(最新のクラシカJのオペラ;佐渡裕の2015 inトリノの「フィガロの結婚」)
16-8-3、佐渡裕の「フィガロの結婚」、2015 inトリノ、
演出;エレーナ・バルバリッチ、トリノ王立歌劇場管弦楽団および同合唱団、2015年2月12日、トリノ王立歌劇場、クラシカ・ジャパンのオペラ放送をHDD-1に収録、

−この舞台を見た人は、日本からの初めての指揮者が、予想以上に歌手たちを上手くリードして、音楽的に満足感を与えていたと同時に、演出面でも伝統的な舞台や衣裳でありながら、動きが溌剌としており、舞台が目新しく新鮮な印象を各所で受けた結果として、全体として良くまとまったオペラに対する満足感を得たに相違ない。その功績は勿論舞台に参加した全員にあろうが、いわゆるグローバルな歌手はいなくとも、出演者たちのチームワークの良さが素晴らしい地方都市の伝統あるオペラ劇場の良さをしみじみと感じさせた。佐渡裕は、非常に評判が良いようであり、つい最近、新ポストの任期の延伸が発表されていたようである。クラシカ・ジャパンでは、日本人若手指揮者として、彼以外にも、山田和樹(モンテカルロ・フイル)、大野和士(バルセロナ響)などのヨーロッパでの活動に注目しており、今後に期待したいと思う−


(最新のクラシカJのオペラ;佐渡裕の2015 inトリノの「フィガロの結婚」)
16-8-3、佐渡裕の「フィガロの結婚」、2015 inトリノ、
演出;エレーナ・バルバリッチ、トリノ王立歌劇場管弦楽団および同合唱団、2015年2月12日、トリノ王立歌劇場、
(配役)フィガロ;ミルコ・バラッツイ、スザンナ;エカテリーナ・バカノワ、伯爵;ヴィト・ブリアンテ、伯爵夫人;カルメラ・レミージョ、ケルビーノ;バオラ・ガルディーナ、マルチェリーナ;アレクサンドラ・ザバラ、バルトロ;アブラム・ロサレン、バジリオ;ブルーノ・ラッザレッテイ、バルバリーナ;アリアンナ・ヴェンディッテッリ、
(2016/07/02、クラシカJのオペラ放送をHDD-1に収録、)

    8月号の第3曲目は、冒頭で申し上げたとおり、佐渡裕指揮のトリノ王立歌劇場のオペラ「フィガロの結婚」が、クラシカジャパンから突然に、「佐渡裕 in トリノ」と言う番組で放送されたので、早速、ご紹介するものである。トリノ王立歌劇場のオペラは、このHPで初めてであり、モーツァルト指揮者であるとは思っていない佐渡裕もこのHP初めてでいささか心配であったが、聴き始めてみるとまずまずの伝統的なスタイルの「フィガロの結婚」が流れているので、安心して見ることが出来た。佐渡裕は1961年京都生まれ。1989年ブザンソン国際指揮者コンクールと、1995年第1回バーンスタイン・エルサレム国際指揮者コンクールに優勝。バーンスタインのお弟子さんとして知られてきたが、いよいよ2015年9月よりウイーンの名門トーンキュンストラー管弦楽団音楽監督に就任し、さまざまなヨーロッパの音楽祭のコンサートからオペラまで、活躍を始めだしているが、この「フィガロ」は、彼のオペラ指揮の第1号として、まさに真価を問われる映像となるものと思われる。




       オーケストラ・ピットに指揮者佐渡裕が登場し、早速、威勢の良い序曲が開始されていた。伝統ある劇場でトリノ王立歌劇場管弦楽団の面々がクローズアップされて写されていたが、オペラの歌手陣が一人ひとり字幕で紹介されはじめ、序曲は続いているものの、オーケストラの映像がその都度途切れていた。紹介された人々で、知っている歌手は伯爵夫人のカルメラ・レミージョただ一人。しかし、佐渡の指揮振りはしっかりしており、軽快に流れて早くも第一曲の序奏に変わり、お城の一室らしい飾り気のない舞台が写しだされていた。




