(BDCHのアーカイブからピノック指揮のオール・モーツァルト・コン)
16-12-1、トレヴァー・ピノック指揮ベルリンフイルの交響曲第25番ト短調K.183、マリア・ジョアン・ピリスのピアノによるピアノ協奏曲第9番変ホ長調K.271、および交響曲第40番ト短調K.550、
ベルリンフイル定期公演、2008年10月10日、フイルハーモニア・ホール、

−ピノックの小ト短調交響曲は、時にはチェンバロを響かせるピリオド奏法の早いテンポの演奏であったが、モダン楽器のせいかコントラバス3本の弦5部が厚くしっかりと底辺を支えて、この曲の特徴である激しさや力強さの点で、さすがベルリンフイルと思わせる響きを見せていた。ピリスの「ジュノム」協奏曲は、このHPで三度目になるが、ピリスはこの曲をよほど得意にしているのか、終始、目を閉じて集中してパッセージを弾いており、軽快に疾走する協奏曲であった。また最後のト短調交響曲は、全体として速めのテンポに昔の伝統的な演奏と異なった感慨をおぼえつつも、爽やかさに満ちており、古楽器奏法の良いところをモダンなオーケストラに上手く適用して新鮮味を強めていたように思った−



(BDCHのアーカイブからピノック指揮のオール・モーツァルト・コン)
16-12-1、トレヴァー・ピノック指揮ベルリンフイルの交響曲第25番ト短調K.183、マリア・ジョアン・ピリスのピアノによるピアノ協奏曲第9番変ホ長調K.271、および交響曲第40番ト短調K.550、
ベルリンフイル定期公演、2008年10月10日、フイルハーモニア・ホール、 (2016/09/22、BDCHのアーカイブより直接聴取)

        およそ1年ぶりに、ベルリンフイルのデジタル・コンサート・ホールのアーカイブを開いてみたら、さすがにアップしたい映像が揃っており、その中で前回アアプできなかったトレヴァー・ピノック指揮のオール・モーツァルト・コンサートを発見したので、今回アップすることにした。このコンサートは、ベルリンフイル定期公演で2008年10月10日にフイルハーモニア・ホールでの映像記録であった。曲目は、交響曲第25番ト短調K.183、マリア・ジョアン・ピリスのピアノによるピアノ協奏曲第9番変ホ長調K.271、および交響曲第40番ト短調K.550の3曲であった。ピノックは1946年イギリス生まれであるから、丁度、盛りの50歳。25番のザルツブルグ・シンフォニーでは、チェンバロを弾きながらの指揮振りであった。なお、このHPでは、ピノック指揮水戸室内楽団による第25番のト短調交響曲の演奏(2001)は収録済み(2-9-2)であり、一方のピリスのジュノム協奏曲(1999)も収録済み(13-7-2)のようなので、奇しくも重複することとなっている。

      最初の小ト短調交響曲とも呼ばれることがある交響曲第25番ト短調K.183(173dB)は、冒頭の第一主題の激しい短調のシンコペーションや旋回音形が特徴的であって、映画「アマデウス」のけたたましい勢いで始まる冒頭部分に用いられていて有名であり、当時としては異例の4本のホルンを使用していることに特徴がある。ピノックが入場してきて、オーケストラを見渡すと、中央に細長いチェンバロが置かれており、ピノックがその前に起立して、両手を振り上げて曲が開始された。






       第一楽章はいきなり荒々しいほどのシンコペーションのリズムとともに急速に上昇する旋律線で構成される第一主題が威勢良く進行して、繰り返すように進んでから、悲しげにゆっくりと長い旋律を歌わせるオーボエがこの主題を反復して、この曲らしい味わいを見せてなかなか魅力的であった。ピノックは最初は両腕で指揮をしていたが、時にはチェンバロも立ったまま弾いており、ピリオド奏法的に早いテンポで強弱を明確にした指揮振りを見せていた。やがて第一主題と対照的に、スタッカートが強調された踊るようなリズムの第二主題が優雅に響いていたが、そのままコーダに入りっていた。ここで提示部が繰り返されて、再び冒頭の激しい始まりが再現されていたが、コントラバス3本の中規模なオーケストラにもかかわらず低弦が威勢良く響き、4本のホルンが吠えるように威力を発揮して全体の響きを支えて一気呵成に進行し、疾風怒濤の片鱗を感じさせていた。

