(最新のBSプレミアムのオペラから;井上・野田コンビによる「フィガロ」)
16-1-3、井上道義指揮読売日本交響楽団と野田秀樹演出のオペラ・ブッファ「フィガロの結婚」−庭師は見た−
日本語演出のオペラ、2015/10/22、24、東京芸術劇場コンサートホール、

−今回の和洋折衷のオペラ「庭師はみた!−てんやわんやの一日−」は、西洋の貴族文化の物語を東洋の開国時に外国人を出迎えた異文化風俗の驚きの世界に読み替えたものであり、3人の外国人と8人の日本人が実に生き生きとしてそれぞれの役割を良くこなしており、歌もセリフも演技も良く飛びかい、イタリア語も生きた日本語もよく響き、時代劇風の舞台上でのオペラ劇が、実に新鮮に見えた。ここまで和洋折衷を徹底し舞台劇としてこなされると、見る側は二つの異文化を受け入れて違いを楽しんで見て居れるようになる。野田演出・編集者のアイデアにも、それを受け入れてオペラに仕上げた井上総監督の力量に深く敬意を表したいし、日本の演劇界の底の広さを深く感じさせた成功例の第1号として位置づけておきたいと思う−


(最新のBSプレミアムのオペラから;井上・野田コンビによる「フィガロ」)
16-1-3、井上道義指揮読売日本交響楽団と野田秀樹演出のオペラ・ブッファ「フィガロの結婚」−庭師は見た−
日本語演出のオペラ、2015/10/22、24、東京芸術劇場コンサートホール、
(配役)伯爵;ナターレ・カロリス、伯爵夫人;テオドラ・ゲオルギュー、スザ女;小林沙羅、フィガ郎;大山大輔、ケルビーノ;マルテン・エンゲルチェズ、走り男;牧川修一、狂っちゃ男;三浦大喜、バルバ里奈;コロン・えりか、庭師アントニ男;広川三男、および新国立劇場合唱団、
(2015/12/14、NHKBSプレミアムをレコーダーの外部USB-HDDのHD-2にHV録画、)

1月号の最後の第三曲は、昨年12月14日にNHKBSプレミアムで収録した日本語オペラ映像の「フィガロの結婚」であり、昨年10月に東京芸術劇場で収録されたものであった。驚いたことに、演出者野田秀樹によりこの西洋の貴族社会の物語が「庭師は見た」という日本の時代劇風に改められ、人間関係は「西洋も東洋も同じ」とも言うべき面白い「フィガロの結婚」に思い切って読み替えられており、井上道義総監督による音楽も充実して、初めて見たような和洋折衷の笑いに溢れたオペラブッファ劇であった。この舞台では、西洋文化と日本文化のそれぞれの良さを、江戸時代末期の長崎での物語に結実させた純日本調の舞台劇に仕立てたのが良かったと思われる。



イメージに「蝶々夫人」のオペラがあったであろうが、西洋人を衣裳も言葉も外国人として扱い、舞台を全て東洋風の日本調にしたのが良かったようだ。リブレットは、外国人はイタリア語でアリアとレチタティーヴォを歌い、日本人は従来の翻訳調の言葉を放棄して、新しい日本語でアリアを歌い、レチタティーヴォを会話に切り替えて、さらに舞台の進行を庭師アントニ男に委ねるという純日本式舞台進行に徹底したのが良かったようであるが、このリブレットの大変更は、プロの演出者にとっても大変な作業であったと思われた。演出者の野田秀樹のアイデアに感心するとともに、それを生かして優れた日本調のオペラ作品にまで仕上げた井上道義総監督に敬意を表したいと思う。私は歌舞伎も日本の時代劇の舞台も全く知らないので、この日本式舞台の全てに驚きを持って見たのであるが、文化の違いに驚いたものの、人間のすることは西洋も東洋も同じと言うことに改めて気付かされ、演出者の徹底した読み替え劇の凄さにも驚かされた。



この映像は、まず演出・脚本の野田秀樹と総監督・指揮の井上道義とのオペラ対談に始まり、西洋と東洋との違和感、ケルビーノは男が歌うべき、日本語では歌い辛いなどと言ったお二人の息の合った対話で始まっていた。そして直ぐに、「時は黒船の世」「ところは長崎」「港の見える丘」「騒がしい一日が始まった」という字幕が出て、音楽は序曲ではなく、第三幕フィナーレの行進曲が堂々と始まり、出演者の紹介が始まっていた。それから、「フィガロの結婚」−庭師は見た−というタイトルが出て、日本語演出のオペラが開始され、これだけでも、お二人のこのオペラへの意図は明快に示されていた。



