(最新のDVD新盤の映像より;メストとスカラ座の「フィガロ」)
18-2-3、フランツ・ウエザー=メストとミラノスカラ座の「フィガロの結婚」、ウエイク・ウオーカー演出、ミラノスカラ座O&CHO、
2016年10月収録、Teatro Alla Scala、

−このウエザー・メストとフレデリック・ウエイク=ウオーカー演出の新しいスカラ座の「フィガロの結婚」は、背広姿のない昔ながらの貴族社会風の演出であったが、音楽性がとても豊かであり、リブレットに忠実な演出でありながら随所に新鮮できめの細かさが目立っており、オペラ・ブッファとしての笑いも非常に多く、とても楽しめた。このところ続けて見ているスカラ座のミンコフスキーの「ルチオ・シッラ」(18-1-3)や、 A.フイッシャーの「魔笛」(17-9-3)などがいずれも推薦に値する出来映えであり、いずれも外様の指揮者によるオペラであるが、さすがスカラ座は凄いと思わせるものが続いている。この劇場の凄さは、主役ばかりでなく、端役や合唱やバレー団の活用などによる総合力の凄さであり、今回も主役たちを支える裏方役が随所で目に見える活躍をしており、伝統的な演出の中で、新鮮さを目立たせる役割を果たしており、もっと注目されて然るべきと思われる−

(最新のDVD新盤の映像より;メストとスカラ座の「フィガロ」)
18-2-3、フランツ・ウエザー=メストとミラノスカラ座の「フィガロの結婚」、ウエイク・ウオーカー演出、ミラノスカラ座O&CHO、
2016年収録、Teatro Alla Scala、
(出演者)伯爵;Carlos Alvares、伯爵夫人;Diana Damrau、スザンナ;Golda Schultz、フィガロ;Markus Werba、ケルビーノ;Marianne Crebassa、マルチェリーナ;Anna Maria Chiuri、バルトロ;Andrea Concetti、バルバリーナ;Theresa Zisser、
(2017/12/30、新宿タワーレコードにてDVD盤日本語字幕付きを購入、)

     2月分の第3曲目は、最近好調のミラノスカラ座と、初めてスカラ座を指揮するウエザー=メストによる彼2度目の「フィガロの結婚」の映像であり、このHP初めてのウエイク・ウオーカーが演出した2016年の最新の公演記録であった。日本語が字幕にあり、BDが見当たらず、DVDになってしまったのが残念。前回のメストの「フィガロ」(9-7-2)は、一連のベヒトルフ演出のチューリヒ歌劇場の映像(2007)であったが、もう10年も経っており、歌劇場も変わっているので、メストには期待していた。さらにこの映像では、ダムロウが伯爵夫人を演じて円熟味を増してきており、また先月号の「ルチオ・シッラ」で活躍した若々しいスターのクレバッサが、チョビ髭を生やしたケルビーノを歌っており、やはり彼女たちの歌や演技には期待したいと考えられた。果たして、全曲を通した感想はどうなるか、期待が大きい「フィガロ」であった。



       このスカラ座の舞台は、何もない舞台にフィガロがいきなり登場して、フィガロの合図で序曲が開始されていた。そうすると、フィガロのマルクス・ウエルバがあの大きなイスを舞台に運びこみ、大勢の男女の裏方たちが部屋を飾り始めて舞台は大騒ぎとなり、一方では、このオペラの出演者や歌手たちの配役や名前などの紹介が始まっていた。映像をよく見ていると、フィガロが全員を上手く指導しており、序曲も軽快に進んで終りに近づくと、画面ではお屋敷風のお城の一室に、洋服掛けと大きなイスが目立った部屋が現われていた。 序曲が終わって、第1曲目の前奏が始まると、フィガロはこの一室に座り込み、傍らのスザンナの相手をしながら、二人の二重唱が始まっていた。スザンナは珍しく黒人歌手のゴルダ・シュルツでこのHPでは初登場であった。



