(最新のDVDより;女流指揮者エマニュエル・アイムのミトリダーテK.87)
17-11-3、エマニュエル・アイム指揮ル・コンセール・ダストレによるエルヴェ=レジェ演出のオペラ「ポント王のミトリダーテ」K.87、
2016年2月、シャンゼリゼ劇場、パリ、

− これまでこのミトリダーテの四つの映像を見て、コヴェントガーデンの映像が、最も分かりやすく、全体のバランスが取れたものとして総括してきたが、今回のアイム指揮ル・コンセール・ダストレのオーケストラと、エルヴェ=レジェ演出の最新の映像が、バロック・オペラの最近の隆盛の影響を受けたか、新鮮な感覚のモダンなオペラとなっており、過去の映像を多くの点で上廻る素晴らしいものになっていた。残念ながら、日本語字幕がなく、フォローするのが難しかったが、アイムの音楽が実に生き生きとして新鮮であり、また歌手たちが揃って素晴らしく、14歳のモーツァルトのアリアが実に新鮮に聞えていた。そのため、このグループにより、改めて初期のオペラを手掛けて欲しいと言う期待をしたい−

(最新のDVDより;女流指揮者エマニュエル・アイムのミトリダーテK.87)
17-11-3、エマニュエル・アイム指揮ル・コンセール・ダストレによるエルヴェ=レジェ演出のオペラ「ポント王のミトリダーテ」K.87、
2016年2月、シャンゼリゼ劇場、パリ、
(配役)ミトリダーテ;マイケル・スパイアーズ(T)、アスパージャ;パトシリア・プティボン(S)、シーファレ;シルト・パパタナシュ(S)、ファルナーチェ;クリストフ・デュモー(C/T)、イズメーネ;ザビーヌ・ドゥヴィエル(S)ほか、
(2017/07/27、山野楽器にて、Erato、DVD2枚組)

 11月分の第3曲目は、オペラ「ポントの王ミトリダーテ」K.87の新盤のDVDによるソフトであり、このHPでは2度目の登場となるフランスの女流指揮者エマニュアル・アイムの指揮による古楽器集団の演奏であり、アスパージャはパトリシア・プテイポンが歌っていた。バロックオペラの隆盛の影響を受けて、歌手たちの成長が著しいのか、モーツァルトの初期のオペラにもその影響が見られ、非常に新鮮な感じを受けた。指揮者アイムは、「偽りの女庭師」K.196でこのHPに初登場(16-6-3)したが、今回も颯爽とした活きの良い指揮振りで、期待通りの姿を見せていた。日本語字幕はないし、解説も仏文だけで全くお手上げであるが、歌手陣の奮闘振りもさることながら、アイムとル・コンセール・ダストレの新鮮な響きがこのオペラを颯爽と盛り上げていた。



     このオペラは、クリミア半島にあった港湾都市ニンフェーアを舞台に、ミトリダーテ王がローマの将軍ポンペイウスとの戦いに敗れて形勢が悪化し始めた頃の物語である。映像は戦火の銃撃戦の音がくすぶる見捨てられた廃墟の劇場の中で、リブレットとは異なり王の一族がここに避難をしているような様子が序曲の開始とともに示されていた。アレグロの第一楽章では、出演者名などが紹介されていたが、アンダンテのピッチカートの美しい第二楽章に入ると、女主人のアスパージャのプテイポンが目覚めて動き出しており、フィナーレに入ると、プレストのオーケストラが軽快に鳴り響き、どうやら留守役のニンフェーアの総督アルバーテ(アルト)、ミトリダーテ王の長男ファルナーチェ(C/T)、次男のシーファレ(ソプラノ)や若い兄妹たちの大勢がこの劇場に隠れている様子に見えた。



