(BDCHのアーカイブより;ペトレンコのハフナー交響曲ニ長調K.385ほか)
18-7-1、キリル・ペトレンコ指揮ベルリンフイルによる交響曲第35番ニ長調K.385、 2017/03/27、フィルハーモニー・ホール、およびイヴァン・フィッシャー指揮ベルリンフイルのプラーハ交響曲ニ長調K.504、2016/10/28、フィルハーモニー・ホール、

−初めのペトレンコのハフナー交響曲の演奏は、とてもきめ細かな指揮振りであるが、全体としてみれば、堂々としたオーソドックスな勢いのあるスピード感に溢れた演奏であって、実に良いテンポで味のある「ハフナー」を聴かせており、ベルリンフイルの持ち味を充分に発揮させたものであった。一方のイヴァン・フイッシャーのプラハ交響曲の演奏は、まず序奏から安心して聴ける古いタイプの演奏であったが、全体としては、とてもスマートな感じで格調が高く進み、独自の境地でぐいぐいと進んでいるように聞こえていた−

(BDCHのアーカイブより;ペトレンコのハフナー交響曲ニ長調K.385ほか)
18-7-1、キリル・ペトレンコ指揮ベルリンフイルによる交響曲第35番ニ長調K.385、 2017/03/27、フィルハーモニー・ホール、およびイヴァン・フィッシャー指揮ベルリンフイルのプラーハ交響曲ニ長調K.504、2016/10/28、フィルハーモニー・ホール、

(2018/05/26、BDCHのアーカイブよりアップ、および2018/06/07、BDCHより、)

         1972年ロシアのシベリア生まれの新鋭キリル・ペトレンコのベルリンフイル定期の演奏会で、ハフナー交響曲第35番ニ長調K.385とチャイコフスキーの悲愴交響曲を振っていたのでご報告したい。彼は18歳の時にオーストリアに移住してウイーン国立音大に学び、2002年ベルリン・シュターツ・コミッシェ・OPの音楽総監督を務めており、ベルリンとは深い関係にある。今回、BDCHのアーカイブに収録されていたので、早速、収録したものであり、溌剌としたスピード感のあるハフナーを楽しむことが出来た。

         この交響曲は、ウイーンで「後宮」の上演、セレナードK.388の作曲、 結婚を間近に控えた超多忙の時期に、父親から頼まれたハフナー家の息子の祝典のために作曲されたセレナードであり、その忙しい様子が1782年7月27日付けの手紙に記載されている。しかし、モーツァルトは自らの演奏会のためにこのセレナードに手を加え、第一楽章の呈示部の繰返しを削除したり、二つのフルートとクラリネットを加えた二管編成の交響曲の形で1783年3月に完成され、3月27日のブルグ劇場での演奏会には、ヨーゼフ2 世も臨席したとされている。



        広いフィルハーモニー・ホールの舞台に団員たちが座席に着きオーボエの音合わせにより準備が開始されていたが、この日はコントラバスが3台で、クラリネットやトランペットにテインパニーもいるほぼ完全な二管編成であり、ラトルの指揮の時と異なって、管楽器が横一列に並んで見えていた。コンサートの最初の曲がこの交響曲第35番ニ長調「ハフナー」K.385であり、舞台には余裕があったので小・中規模の編成のようであった。ペトレンコはこのHP初登場であり、どんな演奏が聴けるか楽しみであった。


             この交響曲の第一楽章は珍しく繰り返し記号のないソナタ形式であるが、ペトレンコの冒頭の第一主題は、鋭いユニゾンの2オクターブの跳躍が実に明快で、続く行進曲調の豊かなリズムによる進行が実にスピーデイに軽快に進み、最初からオーソドックスな堂々とした激しい勢いの「ハフナー」の印象を受けた。続いて冒頭部分の跳躍が繰り返されてから、ファゴットによる行進曲のリズムに乗って第一主題が変化に富んだ姿を見せていた。コンサートマスターは樫本と長身の若いバルグリーであり、ヴァイオリンの対旋律が次から次へと調子よく現れていた。その中でヴァイオリン二部がカノン風に絡み合って進行する旋律が、第二主題のように聞こえていたが、明確な形で主題が現われないままに激しく上昇と下降を繰り返しながら、勢いよく盛り上がり提示部を終了していた。
             展開部では短調のイメージになり冒頭主題がカノン風に展開され、ペトレンコの指揮振りは意外にきめ細かく、分かりやすい身振りでゆったりと進行させていた。後半ではヴァイオリン二部が互いに模倣しながら次第に下降して木管との対話が続いていたが、突然に再現部となって、あの冒頭主題が勢いよく立ち上がっていた。この主題は再び型通りに激しくスピード豊かに再現されていたが、ペトレンコはその激しさを体で表すようにして各楽器の強弱、緩急の変化をつけながら指揮しており、素晴らしい勢いで一気にこの楽章は閉じられていた。



