(二つの弦楽四重奏曲;アルバン・ベルクQのK.421、アルテイスQのK.575)
16-12-3、アルバン・ベルク四重奏団による弦楽四重奏曲第15番ニ短調K.421(417b)、1991年11月5日、エルミタージュ劇場、サンクトペテルブルグ、およびウイーン・アルテイス四重奏団による弦楽四重奏曲第21番ニ長調K.575、
1993年10月17日、浜離宮朝日ホール、

−アルバン・ベルク四重奏団のCDによる後期四重奏曲全集(第14番〜第23番全10曲4枚)は、最高の名演であると考えてきたが、彼らの映像は今回の弦楽四重奏曲ニ短調K.421が初めてであり、まさに期待通りの素晴らしい演奏であって、CDの彼らの実力を裏付ける精緻なウイーン風の整然とした演奏であった。一方のウイーン・アルテイス四重奏団は、フーガ集やアリア集の緻密な演奏でこのHPでお馴染みであった。しかし、弦楽四重奏曲は今回のニ長調K.575が初めてであったが、期待通り、チェロが活躍する素晴らしい演奏であり、実力を遺憾なく発揮していた−



(二つの弦楽四重奏曲;アルバン・ベルクQのK.421、アルテイスQのK.575)
16-12-3、アルバン・ベルク四重奏団による弦楽四重奏曲第15番ニ短調K.421(417b)、1991年11月5日、エルミタージュ劇場、サンクトペテルブルグ、およびウイーン・アルテイス四重奏団による弦楽四重奏曲第21番ニ長調K.575、
1993年10月17日、浜離宮朝日ホール、
(2016/11/2、クラシカ・ジャパンの放送をHDD1に収録、および1994/09/24、NHKクラシック・アワーの放送をS-VHS139に収録)

        12月の最後を飾る3曲目のソフトは、クラシカ・ジャパンの放送を収録したアルバン・ベルク四重奏団による弦楽四重奏曲第15番ニ短調K.421(417b)であり、これは1991年11月5日での新装なったサンクトペテルブルグのエルミタージュ劇場の開演を記念する演奏のようであった。この四重奏団による後期の四重奏曲集(全10曲)のCDを、私はこれまで大切にして聴いてきたが、映像はこれが最初であり、私には非常に記念すべき貴重な存在となった。また、これ一曲では物足りないので、古い映像で残されていたウイーン・アルテイス四重奏団による弦楽四重奏曲第21番ニ長調K.575を追加したいと考えた。この演奏は、このクァルテットの1993年10月17日の来日記念演奏会であり、浜離宮朝日ホールにおけるものをNHKが教育テレビで放送してくれたものであった。いずれもウイーンを中心とした団体なので、楽しめるものと考えている。




      アルバン・ベルク四重奏団は、1991年に結成20周年を迎えたが、その記念すべき演奏旅行の一つが今回のサンクトペテルブルグのコンサートであり、神秘的な雰囲気に包まれたここユスポフ宮殿のエルミタージュ劇場で開催された。曲目はモーツァルトとブラームスの四重奏曲であった。
        始めの曲は、モーツァルトの弦楽四重奏曲第15番ニ短調K.421(417b)であり、この曲はハイドンセット6曲中の第二曲目に当たる唯一の短調作品である。しかし、私自身にとっては第17番の「狩」の四重奏曲と並んで親しみやすい曲となっていた。




        第一楽章は、アレグロ・モデラートであり、冒頭に第一ヴァイオリンがソット・ヴォーチェで1オクターブの下降に始まり、次いで10度の上昇跳躍を行なう第一主題で始まってから、一転してこれを1オクターブ高くフォルテで繰り返して勢いを増し、短調の暗い響きを推移させて印象づけていた。この四重奏団の第一ヴァイオリンは著名なギュンター・ピヒラーであり、ここで確かな技巧を発揮しており、初めての映像で姿を見せていた。やがて小刻みにせき立てるようなヴィオラの16分音符の刻みの上に、第一ヴァイオリンが優雅に祈るような美しい第二主題を歌い出し、明るさを取り戻して素晴らしい響きを見せていた。ここでこの嘆きの歌とも感じさせる提示部が繰り返されていたが、この四重奏団はしっかりとこの短調作品らしさに満ちた珍しい楽章をこなしていた。
       展開部になっても、第一主題の冒頭のモチーブが緊迫し変形した姿で繰り返されており、引き続き暗い表情が続いていた。再現部に入っても、第一主題の第一ヴァイオリンの激しい動きが再現されており、第二主題で明るさを取り戻しつつも、嘆きの歌の基調は変わらずにこの楽章を終えていた。ハイドンを意識して、変化を持たせたというこの曲らしさが実に良く伝わってくるような、生真面目なアルマン・ベルク四重奏団の印象深い演奏振りであった。