            若い兄妹たちが読んでいた本を取り上げて、アスパージャがまるで劇中劇のように、本を手にしながら自分の心を歌い始めていた。これは第一曲目のアリアで、「私の魂を脅かす運命から」解放させてくれと凄いコロラチューラで歌っており、自分に言い寄るファルナーチェから守って欲しいとシーファレに頼むアリアであった。このアリアは、コロラチューラが多いダ・カーポ・アリアで、アスパージャは技巧的な激しいカデンツアまで歌っており、そしてシーファレに好意を持っていることを匂わせていた。
           するとアスパージャが好きなシーファレは、ソプラノの髪の長いシルト・パパタナシュであったが、この依頼を嬉しく思い、やはり劇中劇を装って第2曲のアリア「僕の心は静かに耐える」を元気よく歌い出していた。このアリアも、カデンツアまであるコロラチューラのアリアで、アスパージャの依頼を喜んで、心から協力すると言うアリアであるが、彼女のカデンツアの出来は最高で、声が実に良く伸びていた。
           軽快な序曲に続く、この二つのアリアは女流アイムの軽快なピリオド風のさばきでいかにも颯爽と進んでおり、これから先が楽しみな指揮振りであった。



       この二人のやり取りを、部屋の片隅で聞いていたファルナーチェは、男性歌手クリストフ・デュモー(CT)であったが、アスパージャを脅そうとしており、彼女がシーファレに助けを求めてきたので、二人の兄弟はケンカになりそうな騒ぎとなっていた。そこでソプラノの小柄なアルバーテが二人の間に入って、「ケンカをしている場合ではない」と諌めながら、ミトリダーテ王がニンフェーアの港に帰って来たと告げて、第3曲目のアリアを歌い出した。そしてアルバーテは二人に仲直りせよと諌めて、第三曲を歌っていたが、三部形式のなかなかしっかりした曲であり、アルバーテの唯一のアリアであった。王が帰って来たということで、一同は大慌て。アスパージャは王の婚約者だけに非常に驚き、兄弟を含めて三人が三様のあわて方となり、王の帰国は、三人の複雑な人間模様を映し出していた。



       今やシーファレを愛するアスパージャは、帰還したミトリダーテ王に対する許婚の約束を思うと胸が病み、第4曲のアリア「心は悲しみに震えています」を激しく歌っていた。このアリアは、ト短調でアレグロ・アジタートの不安に満ちたアリアで「もうここにはいられない」と悲しみを歌う素晴らしい劇的なアリアであった。ファルナーチェは、父との再会を前にして、アスパージャを巡るお互いの秘密は隠そうと弟に持ちかけて、二人は約束をしようとした。彼はかねて父に対し反骨的であり、シーファレは父に従い兄にも尽くす良い弟でありたいと願っていた。ここで、シーファレの歌う第5曲のアリアが歌われていたが、アンダンテ・アダージョで「私は行こう」と始まり、アレグロになって「この危機を切り抜けようと」と自分に言い聞かせるように歌っていた。



        続いてファルナーチェの歌う第6曲が始まっていた。彼はアスパージャを得て、仲の良いローマの護民官マルツイオと手を結んで父の後を継ごうとするもくろみが崩れて大慌て。しかし、彼は第6曲で和解の望みがない父が帰っても、自分はあくまで抵抗するのだと決意を歌っていた。そして後半では「来るなら来い。非情な父よ」と強い気持ちを歌っていた。そこへテインパニーの響きとともに明るい第七曲の行進曲が聞こえて来た。ミトリダーテが到着したようであり、ファルナーチェが歌いながら散らかした本などをみんなで片付けながら王の登場を出迎えていた。



        舞台にはミトリダーテがファルナーチェの許嫁のイズメーネとともに登場して、早速、美しいオーケストラの前奏に続いて第8曲のカヴァータ「勝利を飾ることは出来なかったが、恥さらしの帰還ではない」を堂々と歌い上げて、待っていた皆の前で国王の威厳を示していたが、その高らかな声に驚かされた。そして観衆からも拍手を浴びていたが、カヴァータとされていたものの内容は堂々たる国王のアリアに聞えていた。さらに、親子の対面は果たしたものの、これからどうなるか、皆が不安に思っていた。



