(古いVHSより;リュビモフのピアノ・リサイタル 1、K.397、331、576、)
17-5-3 アレクセイ・リュビモフのオール・モーツァルト・フォルテピアノ・リサイタル、(曲目)1、幻想曲ニ短調K.397、2、ピアノソナタイ長調K.331、3、ピアノソナタ変ロ長調K.576、
以上前半、コンサートを二分割、1990年制作、ラルゼナール・大ホール、

−アレクセイ・リュビモフのオール・モーツァルト・フォルテピアノ・リサイタルで、K.397、331および576の3曲を連続して聴いて、リュビモフは、余り激しく緩急・強弱をつけずに、落ち着いたしっかりした構成でじっくりピアノを進めるオーソドックスな演奏をするタイプであり、繰返し後でも装飾の変化は必要最小限度に留めており、極端に走らないので安心して聴くことが出来た。1990年の録音であるが、私にはフォルテピアノを用いたピリオド演奏の一つの模範となる演奏のように思われた−


(古いVHSより;リュビモフのピアノ・リサイタル1、K.397、331、576、)
17-5-3 アレクセイ・リュビモフのオール・モーツァルト・フォルテピアノ・リサイタル、(曲目)1、幻想曲ニ短調K.397、2、ピアノソナタイ長調K.331、3、ピアノソナタ変ロ長調K.576、
以上前半、コンサートを二分割、1990年制作、ラルゼナール・大ホール、
(1998/08/17、クラシカ・ジャパンの放送をVHS-259.1に収録、)

             5月号の第3曲目は、アレクセイ・リュビモフのオール・モーツァルト・フォルテピアノ・リサイタルを収録したものである。この映像が1990年に制作された当時は、まだフォルテピアノによる演奏は少なく、とくにロシアでの演奏だったので珍しく、評判を呼んだ映像であったと思われる。このコンサートでは、次の6曲が演奏されていた。1、幻想曲ニ短調K.397、2、ピアノソナタイ長調K.331、3、ピアノソナタ変ロ長調K.576、4、幻想曲ハ短調K.475、5、ピアノソナタハ短調K.457、および6、ピアノソナタハ長調K.545、の6曲が、暗い映像であるがラルゼナール・大ホールで収録されていた。この映像は、前半の3曲と後半の3曲とに分けて、5月号と6月号に分けてご報告したい。この映像をアップすると、K.475&K.457のデータベースが完成すると思われる。



このリュビモフのコンサートの第一曲目は、幻想曲ニ短調K.397である。この曲には、自筆譜や筆写譜などはなく、作曲の経緯を示す伝記的資料も残されていない。分かっていることは、ブライトコップフ社が試みた最初の全集の一環として、1806年に初めて姿を現し、その形が今日まで踏襲されていることのようだ。従って、97小節までで中断しており、誰が10小節の補作をしたかも含めて、推測されることが多い作品である。
曲は大まかに全体が三部に別れており、自由な性格を持った幻想曲である。最初のアンダンテでは、分散和音の連続する即興的な感じの序奏で始まり、アレクセイ・リュビモフは、非常にゆっくりしたテンポでもの寂しく、静かに分散和音を弾き始めて、幻想的な高まりを見せて静かに終止していた。



続いて第二部のアダージョに入り、淋しげな甘美な旋律が始まって、綿々とアダージョが続いてから、趣を変えて新しい寂しげなエピソードが登場し、カデンツア風なプレストを経過して、高まりを見せていた。リュビモフのフォルテピアノはしっかりとした動きがあり、一音一音が完ぺきに近い心に秘めたものがある。再びアダージョの主題が二度、そして三度と再現されるが、その都度、即興的な変化を見せながら幻想風に物静かに収束していた。次いで第三部のアレグレットの部分に入り、軽やかな明るいロンド風の主題が爽やかに始まり、ゆっくりと盛り上がりながら頂点に達する。一呼吸おいた最後の10小節は、譜面通りの姿で弾いており、意外性はなくもの静かに終わったが、リュビモフは、淡々として一気に弾いており、適度に装飾を加えて、フォルテピアノらしく軽やかに弾かれた幻想曲であった。

