6-10-2、「ブラボー!モーツアルト」、小林愛美の弾く「戴冠式」ピアノの協奏曲第26番ニ長調K.537、および幸田浩子と宮本益光によるアリアと二重唱、吉田裕史指揮読売日本交響楽団、シテイ・コンサート、

−わずか11歳の小林愛美の弾く怖さ知らずの良い面が現れた明るく調子の良い戴冠式協奏曲と、幸田浩子と宮本益光による歌唱力の面でも演技の面でも今や若手を代表するオペラ歌手に育ってきたことを実感させるアリア曲集−

6-10-2、「ブラボー!モーツアルト」、小林愛美の弾く「戴冠式」ピアノの協奏曲第26番ニ長調K.537、および幸田浩子と宮本益光によるアリアと二重唱、吉田裕史指揮読売日本交響楽団、シテイ・コンサート、
(06年08月20日、BS日テレのハイビジョン放送を、D-VHSレコーダーのLS-3モードで、S-VHSテープにデジタル録画。)


 この10月分の二曲目の「ブラボー!モーツアルト」は、前半がわずか11歳の小林愛美の弾く「戴冠式」ピアノ協奏曲ニ長調K.537であり、後半が幸田浩子と宮本益光によるアリアと二重唱と言う一時間番組のモーツアルト生誕記念コンサートからの放送であった。担当は音楽ジャーナリスト奥田佳道と山下美穂子日テレ・アナウンサーの進行で進められた。
 最初の愛美ちゃんの演奏は、ペダル台に短い足を乗せて弾くスタイルであったが、子供らしく無心に先生から教わるままに一生懸命弾いており、怖さ知らずの良い面が現れた明るく調子の良い戴冠式協奏曲であった。第一楽章で終わったが、人を驚かせるにはこれで十分であったと思われる。
 後半は幸田浩子と宮本益光が2曲ずつ有名なオペラのアリアを歌い、最後に「パパパの二重唱」で終わるという楽しいものであった。二人ともまだ若いのに、歌唱力の面でも演技の面でも今や若手を代表するオペラ歌手に育ってきたことを実感させるアリア曲集のコンサートであった。



 第一曲の「戴冠式」ピアノの協奏曲は、伸び伸びしたオーケストラで軽快に開始されるが、コントラバス3台の中規模オーケストラで堂々と進行する。ソリストの愛美ちゃんは、ペタル台に短い足を乗せて出番を待っている。第二主題もオーケストラで朗々と提示されひとしきり盛り上がってから長い提示部が終わり、独奏ピアノが軽やかに登場する。何と綺麗に澄んだ軽やかなピアノの音であろうか。子供の音とは思えない美しいピアノの音に不思議な気がする。見れば小さな手なのに、完璧に鍵盤を走らせている。本人が言っているように、先生に教わったことを思い出しながら、心を込めて一生懸命弾いている。僅かにミスがあっても後に残さずに、何事もなかったように弾いていた。展開部ではオーケストラとともに激しい和音が続くがこれも堂々と力強くクリアーし、呼吸と曲の屈折とを合わせるように調子を取り、表情を付けて上手く弾いていた。カデンツアは初めて聴くものであったが、技巧的な要素もあり、ソリストとして立派に弾き終わっていた。



ソロの役割が終わると、急ににこにこし始めた。やはり無邪気な子供の顔である。彼女はやはり将来の期待が大きい逸材なのであろう。キーシンから手紙をもらってもの凄く喜んでいたが、キーシンのように育っていくのだろうか、小管優のように、留学でもしてピアノ一筋に英才として育っていけば、楽しみな存在になるであろうと思われる。

 ソプラノの幸田浩子とバリトンの宮本益光は、芸大時代の同級生であり、若くて童顔で小柄で二人似合いのソリストのようである。初めに解説者から二人に質疑があり、幸田浩子がフォルクスオーパーで活躍しており、「魔笛」の夜の女王を無難にこなしていたのに立ち会った話がなされていた。一方、宮本益光については、宮本亜門の演出で「ドン・ジョバンニ」役を十分にこなしたことと、オペラの訳詞を現代風に自ら試みるなどの研究を行っているという紹介があった。この日の「魔笛」と「ドン・ジョバンニ」の5曲のアリアの訳詞は、いずれも宮本の訳詞であり、パパパの歌での「超うれしい。」などは、現代に通づる訳語となっているようである。