        映像も音声も生き生きとしているせいか、演奏も期待できそうで次第に浮き浮きした愉しい気分になり、舞台は大きな椅子のある広い物置風のモダンな部屋で、スザンナとフィガロが二重唱を歌いながら忙しく動いていた。そして新婚の日だと歌いながら二人はキスをしたり抱き合ったりしていたが、ベッドの話になって二人は急に対立。続く二重唱でスザンナが途中からドンドンと大声を上げて歌い、三歩で来れると聞いてフィガロもやっと気がつき、心配し始めた。話はバジリオや持参金の話になって次第に怒りだし、フォルテピアノとチェロの響きに誘導されピッチカートに乗って「伯爵さま」と伯爵の長靴を相手に、怒りのカヴァテイーナを歌い出し、それがとても元気がよく後半には適度な装飾をつけながら歌ったので拍手が沸いていた。ここまでは一気に進み、元気の良い可愛いバカノワのスザンアと、生きのいい若いバラッツイのフィガロのお似合いのコンビが楽しみな、始まりの三曲であった。




     入れ替わって洒落っ気のあるバルトロと若造りの太ったマルチェリーナが登場し、彼女のおだてに乗ってバルトロが「勝算あり」と力強く第4曲を歌って頼もしげ。そこへスザンナが現れたので、女二人はドアの前で「お先にどうぞ」と意地悪な早口の口論になり、お歳のことを攻めて若いスザンナの勝ちの二重唱になっていた。そこへ格好の良い背広姿のケルビーノが登場。スザンナから奥方のリボンを取り上げて、代わりにカンツオネッタを渡し、「自分で自分が分からない」と明るく第6番を歌い出した。最後はゆっくりと歌われ、伴奏も美しく良いアリアになっていた。





   スザンナが呆れているところへ堂々とした伯爵が登場し、彼女が一人と見て大胆に口説き出す。しかしバジリオの声が聞こえ、部屋に入ってきたのでさあ大変。伯爵も隠れて様子を見ていると、したり顔のバジリオがケルビーノの話から伯爵夫人の噂話をするので、驚いた伯爵が大声で立ち上がってしまい、思わぬ第7番の三重唱が始まった。スザンナが心配で気絶してしまうが、介抱する男二人の怪しげな手つきで油断も隙もない。直ぐ気を取り戻すが、そのうちにケルビーノが見付かって仕舞い、バジリオに「コシ・ファン・トッテ」と歌われて、スザンナには絶体絶命の三重唱であった。




   ケルビーノとスザンナが伯爵に攻められているところへ、突然に第8番の合唱が始まり、フィガロが大勢の村の人達と登場してきた。伯爵が権利放棄を讃えられて娘達から花束を贈られ、最初の恩恵を受けるとしてフィガロから純白のヴェールを渡されスザンナにと催促されるが、ずるい伯爵は謀られたことに気づいて時間をくれと席を立ってしまい、集まった村人達を怒らしていた。伯爵はケルビーノに罰として空席のある士官に任命したので、フィガロが気の進まぬケルビーノをからかって第10番のアリアを「もう飛ぶまいぞ」と歌い始め、やがては厳しい激励の行進曲となって、ケルビーノは皆に担ぎ上げられて退場し第一幕の終了となっていたが、お城の片隅でこの光景を心配そうに見ていたバルバリーナの姿が気になった。 佐渡裕の指揮振りは歯切れが良く、この行進曲も堂々と仕上げられて大変な拍手で第1幕が終了し、これからが楽しみであった。 

 


     休憩の後に第二幕が始まったが、舞台は第1幕の階段のある広い部屋で、伯爵夫人が子供たちと戯れながら登場し、実にゆっくりした美しいオーケストラの前奏が開始され、伯爵夫人がこれに合わせてゆっくりと「愛の神よ」と第11番のカヴァテイーナを感情を込めて歌い出した。子連れの伯爵夫人は珍しいが、まだ若いレミージョの豊かな表情と奥行きのある声がクローズアップで実に美しく、最高のアリアとなっていた。夫人がスザンナと伯爵のことでこぼしていると、フィガロが歌いながら元気に登場し、女二人を相手に伯爵を懲らしめる作戦を練り始めた。フィガロが手紙を書いてバジリオに手渡し、伯爵を怒らして、スザンナが伯爵と庭で逢い引きする約束をして、伯爵を懲らしめる作戦であったが、そのうちケルビーノを女装させる所が女二人の気に入った。フィガロが手紙する場面が新鮮で、「伯爵さま」と第三番のテーマを歌いながらご機嫌で退場していた。




