(最新のDVDのオペラから;2013年ザルツFのエッシェンバッハの「コシ」)
16-2-3、クリストフ・エッシェンバッハ指揮ウイーンフイル、ベヒトルフ演出によるオペラ・ブッファ「コシ・ファン・トウッテ」、
2013年8月、モーツァルト劇場、ザルツブルグ音楽祭、

−今回のエッシェンバッハ・ベヒトルクのコンビの「コシ」は、前回のメスト・ベヒトルクの「コシ」と良く似かよった経過をたどりながら進行していたが、前回とは異なる意外なアッと驚かす結末をもたらしていた。広々とした美しい舞台の造りや衣裳などのモダンなスタイル、きめの細かい美しい音楽造りであるとか、リブレットに忠実な省略のない演出、フィオルデリージとデスピーナが前回と同じ歌手なども共通していたが、そろって優れた新鮮で楽しめる「コシ」であった−

(最新のDVDのオペラから;2013年ザルツFのエッシェンバッハの「コシ」)
16-2-3、クリストフ・エッシェンバッハ指揮ウイーンフイル、ベヒトルフ演出によるオペラ・ブッファ「コシ・ファン・トウッテ」、
2013年8月、モーツァルト劇場、ザルツブルグ音楽祭、
(配役)フィオルデリージ;マリン・ハルテリウス、グリエルモ;ルカ・ピサローニ、ドラベラ;マリー・クラウデ・デチャッピス、フェランド;マーテイン・ミッテルツナー、デスピーナ;マルチーナ・ヤンコヴァー、アルフォンゾ;ジェラルド・フインリー、
(2015/11/10、タワーレコード新宿店でDVDを購入、EuroArts 2072748)

       2月号の第三曲目は、昨年来、続けてきた最近のザルツブルグ音楽祭の上演オペラのアップの順番がやっと来て、「後宮」(2013)(15-9-3)、「ドン」(2014)(15-11-3)、「フィガロ」(2015)(15-12-3)に続いて、エッシェンバッハの「コシ」(2013)の順番となっている。このDVDは輸入盤であるが、幸い日本語が付いており、6人のうち4人までがこのHPでお馴染みの大好きな歌手たちであり、演出もベヒトルフのこのオペラ2回目のものであり、入手したときから安心して見ておれる、アップするのが楽しみな映像であった。 前回のウエザー・メスト指揮ベヒトルフ演出の「コシ」は、2009年のチューリヒ歌劇場のもの(10-9-3)であったが、主役の二人、すなわちフィオルデリージのマリン・ハルテリウスおよびデスピーナのマルテイナ・ヤンコーヴァが何と同じ配役であるのも極めて珍しいと思った。従って、お二人の大ヴェテランに対しは甚だ失礼ではあるが、4年後の姿を拝見して、どう成長したか(お年を取ったか)を見るのも面白いことであろうと考えた。



         前回の映像は、「コシ」の映像の中でもベストに近い優れたものと評価しており、明るい現代風の演出において、見事に左右対称に設えた美しい舞台の上で恋物語が演じられていたが、リブレットに対して非常に忠実な真面目な演出であり、特に通常の舞台では省略されている第7番の男同士の二重唱や第24番のフェランドのアリアなどが収録されていた。そして、オーソドックスな進行の中に、最後に仕組まれた意表を突いた事件があって劇が終幕するという仕掛けが用意されていた。今回は、前述のフィオルデリージとデスピーナの他に、ジェラルド・フィンレイのアルフォンゾおよびルカ・ピサローニのグリエルモも、このHPで連続して登場している方々の上に、演出者まで同じメンバーなので、前回の第二部を見るような気持ちで、親しみを持って取り組んでみたいと考えた。
         オーケストラピットに指揮者のエッシェンバッハが拍手とともに入場し、一礼してからゆっくりと序曲が始まった。オーケストラの総奏のあとオーボエのソロがクリアーに響き、「コシ・ファン・トッテ」の特徴ある和音が鳴り響いた序奏の後に、プレストで軽快に序曲の主部が始まり出して、画面は指揮者の姿とオーケストラの演奏を追っていた。すると、突然、舞台が現れ、場所は一見してリゾート地の豪華な温泉の浴室か、二人の女性が優雅に水浴びをする美しい裸像が現れ、代役ではなさそうなので驚いた。よく見るとそれを覗こうとする男どもの姿も見えており、暫くして女性二人がタオル姿で外に出た頃には、序曲は最後の「コシ・ファン・トッテ」の和音が鳴り響いて序曲が軽やかに終わっていたが、この舞台は最初からハッとする舞台で始まっていた。



