6-10-1、生誕250周年記念「モーツアルト・プラハ・コンサート」06年01月27日、チェコフイルハーモニー演奏会、マンフレード・ホーネック指揮、エステート劇場、プラハ

−シャロン・カムの完璧に近いクラリネット協奏曲と、ホーネックの指揮によるチェコフイルの重厚な響きの「プラハ」交響曲−

6-10-1、生誕250周年記念「モーツアルト・プラハ・コンサート」06年01月27日、チェコフイルハーモニー演奏会、マンフレード・ホーネック指揮、エステート劇場、プラハ、
(曲目)「ドン・ジョバンニ」序曲、K.527、クラリネット協奏曲イ長調K.622、交響曲第38番ニ長調K.504「プラハ」、クラリネット;シャロンカム、
(06年08月05日、NHKBS-2の放送を、D-VHSレコーダーのLS-3モードで、S-VHSテープにデジタル録画。) 


 この映像は、プラーハのエステート劇場で、今年のモーツアルトの誕生日1月27日に、生誕250周年記念「モーツアルト・プラハ・コンサート」として、チェコフイルハーモニーが実施したものである。この誕生日の日に挙行されたコンサートのうち、 ザルツブルグ(祝祭劇場6-4-4)および ウイーン(シュテファン教会6-9-1)は既に報告済みであるので、これでモーツアルトにゆかりのある三大都市における誕生日コンサートが三つも揃ったことになる。
 プラーハでは1月26日から生誕250年記念のモストリ・モーツアルトのコンサートが連続しており、2月3日までモーツアルトプログラムが行われていた。私がザルツブルグのモーツアルト週間からプラハを訪問したのは1月31日であり、2月1日と2日の後半の2日間に参加できたので、実に良い機会に恵まれたものと感じた。スメタナホールとドヴォルザーク・ザールの二つのコンサートホールの様子は別に記してある旅行記(3、プラハでの二つのコンサート参照)の通りである。この日のコンサートは、この音楽祭の中心になる良い曲が揃ったコンサートであり、録画の確認のためさっと見た限りでは、プラハに縁の深い曲でもあり、とても魅力溢れたコンサートであった。



  指揮者マンフレード・ホーネックは、1958年生まれの若さであり、ウイーンフイルのヴィオラ奏者を務めた後、アバドのアシスタントとして指揮活動を開始している。92年チューリヒ歌劇場、ライプチヒ放送響の指揮者を歴任し、2000年からスエーデン放送響の音楽監督をしている。二期会の「フィガロ」を振るために、ちょうど今、来日中の逸材である。(この「フィガロ」については、 フェラインのフォルツーナさんの報告文があった。)実はこの指揮者は、私は今年1月30日にザルツブルグのモーツアルト週間(1月30日、(9)で報告済み。)において、バレンボイムの代役で登場し一度聴いている。そしてウイーンフイルの過去の奏法を引き継ぐような伝統的な指揮ぶりに新しさを感じた覚えがあり、このコンサートには期待を持っていた。
 なお、レコード芸術の10月号では、DENONより「モーツアルト・イン・プラハ」として、ドキュメント映像「プラハのモーツアルト」とともにDVDビデオで発売予定(COBO-4579、4410円)の広告がなされていた。このDVDは5.1CH収録のようであり、ドキュメント映像も入った格安なものなので、購入すべきものと思われる。



 「ドン・ジョバンニ」を初演したこの歴史的な劇場で、悠々と展開される序曲を楽しんで聴いた。当時の初演とどう違っていただろうかという思いが頭をかすめた。舞台は狭くオーケストラで一杯であり、左後方にコントラバスが4台の規模で並び、最奥にテインパニーが配置されていた。ホーネックの指揮は、冒頭の和音は十分力強くフルトヴェングラーを思わせ、続くアレグロの弦はやや早めのテンポであったが軽快に進行し、爽快な気分の伝統的な演奏でなかなかやるなと思わせた。指揮者の姿が正面下から5階建てのボックスシートを背景に写され、指揮者の顔の表情とスマートで格好の良い指揮ぶりがクローズアップで写されていた。さらに、この映像では、最高部のボックスから舞台を見下ろす、この劇場ならではの珍しいカメラワークがあったり、照明を工夫するなど大変意欲的な映像であった。音質も十分に迫力ある響きが鮮明に収録されていたので大変楽しめた。曲の終わりで、オペラとは違う特有の序曲の終わり方に気が付いた。客席は祝祭的な気分のせいか華やかな服装の人で埋まっており、クローズアップの画面の中には日本人らしい方も見受けられた。


