(最新のBDオペラから;2005年マドリッド王立劇場の「ドン・ジョヴァンニ」)
16-4-3、ビクトル・パブロ・ペレス指揮ルイス・パスクワル演出によるオペラ「ドン・ジョヴァンニ」K.527、
王立劇場管弦楽団&合唱団、2005年10月8〜12日、マドリッド王立劇場におけるライブ収録、

− スペインの歌劇場の現代風の演出と聞いて心配しながら見始めていたが、戦前の高級乗用車の登場で驚かされた舞台は、背広姿や剣がピストルやナイフに微妙に変わっても直ぐ馴れて、キビキビと進む現代風の音楽と舞台に引き込まれていた。登場人物により貴族風の衣裳か庶民的な衣裳かが区別され、同時に高級車に乗る人と自転車で登場してくる人とが区別されていた。このパスクワル演出は、各所でスペイン風の特色を出しながら、余り細部の辻褄合わせにはこだわらない大らかな演出に見えた。出演者がイタリア人二人以外はスペインの歌手陣のせいもあって、ラテン系の明るいアバウトな舞台でありながら、音楽は手際が良くメリハリがあって、全体の筋はしっかりと弛緩なく進行していた−

(最新のBDオペラから;2005年マドリッド王立劇場の「ドン・ジョヴァンニ」)
16-4-3、ビクトル・パブロ・ペレス指揮ルイス・パスクワル演出によるオペラ「ドン・ジョヴァンニ」、王立劇場管弦楽団&合唱団、2005年10月8〜12日、マドリッド王立劇場におけるライブ収録、
(配役)ドン・ジョヴァンニ;カルロス・アルバレス、レポレロ;ロレンツオ・レガッツォ、騎士長;アルフレード・ライター、エルヴィーラ;ソニア・ガナッシ、オッターヴィオ;ホセ・ブロス、ドンナ・アンナ;マリア・バーヨ、ツエルリーナ;マリア・ホセ・モレーノ、マゼット;ホセ・アントニオ・ロペス、
(2015/11/13、タワーレコード新宿店でBDを購入、OpusArte OA BD7051D)

          4月分のソフト紹介の曲目選定は、オペラ部門では購入したばかりの、スペインのマドリッド王立劇場2005年のビクトル・パブロ・ペレス指揮ルイス・パスクワル演出によるオペラ「ドン・ジョヴァンニ」(輸入盤で日本語字幕なし)を取り上げることとした。この映像のアップにより、このオペラの手持ちの映像は全てアップロードが終わり、2012年に一度、全28組の映像の総括をしているが、これに最近アップした9組の映像を加えて、「フィガロの結婚」と同様に再度、総括が必要かと考えている。
この映像はいきなり高級な乗用車の運転席からブツブツ言いながら降りてくるレポレロが象徴しているが、このオペラのいわば故郷であるスペインの、戦前の1940年代のフランコ政権下スペインに時代が設定され、「ドン・ジョヴァンニ」に激動の時代の光と影を重ねて絶大な効果を狙った演出とされていた。主題役にこのHP で3度目のカルロス・アルバレスを当て、マリア・バーヨ、ホセ・ブロスらのスペインが誇る人気歌手に、レガッツォ、ガナッシのイタリア歌手が加わった強力なラテン系キャストにより、スペインならではの熱く濃い舞台が繰り広げられたたものとされている。




    映像では暗いオーケストラボックスに指揮者のビクトル・パブロ・ペレスが入場し挨拶を済ませると直ちに序曲が開始された。重苦しく暗い二つの和音が鳴り響いて序曲が開始され、映像はオーケストラの演奏風景を写し出していたが、直ぐに出演者などの字幕紹介があり、やがて早いテンポの弦が第一主題を奏で始めると、軽快に序曲が流れ始めだした。フルートやオーボエが写され、賑やかに小気味よく序曲が進行していた。映像はオーケストラの序曲の演奏を最後まで写し続け、序曲が終わると直ぐに幕が開き、第一曲目の序奏が始まっていたが、Yシャツに吊りズボン姿のレポレロが乗用車の前で、ふて腐れたように歌い出していた。




