(古いS-VHSより;ウイーン管楽ゾリステンのセレナードK.388&K.375)
16-8-1、ウイーン管楽ゾリステンによるセレナーデ(第12番)ハ短調K.388およびセレナーデ(第11番)変ホ長調K.375、
1994年7月5日、カザルス・ホール、お茶の水、
(演奏者)クラリネット;ペーター・シュミードル、ヨハン・ヒントラー、オーボエ;ゲルハルト・トウレチェク、ギュンター・ロレンツ、ファゴット;ミヒャエル・ウエルバ、ラインハルト・エールベルガ、ホルン;フランツ・ゼルナー、フリードリヒ・プファイファー、
(940924、NHKクラシック・アワーの放送をS-VHSテープ139.2に収録 )

−ウイーン管楽ゾリステンの面々は、さすがに鍛えられた名手揃いであり、中でも右端の第一クラリネットのシュミードルと左端の第一オーボエのトレチェクは、いつも全体をリードしており、一体感に満ちた演奏振りであった。このゾリステンのメンバーは、ウイーンフイルの現職だけあって、個々の技術力がしっかりしていることに加えて、和気藹々とした面もあり、それがアンサンブルが抜群である基になっていると思われた。シュミードルは、当時のウインナー・ホルンとウインナ・オーボエの音色は今でも引き継がれているわれわれ独自のものであり、ウイーンの伝統としてこれからも大切にしていきたいと語っていた−



(古いS-VHSより;ウイーン管楽ゾリステンのセレナードK.388&K.375)
16-8-1、ウイーン管楽ゾリステンによるセレナーデ(第12番)ハ短調K.388およびセレナーデ(第11番)変ホ長調K.375、1994年7月5日、カザルス・ホール、
(演奏者)クラリネット;ペーター・シュミードル、ヨハン・ヒントラー、オーボエ;ゲルハルト・トウレチェク、ギュンター・ロレンツ、ファゴット;ミヒャエル・ウエルバ、ラインハルト・エールベルガ、ホルン;フランツ・ゼルナー、フリードリヒ・プファイファー、
(940924、NHKクラシック・アワーの放送をS-VHSテープ139.2に収録 )


    これまでの毎月のソフト紹介は、新しいオペラと二つの古いテープのソフトで構成されていたが、このスタイルは8月には無理かと思っていたところに、7月に入って佐渡裕指揮のトリノ王立歌劇場のオペラ「フィガロの結婚」が、クラシカジャパンから突然に、「佐渡裕 in トリノ」と言う番組で放送された。そのため、8月号のオペラ部門は、この新しい映像を紹介することとし、従って第一曲目は、従来通り、古い二本のVHSのテープを利用することとした。従って、8月号のトップには、7月号に続いて同じテープから、ウイーン管楽ゾリステンによるセレナーデ(第12番)ハ短調K.388およびセレナーデ(第11番)変ホ長調K.375の2曲をアップしたい。この映像は、NHKのクラシック・アワーという番組で、古藤田京子の案内では、1994年7月5日のカザルス・ホールでのこのグループ8人の来日演奏と言うことであった。このウイーン管楽ゾリステンは、ウイーンフイルの管楽奏者(オーボエ、クラリネット、バスーン、ホルン)が二人づつ8人で構成されるいずれも現役(1994年)のメンバーであった。この放送番組は、二回に分けて行なわれていたが、同じテープに別々に収録されていたものを、今回はベートーヴェンの作品103をカットして、アンコール曲も含めて、3曲をアップロードすることにした。






      最初に演奏された木管セレナードハ短調(第12番)K.388は、唯一の短調のセレナードであり、オーボエ・クラリネット・ファゴット・ホルンの8本の管楽器により、アレグロ・アンダンテ・メヌエット・アレグロの4楽章の構成であった。最初の第一楽章アレグロの始まりは、ユニゾンのドミソで上昇する暗いイメージで始まり、幾つかの部分からなる第一主題が奏されるが、これはオーボエとクラリネットが奏でる部分とが交互に行なわれることによる。やがてオーボエが明るく第二主題を歌い出してホッとするが、途中からホルンも加わって厚みを増し、結尾主題が勢いを付けて提示部が終わっていた。ここで提示部を繰り返して、冒頭から元気よく始まっていたが、指揮者が不在でもオーボエとクラリネットのトップが常にリードして、素晴らしい勢いで提示部を終了していた。続いて第一主題の後半の音型を使った独特の展開部が始まるが、シンコペーションで進み、短いながらもハッとさせる迫力がある展開部となっていた。全休符の後に再現部が始まっていたが、この再現部は工夫が加わっており、主題にも旋律にも少しずつ変化が加わって、工夫の跡が見られていた。

