6-11-1、2006ベルリンフイルのヨーロッパ・コンサート、2006年5月1日、プラハ・エステート劇場、ダニエル・バレンボイム指揮およびピアノ、ベルリンフイル、ホルン;ラデク・バボラク、

−−バレンボイムの指揮するベルリンフイルの厚い響きが印象的な「ハフナー」と「リンツ」−弾き振りのピアノ協奏曲の名人芸も素晴らしく、ホルン協奏曲は初めてのアップでした−−

6-11-1、2006ベルリンフイルのヨーロッパ・コンサート、2006年5月1日、プラハ・エステート劇場、ダニエル・バレンボイム指揮およびピアノ、ベルリンフイル、ホルン;ラデク・バボラク、
(曲目)1、交響曲第35番ニ長調K.385「ハフナー」、2、ピアノ協奏曲第22番変ホ長調K.482、3、ホルン協奏曲第1番K.412/K.514、4、交響曲第36番ハ長調K.425「リンツ」、

(06年09月17日、NHK教育TVによる放送を、DVD-Videoレコーダ(DMR-E250V)の標準モードで、HDDにデジタル録画。)


 毎年ベルリンフイルが実施しているヨーロッパ・コンサートが、今年はモーツアルト・イヤーと言うことで、モーツアルトの「ドン・ジョバンニ」を初演したチェコのプラハのエステート劇場で5月1日に行われており、プログラムは標記の通り、盛り沢山のオール・モーツアルト・プロとなっていた。指揮者はお馴染みのダニエル・バレンボイムであり、2曲目のピアノ協奏曲第22番変ホ長調K.482では自らピアノを担当していた。また3曲目は、映像では初めてのホルン協奏曲第1番K.412/K.514がベルリンフイルのホルン奏者ラデク・バボラクのホルンで演奏された。また、コンサートの始まりと終わりは、ハフナー交響曲K.385とリンツ交響曲K.425であり、最近めっきり髪が薄くなったバレンボイムの手慣れた優雅な指揮ぶりが期待された。

    録画チェックのために一通り見た印象では、バレンボイムの黒のシングルにノーネクタイのスタイルが決まっており、伝統あるエステート劇場の雰囲気も良く、ベルリンフイルの持ち味を発揮した期待通りの素晴らしいコンサートになっていた。ただし、欲を言えば、教育テレビの放送であったので、BSやHVの放送よりも一ランクも二ランクも画質・音質が落ち、折角の好演奏の記録が不十分で、非常に残念であった。



 第一曲目の交響曲第35番ニ長調K.385「ハフナー」の第一楽章は、生き生きとした弦の躍動で高らかに始まり、軽快なテンポで堂々と進行する。モーツアルトが交響曲で初めて見せた激しい充実したオーケストレーションではなかろうか。ベルリンフイルの響きがぶ厚く、部屋中に広がり心地よい。バレンボイムは、左奥にコントラバスを4本揃え、後方にテインパニーとトランペットを配置し、中央に置いたピアノの前で体を揺すりながら指揮をしていた。ピアノが置かれたせいか舞台は狭く感じ、ホールの高い天井のせいか全体が暗い感じがする。高い天井席から舞台を見下ろすような角度の映像がとても珍しく、面白く感じた。展開部ではカノン風の弦の激しく鋭い変化が印象的であり、堂々と再現部に移行していた。



 第二楽章では、非常にゆっくりしたテンポで第一主題が優美に進み、オーボエやファゴットとの対話が美しい。チッチッチと笑いさざめくような第二主題もゆっくりと進み穏やかなアンダンテを醸し出す。劇場の天井にある彫刻がクローズアップされ、実に優雅な雰囲気の画像をかたち作り、バレンボイムの得意げな表情が写し出された。
 第三楽章はフルオーケストラのウイーン風の典雅な力強いメヌエットであり、ぶ厚い厚みのある音で堂々と行進するように進行する。弦楽器の優雅な合奏にオーボエやファゴットが加わって滑らかなトリオが対照的に美しい。フィナーレのロンド主題は、「後宮」のオスミンのアリアに似た弦のユニゾンで始まるプレストで、小気味よいテンポで急速に進行し激しく展開されていく。この嵐のような複雑さと激しさを持った急速な展開は、後期のシンフォニーのフィナーレの特徴であり、ベルリンフイルの柔軟に対応する技術力もあって、交響曲としての充実ぶりを十分に見せつけた響きであった。
 ブラボーの歓声と拍手が続き、十分満足できる余韻を持った第一曲であった。