リュビモフのコンサートの第二曲目は、ピアノソナタイ長調K.331「トルコ行進曲つき」であるが、この曲はアンダンテの変奏曲−メヌエット−ロンド(トルコ風)という変わった構成となっており、ソナタ形式のないピアノソナタはこの曲だけである。用紙の研究が進み、ウイーン時代の1783年頃と作曲年代が考えられるようになってから、フォルテピアノのために書かれた作品であり、1784年に前後の3曲と一緒に出版された事情から、三部作の真中の曲として前後の曲に対し、大きな変化を求めた作品と考えられている。



  第一楽章の主題提示は、シチリアーナ風のゆっくりしたリズムを持ったアンダンテの美しい優美な主題であるが、リュビモフはゆっくりとピアノをよく響かせながら丁寧に弾いており、繰返しも全て実施し、後半にはどこかで装飾を入れて変化を見せていた。第一変奏は右手の動きがよく目立つ変奏であるが、リュビモフは音が粒だつように良く指が動いており、繰り返しの後半では特に装飾が目立っていた。第二変奏は左手の三連符の進行で右手のトリルが目立つ変奏で、後半には左右が入れ替わる変奏であったが、三連符進行が全体を支配していた。
第三変奏は趣を変えた短調の変奏となり、全体が六連符のレガートな進行が美しい変奏であるが、途中からのオクターブの進行が異彩を放っていた。第四変奏は譜面上は三本の手のために書かれたように、左手を交差させてメロデイラインを提示する変奏であるが、リュビモフは両手が忙しいにもかかわらず、むしろ早めのテンポで 平然として弾いていた。第五変奏はアダージョとなり、左手の32分音符の連打の上に右手にも32音符の動きが現われてきめ細かく活躍する変奏で、リュビモフは細心の注意を払って弾いているように見えた。最後の第六変奏はアレグロとテンポががらりと変わり、リュビモフは踊るような感じで軽快に鍵盤を叩いていたが、左手の和音の響きがフォルテピアノらしさを表わしておりこの演奏を特徴づけていた。


  第二楽章は譜面を見ると長大なメヌエット楽章であり、大きく飛び上がるようなリズムで始まり、軽快に流れるようなメヌエット部分になって早めのテンポで弾かれていた。メヌエット主題の流れるようなピアノの美しさがキラキラして実に心地よい。フォルテで始まる途中のエピソードもこのピアノの流れに吸収されて、実に美しく軽快にメヌエット部分が終わっていた。中間部のトリオでは、これと対比するかのように淡々としているが、左右の手が交錯したり、中央にユニゾンの激しい強奏の部分があったりして変化が多く、リュビモフは繰り返し部では装飾音を多く多用して新鮮味を加えて、輝くように進行しており、見ていてとても楽しかった。再びメヌエット部に戻り、今度は繰返しがないまま終了していたが、フォルテピアノの響きの良さをイメージさせる楽章であった。



  第三楽章の「アラ・トゥルカ(トルコ風)と書かれたアレグレットのトルコ行進曲は、余り早くなく明るく伸びやかに弾かれていた。この曲はいつ聴いても楽しい気分にしてくれるが、しかし映像を見ていると、演奏者にとっては誰でも知っている曲だけに、緊張が強いられると思われる。リュビモフは、真剣な表情で集中力を高めながら弾いていたが、落ち着いてしっかりしたオーソドックスな演奏であった。中間部のオクターブで弾かれるエピソードも生き生きと弾むように弾かれて、続く16分音符の流れるようなパッセージも粒ぞろいで美しく、再びオクターブのエピソードが再現されていた。どんな大家であってもこの曲は、試されるような気持ちで張りつめたような緊張が必要な曲であると思われるが、リュビモフの演奏は、最後まで堂々としていて、大家の風格さえ感じさせる本格的な演奏であった。 この演奏は三つの楽章を通じて、オーソドックスなしっかりした演奏であり、フォルテピアノを用いたピリオド演奏の一つの模範となる演奏のように思われ、1944年生まれのリュビモフは、終始、緊張感を持って演奏に集中していた。