 序曲が終わると直ぐに、青いドレスがよく似合うほっそりしたシャロン・カムが足早に入場し、第二曲のクラリネット協奏曲イ長調K.622が軽やかにオーケストラで開始され、この曲特有の軽快で小気味よいテンポで提示部が進行する。舞台をよく見ると、ステージの左右の前方の燭台がひときわ明るく感じたが、この二つの燭台には本物のローソクが使われており、炎が風で揺らいでいるのを見ることが出来た。クローズアップのシャロン・カムは、容貌・スタイル・若さの全てを備えた美しい女流奏者であり、イスラエル出身であるという。彼女は、幼い頃から才能を発揮し、16歳の時にズービン・メータ指揮のイスラエルフイルと共演し、1992年のミュンヘン国際音楽コンクールで優勝して、本格的な音楽活動を開始している。第一主題を軽やかに吹く彼女のクラリネットは、ふくよかで暖かな響きをしており、高音も柔らかで、時に流れる低音も豊かな音質であった。展開部では第一主題を中心にしたパッセージでクラリネットが複雑な変化を見せ、早い走句が現れたり、跳躍したり転回したりする激しい技巧を見せていた。カデンツアは聴かれなかった。



 第二楽章のアダージョではクラリネットがソロで静かにゆっくりと開始される。カムは自分の発するクラリネットの甘い音色に酔ってウットリしたような表情で吹いている。曲に合わせて体をゆっくり動かしながら吹く姿には成熟した色っぽさがあった。第一部の後半の低音の連続にも、体をくねらすようにして見事にクリアしていた。フィナーレでは、ソロがいきなり小気味よいテンポでロンド主題を明るく歌い出し、オーケストラに引き継ぎながら快く進行し、クラリネットが常に新しい主題を提示しながらオーケストラと追い掛け合うように進む。しかし、クラリネットの表情にはどことなく暗さがあり、中間部のクラリネットのソロとオーケストラとの親密な呼びかけ合いにもほの暗さが見えたが、見事なテクニックで低い音を魅力的に吹いていた。最後の勢いのあるクラリネットのロンド主題で明るさを取り戻し、軽快に豊かな技巧を見せながら盛り上がって静かに終息した。

   彼女は現在では、ウイーンに本拠を置き、ザビネ・マイヤーの次代を担う女性奏者として期待され、国際的な評価を獲得しているというが、この演奏はまさにこのような評価に応える堂々とした完ぺきに近い演奏振りであった。凄い拍手で迎えられ、花束贈呈に女性らしい可愛らしいしぐさを見せていた。


 「プラーハ」交響曲K.504では、ホーネックの指揮ぶりが注目されたが、冒頭の序奏の出だしでは、和音の響かせ方が大きく悠々としており、力強さを感じさせる。その後も堂々と行進するかのようにゆっくりと重々しく進行する。アレグロの第一主題は序奏と対比するかのように軽快な速いテンポでぐいぐいと進められるが、次第にテインパニーやトランペットがオーケストラと一体になってぶ厚い響きを見せ、実に勇壮に進行する。展開部に入ってもこの力強い勢いは変わらず、第一主題の断片的な動機が次ぎつぎに対位法的な展開をみせていた。ホーネックは、精力的に細かく主題を追いながら、オーケストラが混乱しないように大きな身振りで指揮をしており、この長大で充実した展開部を迫力ある形で処理していた。

第二楽章のアンダンテでは、ゆっくりした落ち着いたテンポで弦楽器により第一主題が静かに歌い出され、引き続いて第二主題が弦により提示されるが、チェコフイルのフルートやオーボエが実に明るく軽やかに対話しながら進行していた。ホーネックは、体全体をしのるように大きく動かして丁寧に指揮をしており、豊かな響きの悠々たるアンダンテであった。フィナーレのプレストでは、冒頭のロンド主題が「フィガロ」の第二幕のスザンナとケルビーノの軽やかな旋律に良く似ており、素早く小刻みに進行するが、ホーネックはオーケストラを躍動的に動かして、堂々と進めていた。第二主題の弦楽器とフルートやオーボエとの対話もとても美しい。この軽快なプレストで、ホーネックは見事な盛り上がりを見せ、壮大な形でこの曲を終息させた。久し振りで聴いた伝統的な重厚な「プラハ」交響曲であった。



 これまで良く聴いてきたベームやクーベリックの「プラハ」のもつ、どっしりした重々しさとか重量感などを持った力強い演奏であった。オーケストラが中規模で年配の方々ばかりの演奏に見えたが、古楽器風の落ち着かないせわせわした演奏に慣れてきた耳には、実に頼もしい堂々とした「プラハ」であった。この指揮者は、ウイーンフイル出身でアバドの薫陶を受けた人であり、今来日中であるが、今後の活動に注目していきたいと考えている。

(以上)(06/10/12)


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追記:最新のDVDビデオ「モーツアルト・イン・プラハ」について

 本文中に紹介した新発売のDVDビデオ「モーツアルト・イン・プラハ」が既に発売されていたので、購入した。ハイビジョン画像に匹敵する映像であったので、本文中の写真は、早速、このDVDのPART-2「ガラ・コンサート・ライブ」の映像を利用した。ご覧の通り、ハイビジョンカメラによる制作なので、このコンサートは素晴らしい映像であった。恐らく、このエステート劇場におけるコンサートの中では、最高の画質・音質を誇るものであろう。


 DVDのPART-2「さようならモーツアルト」は2005年に制作された1時間30分ものの新作であり、モーツアルトの親しい友人であったヨゼファ・ドウシェク夫人の回想の形をとったモーツアルトのプラハでの足跡をたどるものである。映像が美しいので、別の機会にご紹介したいと考えている。


(以上)(06/10/12)    名称未設定