       そこへナイフを手にした若い女性と、黒メガネの背広姿の大男が登場し、車の前で大きな声でもみ合いとなり、女が組み敷かれて大声を出してもがいていると、「娘を離せ」と白髪であるが騎士長姿の老人が駆けつけてきた。そして老人が「決闘だ」と刀を抜いて近づいて来て、ナイフを手にしたドン・ジョヴァンニと斬り合いを始めたが、老人は呆気なく倒れてしまい、ドン・ジョヴァンニのナイフの餌食になり、苦しみながら横になってしまった。老人はそのまま息を引き取ったので、二人は車でこそこそと逃げ出してしまっていた。




          そこへガウンを覆ったドンナ・アンナと、堂々と騎士の姿をしたオッターヴィオを先頭に部下たちが駆けつけるが、ドンナ・アンナは父の死を見て気を失ってしまった。オッターヴィオが抱き起こしているうちに、ドンナ・アンナが気がつくと、直ぐに立ち上がって大きな声でアリアを歌い出した。そして父の血を見ると「父の血に賭けて復讐を」とオッターヴィオに迫って、早いテンポの二重唱となり、二人は激しく歌い合って気丈なドンナ・アンナはオッターヴィオに父の復讐を誓わせていた。




         場面が変わってレポレロが黒い背広の伊達男風のドン・ジョヴァンニに忠告しようとして二人が言い争いとなっていたが、うんざりしたドン・ジョヴァンニが、「しつ、女の匂いがする」と立ち上がった。すると場面が変わって、売春宿のようなところで写真を手にした若い女が「この男を知らないか」と尋ね歩いていた。この様子はいかにもスペイン風で、初めて目にする演出。ドン・ジョヴァンニとレポレロの男二人が彼女を追っていると、「あのひどい男はどこかしら」と早口のアリアを歌い出し、「見つけたら心臓をえぐってやる」などと物騒なことを歌っていた。男二人が後ろから「お嬢さん」と優しく声を掛けると、振り向いた女性は何と捨てた女のドンナ・エルヴィーラで、ドン・ジョヴァンニにもの凄い勢いで怨み辛みを一方的にまくし立てるので、「この女はやばい」とレポレロにまかせて逃げ出してしまった。




レポレロは「あんな男はほっておきなさい」「これがあの男が手掛けた女のカタログですよ」とエルヴィーラを慰めながら「カタログの歌」を朗々と歌い出した。何も知らぬ彼女はビックリして温和しくなり、スペインでは1003人と言われて驚いて、椅子に座ってカタログをチェックしはじめた。途中からテンポが変わりレポレロが調子よくスカートをはいてさえいればと歌うと、彼女はあきれ果ててレポレロを追い払い、ドン・ジョヴァンニの裏切りに復讐を決意していた。





     そこへ大勢の賑やかな若者たちが登場し、「恋をしよう」と純白の結婚スタイルの二人を中心にはしゃぎ廻っていた。そこへドン・ジョヴァンニとレポレロが登場し、花嫁のツエルリーナに目を付けたドン・ジョヴァンニが面倒を見ようと持ちかけ、二人切りになろうとした。花婿のマゼットが怒り出すと、ツエルリーナは騎士さまが守ってくれると大人ぶり、ドン・ジョヴァンニがナイフをちらつかせてマゼットを威嚇したので、マゼットは「分かりましたよ」とアリアを歌いながらツエルリーナに散々当たり散らしていた。






やっと二人きりになれたとドン・ジョヴァンニが「田舎娘で終わるのは勿体ない」などとツエルリーナを口説きだし、「手に手を取って」と甘い声で二重唱を歌い出した。ツエルリーナも「こわいわ」と言いながら二重唱を歌いながら、甘い言葉に酔ったように彼女は次第に駄目になり、アンデイアーノの歌声とともに「行きましょう」と抱き合ってしまっていた。そこへ「お待ちなさい」とエルヴィーラが、突然、二人の間に割り込んできた。そして「遊びだ」と答えたドン・ジョヴァンニに怒りだし、「この裏切り者から逃げなさい」と激しく歌い出した。ツエルリーナもエルヴィーラの剣幕に驚いて、二人は手を繋いで逃げ出してしまった。






