(最新のHDD録画より;鈴木秀美とリベラ・クラシカによるK.271&K.550)
18-1-1、鈴木秀美指揮とリベラ・クラシカによるピアノ協奏曲変ホ長調K.271および交響曲第40番ト短調K.550、タンゲンテン・フリューゲル;上尾直毅、
2017年10月21日、上野学園石橋メモリアルホール、

−始めの上尾直毅のタンゲンテン・フリューゲルによる「ジュノム」協奏曲の映像は、彼の一音一音、丁寧に弾く独奏ピアノに加えて、弦とのアンサンブルを大切にしたフリューゲルの良さが滲み出たような演奏であり、肌理の細かなニュアンスを大切にした弾き方で、とても好感が持てた。一方のト短調交響曲では、鈴木秀美の指揮振りは、全体として速めのテンポの古楽器風の奏法で、モダンなオーケストラと異なった感慨をおぼえつつも、爽やかさに満ちており、澄んだ感じの新鮮味溢れる響きを聴かせてくれていた。13年ぶりでこのオーケストラの演奏を細かく聴いてみたが、明らかにこの間で大きな成長を遂げており、協奏曲においても交響曲においても、アンサンブルの優れた円熟した演奏を聴かせてくれており、弾むような軽やかな疾走感が全体を通じ支配しており、実に聴き応えがあったコンサートであった−

 (最新のHDD録画より;鈴木秀美とリベラ・クラシカによるK.271&K.550、)
18-1-1、鈴木秀美指揮とリベラ・クラシカによるピアノ協奏曲変ホ長調K.271および交響曲第40番ト短調K.550、タンゲンテン・フリューゲル;上尾直毅、
2017年10月21日、上野学園石橋メモリアルホール、
 (2017/11/26放送のNHKクラシック館をHDD-5に収録、)

        2018年の新年を飾る1月号の最初のソフトは、鈴木秀美とリベラ・クラシカの演奏会からピアノ協奏曲第9番変ホ長調K.271「ジュノム」と交響曲第40番ト短調K.550の2曲をお送りする。このグループの久し振りの登場であり、前回は若松夏美のヴァイオリン協奏曲第3番K.216と小ト短調交響曲K.183であり(4-8-2)、2004年のコンサートであったので、13年ぶりの演奏会であった。これは2017年10月21日に上野学園石橋メモリアルホールでのコンサートが、2017年11月26日のNHKのクラシック館で放送されたばかりの最新の映像であった。この楽団は、2001年に音楽監督の鈴木秀美により結成され、2002年5月から定期演奏会を古典派の音楽中心に開催している古楽器団体である。



         映像の最初に、鈴木秀美の解説があり、ハイドン(1732〜1809)を中心に演奏しているが、古典は規則に縛られた音楽と言われるが、特にハイドンには規則破りの面白さがあり、それでこの楽団を「リベラ(自由な)」と名付けたと語っていた。コンサートの第一曲はハイドンの「無人島」序曲であり、コントラバス2台の中規模な二管編成で、颯爽と楽しげに演奏されていた。演奏者をよく見ると、女性が多い集団であったが、13年前とかなり共通であるが、指揮者を含めてその年数を感じさせられた。
第二曲目がピアノ協奏曲第9番変ホ長調K.271「ジュノム」であるが、古楽器の演奏会なのでピアノはタンゲンテン・フリューゲルという名のフォルテピアノのであり、ソリストは上尾直毅で、演奏の前にこの楽器の簡単な説明があった。このフォルテピアノは、4つのストップがあるのが特徴のようであり、膝の2つのストップと両側にあるストップで、使い方や音の違いを説明しながら、モーツァルトは間違いなくこの曲の作曲には、この種のフォルテピアノを使っていたに違いないと解説していた。



         今回の最初の映像のピアノ協奏曲K.271「ジュノム」の演奏は、上尾直毅がいきなり前奏曲ハ長調K.284aと呼ばれる曲を、タンゲンテン・フリューゲルで弾き始めた。この曲は調べて見ると、別名カプリッチョK.395という曲であり、アレグレットで始まるが、次々と目まぐるしくテンポが変わる曲で、このフリューゲルに向いた爽やかな繊細な曲と思われた。続いて直ぐに冒頭からピアノで始まるこの協奏曲の第一楽章が始まって、オーケストラをよく見ると、先ほどのハイドンの序曲とがらり異なり、コントラバスが1台で、第一・第二ヴァイオリンがそれぞれ3人、ヴィオラとチェロが2人、オーボエとホルンが2人、ファゴットが一人という最小の布陣となっており、オーケストラの呈示部では、スコア通りにフリューゲルもトウッテイに参加しているのが珍しかった。この曲の第一楽章の冒頭の第一主題が、二つのモチーブで分割されており、初めにトウッテイで最初のモチーブで示されると、続けて独奏ピアノが次のモチーブで登場し、これらが対話風に繰り返されてから、オーケストラが主題提示部としてこの第一主題を軽快に明るく提示していた。続く第二主題も前半と後半の二つの主題から出来ており、軽快に進んでいたがフリューゲルの和音が全体を支えており、堂々と盛り上がりを見せながら提示部を終えていた。