 第一曲は幸田浩子の歌う第18番のツエルリーナの明るい「薬屋のうた」であり、表情豊かに、悪戯っ子の可愛い表情をして「ドキドキしているここに触れてみて」と歌っていた。いつもと字幕の訳詞が異なって、分かりやすくなっていた。
 第二曲は宮本益光の第16番のドン・ジョバンニのカンツオネッタであり、マンドリンと弦のピッチカートによる伴奏で「窓辺においで」と歌うイタリア風の甘い歌であるが、宮本は朗々と気持ちよく歌っていた。声量は余り豊かではないが生真面目で技巧的な歌い方であった。若すぎて、また好青年過ぎて、あの女たらしのドン・ジョバンニのようなふてぶてしさはないような気がした。



 第三曲目は「魔笛」の序曲であり、指揮者吉田裕史が指揮する読売日本交響楽団による演奏であった。これまでソリストにばかり関心があって、オーケストラは裏方になっていたが、この序曲ではオーケストラが冒頭の和音から厚みを持ってよく響き、軽快な弦が良く揃って走り出し、快調な序曲に仕上がりまずまずの出来映えであった。このオーケストラには余り馴染みがなかったが、弦楽器の女性陣ばかりでなく、フルートの二人の女性が目立っていたほか、オーボエ、ファゴット、クラリネットにも女性が参加し活躍していたのには驚かされた。



   第四曲目は幸田浩子の歌う第14番の夜の女王の復讐のアリアであり、十分に歌いこなしたナンバーと見え、自信を持って落ち着いて歌っていた。第一の難関もクリアし、第二の難関も成功してホッとした。声は細いが透き通るような澄んだ声なので魅力がある。彼女はモーツアルト向きの声をしているので、色々な役に挑戦してフォルクスオーパーでの実績を積んで鍛え抜いて欲しいと思う。
 第五曲目は宮本益光の第2番のパパゲーノの「鳥刺しの歌」で、宮本は頭に鳥毛の飾りを付け会場からパンの笛を自ら器用に吹きながら登場した。飾りと言い、鳥刺しの仕草と言い、笛の巧みな吹き方と言い、舞台慣れした身軽な動作が良く身に付いていた。陽気な民謡調の歌を軽やかに歌っており、彼の役向きはこの映像だけでは判断できないが、ドン・ジョバンニよりパパゲーノ向きと言う気がした。
 第六曲目は、二人のデユエットで「魔笛」の第二幕フィナーレの「パパパの歌」であった。舞台の左に頭にパパゲーノより小さい鳥毛の飾りを付けた幸田浩子のパパゲーナが立ち、舞台の右側には鳥刺しの格好の宮本のパパゲーナが立ち、パパパの掛け声とともに踊るように近づいて抱き合い、「趙うれしい」を連発して、最後には上手にキスをして仕舞う動作も堂に入っており、大変な拍手を浴びていた。



 これまで日本のオペラ歌手と言えば、いかめしい大学教授であることが多かったが、日本にもここに来てやっと歌も演技も揃ったオペレッタなどを楽しく演ずるオペラ歌手が誕生してきたのはうれしい限りである。この二人はこれまでにない明るいキャラクターを持っており、それぞれ音楽の現場で鍛えられた歌も踊りも演技も芸達者に出来るタレントであろう。日本人の体格では、ヴェルデイ・ワグナー・プッチーニなどのアリアは、どうしても外国のスターには太刀打ちできないので、モーツアルトやロッシーニなどの軽いオペラで、声と演技を生かして活躍して欲しいと思う。このような活躍が出来そうな格好の若い二人のコンビが誕生したものととても嬉しく思っている。この二人が更にレパートリを広げて活躍することを祈るものである。なお、宮本の訳詞は、学者の訳詞には限界があるので、是非、広く意見を聞きながら継続して欲しいと思う。

(以上)(06/10/11)


目次3にもどる
目次2にもどる
目次1にもどる
私の新ホームページへ

名称未設定