    ドン・ジョヴァンニが「今日はついていない」とぼやいていると、そこへ喪服姿のドンナ・アンナとオッターヴィオが登場し、ドンナ・アンナがドン・ジョヴァンニに助けてくれと頼んでいた。話を聞こうとドン・ジョヴァンニが身を乗り出したところへ、またもエルヴィーラが現れて「この人を信じてはなりません」と歌い出した。二人はエルヴィーラの気品ある態度に驚いていたが、ドン・ジョヴァンニが彼女は気がおかしいと言い出して、四重唱に発展していた。エルヴィーラが治まらないので、ドン・ジョヴァンニが「彼女をなだめてきます」と言って、「アミーチ・アデイーオ」と別れを告げ、二人から立ち去ったとき、ドンナ・アンナは不意に「死にそうよ」と声を挙げた。彼女は「彼が父を殺した犯人だ」と言って、真剣な面持ちでアッコンパニアートで、激しく彼女が襲われたときの事情をオッターヴィオに説明し始めた。








驚くオッターヴィオに対し「これで分かったでしょう」とアリアを歌い出し、やがてオッターヴィオに父の仇をと激しく復讐を依頼していた。素晴らしいアリアで拍手が沸いていたが、オッターヴィオはあの騎士がと信じられない様子。しかし、「彼女が安らぐのなら、私の心も安らぐ」とウイーン追加曲のオッターヴィオのアリア(第10a曲)を歌い、これが本日、彼の最高のアリアとなって大きな拍手を浴びていた。






         場面が変わってレポレロが「何としても旦那から暇をもらおう」と言いながら登場し、ドン・ジョヴァンニに任されたマゼット一行との件を報告すると、全てがお気に入りのブラボーとなり、エルヴィーラを追放したと話をすると大喜びをし「酔いが覚めないうちにパーテイだ」とご機嫌で「シャンペンのアリア」を歌い出した。格好の良い姿で歌うこのアリアには「明日の朝には10人もリストに加わるぞ」というセリフもあって、その元気の良さには驚かされ、客席が大喜びであった。一方、ツエルリーナは怒らしたマゼットのご機嫌直しに精一杯。不機嫌なマゼットに寄りすがって、お尻を突き出して「ぶってよマゼット」とアリアを歌い出し、お色気責めでマゼットの機嫌を直そうと頑張っていた。






    第一幕のフィナーレは、ドン・ジョヴァンニの「パーテイの用意だ」の声で始まり、その声を聞いてツエルリーナがマゼットと二重唱で喧嘩しながら隠れようとしていた。そこへ大勢の人々が集まってきてパーテイが始まっていた。しかし、ツエルリーナはドン・ジョヴァンニに直ぐ見つかってしまい、早速、口説かれて危なくなっていたが、マゼットが見張っており、三人が顔を合わせてしまったので、ドン・ジョヴァンニは手出しが出来なかった。そこへマスクを手にして正装のエルヴィーラ、ドンナ・アンナ、オッターヴィオの三人が、ドン・ジョヴァンニの素行を曝こうと決意を固めて登場した。レポレロの報告を聞いてパーテイへの参加が認められ、三人は勇気を振り絞って「正義の神よ、許し給え」と祈っていたが、これはこのフィナーレの華となる見事な美しい三重唱であった。




    軽快な音楽に変わり大勢が集まってパーテイが開始されていたが、そこへ三人の貴族風の客人が現れたので、「皆さんどうぞ」と歓迎され、ドン・ジョヴァンニが大声で全員に「自由万歳」と歌って歓迎していた。そして「音楽を始めよ」の一声で優雅なメヌエットが始まって、ドン・ジョヴァンニとツエルリーナが踊りだし、レポレロは命令でマゼットを踊らせようと苦労していた。周りでも大勢が踊り出し、ツエルリーナも踊りに夢中になって、三人の客人たちが心配しながら踊っていたが、音楽は次第に佳境に入り出していた。




その最中に遠くからツエルリーナの悲鳴が聞こえてきて、会場は騒然となっていたが、彼女が逃げてきたので一安心した所へ、ドン・ジョヴァンンニがレポレロにナイフを突きつけて「こいつが犯人だ」と大声で攻めていた。それを見ていた三人の客人たちが「もう騙されないぞ」と、ドン・ジョヴァンニを順番に「裏切り者」と大声で責めだしたので、さすがのドン・ジョヴァンニも多勢に無勢、逃げられないと観念して降参していた。そのうちに音楽のテンポが変わり、ドン・ジョヴァンニは頭が混乱してきて訳が分からなくなったと言って、強がりを言いながらもコソコソとその場を逃げ出して、長いフィナーレが終了していた。