    続いてオーケストラの第一曲目の前奏が始まり、舞台では二人の黒い軍服姿の二人の兵士がサーベルを抜いて抗議し、カバンの中からビンを取りだして何かしようとしている白髪の老人のアルフォンゾと言い争いを始めていた。そして「剣を抜け」と若い二人がアルフォンゾに迫っていたが、老人に軽くいなされて、第二曲目の「女の貞節なんてアラビアの不死鳥と同じだ」と三重唱が始まっていた。恋人たちの貞節を信じていきり立つ二人に対し、アルフォンゾは証拠はあるかと開き直ると、どうやらしどろもどろの返事。頃を見て「賭けようか」を合図に男三人は一気に賭が成立し、第三曲目では三人それぞれが勝った積もりの「素晴らしいセレナード」を歌う三重唱となって、互いに自分が勝ったとばかりに乾杯をして喜んでいた。




         場面が変わって先ほどの温泉場に美しい若い女二人が登場。室内の周囲は木が生い茂って中央に狭い浴場がある広々とした室内で、女二人が互いに首にかけた恋人の顔のペンダントをお互いに交換しながら、幸せ一杯の表情で二重唱が歌われていた。恋をしている幸せなお揃いの美しい姉妹で、今朝はもう少しふざけたいなどと喜んでいると、アルフォンゾが様子を見ながら登場し、泣きながら二人に近づいて、恋人たちが「王の命令で出征だ」という。驚く女二人に「アミーチ」と男二人を呼んで、悲しみの別れの五重唱が始まった。「剣で胸を刺してから行ってくれ」と嘆き悲しむ姉妹を見て、男二人は「勝ったぞ」と大喜びし、「行かないで」の大合唱から別れの五重唱になって涙していた。




      そして、男二人は女二人に愛の神が加護してくれると「泣かないでくれ」の第7番の二重唱を歌い出した。この曲はいつも省略されるので、初めて聞くような異質のアリアであったが、二人は悲しむ女二人を激励し、喜劇を楽しみながら悠々と非常に珍しい二重唱を歌っていた。そこで太鼓が鳴り響き、「軍隊万歳!」の合唱が始まった。制服を着た合唱団が威勢よく登場して元気よく歌っていたが、悲しむ女二人を前に出征する男二人は元気よく踊ったりして陽気に見えた。「苦しくて死にそう」という女二人が真面目な顔で、「毎日、お手紙書いてね」と歌い出すと、男二人は嬉し泣きしながら愛の5重唱となっていた。ピッチカートの響きが最高の美しいこのアリアの中で、アルフォンゾ一人がブツブツと可笑しさを噛みしめているようだった。
        再び太鼓とともに合唱が始まって、出征と聞いてからあっと言う間に、男二人は恋人たちを置いていなくなってしまった。残された女二人は、悲しみながら「風よ穏やかに」と祈るような三重唱を歌い出していた。何と美しい別れの三重唱であろうか。アルフォンゾは、後半から「わしも役者だな」と一人で呟きながら、レチィタティーヴォ・アッコンパニアートで、歌いながら次の作戦を練っていた。




