイアンヌ」、「劇場支配人」、「ドン・ジョバンニ」、
07年2月21日;「ルチオ・シルラ」、「アルバのアスカニオ」、「ツアイーデ/アダマ」、「コシ・ファン・トッテ」、
07年3月21日;「救われたベトウーリア」、「アポロとヒユアキントウス」、「第一戒律の責務」、「ポントの王ミトリダーテ」、「イドメネオ」、
07年4月25日;「彷徨−1、みてくれの馬鹿娘」、「彷徨−2、騙された花婿」、「彷徨−3、カイロの鵞鳥」、「シピオーネの夢」、
07年5月;BOX SET、
07年7月25日;「フィガロの結婚」、

   これらのソフトは、このHPの「映像のコレクション」に全て収録したいと考えているので、今後の発売がとても楽しみである。上記のオペラ数は数えると21組しかないようであるので、何かが不足している。さて、どの曲でしょうか?



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