     第二楽章のアンダンテでも第一ヴァイオリンが休符を上手く取り入れた微妙できめ細かい音を散りばめる繊細な美しい主題を弾きだし、それが何回か繰り返されて、いわば束の間の休息をもたらしているようであった。A-B-Aの三部分形式で書かれており、中間部ではリズムだけが引き継がれて微妙な変化のある姿を映し出していた。この楽章は、休符が非常に重要な要素になっており、続くモチーブの強弱が微妙な影を落しているので、ここでも第一ヴァイオリンの繊細さが要求され、これを支える3声のアンサンブルの良さが求められるが、この四重奏団はしっかりと軽やかに進めており、まずまずの印象であった。




      第三楽章は、堂々たるメヌエット楽章で、第一ヴァイオリンとチェロ、第二ヴァイオリンとヴィオラが対になって掛け合う素晴らしい重厚なメヌエットとなっており、この旋律は何回か聴くと直ぐ諳んじることができる。またトリオでは一転してピッチカート伴奏の上に第一ヴァイオリンが付点音符のついた優雅な旋律を奏で、ここでも束の間の至福の姿を描き出す素晴らしい作品となっていた。この楽章は、コンスタンツエの語りであるが、83年6月17日の出産当日に作曲されたことが明らかになっているが、勢いよく元気な子が生まれたことが暗示されるようなメヌエット主題のように思われた。この楽章でも第一ヴァイオリンが、腕の見せ所となっているが、さすがピヒラーは微妙な付点音符の旋律を巧みに奏でており、素晴らしいと思った。




          フィナーレは、意表をつく珍しい変奏曲であり、やはりハイドンのロシア四重奏曲作品33の5にヒントを得たとされるが、主題と5つの変奏部から出来ていた。ハイドンの曲と同様にシチリアーノのリズムを持つ親しみやすい8小節の変奏主題が提示され繰り返されてから、16小節の展開部がありこれも繰り返されていた。この変奏曲は初めの4変奏までは繰り返し記号で同じ形で作曲されていた。第一変奏では第一ヴァイオリンの16分音符による早いテンポの変奏。第二変奏では第二ヴァイオリンが刻む細かなリズムの上で、第一ヴァイオリンのフォルテとピアノを多用したシンコペーション旋律を奏でる。第三変奏ではヴィオラが活躍し単純化された主題を奏する。第四変奏では二つのヴァイオリンがオクターブのユニゾンでテーマを奏していき、最後は変奏曲と言うより終結部となっており、ピウ・アレグロにテンポを速めてもう一度最初のテーマを奏し、繰り返しを止めて見事なフィナーレに相応しい展開を見せて、軽快に終結していた。
           演奏の途中に、カメラが新装なったエルミタージュ劇場の造りや装飾品の数々や、壁画や天井画やさらに展示されていた著名な画家の作品などを写してくれるのは、とても珍しく有り難かった。終わりにこの四重奏団のメンバーを紹介すると、第一ヴァイオリンはギュンター・ピヒラー、第二ヴァイオリンは、ゲルハルト・シュルツ、ヴィオラはトーマス・カクシュカ、チェロはヴァレンテイン・エルベンであった。






         小生の持っているCDのアルバン・ベルク四重奏団の後期四重奏曲全集(第14番〜第23番全10曲4枚)は、テルデックの全集盤であるが、録音年月などの情報がないものであった。メンバーをチェックすると、ヴィオラだけが異なっているようであった。全体の漠然とした印象ではとても整然とした演奏であって、余り感情に溺れない団体であると思っていたが、実際に映像を見て、思っていたとおり、第一ヴァイオリンのピヒラーの統制が厳しいのか、実に整然としたしっかりした演奏であるが、舞台ではやや面白味に欠けるような演奏でもあった。しかし、あのテルデック盤の整然とした素晴らしい演奏を、まさにこの映像で確認できたような気がする。立派な演奏過ぎて、近寄りがたい面白さのない演奏のようにも思うのは私だけであろうか。何故残された映像が少ないのか、不思議に思われた。