        そこへ女中のデスピーナが元気良く登場し、コッソリとチョコを味見していると、お嬢さん二人が凄い剣幕で泣きながら登場し、妹のドラベラがデスピーナに「お下がり」と当たり散らし、半狂乱になって「不安でどうしよう」と凄い形相でアリアを歌っていた。このアリアはドラベラの最初に歌うパロディックなアリアで勢いがあり、デスピーナもとりつくヒマもない。その原因が「恋人たちが戦場に行った」と聞いて、デスピーナは心配しなくても良いと二人を慰め、「男や兵隊に貞節を求めてもしようがない」とアリアを歌って言い聞かせており、反対に留守の間を楽しめと二人を呆れさせていた。




       その様子をアルフォンゾは覗き見して、デスピーナを味方にして作戦を練ろうと、金貨見せながらデスピーナに協力を求め、若い男二人を紹介したいと持ちかけると、彼女は直ぐに乗ってきた。髪を伸ばし、鬚を付け、芸術家風のガウン姿でグリエルモとフェランドが登場したが、デスピーナは二人の変装に気がつかない。そこでアルフォンゾはデスピーナに二人を紹介し、挨拶の四重唱を歌っていると、騒がしいと言ってお嬢さん二人が登場して怒りを歌うと、許しを乞う歌も加わって、面白おかしな六重唱に発展して大騒ぎであった。




      お嬢さん方の怒りが激しいので、アルフォンゾは新入りの男二人が親友であることを見せつけたが、それでも彼女らの怒りは納まらない。男二人は頭に乗って「アモーレ」と口説きだしたので、女二人は逆上して、姉のフィオルデリージが「私たちの貞節は、岩のように揺るぎもしない」と高らかに歌い出した。彼女の余りにも烈しい怒りの態度で、お終いには彼女は気を失ってしまう一幕もあった。そしてグリエルモがヴァイオリンの伴奏でさらに彼女らの愛を求めて歌い出し、調子に乗って髭や男らしさを自慢し始めたので、女二人は驚いて逃げ出してしまった。二人は勝ったとばかりに大笑いをしながらアルフォンゾを交えて三重唱が歌われていた。そしてフェランドがドラベラを想う「愛のそよ風よ」とウラウラの愛の歌を歌い出して一休みとなっていた。




     アルフォンゾとデスピーナは女二人の怒りが凄いので次の作戦を立てていたが、デスピーナは男二人がお金持ちと聞いて「私に任せておいて」と張り切っていた。フィナーレに入ってお嬢さん二人が登場して美しい前奏に続いて「たった一時で運命が変わってしまった」と嘆きながら二重唱を歌っていた。そこへ、突然、毒を飲んだと大騒ぎとなり、男二人が苦しみながら倒れ込んでいた。女二人は驚いてデスピーナを呼ぶと、彼女は男二人を優しく介抱するように命じ、自らは医者を呼びに行った。残された女二人は倒れている男二人に近づき、脈を取ったり呼吸を調べたり、介抱し始めた。




     そこへデスピーナが扮するお医者さんが駆けつけ、服毒の様子を確かめてから、メスマーの磁気療法の細い磁石棒を手にして、男二人のお腹めがけて施すと、二人は痙攣しながら動きだし、繰り返すうちに体を震わせながらやっと立ち上がった。そして辺りを見渡してから女二人を確かめつつ近づいて、抱きしめようとしやっと捕まえてからしつこくキスを求めだした。逃げるのに精一杯だった女二人の怒りは頂点に達し、大騒ぎの六重唱になって、女二人は逃げ出してしまうしつこいおふざけの演出となっていた。





