(最新の放送記録より;ブッフビンダーの協奏曲第20番K.466その他、)
17-9-1、ルドルフ・ブッフビンダーとシュターツカペレ・ドレスデンによるピアノ協奏曲第20番短調K.466およびイルジー・コウト指揮のN響とイヴァン・モラヴェッツによるピアノ協奏曲第25番ハ 長調K.503、
N響定期、1997年5月28日、NHKホール、

−ブッフビンダーのドレスデン・シュターツカペレとの弾き振りのピアノ協奏曲第20番ニ短調K.466は、温和しくまとまったプライベートなコンサートの雰囲気の中であったが、終始、ブッフビンダーのペースで進んでおり、素晴らしいピアノの動きと響きの演奏で、手慣れた大家の風貌を見せたしたたかな味のある演奏のように見えた。一方のプラーハで学んだコウトとモラヴィッツによるピアノ協奏曲第25番ハ長調K.503のN響とのこの日の演奏は、この曲の持ち味を見事に引き出しており、私は久し振りですごい演奏を聴いたように思った。二人がやることなすことがピタリとはまっており、このN響の定期ではこの指揮者は実に心地よいテンポで颯爽と指揮をしていたし、ピアニストは素晴らしい味わいのピアノの世界を見せていた。N響も管楽器の活躍が目立ち、中でもフルート・オーボエ・ファゴットの懐かしい顔ぶれの皆さん方の響きの良さが、特に目立った演奏でもあって、非常に楽しめた映像であった−



 (最新の放送記録より;ブッフビンダーの協奏曲第20番K.466その他、)
17-9-1、ルドルフ・ブッフビンダーとシュターツカペレ・ドレスデンによるピアノ協奏曲第20番短調K.466およびイルジー・コウト指揮のN響とイヴァン・モラヴェッツによるピアノ協奏曲第25番ハ長調K.503、
N響定期、1997年5月28日、NHKホール、
 (2017/06/21、クラシカ・ジャパンの放送をHD-1に収録および1997/07/05NHK3chN響アワーをS-VHSテープ225に収録)

9月号の最初の第1曲目は、前月号よりの続きであり、ブッフビンダーのドレスデンのピアノ協奏曲シリーズの3曲目で、ピアノ協奏曲第20番ニ短調K.466が最初に登場する。フォルクスワーゲンの「ガラスの工房」を演奏会場にした演奏であり、17-8-1のK.595、K.467に続く3曲目である。彼は、2006年の生誕250年記念時に、ウイーンの楽友協会ホールで、二日間で6曲のピアノ協奏曲を録音(7-12-1)しており、この20番も演奏されてこのHPに掲載されているが、今回も前回同様の弾き振りであった。そのほかにN響との来日公演でもルイージの指揮でこの曲を弾いており(14-6-2)、それぞれ会場とオーケストラが全く違うが、今回はどのような演奏になるか楽しみであった。
これ1曲では物足りないので、もう1曲、古いS-VHSテープから、イヴァン・モラヴェッツによるピアノとN響によるピアノ協奏曲第25番ハ長調K.503を用意していた。指揮者のイルジー・コウトもピアニストもプラハ出身と言うことで、プラハに縁のあるこの曲が選ばれたに違いない。久し振り聴くこの曲は、コントラバス4台の大編成であり、堂々とN響らしい重厚な響きで進行していた。

始めのルドルフ・ブッフビンダーとシュターツカペレ・ドレスデンによるピアノ協奏曲第20番ニ短調K.466の映像は、2015年6月にドレスデンのフォルクスワーゲン「ガラスの工房」という場所で収録された影像であった。このコンサートでは、 ピアノ協奏曲第27番変ロ長調K.595および第21番ハ長調K.467に続いてこの曲が演奏されており、会場のせいかコントラバス2台による中規模な室内楽的な演奏であった。
         このピアノ協奏曲第20番ニ短調K.466は、ブッフビンダーが登場し、ピアノの前に着席してから、彼の両手の一振りで曲が重々しく静かに開始されていた。低弦の三連符とシンコペーションのリズムによる出だしは重い響きであるが、オーケストラは心得たように弾み始め、暗い表情の弦による第一主題が進み出した。オーボエとフルートによる明るい表情の副主題が表れて明るく推移しながらそのまま経過部となり、オーケストラが次第に高まりを見せつつ堂々と力強く主題提示を終えていた。






