7-1-1、NHK音楽祭2006、ファビオ・ルイージ指揮ウイーン交響楽団、「フィガロの結婚」序曲、ピアノ協奏曲変ホ長調(第22番)K.482、ピアノ;上原彩子、交響曲ト短調(第40番)K.550、NHKホール、06/11/19、

−上原彩子のきめ細かな音つくりの爽やかな22番とファビオ・ルイージの斬新な感覚を持った穏やかな明るい疾走ぶりのト短調交響曲−

7-1-1、NHK音楽祭2006、ファビオ・ルイージ指揮ウイーン交響楽団、「フィガロの結婚」序曲、ピアノ協奏曲変ホ長調(第22番)K.482、ピアノ;上原彩子、交響曲ト短調(第40番)K.550、NHKホール、06/11/19、
(06年11月24日、NHK103CH、HV放送をD-VHSレコーダのHVモードにより、S-VHSテープに5.1CHサラウンドでデジタル録画。)


 この映像は、昨年の12月分のハーデイング・マーラー室内管弦楽団(6-12-1)に続くNHK音楽祭2006におけるファビオ・ルイージ指揮のウイーン交響楽団によるオールモーツアルト・コンサートである。ハーデイングの場合と同様に、ハイビジョンによる映像を5.1CHサラウンドでデジタル録画してみた。このNHK音楽祭は、今年で4回目になるが、毎年優れた海外のオーケストラがNHKホールで同じような条件で公演するので、比較の意味で出来るだけ5.1CHサラウンドで撮り続けている。ウイーン交響楽団は、これで二回目であり、その時にはクライツベルグがジュピター交響曲を振っており(4-11-3)、骨太の堂々たるジュピターであった。

 今回はこのホームページでは初めてのイタリア生まれのファビオ・ルイージ(Fabio Luidge)が指揮をしていた。彼は1959年ジュネヴァ生まれの若い指揮者であり、ライプチヒ、スイスロマンドなどの芸術監督を歴任して、この伝統あるウイーン交響楽団に招かれた。カラヤン、ジュリーニ、サヴァリッシュなどが率いたこのオーケストラをこの若さで振るのは、光栄であると述べていたし、楽団員からも好印象を持たれていた。このコンサートの前に、今回のプログラムについて、次のように語っていた。
 「この変ホ長調の22番のピアノ協奏曲には、格別に素晴らしいハ短調の第二楽章があり、その深さと哀しさは特別で、ト短調交響曲に通ずるものがあり、この2曲を一緒に演奏したら面白いのではとかねて考えていた。モーツアルトの交響曲はもっと年を取ってからやろうと思っていたが、以前よりも悲しみを理解できるようになってきたので取り上げてみようと考えた。」

 「フィガロの結婚」序曲は、弱音で始まりフォルテでは堂々たる力強い演奏で、5.1CHの威力を発揮していた。ぐいぐいと軽快に小気味よいテンポの演奏で、観衆を魅了した。
 第二曲のピアノ協奏曲第22番変ホ長調K.482は、威勢の良い行進曲風の出だしで第一楽章がユニゾンで堂々と始まるが、直ちにホルンやファゴットに引き継がれ、フルートやクラリネットなどが次々に顔を出し、賑やかに進行する。やがて独奏ピアノが長いアインガングで優美に登場し、ひとしきりピアノのソロが輝くように活躍してから、第一主題がオーケストラとともに現れる。上原彩子のピアノはさすが女性らしくきめ細かで、粒ぞろいのパッセージが次から次へと目まぐるしく変化して弾かれ、実に滑らかである。真っ赤なドレスがよく似合い、1980年生まれの若々しい姿は、ハイビジョン向きに見えた。ルイージの指揮もほどよいテンポで軽快であり、このコンビは極めて魅力的に映った。カデンツアは自作のものであろうか。ここでもきめの細かい動きで丁寧に弾かれていた。



 第二楽章は、ルイージの言葉通り、弦でハ短調のもの憂い感じの変奏曲のテーマがゆっくりと静かに呈示される。続いて上原のピアノだけによる主題呈示と変奏が行われるが、上原のピアノは玉を転がすように美しく進行する。第二変奏は、管楽器のみの合奏による変奏で、フルートやクラリネットが賑やかであった。続く三つの変奏は、力強く現れるピアノとオーケストラ伴奏による激しい変奏、フルート、ファゴットとオーケストラの対話と、ピアノが加わった協奏的変奏、フルオーケストラとクラリネット、フルート、ファゴットの共演にピアノが加わった変奏など、実に多様な変奏が力強く展開される。木管と弦とピアノが見事に組み合わされた美しいアンダンテ楽章であり、上原のピアノは常に中心にいて冴え渡っていた。



 フィナーレでは、ピアノで軽やかに明るく始まるロンド主題は颯爽としており、実に快く響く。オーケストラに引き継がれた後もピアノが次から次と新しい主題を呈示して、オーケストラと対話しながら駆けめぐる。中間部ではゆっくりしたメヌエット風のアンダンテイーノとなり、クラリネットやピアノにより美しいエピソードが呈示される。軽快なロンド主題が何回も顔を出し、その都度ピアノの活発な動きが楽しめた。カデンツアは短かったが爽やかな印象だった。素晴らしいピアノ独奏に拍手が鳴りやまず、アンコールとしてラフマニノフの前奏曲嬰ハ短調が弾かれたが、とてもセンスの良い選曲で水の戯れのような見事な演奏ぶりであった。オーケストラの全員も讃えていたので、彼らにとっても、気持ちの良い演奏だったのであろう。



 休憩をおいてト短調交響曲が始まる。ゆっくりとしたテンポで弦が静かに動きだし、次第に高揚して素晴らしいフルオーケストラになる。とてもすっきりした出だしであり、聴き慣れた曲にも新鮮さが溢れ、この指揮者の優れたセンスを感じさせた。よく見ると4本のコントラバスにフルートと2オーボエの初版で演奏していた。このルイージの穏やかな疾走ぶりには明るさが漂っており、5.1CHサラウンドによる音の厚みも快く、久し振りで斬新なト短調シンフォニーを耳にしたような感じがした。

 第二楽章は、ゆっくりした弦の重なりがうねるように進んでいくが、やがて第二主題があらわれ、ルイージはフルート、オーボエ、ファゴットを明るく響かせ、渋いながらも明るいアンダンテであった。メヌエット楽章では弦の重苦しい主題がカノン風に何回も繰り返されるが、トリオで、フルートやオーボエにより明るさを取り戻す。フィナーレ楽章では、軽やかな弦の合奏が軽快なテンポで進行し、十分満足させるものであった。
 全体のメランコリックな哀しみに満ちた曲調を、ルイージはごく自然に明るい雰囲気で表していたように思われる。



 なお、アンコールには、オペラ「後宮」の序曲と「ピッチカート・ポルカ」が演奏されていた。
 この指揮者は、伝統的な指揮法を身につけており、爽やかにオーケストラを鳴らす術を心得ているようで、なかなか好感の持てるモーツアルトを聴かせてくれた。ムーテイの後を引き継ぐような有力な若手が成長してきたように思われた。ルイージがオペラなどをどのように振るか、今後に期待したいと思う。

(以上)(07/01/17)


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