             独奏ピアノの再登場はこの提示部の終結と併行して、三小節にわたるフリューゲルの高いトリルで始まり、直ちに独奏ピアノが明るく第一主題を力強く奏で出し、軽快に16分音符の早いパッセージを重ねていた。すこし暗い感じの第二主題も独奏ピアノが弾き出しており、この上尾のフリューゲルは、音が小さいが軽いタッチで粒が揃っており、軽快に弾むように弾かれていた。それからはオーケストラと一体となって進行し、独奏ピアノが軽快なパッセージを重ねながらオーケストラとのアンサンブルが華麗であり、提示部で盛り上がりを見せて終結していた。
          展開部では、最初と同じ始まりでオーケストラとピアノが登場してから、冒頭の二つのモチーブが独奏ピアノで執拗に形を変えて装飾されて展開され、元気よく繰り返されて再現部に移行していた。再現部では、冒頭のソロとトウッテイが、互いに入れ替わりながら対話を行い、素晴らしいピアノとオーケストラの掛け合いが第一・第二主題へと続いていた。カデンツアは新全集には二つ用意されており、上尾はAの短い方を使っていたが、最後の盛り上がりが見事であり、なかなか楽しめた。



          第二楽章のアンダンテイーノは、珍しくもの憂い感じの長いオーケストラの序奏で始まり、ハ短調のヴァイオリンの合奏でゆっくりと開始され、ひとしきり綿々と続いてから、第一主題がピアノソロでゆっくりと始まる。上尾は絶えず装飾をつけながら淡々と歌いながら進んでから、ヴァイオリンに始まり独奏ピアノが応える第二主題が登場し、そのまま独奏ピアノがオーケスオラと明るく対話しながら進行する美しい曲となっていた。上尾のフリューゲルは、ゆっくりとした丁寧なソロピアノで、ここでも粒だちの良いピアノを一音一音綺麗に聴かせていた。続いて短い独奏ピアノが華やかな展開部を終了すると、序奏なしで再現部が始まり、第一主題、続いて第二主題の順に再現されていた。新全集では二つのカデンツアが示されているが、上尾はAの短い方のカデンツアを弾いていたが、これは実に微妙な繊細な音を出すカデンツアで、タンゲンテン・フリューゲルを使った効果が目に見えるような気がした。



       フィナーレはロンドと書かれたプレストの楽章で、形式はA-B-A-C-A-B-A のロンドであるが、中央のCの部分が独立したメヌエットの形式になっており、一つの楽章で二つの楽章を包含するような大ロンド形式とでも言えそうな形式であった。Aの部分は上尾のフリューゲルによる軽快なロンド主題で始まるが、独奏ピアノによるプレストが34小節も勢いよく続き、それ以降はオーケストラを従えて、早いパッセージが続いていた。上尾は早いテンポであるがきめ細かく丁寧に弾き進み、後半のパッセージもなめらかに粒ぞろいに弾かれていた。続いてBの主題がピアノソロで早いテンポで始まりオーケストラとも交錯するように協奏されていくが、ここでロンド形式のA-Bの最後に、短い第一のアインガングが入り一休み。新全集には3つのアインガングがあるが上尾は最初の最も長いアインガングを用いていた。そこで独奏ピアノによるロンド主題Aが始めと同じスタイルで始まって、オーケストラとピアノで早いテンポのロンド主題が展開されて終息するとCのメヌエットが始まった。これはカンタービレと称された美しいメヌエットであり、まずメヌエット主題が独奏ピアノでゆっくりと流れ出し、続いてピッチカートのオーケストラを従えてゆっくりとピアノにより再現されるが、このメヌエットではピアノが変奏曲のように装飾的に弾かれて、しばしの安らぎのように表情豊かに響いていた。ここでも一区切りを示すような短い第二のアインガンクが弾かれてから、再び最初の急速なロンド主題に戻っていた。最後のA'-B'-A"では、ピアノが実に軽快に動き回ってフイナーレを盛り上げてから、さり気なく終息していた。素晴らしい颯爽とした活きの良い楽章であった。