          第二幕に入って、デスピーナは二人のお嬢さん方の出征した恋人たちを思う優しい心を癒やそうとサービスに努めており、ワインを持ち出してきて、明るく「女も15歳になれば」と歌い出し、アレグレットになってからワインを二人に注ぎながら「男の心を掴むには」と恋の手管のお説教をしていた。姉妹はワインを注がれるままに飲み干して、二人でワイン1本をカラにしていたが、デスピーナが去ると少し酔いが回ったドラベラが、デスピーナの軽薄さに驚きながらも少し楽しんでみようかと、フィオルデリージを誘うように「私はあのブルネットの方が良いわ」と歌い出した。そうするとフィオルデリージもそれに答えて「私はブロンドの方にするわ」と明るく歌って楽しい二重唱となり、デスピーナの教えのせいか、酔いが回ったせいか次第にほぐれてきた。二人の顔にやっと笑顔が戻り、これで互いの恋人を取り替えて、悲しむより楽しもうという姿勢が見え始め、最後には二人は踊り出して上機嫌の楽しいアリアになっていた。





     そこへアルフォンゾが「さあ、お嬢さん方」と迎えると、木管楽器による前奏が聞こえ始め、正装した合唱団も揃って現われて、何かが始まりそうな雰囲気になってきた。木管のセレナードが始まり、お嬢さん方が席に着くと、花束を持った男二人が恥ずかしそうに「微風よ、わが思いを愛しい人に届けてくれ」と二重唱を歌い出し、合唱団も厳かに歌い出して四人が着席して雰囲気は出来たが、四人とも言葉が出ない。女性たちは余裕があるが、二人の男達は震えて声が出ず、呆れたアルフォンゾがドラベラの手を取ってグリエルモに「お手をどうぞ」と歌い出し四重唱が始まった。デスピネッタも姉妹に言い聞かせるように「過去のことは忘れましょう」と歌って四人を仲直りさせて、後はお任せよと退場していた。





     残された四人が隣り合わせて、片言ずつ、ぎこちなく話し始め、フィオルデリージがこの綺麗な小道を散歩しましょうとフェランドと席を立つと、グリエルモが心配そうに追いかけていた。一方のドラベラは、初めからその気があったか、グリエルモが思い切ってこの小さな贈り物をと差し出すと、始めは遠慮したように見えたが、グリエルモが「愛しい人よ」と歌い出すのを待ちかねたように彼女は応え始め、執拗な誘いと高価な品物を見せられて、最後には「お受けしますわ」となってしまった。そして彼女も「愛しい人よ」と歌い出していた。そしてウットリしているうちに、首にかけていた大事なロケットを新しいものに交換させられてしまい、二人は愛を確かめるように抱き合って、最後には深いキスとなって愛の二重唱が結ばれていたが、この演出ではこの場面をフィオルデリージに見られてしまっていた。





     一方のフィオルデリージは蛇がいたのよと逃げてきて、フェランドに私の心の平和を乱さないでくれと強い求愛を避け、身を隠してしまった。そこで覚悟を決めたフェランドは「これぞ女の魅力」とフィオルデリージに愛を求めるアリアを歌い出し、自分の心の内を強くさらけ出していた。このアリアは、第24番目のフェランドのいつも省略されるアリアであり、情熱を込めたアリアであった。このアリアは、モーツアルトの草稿に、省略して先へ進むように指定されていたので、通常の上演では省略されるのであろうが、この演出ではフェランドにこう歌えとアルフォンゾが指導したりしており、フィオルデリージに訴えるには効果的なアリアに見えていた。






        フィオルデリージはこのアリアを隠れて聞いて、次第にフェランドに心惹かれるようになってきたのか、良心の悩みを伴奏付きのレチタティーヴォで烈しく歌い、ついに「愛しい人よ、お許し下さい」と新しい恋人に惹かれていく自分を許してとゆっくりと歌い出した。そしてロンドに入って二つのホルンが活躍し始めて、突如として苦悩の叫びを上げる高い声を出したりして、心が揺れる自分を戒めるアリアを歌っていた。フェランドは彼女が歌うこの苦悩するアリアを聞いて、フィオルデリージは貞節だと信じ、「われわれは勝ったぞ」と喜び、グリエルモと万歳をしていた。