    第二楽章は、クラリネットとファゴットで始まる牧歌的な感じののどかなアンダンテで始まり、続く第二主題もクラリネットで始まりオーボエで反復されて終始穏やかにゆっくりと進んでいた。反復記号のないソナタ形式か、形ばかりの短い展開部を経て、再現部はホルンにより第一主題が提示されていたが、第二主題は提示部同様に進んでいた。全体的にゆったりしており、穏やかで第一楽章の短調の緊張感を解きほぐすようなアンダンテ楽章であった。






      第三楽章は、カノン風メヌエットと表示されており、メヌエット部分が16小節もあり、主題がオーボエで始まり、ファゴットが一小節遅れてカノン風に進行する形で進んでいたが、中間部ではオーボエにクラリネットの分散和音が加わる形で進み、終結部は主題をクラリネット、オーボエそしてファゴットの順に奏されていた。トリオではオーボエとファゴットのみで奏され、4声がそれぞれ二小節遅れの反行カノンの形を取っていた。明るく澄んだ感じのするこのトリオは、前後で奏される響きの厚いメヌエットと好対照をなし、メヌエット・イン・カノンの表示が珍しかった。

 


     フィナーレは、この曲だけに見られる複雑な構造を持っており、全体の構造は、主題と変奏(第一〜第四)−中間部−主題回帰と推移部−終結部の変奏曲形式になっていた。第一部ではまず主題提示として、オーボエとファゴットにより明るく軽快に進むアレグロの主題が提示される。続いて第一変奏では、オーボエとクラリネットがユニゾンで力強く合奏される変奏から始まり、第二変奏では第一オーボエのソロで主題は三連符による変奏であった。第三変奏ではシンコペーション・主題が第二オーボエと第一ファゴットで示され、第四変奏では反復記号がなく、全楽器が八分音符で奏する部分と第一オーボエがトリルでファゴットが十六分音符のリズムを刻む変奏であった。
     中間部ではホルンの明るい和音が特徴であり、オーボエなど他の楽器に引き継がれても再びホルンに戻っていた。主題回帰と推移部では、二つのオーボエが交互に主題を回帰し、推移部ではシンコペーションのリズムが支配的であった。終結部はこの曲の仕上げのスピード感あるアレグロであり、激しく堂々と盛り上がりを見せて終結していた。まるでシンフォニーのフィナーレのように、各楽器が競って熱演が繰り広げられていた。




         ウイーン・ゾリステンの面々は、さすがに鍛えられた名手揃いであり、左からオーボエ、ホルン、ファゴット、クラリネットの順に座っていた。中でも右端の第一クラリネットのシュミードルは、皆を代表して語りを入れたり、後日ウイーンフイルの代表になるなどの実力者でもあり、顔と体型で直ぐ馴染める左端の第一オーボエのトレチェクとともに、いつも指揮者なしでも全体をリードしていて、一体感に満ちた演奏振りであった。このお互いに切磋琢磨しているゾリステンのメンバーは、個々の技術力がしっかりしていることに加えて、和気藹々とした面もあり、それがアンサンブルが抜群である基になっていると思われた。

     シュミードルは、別のインタビューで、当時の貴族がハイドン・モーツァルト・ベートーヴェンたちにウインド・アンサンブルの作曲を依頼しており、当時のウインナー・ホルンとウインナ・オーボエの音色は今でも引き継がれているわれわれ独自のものであり、ウイーンの伝統としてこれからも大切にしていきたいと語っていた。




      この曲はセレナードとしては珍しい短調で出来ているほか、余り例のない4楽章の構成であり、各楽章が弦楽四重奏のようにしっかりした形式や楽器の扱い方となっている。第一楽章の第一主題が長い珍しく多部分主題であったり、メヌエット楽章にカノンが用いられたり、フィナーレ楽章の凝った音形変奏の形式なども珍しく、いろいろな新しい試みが行なわれた曲であった。モーツァルトが、後年、この曲を自ら弦楽五重奏曲K.406(516b)に編曲したのも、故無きことではないと思われた。

      休憩の後、続いてベートーヴェンの八重奏曲変ホ長調作品103が演奏されていたが、ここでは触れない。そしてこの大曲のあとに、アンコールとして「魔笛」より第2番のパパゲーノのアリア「私は鳥刺し」が演奏されていた。この曲は、作曲した当時の仲間であったヨーゼフ・ハイデンライヒが編曲したものであり、良くお馴染みの行進曲風の民謡調のアリアで、オーボエが主題を奏で始め、クラリネットがこれを引き継いで繰り返していく楽しい曲であった。リートのように一番、二番と繰り返されてアンコールは終りとなっていたが、大拍手の中で映像は終了となり、素晴らしく盛り上がった異色のコンサートという印象が強かった。