   軍服姿のケルビーノが、早速、登場して、まずケルビーノがスザンナに催促されて、第12番のカンツオネッタを歌い出したが、何と伴奏は伯爵夫人のヴァイオリンのピッチカート。夫人の前で畏まって直立して歌うケルビーノの姿が面白く正調で歌われ、後半は装飾を入れて歌っていたが、夫人の伴奏が珍しく可笑しかった。続いてスザンナが着せ替えのアリアを歌い始め、ケルビーノは軍服や軍靴を脱がされ、夫人と二人掛かりで子供のように扱われ、スカート姿になって大騒ぎ。
  ケルビーノの腕に巻いたリボンが見つかって取り上げられたが、出征するのでリボンがどうしても欲しいとケルビーノに泣きつかれ、伯爵夫人と二人であわやとなった瞬間に、伯爵が大声でドアを叩いたのでさあ大変。




   ケルビーノを衣裳部屋に隠し、ドアの鍵を外した伯爵夫人。フィガロの手紙を見せられ、衣裳部屋で大きな音がして夫人は呆然となり、伯爵の「スザンナ、出てこい」で三重唱が始まった。疑心暗鬼で息巻く伯爵と当惑する夫人と身を隠しながらのスザンナの三重唱が続き、夫人が何とか頑張り通したので、伯爵は諦めて二人は道具を取りに外へ出た。その僅かな隙に、スザンナが「早く、早く」と第15番の二重唱を歌いながらケルビーノを連れ出すと、ケルビーノは見つかったら殺されると大慌てで、スザンナにキスをして窓から飛び降りて一目散。スザンナが代わりに衣裳部屋に入り、戻った伯爵が夫人との押し問答の末に、夫人はついに中にいるのはケルビーノだと白状してしまった。




   伯爵はまたも彼奴かと怒りだし「出てこい、悪戯者め」の伯爵の声で、長いフィナーレが始まった。彼を女装させていたと弁解しきりの伯爵夫人との二重唱の末に、おお怒りの伯爵がドアに向かうと、スザンナが「シニョーレ」と、そ知らぬ顔でドアから出てきたので、伯爵も夫人もビックリ仰天。平謝りの伯爵に、この時とばかりに懲らしめる女二人の長い三重唱が続いたが、伯爵が悪かったと赦しを請う可哀想な姿に夫人が折れた所へ、フィガロが突然現れた。しめたとばかりに喜んだ伯爵が、早速、手紙を取り出して、フィガロを追求し始めた。




    しかし負けず嫌いのフィガロは「知らぬ存ぜぬ」を繰り返し、四重唱に発展したが、ケンカ別れになりそうで音楽は次第に深刻になり、重音奏法が続いて大騒ぎとなり、伯爵との間であわやという場面になっていた。そこへアントニオが加わったので、何とも複雑な五重唱になり、フィガロが窓から飛び降りたまでは良かったが、ケルビーノが落とした辞令を巡って、フィガロが追い込まれていた。しかし、女二人の助けでアンサンブルの妙味が発揮され、フィガロはここでも何とか上手く切り抜けていた。




  またもフィガロに逃げられて伯爵が困惑していたところへ、マルチェリーナ・バルトロ・バジリオの三人が大声で駆けつけて、情勢は一変した。マルチェリーナが契約に従った結婚の実行を伯爵に訴えて、舞台は賑やかな七重唱になった。攻撃的なマルチェリーナ組に対し守勢に廻ったフィガロ組が大声を出すので、伯爵は「静まれ、静まれ」を繰り返し、見事なアンサンブルの七重唱が続いてフィナーレは頂点に達し、伯爵側が優勢なうちに見応えのある長い長い第二幕が終了していた。