        そこでミトリダーテは皆を下がらせてアルバーテを呼び、彼は三人の様子を探るためわざとアルバーテに死の誤報を流したのだと告げて、どちらの息子がアスパージアを愛していたかを問いただした。アルバーテは、正直に、ファルナーチェがローマ軍と仲が良く、父を裏切ってしつこくアスパージャに言い寄ったことと、シーファレは父に忠実であったことを報告した。ミトリダーテは、ここでそれを単純に信じ込み、伴奏付きレチタティーヴォで「これでほっと出来るぞ」と一息入れ、ファルナーチェは昔からローマの賛美者であったと思い出し、第10番のアリア「叛逆した忘恩の息子よ」とファルナーチェに対する怒りを爆発させて歌い出した。このアリアはアレグロの早いアリアで、「あの反逆者め、息子であることを忘れよう」と、激しく怒りながら歌っていた。



         続いて、アリアの順序が変わり、イズメーネが冷ややかな態度を示すファルナーチェに対してこの屈辱を父王に話すと告げて、第9番のアリアを心配げに歌い出していた。このロンド風のコロラチューラのアリアは「あの方に恋心を燃やしてきたが、この心配は何か」と不安げに歌うもので、技巧的なカデンツアも入る長大なダ・カーポ・アリアであり、観客から絶大な拍手をもらっていた。
         そこへファルナーチェが顔を出すと、イズメーネが彼を責め立てミトリダーテに真相を告げると言えば、ファルナーチェは彼女に自分の愛は消え失せていることを告げ、口争いになっていた。ファルナーチェが、第11番のアリア「行って私の過ちを明かせ」と憎々しげに歌って、「王に告げても私の気持ちは変わらない」と歌って立ち去った。そこへミトリダーテが現れ、悲しんでいるイズメーネに「ファルナーチェの裏切りに復讐できるだろう」と語り、「彼は死罪に値する」と告げていた。死罪と聞いて驚くイズメーネに「彼のことは忘れるのだ」と言い聞かせていた。



           ミトリダーテは、アスパージャを呼び寄せ、彼女の意思が変わっていないか確かめ、彼女が「私は、あなた様の御意のままです」と答えると、王は「犠牲を余儀なくされた者のように、わしの祭壇に来るのだな」と急に怒りだし、王は「非情な女だ、今こそ分かった」とアスパージャを責め始めた。そして「息子の一人がそなたを誘惑し、そなたもそれを受け入れた。恩知らずめが」と語り、シーファレを呼び寄せた。驚いているアスパージャの前で、ミトリダーテは第12番のアリアを歌い出し、アスパージャに対し憎々しげに暴力を振るおうとして止められて、シーファレに「ファルナーチェがアスパージアを誘惑し、彼女も同意している」と語り、罪の重さをアスパージャに教えてやれと言って立ち去った。何というミトリダーテの誤解。驚くシーファレとアスパージャ。



          二人きりになって、シーファレは、本当に兄を愛しているのかアスパージャに問うと、彼女は自分が本当に愛しているのは、「私の盾になって下さい」とお願いしたシーファレであると告白した。しかし、二人はお互いに愛し合っていても、自分たちの義務と本分を守って愛を諦め、別れなければならないと決意していた。そしてシーファレはホルンのオブリガートを持つ有名な別れの第13番のアリア「愛しい人よ、君から遠く離れて」を歌っていた。このアリアは、自分も彼女を愛していたが故に、告白されたことを苦しみ、二人は別れて合わないようにしようという決意の悲しい歌で、ホルンのオブリガートが哀調を帯びて美しく響き、ホルン伴奏のカデンツアも見事で、彼は静かに立ち去った。一方、アスパージャも義務と愛のはざまで激しく気持ちが揺れて、苦しみながら第14番のアリア「ひどい苦しみの中で」を歌っていたが、アンダンテと激しいアレグロが繰り返される悲しみのアリアであった。この二つのアリアは、真に劇的に歌われて、少年の作とは思えぬ迫力に満ちたアリアとなっており、それぞれ大拍手を浴びて、初めのDVDの結びとなっていたが、二幕ものとしても優れたフィナーレとなっていた。