     この上尾の映像は、彼の最初のフォルテピアノの映像であるが、彼の一音一音、丁寧に弾く独奏ピアノに加えて、弦とのアンサンブルを大切にしたフォルテピアノの良さが滲み出たような演奏であり、肌理の細かなニュアンスを大切にする丁寧な弾き方の「ジュノム」協奏曲であった。余り独奏ピアノが出しゃばらないのは、彼の自然な持ち味なのであろうが、小音量ではあるがニュアンスに飛んだフォルテピアノと最小の規模のオーケストラとのアンサンブルが良くマッチして、素晴らしい演奏を聴かせてくれた。CDではレヴィンとホグウッドのこの曲を良く聴いていたが、それに優るとも劣らぬ好演奏であった。こうなれば、このグループでのモーツァルトのピアノ協奏曲の全曲演奏をお願いしたいと思ってみた。この素晴らしいフォルテピアノの快演に客席ばかりかオーケストラの皆さんからも拍手が鳴り止まず、彼は遂にアンコールを弾きだした。C.P.E.バッハのソルフェッジョハ短調Wq.117-2という初めて聴く曲であったが、このタンゲンテン・フリューゲルを良く響かせるテンポの早い曲であった。





       休憩を置いて続く曲は、交響曲第40番ト短調K.550であり、鈴木秀美の解説によると、第1稿のオーボエ版の作曲後に第2稿のクラリネット版があることは有名であるが、作曲者はこの改訂後も第1稿を残して、さらに弦楽器の部分に手を加えた第3稿が、最近2014年に発見されたという。改訂部分は第2楽章の下降する32分音符の弦楽器部分が顕著であると言い、どうやら今回がこの第3版の初演奏と言うことのようだった。このHPでは、この曲の総括は完成しており、フェラインの機関誌第100号に掲載して活字にしたたばかりであるが、早くも重大な修正すべき事項が登場したようである。
      全体を一聴した限りでは、初めから爽やかな速いテンポで進み、その壮麗さに驚いているうちに、第二楽章も第三楽章もフイナーレも、やはり速目のテンポで一気に進み、素晴らしい勢いで進む疾走する古楽器調のト短調と言った印象を受けていた。オーボエの入った第3稿という説明であったが、改訂の場所は余り気がつかずに推移しており、オーケストラは、コントラバス2台で、第一・第二ヴァイオリンがそれぞれ5人、ヴィオラとチェロが3人ずつに増加し、ホルン、オーボエ、ファゴットが二人づつにフルートが一人という中規模の編成で、呈示部でも再現部でも繰り返しを省略しない古楽器風の軽快な演奏であった。




        鈴木秀美が登場して、オーケストラを見渡してから直ちに第一楽章が始まったが、モルト・アレグロでヴィオラの伴奏音形に乗ってさざ波を打つような弦楽合奏の第一主題が早めのテンポで軽快に始まり、やがて管楽器と弦との応答があってから再び第一主題が明るく繰り返されるが、今度は管楽器も加わって力強く進行していた。鈴木秀美の指揮は、全て頭の中にあり、細かな両手の動きと顔の表情で指揮をしており、弾むような軽やかさでグイグイと進行していた。一休止の後に第二主題が弦で始まるが、直ぐにオーボエとファゴットが明るさを増すように活躍をし始め、弦と交互に競い合い、さらに合体して勢いを増し、次第に高揚して提示部の高みに到達していた。鈴木秀美はここで再び冒頭に戻り、全体を明るくもっと流麗に進行させており、この繰り返しではさらに軽快感を増して爽やかに推移していた。
    展開部では、第一主題の冒頭の導入主題が繰り返し入念に展開され、さらに同じ主題がうねるように対位法的なスタイルで展開され次第に力を増しながら進んでいた。再現部に入り再び冒頭主題が流れるように再現されていたが、長い展開部の勢いが残されているかのように、経過部を中心にかなり拡大されながら進行していた。映像では鈴木秀美は自由に体を動かして、両腕の振りと顔の表情でも指揮をしており、実に淀みなく進行しており、明るく疾走するオーケストラの流麗な動きが印象的で、再現部の繰返しも一気に流れるように進行して、爽やかに第一楽章が終息していた。