     第二幕に入って、レポレロがもう嫌だとドン・ジョヴァンニに食って掛かる激しい二重唱で始まって、これで二人は別れたかと思いきや、ドン・ジョヴァンニがご機嫌を取って紙幣を4枚差し出すと、レポレロはこれで簡単に仲直り。しかもエルヴィーラの召使いを狙うドン・ジョヴァンニと帽子や服装まで取り替えてしまっていた。そこへエルヴィーラが二階の窓から顔を見せて登場し「今宵は胸が高鳴る」などと歌っていたが、ドン・ジョヴァンニが「理想の女よ、許してくれ」と三重唱が始まり、信じないなら自殺すると歌っていた。信じやすく人の良いエルヴィーラは、わざわざ高いところから降りてきて、変装したレポレロをドン・ジョヴァンニと信じ込んで抱き合ってしまっていた。





こうなると二人の作戦は成功し、ドン・ジョヴァンニの大声でエルヴィーラとレポレロのにわかアベックは驚いて何処かへ逃げ去ってしまっていた。
        一人になったドン・ジョヴァンニは、エルヴィーラの召使いがいる二階の窓を目当てに、何と高級車の上に座って「窓辺に来ておくれ、愛しい人よ」とカンツオネッタを高々と歌い出した。美しいマンドリンの伴奏で声も良く通り、真剣に歌っていたが、彼女の姿が二階の窓に現れた時には、辺りは急に騒々しくなっていた。




それは鉄砲を持って自転車に乗ったマゼット一行が駆けつけて、怪しい人影を見つけて騒ぎ出していたからだった。ドン・ジョヴァンニは、直ちにレポレロに成り済まして、烏合の衆の隙だらけの一行に接近し、「半分はこちら」とアリアを歌いながら一行を導いて、マゼットひとりを残して追い払っていた。そして、マゼットの武器を確認してから、いきなり鉄砲でマゼットを半殺しの目に遭わせて逃げてしまった。マゼットの悲鳴を聞きつけてツエルリーナが自転車に乗って登場し、倒れているマゼットを抱き起こしていた。私が直してあげるわと語りながら「薬屋の歌」の有名なアリアを歌って大サービス。途中でテンポが変わってドキドキと弾む音楽に合わせて色気タップリのサービスをしてマゼットを元気にさせてしまっていた。




     場面が変わって逃げてきたレポレロとエルヴィーラが登場し、彼女が「暗いところにいると死にそう」と歌い出してレポレロとの二重唱が始まった。そこへ喪服姿のドンナ・アンナとオッターヴィオが父の葬儀の人たちと一緒に現れて、二人は父の死を嘆いていたが、レポレロが二人にぶつかりそうになり逃げ出すと、近くにいたマゼットとツエルリーナに出合ってしまい、ピストルや銃を向けられて、怪しい姿のレポレロは結局、4人に捕まってしまった。オッターヴィオがドン・ジョヴァンニと勘違いしピストルを向け、エルヴィーラが私の夫ですと必死に庇っていたが、4人はいきり立って許さない。そこでレポレロは正体を現して帽子を取りサングラスを外して洋服を脱いで顔を見せると、エルヴィーラはメガネをかけて確かめビックリ仰天していた。そこでレポレロが驚いている皆に平謝りする六重唱に発展して、長大な六重唱が続いていた。終わるとそこで「マゼットを酷い目に遭わせたのはあんたね」とツエルリーナがいきり立ち、エルヴィーラが「よくも私を騙したわね」と怒りだしたので、レポレロは一人ひとりに丁寧に「どうかお慈悲を」と早口のアリアで歌い出し、皆の隙を見て脱兎のごとく逃げ出してしまっていた。