            フィガロが大きな部屋の椅子や家具の傍らで、何やら寸法を測りだしており、スザンナは飾りの付いたお手製の帽子を被って「見てよ」とフィガロに催促していた。帽子を誉められて二人は仲良く抱き合って上機嫌で軽いキス。しかし、伯爵が下さるベッドの話が出てからスザンナが怒りだしてさあ大変。間抜けなフィガロを困らせていたが、スザンナに「ドンドーンでひとっ飛び」と言われてフィガロは考え出す。スザンナの話を聞いて次第に真剣に怒りだし、第三曲の伴奏付きのチェロと明るいフォルテピアノのレチタティーヴォが始まって、伴奏のピッチカートが激しく鳴り始め、フィガロは反骨精神のカヴァテイーナを伴奏に乗って怒りを込めて歌い出した。この演出では、殿様を前にしてフィガロが激しく歌っており、間抜けの面があるが考えるフィガロ・行動力あるフィガロを示しながら、「ご主人様よ」と堂々と元気よく歌っていた。



            続いて派手な恰好をしたマルチェリーナがバルトロと一緒に登場して、やや大袈裟な身振りでバルトロをそそのかし、バルトロの威勢の良い復讐のアリアが始まって、二人は仲良く協力を約束していた。そこへスザンナが顔を出したので、マルチェリーナとの口喧嘩の二重唱が始まったが、最後にお年の話になってあっさりスザンナの勝ち。マルチェリーナを追い出してホットしたところに、ケルビーノが飛び込んできて、スザンナに伯爵を怒らせたので奥様に取りなしをと頼んできた。チョビ髭を生やし色が白い長身のケルビーノのクレバッサは、少し男っぽいズボン姿がとても格好が良く、元気の良い姿を見せていたが、少し飾り過ぎか。



            ケルビーノはスザンナから奥様のリボンを取り上げて、お城中の女性の名を挙げて、狂ったように「自分が自分で分からない」と歌っていたが、このアリアは急がずに堂々と歌われて実に最高の出来であった。そこへ突然に伯爵が顔を出したのでさあ大変。ケルビーノが椅子の陰に隠れているのに、伯爵はスザンナを口説き出すが、そこへバジリオが入ってきたので、伯爵も身を隠そうとして大笑い。バジリオがスザンナに、ケルビーノの奥方を見る目付きがおかしいと言い出すので、伯爵は思わず声を出して立ち上がってしまった。そこでおかしな三重唱が始まり、驚いたスザンナが気を失って倒れてしまうが、挙げ句の果てにケルビーノが見つかってしまって、ここでも大笑い。ややふざけすぎであるが、「コシ・ファン・トウッテ」の言葉通りの実に楽しい演出が続き、スザンナが伯爵に必死に弁明していると、フィガロを先頭に、村人たちの合唱が始まっていた。



             フィガロがスザンナとの結婚を伯爵に認めさせようとする作戦であったが、領主権の撤廃は認めるとしたものの結婚の承認はあとでもよいという伯爵の決断が下って、折角の威勢の良い合唱は残念ながらカラ振りとなっていた。一方、そこにいたケルビーノは伯爵に連隊の士官に命ぜられ、それを聞いたフィガロから荒々しく手厳しい激励の挨拶を受け、伸びやかなカデンツアがあったり、裏方たちによる勇ましいパントマイムの行進曲の応援があったりの「もう飛ぶまいぞこの蝶々」のアリアでケルビーノは励まされていた。テインパニーの響きがこの行進曲を盛んに盛り上げて、第一幕は賑やかに終了していた。



             舞台が終わるとそのまま舞台は回転を始めて、直ぐに第二幕の伯爵夫人の豪華な部屋が現れた。美しいオーケストラの前奏が始まり、そこには伯爵夫人が哀しげな表情で現れ、「愛の神よ、安らぎを下さい」とゆっくりしたテンポで歌われて、大きな拍手を浴びていた。スザンナと夫人が話をしていると、陽気なフィガロが歌いながら現れ、フィガロが伯爵を懲らしめる作戦を練っていたが、フィガロの提案でケルビーノを女装させることが女二人の気に入って、早速、ケルビーノを呼ぶことになった。ケルビーノがやって来ると、スザンナはギターを持って奥様にカヴァテイーナを歌わせていた。ケルビーノは奥様の前で恥ずかしそうにこのアリエッタ「恋とはどんなものかしら」を歌い出したが、後半には夫人のベッドのそばで伸び伸びと元気よく歌い、夫人からブラボーを頂いたが、二人の目線が心配であった。



