(古いS-VHSより;ズーカーマン・プレイズ・モーツァルトK.373、218&201)
16-4-2、ピンカス・ズーカーマンのヴァイオリンと指揮、イギリス室内管弦楽団によるロンドハ長調K.373、ヴァイオリン協奏曲第4番ニ長調K.218、および交響曲第29番イ長調K.201、
1999、ヘラクレス・ホール、ミュンヘン、

−今回のズーカーマンの指揮とヴァイオリンによるヴァイオリン協奏曲第4番ニ長調K.218の映像を見ていると、形にとらわれない生き生きした自由な演奏をしており、特にこのフィナーレなどの型破りな面のある部分の演奏が、実に良く似合っており、とても面白いと思った。また、交響曲第29番イ長調K.201においても、やや大まかな感じのアバウトな演奏であったが、テンポ感が良いのですんなりと受け入れられ、良くまとまったまずまずの演奏であると感じた。今回の「ズーカーマン・プレイズ・モーツァルト」は古い映像であったが、イギリス室内楽団の好演もあって、なかなか趣味の良い味のある映像であった−

(古いS-VHSより;ズーカーマン・プレイズ・モーツァルトK.373、218&201)
16-4-2、ピンカス・ズーカーマンのヴァイオリンと指揮、イギリス室内管弦楽団によるロンドハ長調K.373、ヴァイオリン協奏曲第4番ニ長調K.218、および交響曲第24番イ長調K.201、
1999、ヘラクレス・ホール、ミュンヘン、
(991210、CS736CJの放送をS-VHS-325.3に収録)

           4月号の協奏曲部門では、ヴァイオリン協奏曲の未アップの演奏が多いので、今回は「ピンカス・ズーカーマン・プレイズ・モーツァルト」と言う名前のついたドキュメンタリーをかねた映像から3曲の映像をお届けするもので、ズーカーマンがヴァイオリンと指揮を兼ねたイギリス室内管弦楽団との演奏である。映像では、始めにリハーサルの風景とズーカーマンの語りで始まり、第一曲はズーカーマンのヴァイオリンと指揮で、ロンドハ長調K.373、第二曲はヴァイオリン協奏曲第4番ニ長調K.218、そして最後にはズーカーマンの指揮で交響曲第29番イ長調K.201が演奏されていた。
          映像は1970年代の映像初期のものと思われ、画面が非常に暗い映像で音質も良くないが、バレンボイムやデユプレなどとイギリスで協演していた時代のイギリス室内楽団との組合せは、ズーカーマンのモーツァルト好きな意欲が感じられる演奏であり、指揮をするために取り上げた交響曲第29番も心ある指揮者が取り上げる名作であったので、期待したいと思われた。




         この映像は、ミュンヘンのレジデンツ宮殿の中庭に一台の大型バスが到着した映像から始まり、オーケストラの面々がヘラクレス・ホールに到着したことを告げ、ズーカーマンの英語での語りで、オーケストラとのヴァイオリン協奏曲第4番のレハーサルの様子で始まっていた。このコンサートは、どうやら、イギリス室内管弦楽団の恒例のヨーロッパ・コンサートの1つのようであった。やがて、全員が舞台衣裳になり、チューニングをしている映像となって、ズーカーマンの指揮で第一曲のロンドハ長調K.373が始まろうとしていた。
このロンドハ長調は、ミュンヘンで「イドメネオ」K.366を初演した後に、大司教のコロレドにウイーンに来いと呼び出され、ウイーン滞在中に書かれたとされており、この曲の草稿には「ウイーン、1781年4月2日」と書かれていたと言われる。4月8日付けの父宛の手紙には、「ブルネッテイのために作曲した協奏曲のロンド」ほか3つの新作をコロレド邸の夜会で演奏したと書かれていたが、この時期はモーツァルトにとってウイーンで新しいことが始まる重要な時期であった。