残されたオッターヴィオは、レチタテイーヴォで犯人はこれでドン・ジョヴァンニだと分かったと言い、これから当局に行ってくるので、「その間に私の恋人を慰めてくれ」とマゼット二人とエルヴィーラに歌い出した。このアリアはウイーン版では削除されたものであるが、オッターヴィオの優しい心情と勇気のある決意を歌ったアリアで、終始堂々とよい出来で歌われて会場から拍手をもらっていた。一方、ウイーン版で追加されたエルヴィーラのレチタテーヴォとアリア(第21曲b)も歌われており、「あの人は何と恐ろしい罪を犯したのか」と歌い始め、アリアでは「彼に裏切られたけれど、彼を憐れに思う」と動揺した気持ちを歌って、やはり大変な拍手をもらっていた。






    月明かりの墓場の場面では、ドン・ジョヴァンニが「殺されるところだった」と駆けつけたレポレロを大きな声でからかって大笑いしていると、「その声も今宵限りだ」と大きな声が聞こえてきた。誰だと驚く二人が辺りを見渡すと、どうやらそれは馬に乗った騎士長の石像から聞えてくるようだった。ドン・ジョヴァンニがレポレロに命じて石碑を読ませると、騎士長が復讐のためここに待つとあった。ドン・ジョヴァンニは馬鹿にして、レポレロに食事に招待すると言わせたところ、レポレロはこうして頷いたという。レポレロに任せておけずドン・ジョヴァンニが大きな声で「来るか」と尋ねると、「行こう」という返事が戻ってきた。二人はおかしなことが起こるものだと驚いて怖くなり、食事の準備をしようとコソコソと逃げ出してしまっていた。






           そこへドンナ・アンナとオッターヴィオが登場し、父の死ばかりで自分のことを思ってくれないドンナ・アンアに「つれない人だ」とぼやいたところ、彼女は私だって辛いのよとアッコンパニアートで激しく答えて、私の信念を揺るがせないでと語りながら「だから言わないでね」とアリアを歌い出していた。このアリアは、ドンナ・アンナの素晴らしいコロラチューラのアリアを聴かせるもので、会場からは沢山の拍手をもらっていた。







    フィナーレに入って軽快な音楽とともにドン・ジョヴァンニがテーブルの傍にやって来て、「食事の用意は出来たか」と歌いながら登場し、レポレロがワインやグラスを運んでいた。音楽が「コサ・ラーラ」に変わると食事が運ばれてきてドン・ジョヴァンニは上機嫌。食事が始まって、レポレロがワインのボトルを開け、旦那の食欲に驚いているうちにサルテイの「喧嘩する人」に音楽が変わった。ドン・ジョヴァンニはワインのグラスを手にしてマルツイミーノ酒は素晴らしいと上機嫌で、つまみ食いをするレポレロを見て見ぬふり。しかし、「フィガロ」に音楽が変わると、音楽に合わせてレポレロと呼びつけ「何かしゃべろ、口笛を吹け」と無理難題。レポレロが四苦八苦していると、そこへエルヴィーラが突然飛び込んできた。彼女は食事をしているドン・ジョヴァンニに「生活を変えろ」ときつく言うが相手にされずに、反対に「女万歳」、「ワインに乾杯」とからかわれ、エルヴィーラは呆れ果てて立ち去ってしまったが、入口で大きな悲鳴を上げていた。何事かとレポレロも見に行ったがこれも大声を上げて「石像が」と震えて声が出なかった。




     ドン・ジョヴァンニが自分の目で確かめようとすると、突然、大音響とともに馬に乗った騎士長が突然現れて、「来たぞ」と大声を上げ序曲の冒頭部分がゆっくりと始まっていた。そして「良く聞け」と語る騎士長と震え声のレポレロとの三重唱となって「今度はお前の番だ。私のところに食事に来るか」と叫んでいた。ドン・ジョヴァンニはレポレロの言葉に反して、「決意したぞ、行こう」と答えると、約束の証に握手をしようと言われ、握手をした途端に大声を上げて苦しみ出した。




騎士長は苦しむドン・ジョヴァンニに「悔い改めよ」と何回も繰り返したが、ドン・ジョヴァンニはその都度「いやだ」とはねのけていた。時間がなくなって騎士長はもがき苦しむドン・ジョヴァンニを馬上に引き上げて座らせ、苦痛に喘ぐドン・ジョヴァンニを締め上げていた。そして合唱の高まりと異様な騒音の中でドン・ジョヴァンニは馬上でもがきだし、七転八倒の苦しみと断末魔の悲鳴を上げながら騎士長とともに空間のどこかに立ち去ってしまっていた。