         ブッフビンダーのアインガングのピアノがクリアに粒立って、緻密な音が広がって素晴らしい始まりを見せてから、直ぐに不気味なリズムに支えられる第一主題に入りピアノが細やかなフレーズで走り出していた。そして、続けて明るい副主題を木管とピアノで提示してから、おもむろに独奏ピアノが初めて第二主題を晴れやかに美しく提示した。美しいピアの音でブッフビンダーはすっかり落ち着いた様子で、ここでは短いオーケストラとピアノとの対話が美しく始まっていた。オーケストラとピアノによる長い交換が続けられ、さらに木管もこれに加わると独奏ピアノが早い走句で縦横に走り出し、粒立つようなピアノの技巧が一杯に広がりながら突進していた。そして、途中からオーケストラが力強く加わって次第に盛り上がりを見せながら、主題提示部のオーケストラがしっかりと締めくくられていた。






    展開部では独奏ピアノによる先のアインガング主題で始まり、オーケストラとブッフビンダーの独奏ピアノが交互に高まり合いながら進行していた。後半では再び第一主題のリズム主題が現れて、独奏ピアノの目まぐるしい技巧的なパッセージが激しく続き、まさにブッフビンダーのペースとなって力強く終結していた。再現部では、オーケストラによる第一主題を途中からピアノが引き継ぐように活躍して、いつの間にかピアノがオーケストラを従えながら進行していた。続く副主題がピアノで提示されてから、直ぐに第二主題が始まり、独奏ピアノの後は木管とピアノが交互に主題を提示したり、木管が主題を提示したりして進みながら、次第に独奏ピアノの走句となり、盛り上がりながらカデンツアへと突入して行った。ブッフビンダーは、お馴染みのベートーヴェンのカデンツアを丁寧に弾いていたが、中間部では第二主題の回想がことのほか美しく聞こえていた。ブッフビンダーのピアノ演奏は、輪郭がハッキリしていて、オーケストラには負けないような落ち着いた風格のあるものであり、実に安心して曲を味わいながら聴くことができた。




     続く第二楽章は私の大好きな楽章で、ロマンスと題された三部形式の歌謡調の愛らしい曲。独奏ピアノによる愛らしい夢を奏でるようなアンダンテで始まるが、ブッフビンダーの独奏ピアノは、心を込めたように実に美しく優雅な主題がゆっくりと流れ出した。そして主題全体を呈示した後、静かに木管と弦楽器に渡されて行き、その後は独奏ピアノが主体的に歌うように進行していた。続いて独奏ピアノがトーンを変えて第二の新しい主題を提起するが、これは一音一音ピアノの音をクリアに響かせながら静かな弦の伴奏でゆっくりとこの上もなく美しく進行していた。ブッフビンダーは心得たように丁寧に弾いており、時には変奏や装飾音すら加えながら弾き進んでいた。そして再び最初のロマンスにゆっくりと戻って第一部を終えていた。
        そこへ、突然、激しい独奏ピアノが、意表をついて疾風怒濤のように激しく共鳴し、まどろみをぶち壊すように、鋭い上昇音形がもの凄いスピードで鍵盤上を駆けめぐっていた。この中間部は、木管が後押しをしながら巧みに繰り返され、素晴らしいスピードのまま盛り上がった後に静かに収まりを見せていた。ブッフビンダーのピアノは、この穏やかなロマンス主題に対し、この中間部では意表をついた激しい変化を見せ、ロマン派のピアノ曲のようなダイナミックな姿を現しており、見せ場を作っていた。しかし、激しい嵐が去ると再び第三部としてあの美しいロマンスに戻ってゆっくりと進行し、まどろむように終息していた。私より丁度10歳若い今年71歳というブッフビンダーのしっかりした落ち着きのあるロマンス楽章であった。




     フィナーレは展開部を欠いたソナタ形式で、アレグロ・アッサイの早い上昇する第一主題がブッフビンダーの独奏ピアノで始まり、これがオーケストラに渡されてトウッテイで激しく反復され拡大されていた。続いて独奏ピアノが踊るような別の新しい主題を弾き始めて経過部に発展していた。そして再び独奏ピアノが力強い軽快な第二主題を提示して行くが、ブッフビンダーのピアノはスピード感にあふれて軽快に進み、これがオーケストラにより反復されてから、フルートによる新しい終結的な主題が提示され、これが提示部のエピローグに勢いよく発展していた。続いて展開部なしに再現部に移行していくが、この変化点で独奏ピアノが短い即興的なアインガングを入れながら再現部に突入していた。再現部ではほぼ型通りに提示部を再現していたが、エピローグの最後にカデンツアの後、最後にピアノがフィナーレ主題に立ち戻り、全体を引き締めるように独奏ピアノが存在感を示しながら最後のコーダに突入していた。この楽章は、ブッフビンダーのペースで進んでおり、素晴らしいピアノの動きと響きで終始して、手慣れた大家の風貌を見せたしたたかな味のある演奏のように見えた。