指揮者が登場し、舞台が開いて庭師アントニ男が和服姿で姿を見せて、これは昔も今も変わらぬ「おしべとめしべ」のお話しです、と口上を述べて、「黒船がやって来た」と拍子木で活を入れると、幕(竹)が開いて序曲が颯爽と軽快に開始された。序曲の最中に、舞台では黒船に乗って、三人の外国人が長崎に到着して、物珍しげに日本人の様子を観察し、伯爵風の外国人が可愛らしい和服のスザ女の手を取ってキスすると、日本人全員が目を皿のようにして驚く風景が写されており、実に微笑ましく思われた。



美しい前奏が始まり、フィガ郎が「三尺、四尺」と歌い出し、スザ女も「ねえ見てよ、この晴れ姿」と日本語で歌い出して、明るく二重唱が始まった。フィガ郎がスザ女の手作りの飾りや衣裳を誉めていると、すかさずベッドの話となり、スザ女が反対して怒り出す。フィガ郎がデインデインの二重唱を歌い出し、スザ女が引き継いでここではカンカン・コンコンとなって世にも奇妙な話から、フィガ郎もやっと伯爵の高遠な企みに気が付き、もっと話を聞きたいという。レチタテイーヴォの代わりに二人の日本語の会話もスムーズで、伯爵の真の狙いを知ったフィガ郎は、改めてその対策を考え出していた。



チェロのただならぬ伴奏にやがてチェンバロも加わって、フィガ郎の怒りのアリアがピッチカートの伴奏で朗々と生真面目に歌われて、フィガ郎は歌も恰好もとても良く似合って、会場から大きな拍手を浴びていた。ここまでは一気に進むが、この新婚の二人のコンビの生きの良さから、楽しい「フィガロ」になりそうな感じがした。
場面が変わって、進行係のアントニ男が現れ、バルト郎とマルチェ里奈を日本語で巧みに紹介し、バルト郎が昔の女の前で格好を付け、「仇を討つぞ」と表情豊かにアリアを披露して、自信ありげに堂々と歌っていた。バルト郎のアリアの歌詞は見事な日本語に変えられ、この二人はまさにブッファ向きの男女で、これからの登場が楽しみであった。



そこへスザ女が顔を見せたので、二人の女の烈しい口喧嘩が始まっていたが、日本語のせいか何と二人は生き生きしていることか。ここではどうやらスザ女の若さが勝利して、マルチェ里奈は「ババア」と言われて遂に逃げ出していた。そこへ格好の良い金髪の大男のケルビーノが登場し、スザ女の持つリボンを取り上げ小競り合い。よく見るとイケメンの可愛い顔のケルビーノが、お城の女性たち全員にお愛想を言って「自分で自分が分からない」と歌い出したが、これが初めて聴いた男性のカウンター・テナーであり、こんな背の高い男っぽいケルビーノの姿は始めてで、大いに驚いた。残念ながら、彼の裏声は聞き慣れぬせいか私には魅力に乏しく、ズボン役のケルビーノの方が魅力があると感じたが、女性ならどう感ずるか面白いと思った。いずれにせよ、表情豊かだったので、凄い拍手を浴びていた。



そこで伯爵の声が聞こえたので、ケルビーノが大慌てで隠れると、誰もいないと知って伯爵が大胆にスザ女を口説き出した。そこで走り男(バジリオ)の声が聞こえて、伯爵も身を隠すと、陽気でヒマそうな走り男が何とケルビーノと伯爵夫人の大袈裟なうわさ話。この話を言葉の壁を越えて伯爵が聞きつけて大声を出して立ち上がってしまい、さあ大変。そこでおかしな三重唱が始まって、困ったスザ女が気を失い、男二人の怪しげな手つきに介抱されて飛び上がるスザ女。伯爵がケルビーノの話になって虎の皮の敷物を剥ぎ取ると、何とこの部屋にもケルビーノが隠れていた。驚く伯爵と弁解するスザ女に、走り男が「コシ・ファン・トッテ」と歌って面白い三重唱が終わっていた。そしてケルビーノが伯爵に責められてどうなるかと心配したが、そこに突然現れたフィガ郎が率いた村の仲間たちの合唱でこの場は救われた。



