(最新のDVDより;弦楽五重奏曲全集より三曲K.406、K.593、K.515)
16-11-1、弦楽五重奏曲全集より第4番ハ短調K.406、第5番ニ長調K.593および第2番ハ長調K.515、
カピュソン・ハーゲン五重奏団(仮称)、2014年1月29日&31日、モーツァルテウム・グロッサー・ザール、ザルツブルグ、

−モーツァルト自身が発想の豊かなハ短調のデイヴェルティメントK.388を自ら編曲した第4番K.406(516b)は、原曲を生かした素晴らしい五重奏曲になっていた。四重奏団+ヴィオラではない団体の演奏は初めてであったが、四重奏団の枠組みに埋没しない5声の溌剌とした展開があって、とても新鮮に聞こえていた。第5番K.593は、ラルゲットの序奏で始まり、疾走するフーガの展開のフィナーレで終わる意外性の多い曲であったが、この五重奏団が元気の良い軽快な演奏を見せてくれたので、映像が少ないこの曲には、貴重な存在になりそうだ。第2番K.515もまずまずの演奏なので、最新の映像と音声が楽しめるこのDVDは、優れもののライブであった−

(最新のDVDより;弦楽五重奏曲全集より三曲K.406、K.593、K.515)
16-11-1、弦楽五重奏曲全集より第4番ハ短調K.406、第5番ニ長調K.593および第2番ハ長調K.515、
カピュソン・ハーゲン五重奏団(仮称)、2014年1月29日&31日、モーツァルテウム・グロッサー・ザール、ザルツブルグ、
(演奏者) 第一ヴァイオリン;Renaud Capucon、第二ヴァイオリン;Alina Ibragimova、第一ビオラ;Gerard Cause、第二ビオラ;Lea Hennino、チェロ;Clemens Hagen、
(2016/7/28、タワーレコードにて購入、DVD BELVEDERE 08004)

         11月分の第1曲目は、10月分に引き続き、最新のモーツァルト週間(2014)での弦楽五重奏曲全集の2枚目のDVDであり、第4番ハ短調K.406、第5番ニ長調K.593および第2番ハ長調K.515が含まれていた。いずれも軽快なテンポで、美しい音と映像で見事な弦楽合奏が楽しめるので、楽しみながらアップロードをしたいと考えている。このカピュソン・ハーゲン五重奏団(仮称)は、やはり第一ヴァイオリンとヴィオラにチェロが中心になっており、二人の第二ヴァイオリンとヴィオラの若い女性たちは、全体の中に溶け込んでもっぱら内声部を充実させる役割となっていたと書いてきたが、弦楽四重奏団プラス第二ヴィオラの組合せよりも、若い集団のせいかとても元気よく、第一ヴァイオリンの統制がゆるいように感じてきたが、今回の3曲はどうであろうか。




          第1曲目の弦楽五重奏曲第4番ハ短調K.406(516b)は、第6版でのK番号が516bとされているように、先の2つの五重奏曲第2番K.515および第3番K.516と3本立てで予約出版しようと考えて、1782年7月に作曲されたオーボエ・クラリネット・ホルン・ファゴット各二本のためのセレナードハ短調K.388を、8声部から5声部の弦楽5重奏曲に自身で編曲したものとされている。この曲はセレナーデの名にそぐわないハ短調で、4楽章という変則的な構成を持つ上に、内容も重厚でむしろシンフォニーのような響きを持つことから、弦楽五重奏への編曲を思いついたのであろう。




        この曲の第一楽章の始まりは、ハ短調でユニゾンで奏される暗いイメージで第一主題が奏されるが、主題の前半は第一ヴァイオリンが、後半は第一ビオラが提示しており、これは展開部の主要主題でもあった。力強い推移部を合奏で経過して、やがて第二主題を第一ヴァイオリンが第二ヴァイオリンの伴奏で明るく歌い出し、続いて珍しくチェロが伴奏をつとめて暗いイメージを抜け出してホッとする。しかし、途中からは各声部がそれぞれが明るいメロデイラインや伴奏型を歌い出し、厳しい刻むようなリズムにより盛り上がり、最後はトウッテイで勢いよく提示部を閉じていた。ここで提示部の繰り返しは丁寧に行われていたが、やはりこの曲の構成はしっかりして厚みがあり、デイヴェルテイメントからの編曲とは思えぬ、むしろシンフォニーのような重々しい感じさえしていた。
          展開部では、第一主題の後半の音型を使った独特の展開部で、短いがハッとさせる迫力があり、展開部の最後は全休止で一息つき、再現部の入りを強調していた。再現部では、冒頭主題がユニゾンでしっかりと再現されていたが、第二主題は第一ヴァイオリンが変奏形で提示しており変化を付けながら演奏し、最後の後半では素晴らしい五重奏でこの楽章がしっかりと結ばれていた。




