6-10-3、モーツアルト・ガラ・コンサート、2006年7月30日、フェルゼンライトシューレ、ザルツブルグ音楽祭より、ダニエル・ハーデイング指揮ウイーンフイル、

−ザルツブルグ音楽祭の前夜祭的な豪華なガラ・コンサートとハーデイング・ウイーンフイルによる軽快で活きの良い現代風の「プラハ」交響曲−

6-10-3、モーツアルト・ガラ・コンサート、2006年7月30日、フェルゼンライトシューレ、ザルツブルグ音楽祭より、ダニエル・ハーデイング指揮ウイーンフイル、
(出演)アンナ・ネトレプコ(S)、パトリシア・プテイボン(S)、エカテリーナ・シウリナ(S)、マグダレーナ・コジェナー(Ms)、ミヒヤエル・シャーデ(T)、トーマス・ハンプソン(BT)、ルネ・パーペ(BS)、
(曲目)1、歌劇「ドンジョバンニ」K.527より序曲、第4番「カタログの歌」(パーペ)、および第11a曲「彼女こそわが宝」(シャーデ)、2、歌劇「ミトリダーテ」K.87より第14番「耐え難い苦痛の中」(プテイポン)、3、歌劇「テイトの慈悲」K.621より第20曲「親愛なる神々よ」(シャーデ)および第9番「私は行くが」(コジェナー)、4、バスアリア「彼を振り返りなさい」K.584(ハンプソン)、5、歌劇「イドメネオ]K.366より序曲、第11番「もし父を失ったら」(シウリナ)、第20番「もし私がその言葉を聞いて」(シウリナ・コジェナー二重唱)および第29番「オレステスとアイアスの」(ネトレプコ)、6、交響曲第38番ニ長調K.504「プラハ」、 
(06年08月27日、NHKハイビジョンによる放送を、D-VHSレコーダーのLS-3モードで、S-VHSテープにデジタル録画。) 

 この10月分の三曲目は、モーツアルトオペラの全曲演奏を行う06年のザルツブルグ音楽祭からの「モーツアルト・ガラ・コンサート」であり、2006年7月30日に、フェルゼンライトシューレにおいて、ダニエル・ハーデイング指揮ウイーンフイルの演奏で行われたものである。配役はオペラ全曲演奏で活躍している歌手陣で、若手とヴェテランを巧みに組み合わせており、実に華やかで楽しいガラ・コンであった。曲目は、「ドン・ジョバンニ」から序曲とアリア2曲、「ミトリダーテ」からアリア1曲、「テイトの慈悲」からアリア2曲、「イドメネオ」から序曲とアリア2曲、二重唱1曲、コンサートアリアK.584の1曲であり、最後に「プラハ」交響曲K.504で締めくくるという内容であった。



    このような音楽祭を飾る豪華なガラ・コンは、なかなか実演をライブで見ることが出来ないが、一方で大きな画面の映像で見る楽しさは、ライブではオペラグラスで見ても豆粒のようにしか見えない歌手が、クローズアップで表情まできめ細かく見ることが可能なことであろうか。前回の6-6-1でご報告したウイーン国立OP再開50周年記念ガラコンサートでも感じたことであるが、これだけ画像や音声がクリアーになってくると、高いお金を出して遠い席でしか見れぬ舞台を見て、草臥れて夜遅く家に戻ってくるオペラ通いが、次第に面倒になってくる。これは年を取ったせいだからであろうか。外国で楽なオペラを見過ぎたせいだからであろうか。兎に角、放送は無料であり、録画をしておくと何回でも見て確認出来るので、いつまでも深い楽しみが得られるからなのであろうか。


 今年のザルツブルグ音楽祭2006は、7月23日から8月31日までの40日間に、モーツアルトの22の舞台作品を一挙に上演されている。本映像はこの音楽祭に参加した歌手陣により7月30日(日)に行われたモーツアルト・ガラ・コンサートであり、修復なったフェルゼンライトシューレで行われたものである。指揮者は「ドン・ジョバンニ」K.527や「イドメネオ」K.366などを指揮する活躍の著しいダニエル・ハーデイングであり、オーケストラは、音楽祭の中心のウイーンフイルであった。

 ガラ・コンは「ドン・ジョバンニ」序曲でいきなり開始された。ハーデイングの指揮は冒頭の二つの大きな和音から歯切れが良く、大きく両手を振って威勢良く指揮していた。主部のアレグロに入ると、速いテンポでキビキビと進行させ、緊張感を高めながらオーケストラを引き締めるように指揮をしていた。実に軽快で伸び伸びした活きの良い現代風の演奏であり、序曲としての終わり方をしていた。
 次いでルネ・パーペが黒のシングルで黒のネクタイ姿で登場し、いきなり「マダミーナ」と調子よく「カタログの歌」を歌い始める。この曲は何時聴いても明るく笑いを誘ってくれるが、アレグロからアンダンテに進むと歌い手の個性が現れ、パーペは時には足を踏みならし、ドスの効いたようなヤクザっぽい歌い方でレポレロぶりを表現していた。三番目の曲は、国立OPで活躍するシャーデが、短いチェンバロの伴奏でレチタチーボの後に実に柔らかい声で静かに第11a曲「彼女こそわが宝」を歌い出す。「彼女の安らぎこそ我が願い」と声を潜めて歌う姿はオッターヴィオそのものに思われ万雷の拍手を受けていた。