            続いてスザンナの着せ替えのアリアが無邪気に始まったが、この演出では、ケルビーノの着せ替えは伯爵夫人の楽しそうな仕事になっていた。ケルビーノは夫人の手によって着物や靴まで替えられて、何とか女装したケルビーノの姿にさせられた。しかし、夫人の前に出てきて腕にまいたリボンの話から、夫人が大袈裟に包帯を巻いて親切にしたため、二人があわやとなったところで、伯爵の声が聞こえて来て「さあ大変」となった。



             夫人がドアを開けると、伯爵が勢い込んで登場し、夫人が慌てている様子から、スザンナを巡る三重唱となっていた。そして伯爵と夫人はけんか腰となり、部屋で大きな物音がするので伯爵は疑いを強め、「鍵をよこせ」と大ケンカとなっていた。夫人が必死で抵抗するので、伯爵はドアを開ける道具を取りに出かけた間に、ケルビーノとスザンナの大慌ての「早く、早く」の小二重唱となり、見つかったら殺されるとばかりにケルビーノが窓から飛び下り、スザンナが化粧室に隠れたところで、道具を持った二人が登場した。



              隠れているのはスザンナではないなと伯爵が気がついたところでフィナーレが始まり、夫人がケルビーノの話をし始めた途端に伯爵はカンカンになって怒りだした。伯爵の怒りが尋常でなく「出てこい、無礼な小僧よ」と歌い出し、女装させていたと釈明する夫人は全く分が悪い二重唱であったが、そこへスザンナが「シニョーレ」と言ってドアから出てきたので、三重唱が始まった。あっと驚く伯爵と夫人。伯爵が平謝りの場面に変わったが、こうなると女二人は強く、伯爵はスザンナに助けを求める平謝りの三重唱になっていた。しかし、そこにフィガロが登場したので伯爵は一息ついた。伯爵は早速、手紙を持ち出して四重唱が始まっていたが、フィガロは女二人がバレていることを伝えても、頑固に「知らぬ存ぜぬ」を押し通し、二人は睨み合って「あわや」という場面になっていた。



          そこへ酔っぱらったアントニオが登場して五重唱になり、フィガロはアントニオの攻撃に対し自分が飛び下りたと嘘をつき、落とした辞令の伯爵の追求にも女二人の機転で何とかかわしていた。しかし、そこへ伯爵が待っていたマルチェリーナとバジリオとバルトロが揃って登場して伯爵を喜ばす七重唱となった。マルチェリーナとの結婚の契約書を見せられてフィガロは呆然となり、伯爵はこれを審理しようとなって伯爵側の勝ちのように盛り上がって、長くてふざけた場面の多い第二幕はやっと終結していたが、最後の場面では裏方たちが大勢で登場して混乱を広げたように思われた。



     2枚目のDVDにここで変わって、第三幕では伯爵の部屋で、伯爵が第二幕で生じたいろいろな事件について考え事をしていたが、一方では伯爵夫人がスザンナに真剣に頼み事をしていた。そしてスザンナが伯爵の前に現れて、しおらしい様子をしているので、伯爵はこの時とばかりに口説き始め、二重唱が始まっていたが、夫人はその二人の様子を裏方の手引きで確かめていた。伯爵はスザンナが素直に逢い引きの約束をするので大いに喜んでいたが、しかし、別れ際にスザンナが通りかかったフィガロに「これで裁判に勝った」と言う言葉を伯爵が聞き止めて、騙されたかと気がついた。そして、召使いの分際でと、伴奏付きのレチタティーヴォで怒りを表し、裏切り者は罰しようとばかりに、伯爵の存在感を示す堂々たるアリアを歌い出した。このアリアは、歌っているうちに怒りがこみ上げてくるように「私の不幸を笑うものには復讐を」と激しく歌われていた。



               一方、場面が変わって裁判が終わったと皆が戻り、結果は「フィガロが支払わねば結婚すべし」であり、立派な判決だとよろこんでいた。フィガロだけが不服であり、私は貴族の出だと言いだして、子供の頃にお城で誘拐されたと言う話が始まった。その証拠に腕に刻まれた古代文字があると言いだしたところ、マルチェリーナがそれは右腕のアザかと問い質し、マルチェリーナが悲鳴を上げて、何とそれは息子のラファエロであるという。