          舞台は一瞬のうちに元に戻り、6人による六重唱が歌い出されていた。 レポレロがみんなに、ドン・ジョヴァンニが騎士長に復讐されて、どこかに連れ去られててしまったと説明していたが、驚いたみんなは誰も信じない様子。オッターヴィオがしつこくドンナ・アンナに迫ると「もう1年待って」というつれない返事の二重唱の後、一人ひとりがこれからの行き先を決めていた。音楽が変わって「悪人は必ずこの通り滅びてしまう」という早いテンポの六重唱に変わり、舞台ではバラバラの6人が一列に肩を組んで盛り上がりを見せて歌いながら終幕となっていた。画面には広場に集まった大群衆により新しい時代が歓迎される群衆の様子が写されていたが、演出者の解説では、1940年代のスペイン内戦が終わり、フランコ将軍の時代が始まろうとする時の劇的な場面が白黒の背景画として使われていた。

         スペインの歌劇場の現代物の演出と聞いて心配しながら見始めていたが、戦前の高級乗用車の登場で驚かされた舞台は、背広姿には直ぐ馴れて、キビキビと進む現代風の舞台に引き込まれていた。登場人物により貴族風の衣裳か庶民的な衣裳かが区別され、同時に高級車に乗る人と自転車で登場してくる人とを区別していた。剣がピストルやナイフに微妙に変わっても、ごく自然な現代風への変わりようであった。このパスクワル演出は、各所でスペイン風の特色を出しながら、余り細部の辻褄合わせにはこだわらない大らかな演出に見えた。出演者がイタリア人二人以外はスペインの歌手陣のせいもあって、ラテン系の明るいアバウトな舞台でありながら、全体の筋はしっかりしていた。

この舞台で難しいのは、第二幕のお墓の場面での騎士長の描き方であるが、ここでは馬に乗った巨大な騎士長の石像の姿をイメージした像を登場させていたが、騎士長が頷く場面はリブレットとの矛盾が大きすぎて、この抽象化に成功したとは思えなかった。また、フィナーレの馬上の騎士長の石像とドン・ジョヴァンニとの対決は、お互いに堂々としてまずまずと思われたが、ドン・ジョヴァンニを馬上に載せて苦しめる演出は初めてであったが、やはり地獄落ちの場面などはリブレットとの矛盾が生じて余り感心しなかった。しかし、このオペラをよく知っている人には、細部にこだわらなければ見過ごしてしまうまずまずの演出であろうと思われた。これら両場面ともに、画像が暗すぎ、字幕が最小限の上、英語翻訳も難解であり、字幕に合った良い写真が撮れず説明不足になっているが、お許しいただきたいと思う。

          指揮者のパブロ・ペレスの指揮振りは、音楽が生き生きとしており、ここぞと言うときにメリハリもあり、キビキビとしたテンポで進行していたが、この現代風の舞台としては、正統的な音楽の進め方であった。初演時のプラハ版をベースにして、ウイーン追加曲(10aおよび21b)を加える「ごちゃ混ぜ版」であったが、これは人気のある歌手たちを立てるやり方であり、これは指揮者と演出者の意図であったろうと思われる。

歌手陣では、このオペラではドン・ジョヴァンニを演ずるアルバレス以外は、全員がこのHPで初めての人々であった。アルバレスは、さすがスペインを代表する歌手だけあって貫禄充分であり、「シャンペンの歌」や美しいマンドリン伴奏で歌うカンツオネッタが素晴らしく、最後の地獄落ちの場面でも騎士長に位負けせずに堂々と渡り合い、非常に印象的であった。また、レポレロ役のロレンツオ・レガッツォは、アルバレスと対等に頑張っており、イタリア人らしい剽軽な仕草が目立っており、この二人が特に傑出していた。また、ドン・オッターヴィオのホセ・ブロスもスペインを代表する人気歌手のようであるが、通常は腰が軽い人物として描かれるが、この演出では堂々たる人物に描いているようで、歌唱力もあり存在感がひときわ目立っていた。三人の女性役も三人三様でまずまずの出来であったが、ドンナ・アンナがやや線が細く今ひとつの出来であったと言えよう。


(以上)(2016/04/23)



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