           第二楽章は、前楽章の緊張を取り除くようなナハトムジーク的な第一主題が第一ヴァイオリンで現れ、のどかな牧歌的な感じのアンダンテで始まり、第一ヴィオラ中心の経過句で結ばれていた。そして続く第二主題も第一ヴァイオリンの独奏で提示され、終始、穏やかにゆっくりと進む。この楽章は反復記号を持たないソナタ形式のようで、形だけの展開部に続いて、再現部では第二ヴァイオリンが中心になって第一主題を再現して変化を持たせ、第二主題も変奏されて合奏で現れ、それぞれの楽器が顔を出し存在感を示していた。
         第三楽章は、「メヌエット・イン・カノーネ」と譜面に表示された通り、楽節の入りごとにカノンを用いており、メヌエット主題が第一ヴァイオリンで提示するとチェロが一小節遅れでカノン風に進んでいた。中間部では、第一ヴァイオリンが主題を弾き出すと第二ヴァイオリンが一小節遅れで進み、後半のメヌエット部分では、第一ヴァイオリンに続いて第二ヴィオラとチェロが一小節遅れてカノン風に進み、メヌエットとしては、やや堅苦しい難解なメヌエットのように聞こえていた。
       トリオでは第二ヴァイオリンが主題を提示すると、二小節づつ遅れて、第一ヴァイオリン、第一ヴィオラ、チェロの順にカノン風に進行し、第二ヴィオラが休息していた。このトリオでは表示通り反行カノンの形を取っており、明るく澄んだ感じのするトリオとなっており、重厚なメヌエットと好対照をなしていた。




         フィナーレは、二部リート形式の16小節の主題と7つの変奏曲であり、第一・第二ヴァイオリンがメロデイラインで、全員合奏で主題提示を早いテンポで行なっていた。第一変奏は、明るく軽快に進むアレグロの主題が第一・第二ヴァイオリンで示され、その他が伴奏をユニゾンで力強く合奏する変奏から始まった。第二変奏は第一ヴァイオリンが三連符のソロ主題を早いテンポで提示して、残りが伴奏に廻っていた。第三変奏は、女性二人の第二ヴァイオリンとヴィオラが合奏して主題を提示し、他の楽器はスタッカートで軽快に伴奏するものであった。
          第四変奏は反復記号がなく、前半は全楽器が八分音符で同音連打で 主題を奏し、後半は第一ヴァイオリンとチェロが16分音符の音階、他の楽器は和音提供で変奏されていた。第五変奏では二つのヴィオラの明るい合奏で始まり、二つのヴァイオリンが美しいが、後半は全員合奏で賑やかな変奏となっていた。第六変奏では全員合奏の早いテンポの変奏に戻っていたが、第一ヴィオラとチェロによる技巧的な装飾音が全体を支配していた。終わりはフェルマータで休止してから、最後の終結部では、この曲の仕上げのスピード感あるアレグロであり、全員合奏で主題が激しく力強く奏され、堂々と盛り上がりを見せて一気に終結していた。

           このフィナーレ楽章は、変奏曲として変化に富んだ輝きを持っており、発想の豊かな原曲を生かした素晴らしい五重奏曲になっていた。すべての楽章を通じて、終始、第一ヴァイオリンがリーダシップをとり、第二ヴィオラがこれを補佐し、チェロが底辺を充実させるしっかりした役割を果たしており、女性陣の第二ヴァイオリンとヴィオラも内声部を補強する重要な役割を果たしていた。原曲のセレナードハ短調は、この種の曲の中では唯一の短調作品で4楽章制であり、メヌエットでカノンが使われるなど各楽章がしっかりした構成で出来ており、8声で内声が充実していることから、弦楽五重奏に編曲しやすかったのであろう。四重奏団+ヴィオラではない団体の演奏は初めてであったが、四重奏団の枠組みに埋没しない5声の溌剌として展開があって、とても新鮮に聞こえていた。