          大広間にミトリダーテが登場し、イズメーネも姿を現し、二人の息子 たちも参列して戦略会議が始まっていた。ミトリダーテは全員に、わが軍が目指すはローマの侵攻だと言い出したが、ファルナーチェは無謀だと反論し、ローマとの和平を提案すると主張した。一方のシーファレはローマ軍を攻撃すると意見が割れた。そこへファルナーチェのところに使者として来ていたローマの護民官マルツイオが姿を現したので、ミトリダーテは怒って追い返し、ファルナーチェがローマ軍に通じていたことを知り、彼の武器を奪って逮捕してしまった。そこでミトリダーテはイズメーネに、悪い男を薦めた私を許してくれと謝っていたが、イズメーネは第15番のアリアでミトリダーテの心情を察して「背徳の息子のため、困惑をお察しします」と歌って、王を慰めていた。このアリアは、省略されることも多い地味なアリアであるが、三部形式で最後にはコロラチューラのカデンツアも用意された王の短慮を諌める立派なアリアとなっていた。



          これに対してファルナーチェは、続く第16番のアリア「私は罪人です。過ちを認めましょう」と歌って自分の罪を潔く認める一方で、お返しにアスパージャの愛を得たのはシーファレであると暴露して、私より罪が重いと歌って王を困惑させ、王の怒りを増幅させた。このアリアは、前半のアダージョで自分の罪を認め、後半はアレグロとなって弟を責める、緩-急、緩-急となっており、ファルナーチェは歌った後に、投獄されていた。
         ミトリダーテは驚いて策を練り、アスパージャを呼び出して、本当のことを聞き出そうとした。そこでミトリダーテは、アスパージャを騙して、自分はもう年なので結婚はしない。だから若いそなたは息子のどちらかを選べ」と試していた。アスパージャはかたくなにミトリダーテに忠誠を誓っていたが、問いつめられて遂にシーファレへの愛を告白したため、ミトリダーテは大いに怒り、第17番のアリア「もう哀れみなど持たぬぞ」と歌い出した。このアリアは、愛するもの三人に裏切られた王の怒りを示す劇的なアリアとなっており、裏切った三人を宮殿に呼び出して、皆殺しにすると復讐を誓っていた。



            ここでシーファレがアスパージャに父に謝って結婚するように勧めるが、彼女は伴奏付きレチタティーヴォで「こんな残酷な人とは結婚できない」と激しく拒み、結局、二人はともに死のうと覚悟を決めた。そこでホルン4本の美しい前奏が始まり、第18曲の二人の愛の二重唱「もし私が生きるべきではないなら」がシーファレのソロで始まり、アスパージャのソロが綿々と続いて、二人のソプラノのアレグロの二重唱となり、最後のカデンツアも二人で劇的に歌われていた。この二人の劇的な二重唱には拍手と歓声が湧き起こり、悲しみの中で感動に満ちた美しい場面で、本来なら第二幕のフィナーレがここで終了していた。この二人の美しい場面を、ミトリダーテとイズメーネが2階から秘かに見ていたのが気になった。



         続いて、第三幕に入って、ミトリダーテが怒りの余り三人とも亡き者にしようと考えているところへイズメーネが登場し、怒りを諌めて、愛を大切にして欲しいと涙ながらに第19番のアリアを歌い出した。彼女は愛のためにどれだけ心を痛めたか」と歌い、侮辱されても怒らないように、復讐しないように」と、ミトリダーテに必死に訴えていた。このアリアは、イズメーネの優しい心を伝えるアリアで典雅な美しいアリアとなっていた。そこへアスパージャが死ぬ覚悟で登場して、ミトリダーテに「シーファレの運命は」と命がけで問うと、ミトリダーテはアスパージャに「二人ともわしを裏切ったから、シーファレも同罪で死だ」と告げていた。



