(最新のBDより;ロイヤル・オペラハウスの「コシ・ファン・トウッテ」)
18-7-3、セミョン・ビシュコフ指揮、ヤン・フイリップ・グローガー演出、ロイヤル・オペラハウス・管弦楽団&合唱団による「コシ・ファン・トウッテ」K.588、
2018年、ロイヤル・オペラハウス、

−初めの序曲で、カーテンコールで始まる新らしい演出と演奏で開始され、戸惑うのではないかと心配していたが、舞台は生き生きとして進行し、終わってみればオーケストラは、終始、一貫して堂々としており、最後には二組カップルが元の鞘に収まるという演出であった。この演出で面白かったことは、バア・デスピーナでの姉妹二人への浮気の勧めと、そこのお客の求愛攻めにあった姉妹が、第二幕でのアラビアの大富豪の紳士たちにコロリとなってしまう筋書きを上手く取り入れたことであろうか。とにかく、イギリス風のウイットに富んだスタイリッシュなモダンな「コシ」という印象で、とても面白かった−

(最新のBDより;ロイヤル・オペラハウスの「コシ・ファン・トウッテ」)
18-7-3、セミョン・ビシュコフ指揮、ヤン・フイリップ・グローガー演出、ロイヤル・オペラハウス・管弦楽団&合唱団による「コシ・ファン・トウッテ」K.588、
2018年、ロイヤル・オペラハウス、
(配役)フィオルデリージ;コリーヌ・ウインターズ、ドラベラ;アンジェラ・ブラウアー、フェランド;ダニエル・ベーレ、グリエルモ;アレッシオ・アルドゥーニ、アルフォンゾ;ヨハネス・マルテイン・クレンツレ、デスピーナ;サビーナ・ブエルトラス、
(2018・04・25、新宿タワーレコード、Opus Arte OABD7237D、)

        7月分の第三のファイル18-7-3は、セミョン・ビシュコフ指揮、ヤン・フイリップ・グローガー演出、ロイヤル・オペラハウス・管弦楽団&合唱団によるオペラ「コシ・ファン・トウッテ」K.588であり、2016年、コヴェントガーデンの王立歌劇場の舞台の映像であった。さすがにロイヤル・オペラハウスの映像は、どこか上品でスタイリッシュに満ちており、スマホで恋人の写真を見ている現代風な演出にも拘わらず、何となくお洒落で遊び心があった。6人の出演者はいずれも知らない方々ばかりであるが、格好が良く歌もうまくこなすという、目新しい「コシ」であった。遊びが過ぎて、ふざけ過ぎのところもあるが、上品にこなしているので嫌味がない。ほぼリブレット通りであるが、兎に角モダンで、飽きさせない新鮮さを保った演出であり、指揮者ビシュコフも初めてであるが、二重唱・三重唱・五重唱などが美しい音楽的にも優れた「コシ」であった。久しぶりのイギリスの舞台であり、最近のイギリスの舞台は、どれも好調なので、とても期待が大きかった。


        指揮者のセミヨン・ビシュコフが生真面目な顔つきで指揮を開始し、早速、序曲が開始されたが、舞台ではアルフォンゾのリードで、着飾った貴族風の衣裳で主役の6人が、深々と頭を下げて、カーテンコールの最中であった。序曲がどんどん進んでも6人はまた出てきてご挨拶し、最後の「コシ・ファン・トウッテ」で三度目の顔出しとなり、序曲の終了とともに、全員が引っ込んでいた。


         しかし、アルフォンゾ一人が舞台のカーテンの前に残り、客席で二組のカップルが、第一曲目をにぎやかに歌い出して驚かせ、やがて舞台のアルフォンゾとの三重唱のやりあいとなり、意表を突く形で、この新しい「コシ」が開始されていた。そして、歌いながら二人の青年は舞台に駆け上がり、アルフォンゾの刀を抜いていた。そして、レチタティーヴォに入ってから、決闘だと騒いでいたが、第二曲目の「女の貞節は、アラビアの不死鳥のようなもの」でも、盛んにアルフォンゾに抗議をしていた。


         続いて、第三曲目に入る前に、賭けようかとの話となり、様子は一変していた。二人の恋人たちには内緒にして、恋人たちの貞節を信じて、三重唱が始まり、二人はもう 勝ったつもりでセレナータの鼻歌が出る始末で、オーケストラがこれを助長するように響き楽しい劇が始まった。リブレット通りの三つの三重唱であったが、意表を突かれた形で開始された「コシ」となっていた。