         続く今年最後の映像である第二曲目は、ウイーン・アルテイス四重奏団による弦楽四重奏曲第21番ニ長調K.575であり、これは彼らの1993年10月17日の浜離宮朝日ホールにおける来日記念演奏であった。この演奏は、NHKの教育TVのクラシックアワーで1994年9月24日に放送されたもので、この1時間番組の後半はウイーン管楽ゾリステンのセレナード変ホ長調K.375(16-8-1)が演奏されていた。
          このウイーン・アルテイス四重奏団は、1980年にウイーン音楽大学在学中の4人のメンバーにより結成され、各地の音楽祭やコンクールなどで好成績を挙げて、現在は世界各地で活躍を始めている。また、この日のニ長調弦楽四重奏曲K.575は、プロシア王のために作曲した最初の曲として知られ、チェロ好きだった王のためにチェロが活躍する曲として知られ、後期の磨き抜かれた透明な音の世界が聴かれるとされている。








      この曲の第一楽章は、ソット・ヴォーチェの指示通りに第一ヴァイオリンによって密やかに始まり颯爽と進行してから、ヴィオラに美しく引き継がれていく親しみ易い第一主題に始まる。トリルを伴うリズミックな音形の経過主題を経てから、チェロがドルチェで弾きだし、第一・第二ヴァイオリンがスタッカートで伴奏していく第二主題が耳に優しく印象的であり、チェロが高い音域でこのように活躍するのは珍しかった。この主題は第二ヴァイオリン、ヴィオラに引き継がれ、第一ヴァイオリンによって盛り上がりを見せていたが、提示部の終結もチェロによる主題提示で行なわれていた。アルテイス四重奏団は、ここで提示部を繰り返して、颯爽と冒頭から勢いよく開始していたが、ここで改めてチェロの存在感が確認されたほか、この四重奏団の生き生きとした弦楽合奏の快さを味わうことが出来た。               短い展開部も第一ヴァイオリンの新しい旋律的主題で歌われたあと、第一主題冒頭の音形がリズミックに各声部に現れて展開されていた。再現部では第一主題は提示部通りであったが、第二主題は第二ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの順に再現されて変化を見せていたが、アルテイス四重奏団は活気良く颯爽と進めており、とても親しみを持って楽しめた楽章であった。




          第二楽章はアンダンテ楽章であるが、A-B-Aの三部形式であり、ここでもチェロの伴奏によりソット・ヴォーチェで弾かれる三弦による三拍子の主題が美しい。そして変化が加えられながら繰り返されてから、中間部では、第一ヴァイオリンが流れるような調べを弾き出すと、それをチェロ、第二ヴァイオリン、ヴィオラが順番に歌い出して非常に印象的であり、再び第一ヴァイオリンとチェロによる仕上げを行なっていた。終わりのドルチェによる主題の再現はここでもチェロが中心となり、ヴァイオリンとヴィオラが変奏して繰り返していた。




  第三楽章はメヌエットであり、アレグレットで書かれたかなり大規模なものであった。初めのメヌエット部では、第一ヴァイオリンが中心となって、明るく活発なメヌエット主題が踊り出し、各楽器間で激しく競う合うように揃って躍動していた。第二部では主題が展開的に扱われてから主題が軽快に再現されていた。トリオでは、第一ヴァイオリンが導入しチェロが応えるように旋律を奏で、続いて第二部ではチェロが朗々と各楽器を従えてメロデイラインを担当して存在感を示してから、再び明るいメヌエットに戻って軽快に終結していた。




           フィナーレはアレグレットのロンド形式のようであるが、かなり自由に書かれており、対位法的な書法が取られている。珍しく、冒頭のロンド主題は、チェロがヴィオラを伴奏に堂々と弾むようなロンド主題を提示しているのが特徴であった。この主題が各楽器や二声で現れたり、さまざまな伴奏型を持って対位法的に変化して現れたりしてから、スピーデイな目まぐるしい変化を見せる新しい主題が第一ヴァイオリンで現れて、盛り上がりながら終結して再びロンド主題に戻っていた。この楽章ではアルテイス四重奏団は、チェロと第一ヴァイオリンとが、互いに入れ替わりながらリードして、この軽快なロンド楽章を颯爽と仕上げていた。

                         ウイーン・アルテイス四重奏団は、 バッハの編曲である4つのフーガK.405(10-10-3)や、「ドン・ジョヴァンニ」のアリアたち(2-6-3)の映像で既にこのHPではお馴染みであったが、弦楽四重奏曲はこの映像が初めてであり、期待通りの実力を発揮してくれたと思っている。
            曲全体を通じて、アルテイス四重奏団では、チェロの活躍が目立つほか、第一ヴァイオリンの親しみやすい歌謡的な主題がよく響く演奏であり、終わると聴衆による拍手が長々と続き、公開演奏の良さを改めて感じさせていた。二つのコンサートから一曲づつ取り上げ、NHKが一つの番組に編集したものであるが、コンサートとしての雰囲気が中断されてしまうので、出来れば一つのコンサートを続けて欲しいと思った。


(以上)(2016/12/19)



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