            そこへアルバーテが突然に現れ、ローマ軍が来襲して上陸しており、味方は敗走中だと告げた。ミトリダーテは、アスパージャを前にして急いで出陣をきめ、第20番のアリア「私は最後の運命に立ち向かって行こう」と歌い出し、過酷な運命との対決を覚悟するものであった。このアリアの前奏はシンコペーションのリズムで始まり、このアリアは厳しい声を要求する激しいアリアとなっていた。この最中に、王はアスパージャに対して、自分よりも先に死ぬことになろうと、死を宣告して戦場に向かった。
           一人残されたアスパージャは、死の覚悟を定めていると、そこへ毒杯が届けられてきた。アスパージャは、毒杯を前にして恐れおののきつつ、第21番の伴奏付きのレチタティーヴォとアリア「思った通りになってしまった」と歌い、ドレスを脱ぎ捨てて白装束の姿になって、「死が平安をもたらす」と毒杯を手にして、飲もう決意した。このアリアで別れを歌う彼女の姿は、清らかで美しく印象的であり、過去の記憶では、彼女が死の幻影に怯える演出も残されていた。



          しかし、そこへイズメーネに足枷を外されたシーファレが駆けつけて、アスパージャの手にしていた毒杯を奪って投げ捨てていた。そして第22番のアリア「情け容赦ない運命が過酷におそうが」と歌って、英雄として死にたいと、死を覚悟して自分の出陣を決意し、父への忠誠を必死に示そうと健気に出陣していった。 一方、鎖につながれたファルナーチェは、戦の騒ぎを耳にしながら心配していると、そこへ支援の約束をしたローマの使者マルツイオが登場し、部下とともに約束を果たしに来たと言い、第23番の彼のアリアを威勢良く歌っていた。ファルナーチェにその気があるなら王座を用意しようというものであり、勇気を出せと足枷を刀で断ち切って、立ち去って行った。行進曲風の前奏で始まるこのアリアは、マルツイオの唯一のアリアのせいか、コロラチューラがついた長大なアリアとなっていた。



     一人残されたファルナーチェは、そこで父上は?と迷っていたが、ここに来て良心の強い呵責に悩まされ、「自分はそこまで悪人ではない」と悔悟の念で一杯になり、伴奏付きレチタティーヴォで「僕は矢張り裏切れない」、王座も、アスパージャも、ローマ人たちも、何もかも捨て去ろうと決意した。欲を捨てると目の曇りが消え、生き返ったように目が覚めて、第24番のアリア「もう目の前のヴェールが取り去られた」を歌いだし、最後に「栄光と名誉の道を進もう」と決意を固め、ローマ軍と改めて戦う決心をして、生まれ変わったように戦場へと向かって行った。アンダンテで歌われたこのアリアは、縮小ダ・カーポ形式を取っており、彼の生まれ変わりの変身を示す立派なアリアであった。



           場面が変わって、(本来なら、ファルナーチェが戦場で一働きしてからなのであろうが)、そこへ戦場に出陣していたミトリダーテが、重傷を負った姿で皆に担ぎ上げられた形で帰還し、劇場内の広間にやっとたどり着いた。その中にシーファレもおり、真っ先に駆けつけたようにして父親を抱きすくめ、父から戦場での忠誠と勇気を讃えられた。アスパージャも駆けつけて生きて下さいと声を掛けると、ミトリダーテは二人に王冠を受け取ってくれとシーファレとアスパージャに言葉少なに語っていた。「わしはここで死んでいくが、闘いに負けたのでなく、自らの手で勝利者として死ぬのだ」と語っていた。暫くして、そこへ駆けつけたイズメーネが「ローマ軍の燃えている火はファルナーチェによるものだ」というと、改心したファルナーチェも駆けつけて父親の足元に抱きついた。ファルナーチェが改心した姿を見せると、父も喜んで許し、お前に私の愛情を譲ると満足げに目をつぶり、ミトリダーテは全員に囲まれて潔く死んでいった。