   休憩の後に凄い拍手で佐渡裕が迎えられて、オーケストラ・ピットが写されて、第三幕が始まった。舞台は伯爵の部屋で、夫人と食事をした後に、正装の伯爵が机に座って可笑しなことが多いと考えごとをしていると、隣の部屋では伯爵夫人がスザンナに何やら指示をしていたが、やがてスザンナが伯爵のところに薬を取りに来て、しおらしく甘えて見せて第17番の二重唱が始まった。






伯爵が、早速、今宵庭で会おうとスザンナを口説きだすと、スザンナは頂戴するお金のことをちらつかせ、伯爵を焦らしながらイェスと言ったりノーと答えたりしながら逢い引きの約束を取り交わした。そして別れ際にフィガロに「弁護士なしでも訴訟に勝ったわよ」と漏らした言葉を伯爵に聞かれてしまい、伯爵は大怒り。そして伯爵は怒りの長いレチタティーヴォから自問自答の唯一の第18番のアリアを歌い出し、さらに召使いへの復讐のアリアへと発展させて、大拍手を浴びていた。






     場面が変わってドン・クルチオが伯爵の部屋でマルチェリーナとバルトロなど関係者が集まる中で裁定を下し、判決はフィガロが金を返すか、マルチェリーナと結婚するかのどちらかだと言うことになった。フィガロが一人反発して伯爵に控訴しようとするが多勢に無勢、俺は貴族の子で結婚には両親の同意が要ると喚いていた。親は何処だ、捨て子か、いや盗まれたのだ、証拠は、身につけた由緒あるもののほか腕にある刻印の絵文字が証拠だ、などと争っていたが、その手を見て、突然、マルチェリーナがラファエロだと大きな声を挙げて場面は一転した。







彼女はフィガロを抱きしめて「この抱擁で母親だと認めてくれ」と可笑しな第19番の六重唱が始まった。そこへスザンナがお金を持って登場し、抱き合っている二人を見てフィガロに平手打ちを食わせる一騒ぎがあったが、事情が分かってマードレ・パードレの和解の楽しい六重唱に発展していた。そして、最後には四人が残って、改めて何と幸せかと感謝しながら、元気よく「ここで二組の結婚式を挙げよう」と風向きがすっかり変わってしまっていた。




      場面が変わり舞台ではバルバリーナとケルビーノが登場して、人は何やら囁いていた。それから白いドレスがよく似合う伯爵夫人が登場し、召使いに手を借りる自らの情けない作戦にレチタティーヴォで自問自答しつつ、「あの美しいときは何処に」と回帰して語りかけるようにアンダンテで第20番のアリアを美しく歌い出した。そして後半のアレグロに入って伯爵の心を変えようとする願望から、変えてやろうとする決意の意気込みを歌っていた。従来の内気な夫人から、この決意に満ちた闘う夫人への変貌に拍手が湧き起こり、さすが歌も良く人気の高いレミージョの第一人者としての貫禄を感じさせた。
      伯爵夫人がスザンナから伯爵との約束を聞いて、場所はお庭の松の木の下と手紙しようと決意し、伯爵夫人がスザンナに手紙を書き取らせる第21番の「手紙の二重唱」が始まった。夫人の言葉をスザンナが繰り返して手紙に書くこの繰り返しの二重唱は何と美しいことか、いつもながら心に滲みる美しい二重唱であった。




続いて、村の娘達が結婚式を祝うために伯爵夫人に花束を持って合唱していたが、中にいた女装したケルビーノが夫人に花束を贈ろうとして、アントニオに見つかってしまい、さあ大変。伯爵がケルビーノを懲らしめようとすると、バルバリーナが伯爵の弱みをついて、ケルビーノとの結婚を許してくれと助けを求めていた。そこにフィガロが登場して伯爵と鉢合わせ。ケルビーノが二階から飛び降りたことを白状したので、伯爵はフィガロの嘘を責めようとして一瞬、険悪な状態になったが、折から始まった結婚式の行進曲に救われた。