             意外な事実の判明に、伯爵はじめ皆が戸惑っているところに、スザンナが伯爵のところへお金を持って登場した。しかし、フィガロがマルチェリーナと抱き合って、これが実の母親でこれが実の父親でと騒いでいるのを見て、さあ大変。年増女が勝つなんてと怒るスザンナは、説明しようとするフィガロの頬を思いっきって平手打ちし、それを見て皆が大笑い。何とも可笑しい六重唱が続き、伯爵らが退場してお笑いの拍手となっていたが、六重唱のオーケストラ伴奏が美しく「フィガロ」の素晴らしさが示されていた。残された二組の男女が、一緒に結婚式を挙げようと喜び合っていたが、伯爵だけが笑いものになっていた。



             場面が変わって、バルバリーナとケルビーノが仲間と一緒に姿を見せ、二人は女装して伯爵夫人に花束をと話し合っていた。続いて伯爵夫人の部屋に場面が変わり、伯爵夫人がスザンナへの伯爵の返事がどうなったかを気にしながら、第20番のアリアとなっていた。衣装をあらためて登場した伯爵夫人は、召使いと衣装を替えねばならぬ我が身の切なさを伴奏付きのレチタティーヴォで激しく歌い上げ、「あの美しい時は何処に」と言うあの有名なアリアを正調で朗々と歌って、会場からひときわ大きな拍手を浴びていたが、彼女の貫禄のアリアとなって居た。
             続いてスザンナが現われて、伯爵との逢い引きの場所を伝える有名な「手紙の二重唱」が始まっていた。伯爵夫人の言う言葉をスザンナが手紙に書き留めるアリアであるが、二人は初めから伯爵に対する作戦の成功を願い、歌の声合わせに夢中になって、声を揃えて実に美しく歌う素晴らしい場面となっていた。手紙をピンで留めてスザンナに手渡されていたが、そこへ村の娘たちが合唱で伯爵夫人に花を捧げに登場していた。



      その中に女装したケルビーノが隠れていたが、合唱の終わりに探していたアントニオに遂に発見され、さあ大変。驚く皆の前で、ケルビーノをもらい受けるためにバルバリーナが殿様に人前では良からぬことを白状してしまい、大笑い。一方、結婚式だと急ぐフィガロが、不機嫌な殿様からケルビーノが白状したと詰め寄られ、二人は再び顔を付き合わせて、あわやの状態になっていたが、折からの美しい行進曲の始まりで二人は睨み合ったままで事なきを得た。



           行進曲に続いて、二人の娘たちの合唱が始まって、スザンナも真っ白なドレス姿になって二組のカップルが登場し、伯爵と夫人により結婚を祝うヴェールが新妻に贈られる儀式が行われていたが、この場面の二人の娘の二重唱は、伯爵が呼び寄せたお気に入りのプロの歌手たちで、伯爵は両手に花の様子で喜んでおり、伯爵夫人を怒らせていた。続いて全員による踊りが始まっていたが、その最中にスザンナから裏方たちが手伝って、上手に殿様に手紙が渡されていた。喜ぶ伯爵がピンを刺して痛がる様子が写され、それを見ているフィガロなども写されて、この演出は細かな細部にまで配慮がなされていた。大勢の踊りが賑やかに続けられ、伯爵は夜の逢い引きの手紙を手に入れて、ご機嫌で威厳を保ちつつ「今晩は皆で盛大に祝おう」と大きな声で挨拶をして、最後には殿様を讃える合唱が続いて第三幕は終了していた。



              舞台が暗闇になって、バルバリーナがピンを探しながら舞台に登場し、第四幕の彼女のアリアが始まっていた。そこへフィガロとマルチェリーナが登場し、フィガロがピンを見つけた振りをして、バルバリーナからスザンナが伯爵に手紙を渡したことを知り、二人の密会があると信じ込み腹を立てていたが、母親役のマルチェリーナが何か訳がある筈と慰められていた。ここで残念ながらマルチェリーナのアリアは省略されていたが、腹を立てたフィガロは、現場を押さえようと苛立ってバルトロやバジリオに持ちかけていたが、ここで珍しくバジリオのアリアが歌われていた。このアリアは、ロバの皮の喩えで、権力や危険に逆らうよりもそれらを避けて通れと説く、彼の人生訓であり、理屈っぽく歌われていた。