 第二曲のピアノ協奏曲第22番変ホ長調K.482の第一楽章は、威勢良く行進曲風の出だしで始まるが、フルート、クラリネット、ホルンなどが次々に顔を出しユニゾンで主題が堂々と呈示されていく。やがてピアノのソロが現れるが、別の主題のように変化してから、第一主題がオーケストラとともに現れる。バレンボイムのピアノはさすが華やかで、粒ぞろいのピアノのパッセージが次から次へと目まぐるしく変化して弾かれる。展開部ではオーケストラの強奏の後にピアノソロでも激しく華やかに現れ、重々しく力強い展開を見せる。再現部も堂々としており、カデンツアではバレンボイムは全く乱れを見せず冴えたピアノの切れ味を見せてくれた。



 第二楽章は、弦でゆっくりしたもの憂い主題が呈示されるアンダンテの自由な形式の変奏曲であり、続いてピアノだけによる主題呈示と変奏が行われたので、これを第一変奏とと名付けよう。次の第二変奏は、管楽器のみの合奏による豊麗なデイヴェルテイメントのような変奏であった。第三変奏は、力強く現れるピアノによる激しい変奏でありオーケストラ伴奏がピアノを支えていた。第四変奏は、フルートとファゴットとオーケストラの対話で始まり、ピアノが割り込んでオーケストラと協奏する。第五変奏は、フルオーケストラとクラリネット、フルート、ファゴットの共演にピアノが加わって力強く展開され、ピアノによって美しく仕上げられ静かに終わる。木管と弦とピアノが見事に組み合わされた美しいアンダンテ楽章であり、初演時にアンコールされたことも故なしとしない。

 第三楽章では、ピアノで明るく始まるロンド主題は軽快そのもので、映画「アマデウス」のこの曲の颯爽とした部分を思い出す。オーケストラに引き継がれた後もピアノが次から次と新しい主題を呈示して、オーケストラと対話しながら駆けめぐる。ロンドの中間部ではゆっくりしたメヌエット風のアンダンテイーノとなり、クラリネットにより美しいエピソードが呈示され、独奏ピアノが優美にこれを引き継ぎ、さらにピッチカートとピアノとがたわむれるなど、モーツアルトの独壇場の場面が連続しウットリとさせる。再び明るいロンド主題が提示されるが、最後のカデンツアでは、オペラのアリアのような聴かせ所があり、バレンボイムのピアノの見せ場を作っていた。



 この曲は20番台のピアノ協奏曲では最も演奏機会が少ないようであるが、クラリネットが加わってより豊かな表現が可能となり、前後の曲と変わらず魅力的だと思う。バレンボイムの華麗なピアノにブラボーと拍手が鳴りやまず、堂々たるピアノと指揮に観衆は酔い痴れていたようであった。

 第三曲は、ホルン協奏曲第1番ニ長調K.412/K.514(386b)であるが、ホルン協奏曲の映像は、驚いたことにこのホームページでは初めての登場であった。この第一番は最近のタイソンの研究により、第二楽章の未完の自筆譜はレクイエムと同様にモーツアルトの最後の絶筆とされて話題を呼んでおり、従来の第二楽章は、モーツアルトの未完の曲をジュースマイヤーが補筆完成させたものとされている。そのためこの第一番の演奏に当たっては、第二楽章でどちらの版を使うべきか、ホルン奏者や指揮者が慎重に判断すべきと思われるが、このコンサートでは余り新しさを求めず、あっさりと伝統的に演奏されてきたジュースマイヤー版を用いていた。