              この緩徐楽章のアンダンテでは、第一楽章と異なって、繰り返し記号のあるソナタ形式であり、オーボエ、ファゴット、ホルンと弦五部の編成であるが、ペトレンコは実にゆっくりと歌うようにこの楽章を進めていた。第二ヴァイオリンがスタッカートで刻む16分音符の分散和音を伴奏に、第一ヴァイオリンが非常にゆっくりしたテンポで優美に歌い出し、この第一主題後半の弦とオーボエやファゴットとの対話も実に美しかった。やがて第一ヴァイオリンがチッチッチとさざめき第二ヴァイオリンとヴィオラが歌い出す第二主題も優雅にゆっくりと進み、穏やかなアンダンテを醸し出していた。ペトレンコはこの提示部を丁寧に繰り返して、にこやかな表情で明るく展開部に入っていたが、その穏やかな雰囲気を変えぬように弦楽器と管楽器の推移的な合奏の短い展開部が続いていた。再現部では再び優雅な第一ヴァイオリンの旋律が続き、実に優美なアンダンテ楽章が続いていた。



               第三楽章のメヌエットでは、フルオーケストラで堂々と力強く進行しており、テインパニーやトランペットも加わって、ぶ厚い厚みのある音で堂々と行進するように進行していた。ペトレンコは落ち着いたテンポでしっかりとリズムをきざみ、勢いのある上昇する分散和音が元気良く、豊かな響きを見せるメヌエットであった。その反面、トリオでは弦楽器の優雅な合奏にオーボエやファゴットが加わって滑らかに優雅に進行し、対照的な響きを見せていた。正統派のペトレンコらしい豊かな音つくりのメヌエットであり、耳当たりの良い壮麗で堂々とした風格のある素晴らしいメヌエットであった。



              フィナーレの冒頭の軽快なロンド風の主題は、「後宮」の第19番のオスミンの「勝どきのアリア」に似た弦のユニゾンで始まる軽快なプレストで、小気味よいテンポで急速に進行してから、激しくフルオーケストラの和音が展開されていく。やがて軽やかな第二主題風のメロデイが颯爽と進行して再びロンド主題が現れてABABACAの形で進んでいた。この嵐のような燃えるような激しさと力強さとを持った急速な展開は、後期のシンフォニーのフィナーレの特徴であり、ペトレンコの指揮振りは激しさも歌うような華麗さも持ち合わせて実に柔軟に対応しており、交響曲のフィナーレとしての充実ぶりを十分に見せつけた響きであった。譜面をよく見ると、ロンド主題と思われたものはソナタ形式の第一主題とも考えられ、続く華やかなファンファーレ風の主題は第二主題であって、最後の副主題Cの部分を展開部と見なすと、全体はソナタ形式とも受け取れる楽章であった。最後には勢いよく再び冒頭のロンド主題に駆け戻り、最後は力強いコーダで結ばれていた。ペトレンコの力溢れる輝かしいフィナーレの終結であった。素晴らしい観衆の拍手に答えてペトレンコが舞台に登場して、挨拶を繰り返していた。

               ペトレンコの演奏は、とてもきめ細かな指揮振りであるが、全体としてみれば堂々としたオーソドックスな勢いのあるスピード感のある演奏であり、実に良いテンポで味のある「ハフナー」を聴かせていた。第一楽章のエネルギッシュなアレグロ、第二楽章のゆっくりしたテンポの美しいアンダンテも魅力的であったし、第三楽章の風格ある力強いメヌエットも勢いがあり、フィナーレの急速なプレストも颯爽として素晴らしかった。ベルリンフイルは弦も管も充実したスピード感の豊かな音を出しており、続く悲愴交響曲がどのように演奏されるか非常に楽しみであった。

(以上)(2018/05/26)




          続く第2曲目は、イヴァン・フィッシャーの指揮する交響曲第38番ニ長調「プラーハ」であり、エネスクとバルトークの作品に続き、クリスティーネ・カルクのコンサート・アリア2曲に続いて、この日のコンサートの仕上げに当たる最後のシンフォニーであった。この指揮者は、アダム・フィッシャーと兄弟で、揃ってウイーンフイルやこのベルリンフイルを振っており、モーツァルトのオペラも指揮しているので、このHPでは、すっかりお馴染みの指揮者になっている。