    最初の曲はロンドの名の通りロンド形式で、A-B-A-C-A-B-Aの基本にほぼ沿った形でまとめられた個性の溢れた親しみやすい曲で、協奏曲のためのソロとトウッテイの明確な区分が記述され、最後にカデンツアがはめられるように作られていた。映像はズーカーマンのソロで、いきなり優雅な歌謡的なロンド主題が踊るようなリズムで独奏ヴァイオリンによってまず提示され、全奏で繰り返された後、再びソロとトウッテイでこの主題が現れた。続いて16部音符を主体にした軽やかな第一クープレが独奏ヴァイオリンによって提示され、ズーカーマンの技巧的なパッセージが続き、ソリストとしての存在感を示していた。そしてそのままトウッテイでロンド主題が現れてから、続いて第二クープレに突入していたが、独奏ヴァイオリンにより歌うようにソロで明るく提示され、後半にはピッチカートの伴奏でソロが変奏を重ねてから、再びロンド主題が現れていた。ここでズーカーマンは、短い技巧的なカデンツアを奏してから、独奏ヴァイオリンの回想するようなロンド主題の提示で華麗に終結していた。ズーカーマンは、指揮をするときは、ヴァイオリンを左手に、弓を右手に持って、身体を自由に動かしながら気ままに指揮をしており、オーケストラも心得たようにまずまずのアンサンブルを見せていた。




         このコンサートの第二曲目は、ズーカーマンの指揮とヴァイオリン・ソロによるヴァイオリン協奏曲第四番ニ長調K.218であり、映像ではオーケストラを前にしてヴァイオリンを左手に持ったズーカーマンの姿が写し出され、彼の右手の弓を左手に持ち替えて、空いた右手の動きで第一楽章が始まっていた。威勢のよい軍隊的なリズムを持った第一主題のアレグロが、オーケストラのトウッテイで開始され、続いて第一ヴァイオリンが弱奏で特徴ある第二主題を提示しオーボエによって繰り返されて行き、やがてオーケストラにより提示部が終息していた。



          そこで独奏ヴァイオリンのズーカーマンが、満を持したようにオクターブ高い第一主題を弾き始めて、早速、丁寧に主題の繰り返しを行ってから、新しい主題を走句のように弾き進み、さすがと思わせる技巧を見せながら勢い良く走り出していた。彼のヴァイオリンの姿勢はオーケストラと一体となりながら優位性を誇示するタイプであり、思うがままに指揮者を兼ねて自由な姿で曲が進行しているように見えた。やがて途中で起伏のある第二主題も、独奏ヴァイオリンで示されてから、ズーカーマンはオーケストラと暫く一人芝居のような掛け合いを見せながら主題を発展させ、次第に盛り上がりながら提示部を終えていた。
          独奏ヴァイオリンの勢いは展開部に入っても変わらずに、コーダの音形がオーケストラを相手に激しく揺れ動きを見せていた。再現部でも軍隊風の威勢の良いリズムが現れ、主題提示の順序が異なるものの独奏ヴァイオリンの華やかな走句が続いていた。最後のカデンツアはズーカーマンのオリジナルで、第二主題の音形や堂々とした軍隊調のリズムを取り入れて技巧的にまとめており、ゆとりと余裕に満ちた弾き方をしていた。




            第二楽章ではオーケストラの前奏で、アンダンテ・カンタービレで第一ヴァイオリンと木管が奏でる美しい穏やかな主題で始まってから、ズーカーマンの独奏ヴァイオリンが、1オクターブ高く優しく繰り返していた。続けてソロが新しい穏やかで美しい副主題を弾き始めていたが、その後は独奏ヴァイオリンが終始先頭に立ちこの楽章をリードしていた。やがて和やかなムードになった後に、再びソロがヴァイオリンのスタッカートを伴奏にした踊るような軽やかなエピソードを弾き出してオーケストラと協演し第一部を美しく締めくくっていた。第二部では最初からズーカーマンの独奏ヴァイオリンが、まるで一人舞台のように弾き進み、全体を明るく繰り返しており、実に美しい優美な楽章になっていた。カデンツアは冒頭主題やスタッカートの主題が回想風に現れるオリジナルな物を弾いてから、穏やかにコーダに繋がりさり気なく終わっていた。