        伯爵と伯爵夫人が席に着くと、村の二人の娘達の祝福の二重唱が始まり、二人の花嫁が順番に伯爵から白いヴェールを受けていたが、祝宴が始まって、スザンナは上手に手紙を伯爵に手渡していた。続いて二組の夫妻を中心に踊りの音楽となり、次第に盛り上がっていたが、手紙を読んでご機嫌の伯爵が、終わりに「今宵は盛大にやろう」と全員に挨拶して、第三幕は閉幕となっていた。


   続いて第四幕がそのまま開始され、バルバリーナが登場してピンがないかと第24番のカヴァテイーナを歌いながら、床の上を探していた。フィガロがマルチェリーナと駆けつけて、ピンを見つけた振りをしてバルバリーナから、松の木の下で伯爵とスザンナが逢い引きすることを嗅ぎ付けてカンカンになっていた。マルチェリーナが「何か裏がある」とフィガロの短慮をいましめていたが、残念ながら彼女のアリアは省略されていた。続いてフィガロが密会の現場を見張ろうとしているのを、バルトロやバジリオがなだめていたが、ここで歌われるバジリオも省略されていた。

そこでフィガロが、伴奏付きのレチタティーヴォでスザンナの裏切りを責め、続いて第27番のアリアを歌い出したが、「男たちよ、目を開け」と女性の裏切りを警告するアリアとなっており、名調子だったので拍手が沸いていた。続いてスザンナが、自分を疑っているフィガロをからかいながら歌う第28番の美しいアリアを歌い始めたが、実に美しい伴奏付きのレチタティーヴォに始まり、木管の美しいオブリガートとピッチカートの伴奏に乗って「私はここで待っています」と歌われる愛の賛歌であり、盛大な拍手とともにいよいよ最後のフィナーレに突入していた。

   スザンナに化けた伯爵夫人が松の木の下に登場すると、ケルビーノがスザンナだと思い込みまとわりついてしつこく離れない。そこへ伯爵が現れてケルビーノを追っ払い、やっと二人きりになった。そこで伯爵は、「手を貸してご覧」から始まってダイヤの指輪をプレゼントするまで、伯爵はサービスに努めて良い思いをしていた。しかし、フィガロが通行人の振りをして騒いだため、夫人のスザンナは逃げ出してしまった。



  伯爵が逃げたスザンナを見つけようとしていると、暗闇の中で伯爵夫人に化けたスザンナがフィガロに発見され、フィガロは声でスザンナと気づき、からかって平手打ちを食らってひと騒ぎ。そこへ伯爵の声がしたので、伯爵夫人とフィガロが密会をしているように見せかけていた。それを見て伯爵は、フィガロのお相手が伯爵夫人だとすっかり思い込み、驚いて大声を上げてしまい、全員が集まってしまっていた。




   「どうかお許し下さい」と大袈裟に許しを請う二人に対し、伯爵は絶対に許さないと強く言い張ってしまったが、そこへ後ろから伯爵夫人が現れたので、伯爵は初めて自分の間違いに気がつき、「奥よ、許してくれ」と膝をついて深々と頭を下げた。皆が見ているのを知って、奥方は「はい、と申します」と伯爵を素直に許したので、皆がやっと満足する結末となって、最後のアレグロでは、出演者10人全員が揃って一列に並んだ合唱で賑やかに幕切れとなっていた。素晴らしい感動的な幕切れが続いて、大変な拍手の中で、賑やかにカーテンコールが行なわれていた。指揮者の佐渡裕がレミージョに迎えられてカーテンコールに加わり、素晴らしい雰囲気の中でオペラが終了していた。




       このHPで初めて登場する人口およそ130万人の伝統あるトリノの王立歌劇場での「フィガロの結婚」は、佐渡裕の指揮の形で思いがけなく登場したが、舞台が終わっても熱狂的な観客と舞台上のカーテンコールのやり取りが長々と続いており、舞台の成功を歓迎するイタリアの地方都市のオペラ劇場のリアルな姿が映し出されていると感じられた。舞台が終わると凄い拍手責めになって、王宮の召使いや三人の子供たち、合唱団などを背景に、二人の村娘、アントニオ、バジリオ、バルバリーナ、マルチェリーナ、バルトロの順に挨拶をし、続いて、ケルビーノ、伯爵、伯爵夫人が出て来ると大騒ぎとなり、最後にフィガロとスザンナの順に繰り返し舞台で挨拶をしていた。そして伯爵夫人が佐渡裕を連れ出して、全員が一列になってご挨拶をし、最後にはフィガロが女流の演出家エレーナ・バルバリッチたちを連れ出して、カーテンコールを繰り返して、壮大な拍手と歓声に応える熱烈な幕切れとなっていた。