              拍手が盛り上がる中で、ブッフビンダーはコンサートマスターと握手をしながら、何回かにこやかに挨拶を繰り返していた。プライベートなコンサートの雰囲気だったので、アンコールをするかと思われたが、映像は拍手の音とともに終了となり残念であった。最近はブッフビンダーの演奏を聴く機会が増えているが、彼の演奏を聴くたびに、現役のピアニストでは一番安心して聴けるピアニストの一人であると思うようになった。彼のこの曲の三つの演奏では、同じ弾き振りでウイーンフイルとの大規模な編成のものが良いか、このシュターツ・カペレ・ドレスデンとの小編成のものを取るかは、好みで分かれるところである。もう一つのN響との来日公演のものは、ルイージの指揮がとても良く、ブッフビンダーもN響と絡み合ってヴィルティオーゾ的な弾き振りを見せており、この演奏は指揮者とのからみでもっとスケールの大きい演奏のように聞こえていた。

   (以上)(2017/09/06)







          第2曲目の演奏は、イルジー・コウト指揮のN響とイヴァン・モラヴェッツによるピアノ協奏曲第25番ハ長調K.503であり、N響定期からの古い演奏で、 1997/07/05のNHK3chのN響アワーをS-VHSテープに収録したものである。このN響アワーは、池辺さんと壇ふみさんの漫才をやっているような面白い会話で始まっていた。この曲の前に同じ指揮者でモーツァルトの交響曲第39番のメヌエット楽章が紹介されていたが、この曲は変ホ長調であるという説明から調性の話になった。なぜこの調性がと言うことから、クラリネットと良く合う調性の話と、三大交響曲が40番はト短調、41番の「ジュピター」はハ長調であるという調性の組合せの話に飛び火していた。短調の名曲には、ニ短調が多いと言う話から、ピアノ協奏曲K.466や「ドン・ジョヴァンニ」やレクイエムのラクリモサなどのさわりの部分を聴くことになって、ニ短調の美しい曲を味わうことになった。また、これから聴くピアノ協奏曲はハ長調であることから、ジュピター交響曲K.551、ピアノソナタK.545、戴冠ミサ曲のさわりの部分を聴くこととなり、ハ長調にはオーソドックスな堂々とした正統的名曲が多いという話を聞きながら、早速、このハ長調の協奏曲を曲を聴いてみようと言うことに発展していた。





          イヴァン・モラヴェッツは1930年プラハ生まれのピアニストであり、恰幅の良い67歳の脂ののりきったピアニストと見えていたが、指揮者のイルジー・コウトもチェコ出身であることから、プラハで初演されたこの曲がお得意であると思われた。モラヴィッツが登場して席に着いた後に、一呼吸おいて指揮台のコウトがタクトを振ると、ピアノ協奏曲第25番ハ長調K503の第一楽章が始まった。曲は先ほどの話のように、ファンファーレ風に第一主題が堂々と力強いオーケストラで、まるで交響曲のような勢いで高らかに開始され、オーケストラをよく見るとコントラバスが4台の大編成のようであり、重々しく進行していた。途中から、フルートとオーボエが奏でる悲しげな音形が対照の妙を見せており、繰り返された後に、スタッカートで始まる調子の良い経過部を経て、同じスタッカートの新しい副主題に発展しながら朗々と進行し、まるでシンフォニーのように颯爽と進行してオーケストラの主題提示部を終えていた。




                      ここで独奏ピアノが即興風のパッセージで登場するが、モラヴィッツは、ゆっくりした入り方で堂々としたスケールの大きい独奏ピアノであり、早速、早いパッセージがひとしきり続いていた。やがてオーケストラにより冒頭の第一主題が始まり、続いて独奏ピアノ和音の響きが強烈に響き、早いピアノが主体になって軽快に再現されていたが、ここがこの曲の見事な聴きどころになっていた。モラヴィッツはさすがヴェテランらしく、余り力まずに軽やかに華麗なパッセージを繰り広げ、新しい副主題に続いて歌謡性に富んだ愛らしい第二主題を初めてピアノで提示していた。その後は駆け抜けるように早いパッセージを繰り広げ、オーケストラと楽しげに歌い交わしており、オーボエとファゴット、続いてフルートとオー ボエなどと互いに歌い交わして、堂々とした前半の主題提示部が進行していた。