    このプラーハ交響曲の第一楽章は、ゆっくりとしたリズムのユニゾンで進む伸びやかなアダージョの序奏で華やかに始まるが、フィッシャーの指揮は非常に落ち着いた穏やかなテンポで堂々と進み、第一ヴァイオリンが明るく輝きを見せてから、この序奏がテインパニーの強い響きを伴って重々しいユニゾンとなり、力強く行進曲風な上昇音形によってリズミックに繰り返して進行し、次第に緊張と高まりを増しながら頂点に到達していた。この力感溢れる充実した伝統的奏法に近い序奏部から一転して、アレグロの第一主題がシンコペーションで第一ヴァイオリンによる颯爽とした動機1が走り出した。そして新しい動機2がフルートとオーボエに現れて、動機1と対位法的に進行し、続いて新しい動機4が第一ヴァイオリンに現れ、これら三つの動機が形を変え楽器を変えて変化しながら力強く対位法的に進行し、駆り立てるような主題も加わって、全体が躍動するように軽快に進んでいた。やがて小さい孤を何度も描くようなブッフォ的な軽やかな第二主題が提示されて、ファゴットやオーボエとの対話を深めつつ発展し、後半には軽快なトウッテイとなって盛り上がり素晴らしい主題提示部を示していた。フィッシャーはここで繰り返しを省略し、そのまま展開部へと突入していたが、ここでも第一主題の主要動機が次々と対位法的な展開や変化を繰り返しつつ進行し、長大で充実した力溢れる展開部となっていた。再現部では第一・第二主題の再現後にも提示部と異なって、活発な第一主題の動機が重なって盛り上がりを見せて力強いコーダで終息していた。フィッシャーは、全ての繰り返しを省略した伝統的な奏法で簡潔な指揮ぶりを見せており、ベルリンフイルはコントラバス4本の大規模なオーケストラで、豊かで充実した響きを聴かせていた。



       第二楽章はアンダンテ楽章であり、弦五部によるゆっくりしたテンポで第一主題が静かに歌い出され、それから明瞭なスタッカート動機が続いて繊細でやや激しい経過部を経て進んでいた。やがて第二主題が弦五部によりこれを慰めるように提示されるが、続いてオーボエやフルートがこれに応えるかのように歌い出し、穏やかに美しく進行して提示部を終えていた。フィッシャーは、ここで繰り返しを行って各主題を確かめるように再現してから、そのまま、直ちに展開部に移行していた。ここでは第一主題のスタッカートの動機がカノン風に現れ複雑に展開されていたが、これが実に力強く印象的な展開部であった。再現部はほぼ型通りに進行していたが、フィッシャーは常に堂々と進行させ、穏やかなアンダンテで終息していた。



       フィナーレでは、譜面を見ると主題提示部の後に繰り返し記号があり、明確にソナタ形式で書かれているが、フィッシャーはこの繰り返しを行っていた。このフィナーレの冒頭の明るい第一主題は「フィガロ」の第二幕のスザンナとケルビーノの二重唱「早く、早く」の旋律にとても良く似ており、ロンド主題のような形で軽快に小刻みに進行するので、ロンド形式かと思ってしまう。この主題は弦五部の主題提示に続いてオーボエ・フルート・ファゴットの三重奏が応える形で軽快に進行していた。続いて第二主題が弦五部の主題提示に対しここでもオーボエ・フルート・ファゴットの三重奏が応える対話がしばらく続いて、特にフルートが目覚ましい活躍をして提示部を終えていた。フィッシャーはここで繰り返しを行って、速いプレストの提示部をひと際明るく提示してから、展開部へと進行していた。ここでも早い第一主題の冒頭部分が弦と管により繰り返して何回も現れる力強い展開部であったが、フィッシャーは丁寧に力を入れて繰り返し展開を行っていた。再現部では軽快なロンド主題の形で主題が登場して、プレストで一気呵成に高まりを見せてから静かに収束していた。もの凄い拍手で演奏は終了していたが、フィッシャーは丁寧にお辞儀を繰り返して2度ほど舞台に呼び出されたていたが、拍手は収まらず、花束の贈呈が行われて、立派な演奏の余韻を残しつつ映像は終了していた。



      イヴァン・フィッシャーは、ブタベスト生まれで、兄のアダムとは2歳違いの1951年生まれであるので、今年で67歳の油の乗り切った年ごろである。兄弟で良くモーツァルトの曲を取り上げるのは有り難いが、彼のモーツァルトの演奏は、まず安心して聴ける古いタイプの指揮者であり、この交響曲もスマートな感じで格調が高く、独自の境地でぐいぐいと進んでいるように聞こえていた。先のソプラノのカルクのコンサートアリア(18-3-4)と同様に、ここに収められている演奏は、いずれも彼の持ち味が十分に発揮できるお得意のものであったに違いない。


(以上)(2018/06/08)


目次5にもどる 目次4にもどる
目次3にもどる 目次2にもどる
目次1にもどる 私の新ホームページへ


名称未設定