        この舞台を見た人は、日本からの初めての指揮者が、予想以上に歌手たちを上手くリードして、音楽的に満足感を与えていたと同時に、演出面でも伝統的な舞台や衣裳でありながら、動きが溌剌としており、舞台が目新しく新鮮な印象を各所で受けた結果として、全体として良くまとまったオペラに対する満足感を得たに相違ない。その功績は勿論舞台に参加した全員にあろうが、いわゆるグローバルな歌手はいなくとも、出演者たちのチームワークの良さが素晴らしく、地方都市の伝統あるオペラ劇場の良さをしみじみと感じさせた。これは日本のオペラライブでは得られない感覚のような気がする。

       この映像の魅力を挙げていくと、第一には最後の赦しの場面で、伯爵をヒザまずかせ、しっかりした言動ではらはら見ている全員を納得させた伯爵夫人の堂々たる姿であろうか。伯爵夫人のカルメラ・レミージョは、この場面で全体を圧する主役として存在感を見せていたほか、二つの優れたアリアに加えて、前半の気弱な内気な夫人から後半の夫を懲らしめる司令塔役の伯爵夫人にイメージが変貌しており、さすが目立った存在になっていた。 続いて好演していたのは、フィガロのバラッツイとスザンナのバカノワの息の合った若いコンビであり、冒頭の二つの二重唱に始まって第四幕の二人の二つのアリアやフィナーレの伯爵をからかう二人の芸に至るまで、実に魅力的に思った。
        また、このオペラを楽しくさせるには、伯爵、ケルビーノ、マルチェリーナ、バルトロ、バジリオ、バルバリーナなどにそれなりに人を得ていなければならないが、このような地方のオペラ舞台には適役が存在するようであり、彼らの登場を楽しみながら見ることが出来た。

          今回の伝統あるトリノの王立歌劇場らしさを感じさせたのは、ローソクで明りを灯す豪華なシャンデリアの存在であろうか。また、このためにローソクを灯したり消したりする召使いも多数必要なことを改めて教えてくれた。第4幕のフィナーレの中庭の劇が、このローソクの光の中で演じられていたのも、この劇場ならではの姿であろう。また、今回の舞台で、恐らく女流演出家エレーナ・バルバリッチの裁量による舞台や衣裳の肌理の細かさが至る所で気づかされたが、この舞台で初めてという場面も幾つかあり、新鮮さを覚えている。幾つか例示してみると、第1幕のフィナーレでケルビーノが兵隊服で皆に担がれて出発する場面、第2幕の冒頭で子連れの伯爵夫人に驚き、フィガロが自ら手紙を書くシーン、伯爵夫人がスザンナに変わって自らヴァイオリンでピッチカート伴奏するシーンで驚いた。第3幕の冒頭で伯爵と伯爵夫人が食事をしている場面も意外で、マルチェリーナがフィガロの右腕の刻印をはっきりと確認するシーンなど多数あり、目新しさを覚えた。

       終わりに、指揮者佐渡裕のヨーロッパにおけるオペラ・デビューは、これが初めての記録に残された映像であろうと思われるが、トリノ王立歌劇場管弦楽団に良く馴染んで、まずまずの出来映えのオペラを聴かせてくれた。彼は2015年9月からウイーンのトーンキュンストラー管弦楽団の音楽監督に就任しているが、非常に評判が良いようであり、つい最近、このポストの任期の延伸が発表されていたようである。クラシカ・ジャパンでは、日本人若手指揮者として、彼以外にも、山田和樹(モンテカルロ・フイル)、大野和士(バルセロナ響)などのヨーロッパでの活動に注目しており、期待したいと思う。

(以上)(2016/08/20)




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