            続いて、亡くなったミトリダーテを担ぎ上げて、4人の男女とアルバーテにより第25曲の五重唱「カンピドーリオなどに負けるものか」を歌って、団結してローマへの支配への抵抗をしようと誓い合って終幕となっていた。この演出では、ミトリダーテは、最後に長男のファルナーチェの手を取り、言葉をかけて許したように見えており、シーファレ、アスパージャ、イズメーネ全員に見送られながら、幸せそうに息を引き取ったので、言葉が少ないが、残された全員の人々を許して、これからの5人による団結の五重唱が全員の斉唱で、まとまりを見せながら終わったように見えていた。しかし、ここでは、ミトリダーテも合唱に加わっていたのは、演出によるいたずらか、兎に角、長大なオペラに対して、この終幕の大合唱がわずか40小節で終わらざるを得ない原作の短すぎる不適切なフィナーレを、何とか見せ物にする必要性があろうと感じざるを得なかった。



    この演出においては、全体としてアリアの順序が一つだけ異なった(第九番)だけで、省略アリアがなく、冒頭の出だしがリブレットと異なった劇中劇的に始まる演出であった以外は、比較的リブレットに忠実に演奏されており、これまで見てきたこのオペラの中では、最も優れたものであると思われた。最後の場面の、劇作上の不都合については、カットせざるを得ない状況に追い込まれたと考えて、変な操作をするよりも、残されているままにした方が、諦めがつくと思われる。
  この演出で、イズメーネに存在感があり、孤独なミトリダーテを励まし激励する一面もあって、ミトリダーテが息を引き取る前に、裏切られた3人全員を快く許して亡くなるというリブレット通りの寛容の筋書きで終始しており、とても安心して見ておれた映像であったと思われる。特に、このオペラは、原作の最後の場面で、レチタティーヴォだけで舞台が進行する不出来な部分があるが、その不出来さを手を加えずにそのままにして、前後の話の辻褄を合わせ、最後の五重唱を盛り上がったものにする配慮が感じられ、上出来の演出ではなかろうかと思わせた。

    今回の歌手陣では、プティボンの出来が期待通りの繊細で透明な発声を繰り返しており素晴らしかったが、ミトリダーテのスパイアーズが凄い高音を何ななく出すので驚かされた。イズメーネも三曲の出番を良くこなし、強いミトリダーテの押さえ役として存在感があったし、シーファレのパパタナシュもとても安心して見ておれた。また、ファルナーチェが男性のカウンター・テナーとして視覚的に大成功しており、歌も安定して聞きごたえがあった。プティボン以外は、初めての方々ばかりであったが、フランスには優れた若い歌手が揃っているとの印象を得た。女性のアルバーテ役やローマ軍のマルツイオ役にもアリアを歌わせており、彼らははじめから姿を見せていたので、全体のバランス上良かったと思われる。

       私はこれまでこのミトリダーテの三つの映像を見て、コヴェントガーデンの映像が、最も分かりやすく、全体のバランスが取れたものとして総括してきたが、今回のアイム指揮ル・コンセール・ダストレのオーケストラと、エルヴュ=レジェ演出の最新の映像が、バロック・オペラの最近の隆盛の影響を受けたか、新鮮な感覚のモダンなオペラとなっており、過去の映像を多くの点で上廻る素晴らしいものになって、お薦めしたいと思われる。残念ながら、日本語字幕がなく、フォローするのが難しかったが、アイムの音楽が実に生き生きとして新鮮であり、また歌手たちが揃って素晴らしく飽きさせなかった。そのせいか、14歳のモーツァルトのアリアが実に新鮮に聞えていた。そのため、このグループにより、改めて初期のオペラを手掛けて欲しいと言う期待が高まっている。この映像は拍手も多く、シャンゼリゼ劇場のライブの場では、さぞかし絶賛されたのであろうが、このDVDは、映像も音声もとても優れて見事にバランス良く編集されており、魅力の尽きない優れた映像であると思われる。


(以上)(2017/11/20)



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