     そしてフェランドは、グリエルモに対して「僕のドラベラはどうだった」と聞いて、ドラベラのロケットを見せられ即座に「僕の絵だ」と半狂乱になった。「神よ、こんな短い時間に」と嘆き悲しみ、どうすればいいと悩みながら「僕に忠告してくれ」と泣き叫んでいた。グリエルモは「女性たちよ」とアリアを歌い出し、デスピーナを相手に「皆さん方はよく浮気をする」と、タンテア・タンテアと節を付けて女性たちの裏切りを怒って、フェランドを慰めていた。一方、残されたフェランドは、信じられないと怒り、浮気な女を追放するぞと激しく悩み、悲痛な声でカヴァテイーナを歌い出したが、ドラベラに裏切られ踏みにじられても、なお、彼女を好いている自分を見出して、絶望的な男心を歌っていた。




          そこへアルフォンゾがブラーボと言いながら登場し、男二人にまだ賭の結末はついていないと次の手を考えていた。一方、ドラベラはデスピーナを相手に、口説かれると断れないと新しいペンダントを自慢していると、フィオルデリージが現れて二人の前で「自分はブロンドが好きになっている」と告白し、「あの出征した恋人たちをどうするの」と大荒れで自分を怒っていた。そこでドラベラは、「二人とも花嫁よ」と喜んで、新しいロケットを見せながら「恋は盗人」と歌い出し、戦争で死んだらお終いだから、諦めた方がよいとロンド風のアリアでフィオルデリージをそそのかしていた。しかし、フィオルデリージは、私は違うと考え、デスピーナを呼んでグリエルモの軍服を取り寄せ、軍服を着て戦場に行って彼の後を追おうと悲壮な決意をしていた。




       そして「もう少しの辛抱」で戦場のグリエルモに会えると歌い始めたところに、フェランドが必死の形相で現れ、胸をはだけて「許されなければこのナイフでこの胸を突き刺してくれ」とフィオルデリージに愛を訴えた。「力がなければ手を貸そう」とまでフェランドが死を覚悟で懇請するので、彼女はついに「あなたの勝ちよ」となり、オーボエの悲しげなすすり泣きに似た一鳴きとともに、二人は最後には抱き合ってしまった。
         グリエルモはこの場面を始めから心配しそうに見ていたが、最後の場面を見て激昂しアルフォンゾに食ってかかるが、そこへ現れたフェランドの得意げな顔を見て、二人は姉妹の裏切りに逆上していた。アルフォンゾは賭けに敗れた男二人をなだめながら、結婚式を挙げようと企て、「皆は女を責めるが、私は許したい」と歌い出し、三人は序曲で歌われた「コシ・ファン・トッテ」を、声を揃えて復唱していた。そして得意げな表情のデスピーナに結婚式の準備を命じていた。





        フィナーレは軽快な序奏が走り出し、デスピーナの動きに合わせて合唱団も結婚式の準備で大忙しであった。格好がつき出すと合唱団が祝福の歌を歌い出し、新郎新婦が席について四重唱でデスピーナに感謝をし、彼女もそれに応えていた。そして二組の夫妻がそれぞれ祝い合った後に全員で乾杯しようとして、始めにフィオルデリージが歌い出すとフェランドが加わって二重唱になり、さらにドラベラが加わってカノン風に美しい三重唱が続いていた。





         しかし、グリエルモは一人横を向いてブツブツ歌っており、仲の良い二人を見て机を叩いたりして、信頼していたフィオルデリージに裏切られたショックの大きさを物語っていたが、彼はそこにおいてあったアルフォンゾのカバンの中から毒薬入りのビンを見つけて、何を思ったのか「女狐め!」と口にしながら、手にしていたグラスにそれを注いでいた。そこへデスピーナが変装した公証人が登場して大騒ぎとなり、結婚合意書を賑やかに読み上げる一幕があり、姉妹が姉妹がサインをしたところに、あの恋人たちが出征したときに響いていた太鼓と合唱の声が聞こえてきた。