        続いて第二の曲、木管セレナード(第11番)変ホ長調K.375となるが、この映像の演奏日の日付から考えると、この曲がこのコンサートの第一曲目であり、二曲目が最初のハ短調のセレナード、そして最後の曲がベートーヴェンの八重奏曲と考えられた。この曲は、軽快なアレグロ楽章、行進曲風な第一メヌエット、幻想的な静かなアダージョ、踊るような軽快な第二メヌエット、フィナーレの軽やかなアレグロ楽章と、特徴ある5つの楽章からなる典型的なセレナーデであり、終始明るい曲調が漲っていた。




        第一楽章のアレグロ・マエストーソでは、その名の通りトウッテイで重々しい行進曲風の主題で厳かに始まり、続いてクラリネットに引き継がれ、これにはファゴットが反応して軽快に進行する。やがて第二主題が明るくクラリネットで導かれ、オーボエが繰り返していくが、主旋律はいつもクラリネットが先で、追加されたオーボエは伴奏的な役割が多いように思われた。続いて第一クラリネットによる新しい主題が奏されたあとオーボエに渡され、再びクラリネットに渡されて主題提示部を終えていた、短い形ばかりの展開部のあとに、再現部が始まっていたが、ここでは始めの第一主題は同じだが第二主題の後半にはホルンが新たな主題を提示し、いろいろな楽器で変化を見せてからコーダで収束していた。




   第二楽章は第一メヌエットであり、まずトウッテイで行進曲風にしっかりと始まって、これにクラリネットが美しく綾を付ける単純なメヌエットで始まっていた。トリオではホルンとクラリネットの組合せで賑やかに始まり、いかにもハルモニー的なホルン中心のアンサンブルで楽しく軽快な響きがしており、再び、堂々としたメヌエットに戻っていた。
     第三楽章は幻想的なアダージョ楽章であり、第一クラリネットが美しい旋律を歌い出し、オーボエがこの歌を優しく引き継いで行き、続いてホルンも優雅に歌い始めて実に美しい展開を示す。次いで中間部では、ドルチェで第一クラリネットと第一ファゴットにより次の主題が優雅に現れ、オーボエなどいろいろな楽器が主題を回想的に歌い出し、実に幻想的な雰囲気をもたらしていた。再び、始めに戻って第一クラリネットが登場し、美しアダージョが再現され、最後はコーダで結ばれていた。オーボエがやっとこの楽章で存在感を示しており、素晴らしい楽章であった。




   第四楽章は第二のメヌエット楽章。軽やかなメヌエット主題が早めのテンポで第一クラリネットで始まってホルンに続き、ソロで弾むように提示されていた。トリオでは反対に全奏で穏やかなトーンを持っており、和やかに響いてから、再び踊るようなメヌエットに戻っていた。
    フィナーレはロンドと名付けられてはいないものの大まかにA-B-A-C-Aの形を取るアレグロ楽章である。明るく陽気なロンド主題がトウッテイの強奏で軽快にアレグロで始まり、いろいろと繰り返されながら新しい主題が次から次へと変化しながら登場していく。再びロンド主題が登場してから、第三の主題か、二本のオーボエ中心に歌われて快活に進行し、ハルモニー的な陽気で軽快な雰囲気を持ちながら最後にはロンド主題が顔を出してコーダで終了していた。モーツアルトらしい明るく爽やかなフィナーレ楽章であった。

  4楽章のハ短調セレナードK.388とは趣の異なる、本来の快活なセレナードであるが、自ら一年後にオーボエを追加することにより、表情の変化と深みを増しており、特にアダージョ楽章などはオーボエが見事な存在感を見せていた。この曲には、モーツァルトの父親宛の手紙に、良い曲を作ってくれたというハルモニー楽士達の喜びの声が伝えられており、先のアンコールで聴いたようなオペラのアリアの編曲ものを超えた本格的な管楽アンサンブルの曲がなかったので、好評であったのであろう。しかし、ハ短調のK.388のような深刻なシンフォニーのような曲が登場すると、彼らも戸惑ったに相違ない。シュミードルが語っていたが、当時の楽士たちは、ヴァイオリンと管楽器も同時に演奏したり、オーボエとフルートを持ち替えたりする能力があったと言い、セレナーデで演奏しながら行進したりする貴族たちに仕える楽士たちの姿を想像してみた。

       (以上)(2016/08/06)


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