            続いて暗闇の茂みの中でフィガロがスザンナの裏切りを懲らしめるため、「さあ、用意が出来た」と伴奏付きのレチタティーヴォから第27番のアリアを歌い出し、「目を開けるんだ、男たちよ」と歌いながら、伯爵とスザンナを待ち受けていた。このフィガロのアリアは名調子で、良い声を聴かせていた。一方の伯爵夫人の服装をしたスザンナは、自分を疑うフィガロをからかうため「いよいよ時がきた」とこれも美しいレチタティーヴォと第28番のアリアを歌い出した。この曲はオーボエのオブリガートとピッチカートの伴奏がソプラノの声に合って美しく、スザンナの本日最高のアリアとなり、会場から大きな拍手を浴びていた。これら四人による学芸会はとても楽しく、マルチェリーナのアリアの省略は、誠に残念だった。



            フィナーレになって伯爵夫人が扮するスザンナが舞台中央に現れるが、白いスーツがとても似合っていた。暗闇でケルビーノがスザンナと思ってからかい始め、ケルビーノがしつこいので追い払おうとするが、直ぐにまとわりついてくる。そこへ伯爵がスザンナを見つけて現れるが、ケルビーノが邪魔なので、平手打ちで追い払ったら、それが隠れていたフィガロに当たって悲鳴をあげていた。この演出はこういう細かな仕草を丁寧に行なっているので、さすがミラノスカラ座は違うと言うことになる。伯爵は首尾良く夫人扮するスザンナに会って、早速、口説き始めていたが、調子に乗って、遂にダイヤの指輪までプレゼントしてしまっていた。二人の密会を見ていたフィガロが思わず声を上げてしまい、通行人で二人の邪魔をしたので、スザンナに扮した伯爵夫人は伯爵から逃げ出すことに成功した。



            一方、フィガロは、暗がりで伯爵夫人を見つけるが、声で直ぐスザンナの変装であることに気がついた。フィガロはスザンナを懲らしめようとして伯爵夫人を直ぐに口説き始めたが、スザンナが怒りだしてフィガロに平手打ち。声で分かっていたと謝って、二人は直ぐ仲直り。そこで伯爵がスザンナを探してウロウロしているのを知り、二人は大声でフィガロと夫人の浮気のゼスチャーをすると、伯爵は二人を見つけ、フィガロを捕まえて「皆のもの、武器を取れ!」と大声を上げてしまった。



           謝るフィガロばかりか、東屋に逃げ込んだ浮気のスザンナ扮する伯爵夫人も「ペルドーノ」と平謝りであったが、伯爵は「いや、許しはせん」といきり立っていた。しかし、別のサイドから白のスザンナの姿の伯爵夫人が現れたので、さあ大変。半信半疑の伯爵の前に、帽子を取って素顔を表した夫人とスザンナ。伯爵はキョロキョロと二人を見較べながら、自分の間違いに初めて気がつき、更に指輪まで示されたので、さすがの伯爵も大勢が見ている前で、夫人に茫然として平謝りの姿になった。



         大勢のものが注目している中で、伯爵夫人が伯爵の面子を立てるように、素直に受け入れたので、その寛大さに全員がホットする素晴らしい場面が続いていた。最後に音楽が高まりを見せて、全員の喜びの合唱となり、この賑やかな喜びのアンサンブルのうちに、長い茶番劇は幕となっていた。伯爵と夫人、フィガロとスザンナ、バルトロとマルチェリーナ、それにケルビーノとバルバリーナも加わって、4組のカップルが抱き合って、9人の見事なフィナーレの合唱となっていた。