        驚いたアルフォンゾが様子を見に行って、出征した恋人たちが帰って来るという。さあ大変。女二人はそこにいたアルバニアの恋人たちを追い払い、真っ青になってアルフォンゾにすがりついていた。そこへ髪を短くし、髭を取った軍隊服の恋人たちが元気に登場してきた。
           男二人は青ざめて声も出ない女二人の様子がおかしいので不思議に思っていると、隠れていた公証人を発見したり、結婚合意書を見つけたりして大騒ぎして、女二人に詰め寄っていた。女二人とデスピーナは平謝りで、心臓を剣で突いてくれと大慌て、平謝りであった。姉妹はアルフォンゾが張本人だと気がついたところへ、再び男二人が音楽と共にアルバニア人になって現れたので、姉妹はここで初めて、男たちにも騙されていたことに気がついた。







       張本人のアルフォンゾが、甘い男の恋人たちが今回大変な勉強をしたので許してやってくれと女二人に深く謝ったので、「ひどい人」と恋人たちは元の鞘に戻ったようにして、取りあえずは、愛の歌を歌っていた。 音楽のテンポが変わり、最後の場面の6人全員の六重唱となって、ごく自然体で合唱を始め、デスピーナが手にした手帳を見ながら全員でそろって歌っていたが、アルフォンゾがその場に急に倒れ込んでしまっていた。画面をよく見ると、どうやら、アルフォンゾはグラスを手にして、変な色の飲み物なのに、それに全く気がつかずに、一気に飲み込んでしまったようだった。このグラスは、あの結婚式の乾杯の時に、グリエルモが注いでいたグラスであり、中には毒薬が入っていたようだった。




       アルフォンゾが倒れ込んで、皆が気がついて驚いたところで、残念ながら、この劇は幕の終わりとなっていた。最後の最後に、思いがけぬ騒然とした場面が用意されて、唖然としている間に終わる奇抜な「コシ・ファン・トッテ」の新しい舞台であったが、演出者にとっては、前回とは趣向を変えた皆をアッと言わせる結末となっていた。

      前回のフィオルデリージの死は、グリエルモが用意して放置していた毒入りグラスを、フィオルデリージが全く偶然に手にして不用意に飲んでしまったと言う筋書きであったので、ごく自然体に自分を裏切った憎いフィオルデリージを懲らしめようとした、グリエルモが図った策略説であると考えていた。しかし、今回のアルフォンゾの死は一体どうしたのであろうか。毒入りグラスは前回同様、グリエルモが用意したものであるが、アルフォンゾは前回同様に、全く偶然にグラスを手にしたのだろうか。グリエルモは、フィオルデリージを狙っていたのに、アルフォンゾに飲まれてしまったのであろうか。それともアルフォンゾは初めからグリエルモに狙われていたのであろうか。
        アルフォンゾは、この舞台に出てきたときから、いつも大きなカバンを持ち、何かしら薬のようなものを持ち歩き、リブレットにないコソコソした動きが多く、どこか様子が何となく変であった。毒薬の扱いには、彼は慣れているようにも見えており、これが彼の死と関係があるのであろうか。ここではアルフォンゾが偶然にグラスを手にしたことにしておくが、私には演出者の深い意図は、残念ながら、解説されなければ分らないような気がする。

       このフィナーレでは、原作のように元通りの幸福な恋人たちに戻ったかどうかには何も触れずに、見ている人に任せており、この物語の立役者であり、女性を信用できないアルフォンゾの死という、リブレットにない思わぬ悲劇で幕を閉じた。その伏線には貞節であると信じていたフィオルデリージに裏切られたグリエルモの大きなショックがあり、彼が何を考えたか分らないが、毒入りのグラスを用意したのは彼であった。フィオルデリージとグリエルモはの二人は、深い溝が出来て、この劇ではアルフォンゾが死んでしまうと、恐らく、このままでは元の鞘に戻ることはなかったと思われる。しかし、この二人が共謀したとすれば、アルフォンゾの死を目論むことが出来たし、この二人は元の鞘に戻ることが出来たかもしれない。あるいは、アルフォンゾは倒れたが、メスマーの治療法で元気に復活したかもしれない。この結末は、この劇の本当の怖さを舞台の上で思い切った形で表現したものであり、前回もそうであったが今回も、まさに演出者ベヒトルクの機知の勝利と言えよう。