         幕が開くと場面が変わって、ホテルのロビーのようなところで、金髪と黒髪の女二人が楽し気にスマホの恋人の写真を見せ合いながら、惚気て歌う魅力的な二重唱がアンダンテで歌われた。アレグロになってアモーレが続き、この手相では結婚が近いと喜んでいた最中に、アルフォンゾが沈んだ顔で登場。二人のお相手は突然の出征だと告げたのでさあ大変。アルフォンゾが声をかけると驚きの五重唱となり、女達が別れるなら殺してと大騒ぎするので、男二人は大満足であった。


         太鼓の音とともに合唱団が駅に現れて出発の用意をはじめ、アルフォンゾが「もう時間がない」と時を知らせると、第9番の「毎日お手紙を」と女達は泣き崩れ、必ず返事をと誓い合う音楽が何と美しいことか。静かなピッチカートに乗って、真剣にアデユーと歌う女二人の様子が真面目なだけに可笑しかった。そして、再び合唱団が行進曲を歌うと、男達はあっと言う間に出征してしまっていた。


         残された女二人が「もう見えなくなった」と嘆き、そして歌う第10番の「風よ穏やかに」の三重唱も、女達の真面目な気持ちを載せて、何と美しいことか。速いテンポで進むこの「コシ」の醍醐味をにやにやしながら味わっている間に、場面が変わってデスピーナが勢いよく登場してきた。まるでバア・デスピーナのマダムのような姿。


       朝食に用意したチョコレートをペロリと失敬していると、その時、二人の姉妹が血相を変えてここへ戻ってきた。心配するデスピーナを突き放すようにして、デラベッラが「一人にして欲しい」と半狂乱のアリアを歌い出した。訳を話してもデスピーナが一向に驚かずに、「男や軍人に貞節さをお望みですか」と逆に忠告するので、二人はなお一層いきり立っていた。


        アルフォンゾはまずデスピーナを上手に二重唱で買収し、変装した男二人がデスピーナに見破られないかと紹介するうちに四重唱となり、騒ぎで驚いて出てきた姉妹に、アルフォンゾの親友と紹介された男二人が求婚し始めると、六重唱となっていた。姉妹はそのしつこい失礼な求婚騒ぎにすっかり腹を立ててしまう。


         そして、フィオルデリージが恋人たちへの貞節を歌うアリア「岩のように」を激しく歌って二人の男を撃退しようとした。このアリアも、先のデラベッラのアリアも、二人が真剣で真面目さに溢れた熱唱で、鬚面の変装した男二人を全く寄せ付けないので、これから先がどうなるか楽しみであった。男二人はこの調子なら賭に勝ったも同然とばかりに、大笑いのふざけたアリアを二つ、それぞれ続けて歌って、勝ったも同然とアルフォンゾを怒らせ、上機嫌であった。フェランドのアリアが真面目に歌われ、素晴らしい出来であった。


         第一幕のフィナーレに入って、素敵な前奏が始まって、舞台で倒れていた女二人の目が覚め、「二人の運命が一瞬のうちに変わった」と美しい二重唱を歌って嘆いており、舞台では何やら工事がなされていた。すると、突然、音楽が一変し、男二人が飛び込んできた。恋の苦しみから解放されたいと女二人の前でいきなり毒薬を飲んでしまい、大袈裟に倒れこんでしまった。ややふざけた茶番劇が始まって、あわててデスピーナを呼ぶ女達。早く助けなければと二人を介抱するが、女たちは助ける相手を変えていた。一方、次第に馴れ馴れしくなってきたと心配する男達との四重唱が続いていると、デスピーナのお医者さんが現れ、メスマー博士風の荒療治が始まっていた。


         お医者の治療が効いたか、全身バネのように飛び起きた男二人は、辺り構わず介抱者する女二人の手をつかんで放さずに言い寄り、まるで半病人。失礼の度が強すぎると怒る女二人に、さらに口づけをと迫り過ぎたので、真面目な女二人は真剣に怒り出し、腹を立てて逃げ出してしまい、騒々しいしつこい四重唱の中で、やや乱暴な幕切れで第一幕が終了していた。



        第二幕は、幕が開くと姉妹が登場。舞台にはデスピーナの教材がずらりと並び、余りにも真面目すぎる姉妹を、デスピーナが解きほぐそうと、長いレチタテイーボで二人を教育しながら「女が15にもなったなら」とアンダンテで歌い出した。そしてアレグレットに入って表情豊かに、楽し気にデスピーナ流の浮気学を姉妹に奨めるので、やり手のデスピーナに会場から笑いと拍手が起こっていた。「噂が立ったら私のせいにすれば」という言葉に反応したドラベッラが、一段と声を高めて「私は黒髪がいいわ」と第20番の二重唱の口火を切ると、観客は大喜び。その後は甘い鼻歌混じりのふざけた二重唱となり、会場も大笑いとなって、雲行きがかなり変わってきた。