          このコンサートの第2曲目は、弦楽五重奏曲第5番ニ長調K.593 であり、1790年12月と翌年の4月に2曲の弦楽五重奏曲が完成されているが、前者が第5番、後者が第6番とされている。死後に2曲がアルタリア社から出版されているが、これに「ハンガリーの愛好者のために」と記されていたことから、このハンガリーの裕福な愛好家のために書かれたものと考えられている。この曲は5つの楽器の音色の微妙な使い分けと対位法的で立体的な組み立て、そこから生まれる透明な響きは、晩年に特有の清澄な曲想と一体になって、五重奏曲の新たな局面を開いているといわれており、評価の高い1787年のハ長調とト短調の2曲に、充分、対抗し得る魅力的な世界があるとされている。


          この曲の第一楽章は序奏付きのソナタ形式で、最後が再びこの序奏で終わるという珍しい形をとっていた。序奏は冒頭のチェロの語り掛けで始まり、他の4声がピアノの合奏で答える厳かなラルゲットの主題で真に印象的であった。フェルマータで終わってから、伸びやかにスタッカートで弾むように進行し第一ヴァイオリンの早い下降パッセージで終える第一主題も印象的であり、続く経過部が対位法的に展開されて力強く進行していた。そしてチェロと第一ヴァイオリンが第二主題を提示して素晴らしい勢いで主題提示部が終了していた。この提示部は丁寧に繰り返されていたが、実に意表を突いた新鮮な感じがする提示部であった。 展開部では、初めにこの主題の冒頭部が形を変えて劇的に展開され、続いて第一ヴァイオリンによる下降パッセージが、各声部で繰り返し現れる長大な展開部であった。再現部は型どおりではなく、いろいろと変化が加えられながら展開されていたが、終了後、冒頭のラルゲットが演奏されて、第一主題が顔を出して第一ヴァイオリンの早い下降パッセージで不意に終わりとなるところが珍しかった。






         第二楽章は、もの悲しい清澄な感じのするアダージョの第一主題に始まり、深刻な暗さを助長するような三連音符を伴奏とする第二主題が第一ヴァイオリンにより提示され、チェロの伴奏に支えられながら繰り返されていた。続く展開部では装飾的な下降音形が各声部で現れて救いようのない暗さに満ちた展開がなされ、後半チェロのピッチカートの音が僅かにおどけた表情を見せてから、再現部が始まっていた。この暗いアダージョは、後期の作品に現れる難解さが、終始、つきまとい、重々しい雰囲気を助長しているように思われた。
         第三楽章は、ハイドン風な明るさを持ったメヌエット楽章に立ち戻り、伸びやかな主題が力強く進行していた。一方のトリオでは、第一ヴァイオリンの上昇するアルペジオとピッチカートとの対話があり、中間部ではチェロが上昇するアルペジオを繰り返して遊びを見せ、束の間の安らぎを感じさせていた。


    フィナーレは弦が落ちつきなく走り出すアレグロで、第一主題は半音下降する早いジークのような舞曲風な趣で疾走し、第二主題は第一ヴァイオリンで始まる軽い主題がフーガとなって疾走して、冒頭のモチーブに回帰して提示部を終えていた。繰り返し後の展開部は第一主題の反行形で始まり、フーガ主題が厳格に支配しており趣が変わるが、再現部では二つの主題が混合して対位法的な展開を見せて高揚しながら一気に終息していた。


          この曲はレコードに恵まれず、全曲盤でもない限り聴くことがまれな曲であり、このHPでも、この演奏が二本目であった。しかし、DVDの新盤で入手しているので、これからは聴く機会が増えるものと思われる。ラルゲットの序奏で始まり、フィナーレの疾走するフーガの展開が続いた意外性の多い曲であったが、この五重奏団がまずまずの軽快な演奏を見せてくれているので、この映像の演奏は、貴重な存在になりそうである。





    この日の第三曲目は、弦楽五重奏曲(第2番)ハ長調K.515 であり、新全集ではアレグロ楽章、アンダンテ楽章、メヌエット楽章、アレグロ楽章の構成とされ、全体で1149小節を有して、ジュピター交響曲の924小節を超える器楽曲中の最大規模を誇る作品とされている。後期の作品らしく重厚な構えと奥深い美の構築から、室内楽の中でもト短調K.516と並んで、最高の高みの作品と考えられている。