           このように新しい展開を見せたこのエッシェンバッハ・ベヒトルクのコンビの「コシ」は、前回のメスト・ベヒトルクの「コシ」とは異なる意外な結末で終了していた。しかし、前回の「コシ」の記憶とは、驚くほど似かよっており、前回のものをもう一度見直す必要がありそうな気がする。広々とした舞台の造りや衣裳などのモダンなスタイルは共通しており、きめの細かい美しい音楽造りであるとか、リブレットに忠実な省略のない演出、フィオルデリージとデスピーナが同じ歌手であることなども共通していたように思う。エッシェンバッハの軽快な音楽の進め方は序曲から始まっており、随処で重唱とオーケストラのアンサンブルの良い音楽が鳴り響き、このオペラ特有の美しいメロデイが満ち溢れていた。これは、彼の「ドン・ジョヴァンニ」で経験済みであり、安心して舞台に浸ることが出来た。この映像で新たに試みられていたことは、前回と同様に、初演時に時間短縮のため草稿を変更したとされる第7番の男二人の二重唱と第24番のフェランドのアリアが加わっており、今回改めて、この2曲は、重要な存在であると思われた。それに加えてリブレットも省略が少なく丁寧に扱われ、結果的に3時間20分(200分)を要していることがこの映像の特徴でもあった。

          演出面でも土壇場の逆転劇以外にも、最後まで大きな温室風の建物の中で、何となく右対称の舞台にこだわりを見せたモダンな明るい演出や、随処でユーモアのある新しい動きや試みが行われて笑いを誘う演出に新鮮さを感じさせていた。ただし、前回もそうであったが、日本語字幕の問題であろうと思われるが、フィオルデリージが妹でドラベラが姉のような表現になっていたのが気になった。今回の歌手陣では、矢張りフィオルデリージのハルテリウスとデスピーナのヤンコーヴァが、歌も演技も素晴らしくヴェテランの味を随所で見せて、4年前以上に安心して見ておれた。この二人はチューリッヒ歌劇場のスターであり、ダ・ポンテ三部作を初めとしてこのHPでは欠かせない存在であり、このベヒトルク演出にも欠かせない人たちであろうか。アルフォンゾのフインリーは、今回のアルフォンゾ役は初めてであるが、このHPでは、フィガロ、パパゲーノ、アルマヴィーヴァ伯爵、ドン・ジョヴァンニと歌ってきている。今回のアルフォンゾの死という演出は、珍しい演出なので、フインリーが演じたアルフォンゾは記録に残される大役かも知れない。ピサローニのグリエルモは、このHPで毎度登場する歌手であるが、彼はのっぽで特徴がある顔つきであるので、変装が重要な今回のグリエルモ役は直ぐバレてしまい、損な役であったように思う。このHPでは初めての、フェランドのミッテルツナーとドラベラのデチャッピスについては、出来の良い先輩たちに較べると損な役割であり、歌も演技もやや見劣りがしていたが、まずまずの出来と言って良いであろう。

        前回と同じような舞台造り、音楽造りでありながら、落としどころが少し異なる二つの映像を見て、これら二つの映像は、対になった作品であり、何かの折に、どちらかの作品を見てから、第二幕の別の作品のフィナーレを見較べると、いろいろな議論が出来て面白いと思う。ただし、二つとも200分と言うのはいかにも長すぎ、リブレットに忠実な全曲演奏は良いが、第1幕のフィナーレその他のドタバタ部分などで、やや冗長さを感じさせていたのが残念であった。


(以上)(2016/02/22)



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