           このウエザー・メストとフレデリック・ウエイク=ウオーカー演出の「フィガロの結婚」は、背広姿のない昔ながらの貴族社会風の演出であったが、音楽性が豊かであり、リブレットに忠実な演出でありながら随所に新鮮できめの細かさが目立っており、オペラ・ブッファとしての笑いも非常に多かったが、多少、ふざけ過ぎの気味もあり気になった。しかし、このところ続けて見ているスカラ座のミンコフスキーの「ルチオ・シッラ」(18-1-3)やA.フイッシャーの「魔笛」(17-9-3)などがいずれも推薦に値する出来映えであり、いずれも外様の指揮者によるオペラであるが、さすがスカラ座は凄いと考えている。この劇場の凄さは、主役ばかりでなく、端役や合唱やバレー団の活用などによる総合力の凄さであり、今回も主役たちを支える裏方役が随所で目に見える活躍をしており、伝統的な演出の中で、新鮮さを目立たせる役割を果たしていた。



           この今回初めてのウエイク=ウオーカー演出の新鮮味によって、スタッフの歌も動きもとても良く、生き生きとしたブッファの楽しさを味わせてくれていたが、そこにはいろいろな場面で登場する裏方役の活躍があった。例えば、セリフを忘れた伯爵にプロンプトする助手がいたり、ケルビーノの辞令を手渡す秘書役たちがいたり、貴婦人姿で集団で現れて、合唱団として機能したり、パントマイム的な役割を果たしたりとか、平手打ちの音を演出する助手がいたりとか、随所で一役果たしており、装置や衣裳が古典的でも、動きの良い彼らのいろいろな活躍が、この非常に新鮮な舞台を演出する鍵となっていた。また、登場人物たちの人間関係にも配慮した演出であり、例えば、伯爵の激しやすい性格やフィガロの反骨精神を強調したりする演出となっており、伯爵とフィガロのあわやという対立場面が何回かくり返されたりしていた。また、行動力のある伯爵夫人、歌は上手いが余り動かないスザンナ、チョビ髭のケルビーノなどを目立たさせる演出のように見えていた。

             ウエザー・メストの指揮振りは、久し振りの余り早すぎない安定感のある演奏であったが、伴奏付きのレチタティーヴォでチェロとフォルテピアノが明るい響きを出していたり、アンサンブルの良いオブリガートが目立ったり、スカラ座のオーケストラを自在に動かして、歌と一体感のある生き生きした演奏を作り上げていた。
          配役もフィガロとスザンナ、伯爵と伯爵夫人、ケルビーノとバルバリーナにも適材を得ており充分に楽しめた。フィガロ役のマルクス・ヴェルバは、このHPで初めてであるが、初めから最後に至るまで行動力のある人の良いフィガロを演じており、この公演の成功の鍵を握っていた。スザンナ役のゴルダ・シュルツも初めてであるが、地味な立場に徹していたが歌は優れたものがあり、まずまずの出来か。伯爵のカルロス・アルバレスは、ダンデイでおしゃれが過ぎていたか、高貴さと好色さ、貫禄と間抜けのバランス具合によって好みが変わると思われた。また、伯爵夫人のディアナ・ダムロウは、太り具合も良くお似合いな歳になったと感じさせた、行動力ある伯爵夫人を演じており、二つのアリアも抜群の出来で、素晴らしい貫禄ある役振りを示していた。ケルビーノのマリアンヌ・クレバッサはこの劇場の若手のホープか、ズボン役がよく似合い元気があって役にピッタリであり、今後も期待できそうであるが、かっての名ケルビーノであったユーイングやシュターデのように、後世にも残って欲しいと期待を抱かせた。

            ブッファ性を強めるマルチェリーナ、バルトロ、バジリオ、バルバリーナなどの役も人材を得ており、彼等の活きの良い動きが、このスカラ座のブッファの演出の喜劇性を非常に高めていたように思う。この層の厚さがミラノ・スカラザの取り柄なのであろう。彼等の活躍が、例えば第一幕の第七曲の三重唱や、第二幕と第四幕のフィナーレ、第三幕の六重唱などの面白い演出を支えていたように思う。終わりに、最近の新しいオペラ演出には超モダンなものが多くいつも心配であったが、この演出は貴族時代の当時のものでありながら、実に安心できる優れた演出であったし、むしろ新鮮さを与えた目新しい雰囲気を持っていた。そのため、伝統的な演出が好きなファンにも喜ばれ、音楽の楽しさに浸ることが出来るものと思われ、そのための一つのあり方として、このDVDは意味を持つものと思われる。

(以上)(2018/02/24)



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