展開部は冒頭の主題の音形とリズムが繰り返され、オーボエの主題も現れて趣を変える短い荒々しい展開部であったが、再現部では再び冒頭主題が早いテンポで繰り返されて、この交響曲の異色的な特徴を強く印象づけていた。ピノックの演奏は、時にはチェンバロを響かせるピリオド奏法の早いテンポの演奏であったが、モダン楽器であったので、コントラバス3本の弦5部が厚くしっかりと底辺を支えて、この曲の特徴である激しさや力強さの点で、さすがベルリンフイルと思わせる響きを見せていた。








           第二楽章は、アンダンテの楽章で形式は三部形式であろうか。始めにヴァイオリンとファゴットとが珍しく弦5部と静かに対話しながらゆっくりしたテンポで進められたが、続いて唐突に、オーボエと第一ヴァイオリンが軽やかにブッファ的なおどけた主題を奏しはじめて面白い展開を見せてから、冒頭の主題で締めくくられていた。第二部では再び冒頭の優雅な対話が再現され、更にこれが入念に引き伸ばされていた。ピノックのテンポは第一楽章と比較して意識的にテンポを落としており、時には笑顔を見せながら落ち着いて進めており、まさに優雅な安らぎの一時を与えるアンダンテ楽章であった。




             続く第三楽章は、フォルテのユニゾンの響きで始まる堂々たる12小節の力強いメヌエットで、ピアノの部分とは対比されており、管楽器はフォルテの部分だけ参加していた。踊るような伸びやかなリズムで力強く響き、4本のホルンが高らかに鳴る堂々とした豊かな響きが特徴であった。この楽章のトリオは珍しく管楽器だけで演奏され2オーボエが誘導しながら2ファゴット、4ホルンの編成で、馴染み深い旋律を明るく輝くように堂々と合奏をし、ここでは2オーボエが存在感を示していた。最後は、再びメヌエットに戻っていたが、前楽章の優雅な響きを一瞬でかき消すような力強さがあった。




            フイナーレはソナタ形式のト短調の急速なアレグロであり、メヌエット主題と類似した第一主題が、弦のトレモロやシンコペーション動機などで現れて颯爽と始まった。これは当時流行していた第一楽章と似たスタイルで、全楽器が参加して疾風怒濤的な勢いでうねるように進行していた。続く第二主題も似たように威勢が良く、全力疾走して一気に高揚を見せ、提示部を終えて繰り返しに入って、再び颯爽と進行していた。展開部は全楽器が参加してシンコペーション動機などが現れていた。再現部でもこの勢いは続いており、オーケストラがうねるように一気に進行して、いつの間にか静かにこの楽章を終息させていた。

            ピノックの元気の良い疾風怒濤の言葉をイメージできそうなこの曲を聴いて、私は映画「アマデウス」の冒頭部分を思い出していたが、ピノックの演奏もこの第一楽章ばかりでなく、全楽章とも落ち着いたテンポでしっかりと演奏されており、全体のオーケストラの響きもベルリンフイルらしく末広がりであり、堂々とした立派な演奏であると感じた。


        


    続く第二曲目は、ピアノ協奏曲第9番変ホ長調K.271「ジュノム」であり、ピリスとピノックが一緒に入場してきたが、先ほどのチェンバロは使われずに、ピノックは中央の指揮台の上に上がって両手で指揮を開始した。この曲の第一楽章は、いきなりオーケストラのトウッテイとピアノソロで交互に対話風に始まった。この冒頭のソロピアノはこの曲独自のもので、二度現れて聴衆を驚かせてから、オーケストラが軽快に明るく第一主題を提示していた。続いてすこし暗い感じの第二主題を流してオーケストラによる提示部を終えてから、長いトリルを響かせながら独奏ピアノが登場してきた。そして直ちに独奏ピアノが第一主題を力強く弾きだし、華やかに16分音符のパッセージを弾き出した。ピリスのピアノは輪郭がはっきりしたピアノで堂々と力強く弾かれ、続く第二主題も独奏ピアノが弾むように提示してピリスのペースとなって進んでいた。




    展開部では、最初と同じ始まりでオーケストラとピアノが登場してから、冒頭の同じ旋律がピアノで執拗に形を変えて展開され、ピリスのピアノが丁寧に元気よく繰り返されて再現部に移行していた。ここでもオーケストラと独奏ピアノがお互いに入れ替わりながら対話を行い、素晴らしいピアノとオーケストラの掛け合いが続いていた。ピリスの弾いたカデンツアは、新全集のBの長い方を使っていた。