          フィナーレは第3番と同様にフランス風のロンドーと書かれた楽章であるが、モーツァルトの気まぐれが始まったかのような形式の楽章。アンダンテ・グラツイオーソで独奏ヴァイオリンによるロンド主題で軽やかにゆっくりと始まり、オーケストラとソロとに引き継がれてフェルマータとなった。するとアレグロ・マ・ノン・トロッポの表示になり、テンポと感覚ががらりと異なって独奏ヴァイオリンがスタッカートと装飾音を持つて軽快な主題を提示して繰り返して行き、さらに独奏ヴァイオリンが新しい主題をいくつか提示して、ズーカーマンのまるで一人舞台のようになっていた。再びアンダンテ・グラツイオーソのゆっくりした先のロンド主題に戻り、フェルマータの後に先に出てきたアレグロ・マ・ノン・トロッポに変わって華やかに進行していた。しかし、途中からフェルマータの後にアンダンテ・グラツイオーソの表示になり、全く突然に、新しい別の主題が独奏ヴァイオリンにより提示され、さらにこれも新しいヴァイオリン・ソロの重奏和音のエピソードなどが現れてビックリさせた。再び当初のアンダンテ・グラツイオーソによるロンド主題が現れてホッとしたが、モーツァルトの主題の豊かさがこのような意外性を生み出す例のようであった。カデンツアの部分で短い技巧的なフレーズを高らかに弾いてから、最後に4回目であるが、再びアンダンテ・グラツイオーソが現れて終結していたが、さり気ない終わり方もこの曲独自のものであった。

         曲が終わると、大変な拍手に迎えられ、ズーカーマンは何回か顔を出して挨拶をしていた。今回のズーカーマンの指揮とヴァイオリン・ソロを兼ねた自由な形にとらわれない生き生きした姿を見ていると、このフィナーレなどの型破りな面のある部分の演奏が、実に良く似合っており、とても面白いと思った。コンサートは恐らくここで休憩に入ったであろうが、映像では、第三曲目の交響曲第29番イ長調K.201の字幕に切り替わり、続いてオーケストラのチューニングの様子が写し出されていた。




          この交響曲イ長調は、第三回目のイタリア旅行からザルツブルグに帰った1773年3月から74年にかけて作曲した9曲の交響曲の1曲であり、編成は小さいが次第にイタリアのシンフォニアの様式から離れてウイーン的ドイツ的な新しいスタイルを目指すようになってきて、4楽章の構成となっており、楽器編成はオーボエ2、ホルン2と弦5部の編成となっている。ズーカーマンの指揮するイギリス室内管弦楽団は、ヴァイオリン協奏曲と同じようにコントラバスが2台の中規模な編成となっていた。
          第一楽章は、アレグロ・モデラートの馴染み易い軽快な楽章であり、譜面を見ると、二つの繰り返しと末尾に独立した長いコーダを持つソナタ形式であった。第一ヴァイオリンが清楚な主題を靜かに始めると、他の弦楽器がこれを入念に支え、次第に上昇を続けながら力が加わってきて大きな波となってフォルテに達すると、管楽器も加わってこの一連の主題が力強く反復されていた。この特徴ある軽やかな出だしの勢いあるシンコペーションが印象的で、ズーカーマンは楽しげに指揮を取っており、繰り返される上昇旋律が実に軽快で快い。続いて弦だけによる第二主題は対照的に穏やかな曲調で、第一ヴァイオリンが優雅な旋律を奏で出しひとしきり進行した後に、第一ヴァイオリンが新しい第三主題を提示し始めて小さな盛り上がりを見せて提示部を結んでいた。ズーカーマンの指揮振りは、冒頭の弱奏から楽想に沿って軽快そのもので、思うがままにオーケストラを動かしている感じがしたが、その自由さがこの曲に合っているように思われた。一気に第一・第二主題を経過して提示部を終えて繰り返しを行ない、再び冒頭に戻ってしっかりと全体を進行させていたが、アレグロの疾走する軽快感に溢れていた。
          展開部では第一主題のオクターブ動機の変形がフーガ風に各声部で取り上げられ、シンコペーションのリズムに乗って威勢良く展開されていた。再現部では多少引き伸ばされてはいるが、型通りに第三主題まで再現され、反復記号の外の長いコーダでは第一主題の一部がフーガ風に扱われて結ばれていた。