       第一楽章は、チェロの分散和音の上昇による問いと第一ヴァイオリンのため息音形による応答による第一主題が、秒針を刻むような威勢のよいアレグロの機械的なリズムの上で軽快なリズムで始まるが、この主題は堂々として雄大であり、三度繰り返されて全休止になってから、今度はチェロと第一ヴァイオリンが入れ替わって、あの機械的なリズムのもとに三度繰り返されていた。この雄大な楽想は第一ヴァイオリンの揺れ動くような早いテンポのエピソードに引き継がれ、経過部を経てから、やがて第一ヴァイオリンの8分音符の連なりから成る第二主題が軽快に進んでおり、この軽快なリズムに乗って各楽器が入り乱れて充実した響きを見せ、結尾主題を経て提示部を終えていた。この五重奏団はここで改めて冒頭に立ち戻り、再び雄大な第一主題が颯爽と開始されていたが、このメンバーによる五重奏は、各声部に勢いと緊張感が漲っており、実に充実した響きをみせて提示部を終了していた。
        長い展開部でも冒頭の問いかけモテイーブと応答する旋律とが繰り返し展開されていた。再現部においてもこの第一主題が繰り返し現れて、隙のない重厚な造りの緊密な響きが続いており、モーツァルトの後期の作品に見られる風格のある充実した緊張感が溢れる楽章を思わせていた。




           続いて第二楽章はアンダンテ楽章であり、第一ヴァイオリンと第一ヴィオラが主体となり、対話するように第一主題が流れるが、厳かで重みと渋味のある始まりであった。続く第二主題でも第一ヴァイオリンの旋律に対しどこかの声部がこれに答えるような対話が繰り返されるコンチェルタントなスタイルとなっていた。そして結尾主題が第一ヴァイオリンで現れても、第一ヴィオラがこれを受け止め、第一ヴァイオリンと交互に早いカデンツア風のパッセージまでやり取りしながら進行し、トリルで一休みしていたが、どうやら展開部を欠いたソナタ形式のスタイルであった。再現部ではほぼ型どおりにコンチェルタント風に再現されていたが、第一ヴィオラが渋味を聴かせながら存在感を示し、5声による対位法的な分厚い響きを示していた。この響きはモーツァルトが晩年に得たいくつかの五重奏曲にだけ現れる5声の複雑な深みと渋味のある世界に共通するように思われた。




    第三楽章のメヌエットでは、いきなり第一・第二ヴァイオリンにより流れるような気品のあるメヌエット主題が奏され繰り返されていくが、中間部では第二ヴィオラとチェロがこの主題を奏し、続いて第一・第二ヴィオラがこのメヌエット主題を手掛けながら進むが、印象としては常にどこかの声部がいつもこのメヌエット主題を弾いているように聞えていた。対照的にトリオでは第一ヴァイオリンのペースで進み重い雰囲気が流れるが、後半では第一ヴァイオリンと第二ヴィオラによる明るく美しい民謡調の旋律が四度現れ、ホット息抜きをさせてくれていた。流れるような上品なメヌエット主題が各声部で現れ 、弦楽合奏の豊かさを感じさせるメヌエット楽章であった。




                         フィナーレは明るい陽気なロンド主題が第一ヴァイオリンでアレグロで飛び出して繰り返していくが、どうやらここでは単純なロンド形式ではないソナタ形式とが複雑に融合したような感じがする楽章であった。軽妙なロンド主題に続き新しい第二の主題が現れて優美さを示しながら、対位法的な展開が行われて難解さを感じさせるが、途中で再び最初のロンド主題が現れてホッとする。続いて第三の主題が現れて急速に複雑な展開を見せていくが、これはモーツァルトの後期の気むずかしいが、優麗な世界が広がる典型的なフィナーレ楽章であろうと考えて見た。

              カピュソン・ハーゲン五重奏団(仮称)の演奏は、このホームページでは初めての登場であったが、モーツァルテウムの大ホールを満員にして、この気むずかしい弦楽五重奏曲の充実した響きを聴かせてくれた。このハ長調の五重奏曲は、ジュピター交響曲を超えて、彼の器楽曲中の最大規模を示していると言われるが、こうして彼の五重奏曲を続けて聴いてみると、規模ばかりでなくその内容も重厚な構えと堅牢な美の造りが見られる素晴らしい作品であると改めて感じさせた。


(以上)(2016/11/12)



目次5にもどる 目次4にもどる
目次3にもどる 目次2にもどる
目次1にもどる 私の新ホームページへ


名称未設定