リュビモフの第3曲目の演奏は、1789年に書かれた最後のソナタであり、ピアノソナタニ長調K.576であった。この曲は、1789年の4月から6月にかけて、リヒノフスキー公とベルリンに旅行をし、フリードリッヒ二世のために6曲の弦楽四重奏曲、皇女のために6曲のピアノソナタの作曲を依頼されたとされている。その年の7月に作曲されたこのニ長調の作品は、この皇女のために書かれた唯一の作品に当たるばかりでなく、彼の最後のピアノソナタでもあり、易しいものという依頼にも拘わらず、晩年の枯淡な感性が滲み出た充実した作品になっていた。





第一楽章では、いきなり軽快に飛び出す主和音のアルペジオによる上昇音階でアレグロの第一主題が華やかに進行し、続く流れるような長いパッセージをリュビモフは軽快に弾き進んでいた。第一主題から導かれた軽やかに現れる第二主題は、優しく歌うような主題でありトリルで終結してから、さらにドルチェで現れる副主題が顔を出してコデッタで提示部が静かに結ばれていた。ここでリュビモフは全体を繰り返していたが、余り装飾を付けないまま一気に軽快に進んでいた。

第一主題冒頭の分散和音で始まる展開部は、威勢がよく対位法的な進行を見せる長大なもので、難解さを見せてもはや皇女のためのソナタとは違う世界のように思われた。再現部ではほぼ型どおりに第一主題が表れていたが、第二主題部は順序を変えて副主題が再現されてから第二主題が再現されていた。リュビモフは素朴なスタイルながら充実した響きを持つ後期の作風をしっかりと表しながら静かに終結していた。





第二楽章は素朴な美しい主題がウットリするようなアダージョで穏やかに現れ繰り返された後で、経過部が続いていたが、続いて16分音符のリズムの伴奏で現れる第二主題は何と美しく心に響くのだろうか。リュビモフはこの主題を歌うように丁寧に響かせ、続いて32分音符の素早いパッセージで見事な響きを暫く聴かせていた。再び、第二主題が再現されてからひとしきり細かなパッセージが続いた後に、冒頭の第一主題が穏やかに再現されて明るく伸びやかに進行してからコーダで静かに結ばれていたが、この終結部は晩年のモーツアルトの独自の境地が秘められているかのような繊細さであった。この楽章で示された32分音符の素早いパッセージは、まるでコロラチューラのような細かな動きを見せ、終わりの寂しげな静かな結びも、最後のピアノソナタを暗示するかのような気になる終わり方であった。







  フィナーレは変則的なソナタ形式か。躍動するような元気の良い軽やかな第一主題がアレグレットで軽快に現れ、繰り返されて経過部を通り過ぎていた。続いて第二主題が現れるが、これは初めの主題の変奏のようなもの。リュビモフは生き生きとした感じでこの軽快なこのアレグレットの主題を弾きこなし、フォルテピアノらしい響きを聴かせていた。幻想曲風なアルペジオのコデッタを経過して、冒頭の第一主題が再現し軽快な曲調のまま展開が行われていたが、続いて第二主題が再現されていた。そして、もう一度第一主題が表れてからコーダになって、勢いよくこのアレグレット楽章は結ばれていた。

アレクセイ・リュビモフのフォルテピアノ・コンサートより、これで前半の3曲、幻想曲ニ短調K.397、ピアノソナタイ長調K.331、およびピアノソナタニ長調K.576は、一気に終了した。モスクワ生まれでモスクワ音楽院に学んだリュビモフは、現代音楽演奏で数々のコンクールの入賞歴があるが、1976年にモスクワ・バロック四重奏団を結成して以来、次第に古楽器への関心を抱くようになったとされる。そしてソ連における初めてのフォルテピアノ・リサイタルを行なったとされており、今回のこの演奏が評価されているのも、恐らくソ連の最初のフォルテピアノによる映像であるからであると思われる。3曲を連続して聴いて、リュビモフは、余り激しく緩急・強弱をつけずに、落ち着いたしっかりした構成でじっくりピアノを進めるオーソドックスな演奏をするタイプで、繰返し後でも装飾の変化は最小限度に留めており、極端に走らないので安心して聴くことが出来た。楽器の詳細は写真で見る程度で不明であるが、ソ連にも多くの古楽器が残されているのであろう。
後半の幻想曲ハ短調K.475、ピアノソナタハ短調K.475、およびピアノソナタハ長調K.545については、来月号で17-6-3として、アップロードする予定である。


(以上)(2017/05/19)



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