                     展開部では先に呈示部で出てきた副主題を独奏ピアノが弱音で提示してからフルート・ファゴット・オーボエといった木管群に引き渡していたが、この弱音でのソロピアノのパッセージの美しさとオーケストラとのアンサンブルの良さは見事で、この曲の素晴らしさを示すとともに独奏ピアノも最高の冴えを見せつけていた。再現部では独奏ピアノが主体となって、第一主題、副主題、第二主題の順に再現されており、モラヴィッツの独奏ピアノの速い動きが冴え渡っていた。終わりにカデンツアが弾かれていたが、新全集にないので自作なのであろうが、前半は聞き覚えがあり、後半はいろいろな主題が追想的に現れる技巧たっぷりの長いカデンツアであった。このモラヴィッツの独奏ピアノは、このHPではじめてであるが、実に堂々としたスケールの大きい弾き方をするピアニストでこの曲にとても良くあっており、これは期待の出来る充実した演奏であると思われた。



        第二楽章は、展開部を持たないソナタ形式。オーケストラで優雅な第一主題がアンダンテでゆっくりと開始されるが、いきなりオーボエとファゴットとフルートが華やかに主題を繰り返していた。続いて直ぐに踊るような感じの面白い第二主題がオーケストラで奏されてから、独奏ピアノが登場して、始めからゆっくりと第一主題を繰り返していた。ここで独奏ピアノのパッセージと木管群との対話が繰り返されて実に美しい。続いて独奏ピアノが第二主題をゆっくりと提示していくが、後半で独奏ピアノが幻想的な自由なパッセージを呟くように弾きだし、それにオーボエとフルートの和音が重なって実に美しい三重奏になっていた。モラヴィッツの独奏ピアノは、このような自由な幻想的なパッセージを実に丁寧に綺麗に弾いており、一音一音噛みしめるようにゆっくりと歌って、素晴らしい幻想的な雰囲気を造りだしていた。再現部に入ってここでは独奏ピアノが主体になって各主題が繰り返されていたが、あの美しい三重奏も丁寧に再現されてカデンツアもなく静かに終結していた。実にゆったりとした美しいアンダンテ楽章であった。



                 この曲のフィナーレでは、軽快なアレグレットのロンド主題が弦楽合奏で調子よく始まるが、これに管楽器が合奏で応えるように上昇音型で応答して繰り返されると、今度は低弦楽器が応答する形で三つ巴になってロンド主題が明るく進行していた。そこへ独奏ピアノが新しい主題で登場し、分散和音風なパッセージで進行してから、第一のエピソードがピアノで軽快に現れる。この主題はロンド主題と似ているが、独奏ピアノが奏する16分音符の三連符による早いパッセージで勢いよく進行してから、冒頭のロンド主題が独奏ピアノで軽快に始まった。ロンド主題は直ぐにオーケストラで勢いよく先の三つ巴の姿になっていたが、ここで独奏ピアノにより第二のエピソードが始まり、初めに悲しげなメロデイがピアノで現れた後に、突然、独奏ピアノが美しい伸びやかな旋律を歌い出していた。まるで突然に春が来たようなこの美しい旋律は、オーボエに引き継がれ次いでフルートでも歌われていき、独奏ピアノに戻されて明るいのどかな春の雰囲気となっていた。そしてもう一度、全体が繰り返されて穏やかな雰囲気に戻った後に、再び、冒頭の軽快なロンド主題が始まった。突然現れた、つかの間の幻影のような聴かせどころを独奏ピアノのモラヴィッツは、実に良く心得ており、その後の目まぐるしいピアノの活躍が続いて、カデンツアの置き場がないまま急速に終わりとなっていた。

               この一気呵成の収束で、大変な拍手が湧き起こり、舞台は騒然となっていたが、N響のメンバーも独奏ピアノの素晴らしさを讃えていた。しかし、残念ながら、N響アワーのせいか、画面は次の曲の準備のために中断されて、再び池辺さんと壇さんのトロンボーンの話になっていた。この曲の余韻を楽しむ間もなく、画面は変わってしまっていたが、この二人のプラーハで学んだ英才とN響とのこの日の演奏は、この曲の持ち味を見事に引き出しており、私は久し振りですごい演奏を聴いたように思った。二人がやることなすことがピタリとはまっており、このN響の定期ではこの指揮者は実に心地よいテンポで颯爽と指揮をしていたし、それに加えて独奏ピアノのモラヴィッツのピアノも、第一楽章では余り力まずにさらりと流したり、第二楽章では幻想風なピアノの味わいを見事に引き出したり、また、フィナーレの中間部でも素晴らしい味わいのピアノの世界を見せていた。N響も管楽器の活躍が目立ち、中でもフルート・オーボエ・ファゴットの懐かしい顔ぶれの皆さん方の響きの良さが、特に目立った演奏でもあって、非常に楽しめた映像であった。

(以上)(2017/09/09)


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