   この曲の第一楽章の冒頭の主題は、単純そうに見えて妙に惹き付ける何かを持つ透明感溢れる主題であると漠然と感じてきたが、レクイエムと同時期の作とされて何となく納得できるような気がしている。この曲用に縮小したオーケストラによる提示部が終わり、独奏ホルンが主題を繰り返していくが、バブロクのホルンは、十分な安定感と豊かな音量があり、ユーモラスな明るさを見せるホルンの響きの中にも憂いを感じさせ、しみじみとした悲しみが増大するように聞こえてくる。短い展開部の後にもホルンの独奏の再現があり、楽しげに響くもののやはり諦めの境地が漲っているように聞こえ、カデンツもなく弦楽合奏で終結した。
 第二楽章は踊るような単純なロンド主題がトウッテイで飛び出し、独奏ホルンが繰り返す狩猟的なロンド楽章であるが、他の曲と異なって何かしら哀調を帯びている。再びトウッテイで副主題が現れ、独奏ホルンとやり取りされて活発に進行する。ジュースマイヤーの補作した中間部には「エレミアの哀歌」が引用されているとされ、尊敬する師モーツアルトの死を悼んでいると思わせるものを感じさせる。曲は再びロンド主題に戻り踊るように進行するが哀調を持って寂しげに終結する。
 この曲は親しみやすい曲調のせいか、拍手が多く人気があり、ソリストのバブロクには花束が贈呈されていた。




 第4曲目は、交響曲第36番ハ長調K.425「リンツ」である。序奏の冒頭はゆっくりしたテンポでユニゾンで開始され、その後もゆったりと堂々たる歩みで進行し、重い響きで序奏を終える。一転して第一楽章の始まりは、軽快なアレグロであり、次第に高まりを見せながら快調そのものに第一・第二主題が走り出し、実に優雅に流れるように進行する。バレンボイムは、手慣れた手つきで生き生きと指揮をしており、この動きのスマートさが指揮者バレンボイムを支えているようだ。展開部では新しい主題が登場して何回も繰り返されるが、バレンボイムは、ここでも優雅に生き生きと指揮をしており、やがて型どおりに初めのアレグロが再現され、軽快に終結する。

 第二楽章のアンダンテでは、優美で荘重感を持った第一主題に続いて第二主題でも弦楽器主体で厳かに進行するが、バレンボイムの手慣れたゆったりした優雅な指揮ぶりが音の響きにも現れている。映像で目につくトランペットやテインパニーの姿が、アンダンテの楽章では珍しく見える。第三楽章のメヌエットは、明るく堂々とした感じの舞曲であり、バレンボイムは大きくリズムを取りながら、踊るような姿勢で指揮をしていた。トリオでは金管とテインパニーが沈黙し、ややくすんだオーボエのソロが印象的であった。
 フィナーレは整然とした快活なプレストで、第一主題、第二主題と次々と新しい主題が出て一気に進む明るい楽章である。バレンボイムの一振り一振りで軽快に躍動するように進み、実に見応えがあった。手慣れたオーケストラとの呼吸が良く合っており、指揮者の持ち味が良く現れ、格調の高い伝統のある劇場が良く捉えられた見事な映像であった。



  今回の2006ベルリンフイルのヨーロッパ・コンサートは、大指揮者バレンボイムが中心で、お得意のモーツアルトからシンフォンーから2曲、協奏曲から2曲を取り上げ、ピアノ協奏曲では弾き振りをするなど、大変なサービスぶりであった。生誕250年のモーツアルト・プログラムをモーツアルトと縁の深いプラハで行ったことに、大変な意義があろう。会場のエステート劇場は画像で見ると、「ドン・ジョバンニ」を初演したことが信じられないくらい古さを感じさせない豪華なホールに見えたが、現代のフルオーケストラには、舞台が少し狭そうに見えた。この歴史的な遺産を大切にして、将来にわたり広く活用して欲しいと思った。

(以上、06/11/17)



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