        第二楽章のアンダンテでは、やはり幾分早めのテンポか、美しい弦楽合奏の第一主題が珍しくホルンの伴奏で始まっていたが、主題の後半に現れる32分音符の休止を挟んだ3度動機のフレーズが早くも弦で顔を出して実に美しい。そしてこの動機が推移部を支配しており、弦から管へ、管から弦へ、オーボエやフルートを中心に上昇したり下降したりして、うねるように繰り返されて美しく進んでいた。やがて、第二主題に入って美しい弦楽合奏が開始されても、木管楽器が加わって来て、この特徴あるフレーズが、余韻のように響いていた。鈴木秀美はここでも再び冒頭に戻って繰り返しを行い、丁寧にこの独特なフレーズの装飾効果を楽しんでいるように見えた。
     しかし展開部に移行してもこのフレーズが合奏で力強く弦から管へ、管から弦へと移行して、上昇したり下降したりしながら展開されていた。これらの弦と管の合奏のアンサンブルの美しさは、再現部に入っても、実に快く印象的に響いており、鈴木秀美は実に丁寧に、時には楽しんでいるかのような表情を見せながら、繊細できめの細かな美しさを浮き彫りにしようとしているように見えた。再現部の末尾の繰り返しも、丁寧に行なわれ、古楽器演奏のアンサンブルの良さを味わわせてくれていた。



        第三楽章のメヌエット部では、かなり速いテンポで出だしの三小節のフレーズがカノン風に何回も繰り返されて進行し、鈴木秀美は次第に力強く三拍子を刻んで躍動感が溢れるようにぐいぐいと進めていた。対照的にトリオでは、ほぼ同じテンポの弦楽合奏で始まり、オーボエに続きフルートとファゴットも加わって木管三重奏となり美しさを強めていたが、繰り返しの後は木管の三重奏の後にホルンの二重奏が響きだし、終わりには見事な管楽四重奏で打ち上げるなど弦と管のアンサンブルの対照の妙が光っていた。このメヌエット楽章でも、後半に繰返しが行なわれており、古楽器演奏の澄んだ響きがよく目立ち、この曲の良さを改めて引きだしていた。



        フイナーレ楽章では、ソナタ形式のアレグロ・アッサイで始まる第一主題がスピード感を持って軽快に進められており、まさに火の出るような勢いで疾走するアレグロとなって、流れるような見事な弦楽合奏を繰り返していた。やがて穏やかな第二主題が弦楽合奏で始まって淀みなく進行するが、中間でオーボエとフルートが明るく歌い出して、軽快感を増していた。鈴木秀美はここでも提示部を繰り返して、全体のスピード感を高めていたが、展開部に突入しても、冒頭の疾走する主題が弦でも管でも、入れ替わりに執拗に顔を出して繰り返し展開されており、後半のホルンのファンファーレが鮮やかであった。再現部に入っても全体としては軽やかさが確保されており、爽やかな疾走感でこの楽章を盛り上げつつ穏やかに終結していた。鈴木秀美は末尾の反復記号に従って展開部からの繰り返しを行っていたが、この長い展開部は実に味があり、再現部でも疾走感が加速されるなど、この繰り返しは全体のバランス上、極めて効果的であったと感じさせていた。終わると凄い拍手が巻き起こっていたが、アンコール曲が用意されており、素直にハイドンの交響曲第83番「めんどり」から第三楽章のメヌエットが歯切れ良く軽快に演奏されており、素晴らしいコンサートの終りを告げていた。



         全楽章を通して聴いて鈴木秀美の指揮振りは、全体として速めのテンポの古楽器風の演奏に、昔と異なった感慨をおぼえつつも、爽やかさに満ちており、モダンなオーケストラと異なった澄んだ感じの新鮮味溢れる響きを聴かせてくれたように思った。中規模のオーケストラが幸いしてか、弾むような軽やかな疾走感が全体を通じ支配しており、オーボエ・フルートの木管群が弦楽器に良く反応していた。13年ぶりでこのオーケストラの演奏を、譜面を見ながら細かく聴いてきたが、明らかにこの間で大きな成長を遂げており、協奏曲においても交響曲においても、アンサンブルの優れた円熟した演奏を聴かせてくれており、実に聴き応えがあったと感ずることが出来た。


(以上)(2018/01/05)



目次5にもどる 目次4にもどる
目次3にもどる 目次2にもどる
目次1にもどる 私の新ホームページへ


名称未設定