 歌劇「ミトリダーテ」K.87からのアスパージアのアリア第14番「耐え難い苦痛の中」は、プテイポンが劇的に歌う激しいアレグロとシファーレを諦めきれずにその不安を歌う悲痛なアダージョからなり、その劇的な表現力で凄い拍手を受けていた。続いて歌劇「テイトの慈悲」より2曲、シャーデが再び登場しテイト帝のアリア第20曲「親愛なる神々よ」を歌うが曲が目立たぬ平凡なアリアでガッカリ、続くメゾソプラノ・コジェナーが歌うセストの有名なアリア第9番「私は行く」は、曲も良く、声も劇的で、クラリネットのオブリガートも良く、後半のアレグロのコロラチューラの連続は素晴らしいものがあった。前半の終わりに、トーマス・ハンプソンのバスアリア「彼を振り返りなさい」K.584が歌われ、落ち着いた声量たっぷりの見事な歌いぶりに盛んな拍手が寄せられていた。



 後半は歌劇「イドメネオ]K.366の歯切れの良い序曲で始まり、このオペラから三つのアリアが歌われた。初めに最も若そうなソプラノ、エカテリーナ・シウリナが歌うイリアのアリア第11番「もし父を失ったら」であり、純情そうな表情で可憐に歌うシウリナの歌と美しいオブリガートのフルートとオーボエに拍手が寄せられていた。二曲目は、シウリナとコジェナーによるイリアとイダマンテの「ソプラノとメゾとの二重唱」で第20番「もし私がその言葉を聞いて」であった。私は後日に書かれた「ソプラノとテノールの二重唱」K.489の方が好きなのであるが、舞台で衣裳が華やかな二人が賑やかに登場し、華麗に声を競い合うとそれだけで聴衆は喜んでしまう雰囲気を持っていた。最後の曲は、本日のプリマドンナのアンナ・ネトレプコの登場であり、イドメネオの最終場面で歌われるエレットラの半狂乱のアリア、第29番「オレステスとアイアスの」であった。ネトレプコの声量と劇的な表現力に相応しいアリアであり、まるで「夜の女王」を先取りしたような激しいアリアに観衆は驚きと賞賛の拍手を送り、オペラの前夜祭的なガラ・コンの部は、盛大に終了した。



 ガラ・コンサートの最後は、交響曲第38番ニ長調K.504「プラーハ」で締めくくられた。ウイーンフイルを指揮するハーデイングの指揮ぶりが注目されたが、冒頭の序奏の出だしでは、早めであるが和音の響かせ方が大きく力強く、その後もゆっくりと重々しく進行し盛り上がりを見せた。対照的にアレグロの第一主題は、明るく軽快な速いテンポでぐいぐいと進められる。ウイーンフイルと組むハーデイングは、古楽器演奏的な特徴はやや薄れ、テンポを遅めにとり、オーケストラを十分に響かせていた。持ち前のテインパニーやトランペットの響きもオーケストラと一体になって響き、ウイーンフイルらしい雄大な響きをもたらしている。展開部に入っても堂々と進行し、第一主題の動機が次ぎつぎに対位法的な展開をみせており、活気に満ちていた。ハーデイングの指揮ぶりは、指揮棒は持たないが、両手を大きく広げ身振りを大きくして、オーケストラに全身で訴えるような精力的な指揮ぶりであった。



 第二楽章のアンダンテでは、弦楽器により第一主題が静かに歌い出されるが、ゆっくりした落ち着いたテンポで進み、続いて第二主題が弦により提示される。フルートやオーボエが実に明るく軽やかにオーケストラに語りかけ、対話を重ねるように進行していた。ハーデイングは、両手を大きく広げ体を動かしながら丁寧に指揮をしており、充実した響きの穏やかなアンダンテで、さすがと思わせる演奏であった。
 フィナーレのプレストでは、冒頭のロンド主題がもの凄い早さで飛び出すように素早く小刻みに進行するが、ハーデイングはオーケストラを躍動的に動かして実に威勢がよい。第二主題で現れるフルートやオーボエとオーケストラの対話もとても自然で美しく、オーケストラの素晴らしさを感じさせた。この軽快なプレストで、ハーデイングは終盤に素晴らしい盛り上がりを見せ、堂々たる勢いで壮大にこの曲を終息させた。

 ハーデイングは、2003年以来、マーラー室内管弦楽団の常任指揮者であり、今秋もNHK音楽祭2006に参加する予定と聞いている。サイモン・ラトルの指導を受け、1994年に市立バーミンガム交響楽団でデビュー以来、アバードの下でベルリンフイルの副指揮者として研鑽し、今やヨーロッパ中で活躍する人気指揮者になっている。毎年参加してきたザルツブルグのモーツアルト週間には、モーツアルトに理解の深い常連指揮者として活躍し、ウイーンフイルとも馴染みが深い。彼の指揮で聴いた演奏会形式のオペラ「イドメネオ」は忘れられないし、器楽曲でもいつもほぼ満足できる演奏を聴かせてくれている。

(以上)(06/10/19)


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