          第二楽章はアンダンテであり、第一楽章と同様に、途中に二つの繰り返しと珍しく末尾に独立したコーダが置かれたソナタ形式であった。第一ヴァイオリンが優雅な第一主題を提示し始め、第二ヴァイオリンがこの主題を引き継ぐと第一ヴァイオリンがオブリガート旋律に回り、ハッとするほど美しく響いていた。続けて第二主題を第一ヴァイオリンが優美な主題を弾きだしてオーボエも加わってひとしきり進んでから、第三の肌理の細かな主題が第一ヴァイオリンで登場し、オーボエに引き継がれて三連符のコデッタに入り提示部が収束していた。ズーカーマンはここで丁寧に繰り返しを行って、再び美しいアンダンテを繰り返してから展開部に入り、ここでは新たに登場した三連符のコデッタが執拗に繰り返されて展開部の重みをつけていた。再現部では第一主題の後半が拡大されていたり、第二主題がホルンで反復されたり、第三主題も加わって賑やかに進行し、最後には独立したコーダで堂々と結ばれていた。この楽章も、第一楽章同様の、三主題性とか独立したコーダなどの形式を取っており、フィナーレ同様の繋がりが感じられた。




           第三楽章はメヌエット楽章。いきなり付点音符が多いリズミックな行進曲調のメヌエットが流れだし、弦楽器中心で進行するが管楽器も賑やかで、結びが管楽器のファンファーレとなっていた。トリオは対照的に弦楽器がしなやかに美しく流れる優美なものであった。トリオの後に、再び、メヌエットが開始され、最後に管楽器で結ばれていたが、このファンファーレでの終わり方は珍しく、風変わりなメヌエットという印象が残った。




            フィナーレはアレグロ・コン・スピーリトであり、前の二つの楽章と同様に、途中に二つの繰り返しと末尾に独立したコーダを持つソナタ形式であったが、この楽章は第三の主題は現れなかった。オクターブの跳躍からなる威勢の良い第一主題は典型的な古典交響曲の軽快なフィナーレであり、第一楽章の第一主題と関係がありそう。軽やかな経過部の後に登場する第二主題は旋律的で、第二ヴァイオリンで提示され、第一ヴァイオリンが飾りをつけていたが、その後は互いに協力し合ってコデッタとなり提示部を終えていた。ズーカーマンは、ここでも最初の提示部の繰り返しは丁寧に行って、勢いをつけて展開部に入っていたが、ここの主題は第一主題の動機で執拗に反復されていた。再現部は全く型通りであったが、ズーカーマンはこの軽快なフィナーレをリズミカルに疾走して一気にこの軽快な交響曲を収束させていた。

              このイ長調の軽快な交響曲は、ベームも好んで演奏しており、第一楽章の冒頭を聴くと直ぐに思い出す軽快な曲で大好きな曲の一つになっている。今回のズーカーマンの演奏は、ミュンヘンのレジデンツ宮殿にあるヘラクレス・ホールという由緒ある古い劇場であり、私も訪れたことがあるので懐かしさを感じながら聴いていた。これまでベーム、コープマン、アバド、ヴェーグ、鈴木秀美の順にアップしてきたが、今回のこの演奏は、やや大まかな感じの演奏だったが、テンポ感が良いのですんなりと受け入れられ、良くまとまったまずまずの演奏であると感じている。これで七演奏の映像のアップロードが完了したが、この時期の交響曲としては、第25番ト短調の曲と並んで人気のある曲であり、早速、総括に取りかからなければならない。今回のズーカーマンの「ズーカーマン・プレイズ・モーツァルト」は、古い映像であったが、なかなか趣味の良い味のある映像であると思った。


(以上)(2016/04/15)



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