     第二楽章はアンダンテイーノのハ短調のヴァイオリンの合奏で始まるもの憂い感じの序奏で開始されるのが珍しい。続いて第一主題がピアノソロでゆっくりと始まり、絶えず装飾をつけながら綿々と続いてから、ヴァイオリンに始まり独奏ピアノが応える第二主題が登場し、そのまま独奏ピアノが綿々とオーケスオラと対話しながら進行する美しい曲となっていた。ピリスは、ゆっくりとした粒だちの良いピアノで一音一音丁寧に弾いており、とても優雅に聞えていた。短い独奏ピアノが華やかな展開部が終わると、今度は序奏なしで再現部が独奏ピアノで始まり、第一主題、続いて第二主題の順にピアノにより再現されていた。新全集では二つのカデンツアが示されているが、ピリスはBの長い方のカデンツアを弾いていた。




     フィナーレは独奏ピアノによる軽快なロンド主題がプレストで始まり、独奏ピアノの粒ぞろいのパッセージが34小節も続いてから、オーケストラとピアノでこの主題が更に展開されていた。右手と左手が交錯する次の主題がピアノソロで早いテンポで始まりオーケストラとも協奏されていく。ここでロンド形式のA-Bと続いてきたが、短い第一のアインガングが入りハッとするが、間もなく始めと同じスタイルで長い独奏ピアノによるロンド主題Aが始まった。オーケストラとピアノで早いテンポでロンド主題が展開されて終息すると、ロンド形式のCの部分が始まり、これが何とカンタービレの美しいメヌエット。美しい主題が流れ出し、やがてピッチカートのオーケストラを従えてゆっくりとピアノが進行し、スコダは気持ちよさそうに弾いていた。このメヌエットではピアノが変奏曲のように弾かれて、しばしの安らぎのように表情豊かに響きこの曲の素晴らしさを伝えていた。ここでも一区切りを示すような短い第二のアインガンクが弾かれてから、再び最初のロンド主題に戻っていた。最後のA'-B'-A"では、ピアノが良く動き回ってフイナーレを盛り上げてからさり気なく終息していた。

    ピリスの「ジュノム」協奏曲の映像は、ガーデイナー、ハイテインク・ベルリンに続いて今回のピノック・ベルリンと三度目になるが、ピリスはこの曲をよほど得意にしているのか、終始、目を閉じて集中して弾いているのが良く分り、第一楽章やフィナーレの早いテンポのところでも、全く問題なく軽快に疾走していた。オーケストラも素晴らしく、2度目のものは中断したりしているので、3度目の今回のものが映像も最新であり、最も無難な出来であるように思われた。この曲は、ピリス・ケフェレック・内田光子・レオンスカヤ・アックス・小曽根真・スコダ・コラールなどの10人近い映像で聴くことが出来るが、この曲にはピアノの繊細な指使いが要求されるのか、女性ピアニストがお得意なようで、私には、最初に上げた四人の女性ピアニストの演奏が、いずれも指揮者がおり、どの演奏もしっかりと弾かれているので、特に推薦したいと思われる。



        



 コンサートの第三曲目は、交響曲第40番ト短調K.550であり、ピノックの指揮振りの全体を一聴した限りでは、初めから爽やかな速いテンポで進み、その壮麗さに驚いているうちに、第二楽章も第三楽章もフイナーレも、速いテンポで一気に進み、素晴らしい勢いで進む疾走するト短調と言った印象を受けていた。ピノックは、クラリネットが入った第二版を採用し、コントラバス3台の前曲と同じ規模のオーケストラで、繰り返しを省略しないで演奏しており、ピリオド奏法がベースにあると言う印象を持った。




        スマートな格好のピノックが足早に登場して、オーケストラを見渡してから直ちに第一楽章が始まった。モルト・アレグロでヴィオラの伴奏音形に乗って、さざ波を打つような弦楽合奏の第一主題がやや早めのテンポで軽快に始まり、やがて管楽器と弦との応答があってから再び第一主題が明るく繰り返されるが、今度は管楽器も加わって力強く進行していた。ピノックは、楽譜を前にしているが、全て頭の中にあり、弾むような軽やかさで両手を広げグイグイと進めていた。一休止の後に第二主題が弦で始まるが、直ぐにクラリネットとファゴットが明るさを増すように活躍をし始め、弦と交互に競い合い、さらに合体して勢いを増し、次第に高揚して提示部の高みに到達していた。ピノックはここで再び冒頭に戻り、全体を明るく流麗に進行させていたが、この繰り返しではさらに軽快感を増して爽やかに推移していた。
展開部では、第一主題の冒頭の導入主題が繰り返し入念に展開され、さらに同じ主題がうねるように対位法的に同じテンポで展開され次第に力を増しながら進んでいた。再現部に入り再び冒頭主題が流れるように再現されていたが、長い展開部の勢いが残されているかのように、経過部を中心にかなり拡大されながら進行していた。映像ではピノックはスマートな姿が印象的で、この楽章は全く淀みなく進行し、明るく疾走するオーケストラの流麗な動きが全体にみなぎっており、ベルリンフイルを思い通りに充分に鳴らせているように思われた。