         アルフォンゾの誘いで姉妹が幕を開けると、場面は庭園風の景色となり、アラビアの貴族風の男二人が登場して、優雅な美しい木管の調べでセレナードが始まった。女二人の前で男二人が真面目に「そよ風よ」と二重唱を歌い出し、続いて合唱団が甘くセレナードを歌っていた。詫びる言葉しかない男二人に対し、少し機嫌を直し様子が変わった女二人の明るい笑顔に、戸惑う男二人が驚いて口もきけない様子。アルフォンゾが男二人を励まし、これを見てデスピーナが手を貸すと、女二人は次第に気を許して、どうやら新しいカップルがいつの間にか出来た様子で、女性の方がリードしながら、ぎこちなく4人が語り始めるようになっていた。


          フィオルデリージとフェランドが散歩しようと離れると、グリエルもが驚いて、心配の余り熱が出たよう。一方のドラベッラの方は、言い寄るグリエルモの甘い言葉に安心して、もう恋人気取りになってしまい、タイミング良く差し出したハート型のペンダントが気に入り、この贈り物を受け取ってしまった。


          フェランドを気にしながら、どうぞと歌い出すグリエルモに、ドラベッラは頂きましょうと応じて二重唱となって歌っているうちに、いつの間にか首に掛けていた絵姿まで変えられてしまって、二人は恋人のような気分になっていた。


                一方のフィオルデリージは、二人でいると私の心の平和が乱れるので、フェランドにどうか言い寄るのは止めてくれと断り、一人になって「心の過ちをどうかお許し下さい」とアダージョの美しいロンドをゆっくりと歌い始めた。2本のホルンのオブリガートが、次第にフェランドに心惹かれるようになった微妙な反省の気持ちを表すよう歌い、彼女はアレグロに入ってその苦しみを訴えるような高音やコロラチューラの技法をもって自分の苦しさを歌い上げた。このフィオルデリージの自分への厳しさと、低音から高音までを駆使した素晴らしい歌い方に、場内から凄い拍手と歓声が沸き起こっていた。


          フェランドがフィオルデリージは完璧だといってグリエルモに報告し、僕のドラベッラはと問うと、自分のロケットを見せられて、フェランドは半狂乱。困ったグリエルモは、女どもは時には酷い仕打ちをすると、フェランドを慰めるアリアを歌った。一方のフェランドは、裏切りには復讐だと怒ってカヴァテイーナを歌い出すが、それでも僕は彼女を愛していると悔しがった。アルフォンゾは勝負はこれからだとして、次の作戦を立て始めていた。

          ドラベッラがご機嫌で、ロンド風の第28番のアリアで恋の楽しさを歌うので、フィオルデリージは恋人を裏切らず、軍服を着て戦地に行こうと悲壮な決意をし、「間もなくあの人の胸の中」とピストルを手にしながら第29番の二重唱を一人で歌い出した。


          そこへフェランドが登場し、「僕には死しかない、刺してくれ」と歌いながらピストルを取り上げて自分の胸に当てると、さすがのフィオルデリージも陥落し、蔭でグリエルモの見ている前で、悲鳴のようなオーボエの伴奏とともに、フェランドの腕の中に捉えられ抱きしめられてしまった。


                賭けに勝ったアルフォンゾは、得意げに二人を従え「皆がご婦人方を非難するが、私は弁護する」と彼一流の哲学を歌って、それを見ている合唱団の前で、「コシ・ファン・トッテ」と三人で合唱してから、合唱団が繰り返していた。そして、姉妹を懲らしめるため、もう一芝居しようと、結婚式を挙げることになった。


         第二幕のフィナーレは、軽快な伴奏に乗ってデスピーナが二組の婚礼の食卓の用意を急がせ、合唱団がこれに応え、アルフォンゾも指揮をしていた。合唱団が祝福あれと歌い出すと、皆がお揃いの目隠しをして、二組が揃って登場し着席してから、ピッチカートの伴奏に乗って嬉しい四重唱となり、皆で乾杯となって大賑わいであった。


そしてフィオルデリージが心を込めて喜びを歌い出すが、何と美しい曲であろうか。やがてフェランドが加わって二重唱となり、ドラベッラも加わってカノン風の三重唱となっていたが、一人ショックの大きいグリエルモは、脇の方で「女狐め」と怒っていた。