    第二楽章のアンダンテでは、やはり幾分早めのテンポか、美しい弦楽合奏の第一主題が珍しくホルンの伴奏で始まっていたが、主題の後半に現れる32分音符の休止を挟んだ3度動機のフレーズが早くも弦で顔を出して実に美しい。そしてこの動機が推移部を支配しており、弦から管へ、管から弦へ、クラリネットを中心に上昇したり下降したりして、うねるように繰り返されて美しく進んでいた。やがて、第二主題に入って美しい弦楽合奏が開始されても、木管楽器が加わってくるとこの特徴あるフレーズが、余韻のように響いていた。ピノックはここでも再び冒頭に戻って繰り返しを行い、丁寧にこの独特な装飾効果を楽しんでいるように見えた。しかし展開部に移行してもこのフレーズが合奏で力強く弦から管へ、管から弦へと移行して、上昇したり下降したりしながら展開されていた。これらの弦と管の合奏のアンサンブルの美しさは、再現部に入っても、実に快く印象的に響いており、ピノックは、実に丁寧に、時には楽しんでいるかのような表情を見せながら、繊細できめの細かな美しさを浮き彫りにしようとしているように見えた。




  第三楽章のメヌエットでは、かなり速いテンポで出だしの三小節のフレーズがカノン風に何回も繰り返されて進行し、ピノックは次第に力強く三拍子を刻んで躍動感が溢れるようにぐいぐいと進めていた。対照的にトリオでは、ほぼ同じテンポで弦楽合奏で始まり、オーボエに続きフルートとファゴットも加わって木管三重奏となり美しさを強めていたが、繰り返しの後は木管の三重唱の後にホルンの二重奏が響きだし、終わりには見事な管楽四重奏で打ち上げるなど弦と管のアンサンブルの対照の妙が光っていた。




          フイナーレ楽章では、ソナタ形式のアレグロ・アッサイで始まる第一主題がスピード感を持って軽快に進められており、まさに疾走するアレグロとなって、流れるような見事な弦楽合奏を繰り返していた。やがて穏やかな第二主題が弦楽合奏で始まって淀みなく進行するが、中間でクラリネットが明るく歌い出して第二版の特徴を浮き彫りにさせていた。ピノックはここでも提示部を繰り返して、スピード感を高めていたが、展開部に突入しても、冒頭の疾走する主題が弦でも管でも、入れ替わりに執拗に顔を出して繰り返し展開されており、後半のホルンのファンファーレが鮮やかであった。再現部に入っても全体としては軽やかさが確保されており、爽やかな疾走感でこの楽章を盛り上げつつ穏やかに終結していた。ピノックは、末尾の反復記号に従って展開部からの繰り返しを行っていたが、この長い展開部は実に味があり、再現部でも疾走感が加速されるなど、この繰り返しは全体のバランス上、極めて効果的であったと思われる。

         全楽章を通して聴いてピノックの演奏は、全体として速めのテンポに昔の伝統的な演奏と異なった感慨をおぼえつつも、爽やかさに満ちており、古楽器奏法の良いところをモダンなオーケストラに上手く適用して新鮮味を強めていたように思った。中規模のオーケストラが幸いしてか、弾むような軽やかな疾走感が全体を通じ支配しており、クラリネットを初めとする木管群が弦楽器に良く反応していた。ピノックは、いろいろな楽団を客演してオーケスオラの巧さを上手に引き出すことが巧みな指揮者であると感じさせていた。
このコンサートは、アーカイブの中でも2008年のの収録であり、古い方に属するが、このオール・モーツァルト・コンサートだけが残されていると言うことは、やはり評価が高かったのでアーカイブに残されたと考えるべきなのであろう。ピノックは、CD初期の頃からバッハのチェンバロ協奏曲全集などで知られるようになったが、いつの間にか指揮者としても活躍しており、今回のように初期のシンフォニーでは、みずからチェンバロを弾きながら指揮をするスタイルを取っていた。二つのト短調交響曲が一度に聴けることもも珍しい試みであり、これらがアーカーブとして 残された理由なのであろう。


(以上)(2016/09/23)



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