 そこへデスピーナが化けた公証人が登場し、二組の結婚証書を読み上げて、いた。そして、皆のサインが終わったところで、突然、あの忌まわしい行進曲が始まり、合唱が聞こえてきた。アルフォンゾが見に行って恋人達が帰ってきたという。さあ大変。男二人をまず隠し、公証人を追い払い、女二人が「神よ助けて」と必死で片付けをしたところに、軍服姿の恋人達が姿を現した。


         出征した時の衣装で帰ってきた男二人が、作り笑いをして向かえる女二人に、顔色が悪いがどうしたと問いかけているうちに、公証人がデスピーナであることが分かり、さらに、結婚証書を見つけられ、裏切りだと攻められて、女二人は観念し、死に値すると謝り、剣で刺してくれと平謝りとなっていた。


しかし、男二人がターバンをしたり鬚を付けて、アルバニア人の姿をして見せると、女二人は初めて、アルフォンゾとデスピーナに騙されていたことが分かり、大騒ぎとなった。しかし、アルフォンゾがそれを押さえて、確かに私が欺いて悪かったが、お陰で恋人達はとても利口になったと説明する。女二人は酷い人だと言いながらも償いをすると言い、続いてその言葉を信じようという六重唱になって、ここではどうやら元のさやに戻る円満な大団円の結びとなっていたが、幕の間からアルフォンゾが得意げに笑顔を見せていたのが印象的だった。

         大変な拍手で迎えられて、このコヴェントガーデンの「コシ・ファン・トッテ」は終了したが、この最後のカーテンコールはなかなか賑やかなもので、初めに合唱指揮者が合唱団とともに挨拶をしており、続いてアルフォンゾ、デスピーナ、グリエルモ、ドラベッラ、フェランド、フィオルデリージの順に出てきており、最後に指揮者が登場して、繰り返し拍手を浴びていた。

         初めの序曲で、カーテンコールで始まる新らしい演出と演奏で開始され、戸惑うのではないかと心配していたが、恐らく古い「コシ」が終わって、新しい「コシ」が始まるという意味なのであろう。舞台は生き生きとして進行し、終わってみればオーケストラは、終始、一貫して堂々としており、最後には二組カップルが元の鞘に収まるという演出であったが、リブレットに忠実なスタイルの演出でありながら、二人の若い男と女の性格描写が非常に強い演出であるとともに、アルフォンゾやデスピーナの動きに新しさと工夫を感じたスピード感のあるモダンな演出であると感じ、最後まで楽しむことが出来た。

         この映像の特徴の第一は、ビシュコフの終始一貫した淀みのない軽快な音楽の進め方であり、このオペラ特有の美しいアリアなどのテンポの良さや、浮き出るような木管の調べなど、とても美しさを強調した好感が持てる指揮振りであって、省略も通常行われる2曲(第7番および第24番)だけで正統的な演奏であった。

            特徴の第二で面白かったことは、バア・デスピーナでの姉妹二人への浮気の勧めと、そこのお客の求愛攻めにあった姉妹が、第二幕でのアラビアの大富豪の紳士たちにコロリとなってしまう筋書きを上手く取り入れたことであろうか。とりわけ二人の男達のしつこ過ぎる求愛や女達の激しすぎる拒絶反応などが印象に残り、アリアなどにも強く反映されていた。そのため、歌の素晴らしさに劇の面白さが加わって、非常に楽しい舞台が続いたように思われた。途中の経緯はどうであれ、最後には元の鞘に収まって終わるという伝統的な枠組みとなって、若々しく新鮮な舞台と素敵な音楽の中で、スピード感のあるモダンな演技が行われていた。

         歌手陣はこのHPでは初出の方ばかりであったが、アルフォンゾのクレンツレが、最初から最後まで、このオペラ全体をリードしていたように思われる。また、デスピーナのプエルトラスが良く動いて見せ場を作っており新鮮に思った。フィオルデリージのウイーンターズは、凛とした歌い方や演技で硬質な女性を見せていたし、ドラベッラのブラウアーもその気になると一筋の女性を上手く演じていた。グリエルモのアルドゥーニは、なかなかの演技力を見せて魅力的であったし、フェランドのダニエル・ベーレは、歌が魅力的であった。これら6人が良く揃って、兎に角、見ても聴いても楽しい「コシ」となっていたことを、ご報告して置こう。イギリス風のウイットに富んだスタイリッシュなモダンな「コシ」という印象を得た。


(以上)(2018/07/21)



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