フィガ郎は皆と作戦を練って、初夜権を放棄した伯爵を持ち上げて、スザ女との結婚を認めさせようとしたが、挙式は約束するものの、もう少し時間をくれと逃げられた。伯爵の冷たい態度を怒る村人たちの合唱が再び始まって、この場は収まりかけたが、残されたケルビーノが罰として伯爵から空席のある連隊の士官に任命された。そこでフィガ郎からケルビーノは手厳しい激励のアリアを贈られていたが、このアリアが実に堂々と元気よく歌われ、やがて行進曲にもなって最後のカデンツアも勇ましく、大拍手の中で第一幕が終了していた。



   第二幕は弦による美しい前奏が始まって、伯爵夫人が登場し、憂いに満ちた表情で、伯爵夫人が悲しげに「愛の神よ」と祈るようにアリアを歌っていた。スザ女に伯爵の冷たい変わり様をこぼしていると、フィガ郎が登場し殿様を懲らしめようと相談し早速、作戦を練っていた。長い計画であったが、女性軍はケルビーノを女装させる計画には賛成して、フィガ郎は意気揚々と得意のアリアを歌いながら引きあげていた。
  早速、可愛い軍服姿のケルビーノが伯爵夫人の部屋に現れ、スザ女に催促されて、憧れの夫人の前で恥ずかしそうにアリアを歌い出した。スザ女のギターの伴奏でケルビーノは、良い声で快いテンポで軽快に歌っており、後半には度胸がついて装飾をつけたりして大好きな夫人の傍で歌って上機嫌。思わずブラボーと夫人が叫ぶほどの熱演で、この日一番の大拍手で会場も喜んでいた。



続いて、スザ女が部屋にカギを掛け、夫人の見ている前で、ケルビーノと向かい合って女装させながら、着せ替えのアリアを歌い出した。髪を解かし、お白粉を塗り、帽子を被せ、歩かせたり踊らせたりして大笑い。ケルビーノの腕に夫人のリボンがあることに夫人が気がつき、ケルビーノが伯爵夫人に説明しながら迫りかけたところに、部屋の外から伯爵の大声が聞こえてきた。さあ大変。
ケルビーノを衣裳部屋に閉じ込めて、夫人は大慌てでドアを開けると、伯爵が飛び込んできてフィガ郎の手紙を見せる。夫人が言い訳しているうちに衣裳部屋で大きな音がした。とぼける夫人を怪しんだ伯爵が「スザ女、出てこい」と大騒ぎして三重唱が始まるが、伯爵夫人が何としても名誉を賭けて必死に頑張り鍵を渡さない。伯爵の怒りと夫人の防戦の二重唱となっていたが、納得しない伯爵は自分でドアを開けるため、夫人を連れて工具を取りに部屋を出た。



その間一髪の間に、スザ女が「早く、早く」とケルビーノを外に出して二重唱が始まり、ケルビーノが走り回りながら窓を開け、スザ女の悲鳴と共に窓から飛び下りて一目散に逃げ出して一安心。
伯爵は衣裳部屋にいるのはスザ女ではないなと気がつき、夫人を責めると、子供の話からまたケルビーノが出てきたので大怒りとなった。そして、「悪童め、出てこい」と大声を上げて、第二幕の長いフィナーレが始まった。「奴は死ぬのだ」と怒って夫人から鍵を取り上げたところに、スザ女が「シニョーレ」と何食わぬ顔で出てきたので、二人は大驚き。伯爵が確かめに小部屋に入った隙に、スザ女が伯爵夫人にケルビーノが窓から逃げたことを説明して女性二人は急に強くなり、許せと迫る伯爵をはねつける長い三重唱が続くが、風向きが変わったところへフィガ郎が楽士を連れて登場してきた。



しめたとばかり喜ぶ伯爵が、早速、フィガ郎にこの手紙を知ってるかと尋ね、フィガロが、ばれているのに知らぬ存ぜぬの四重唱となって、伯爵がカンカンになっていた。そして音楽も次第に重低音になり、あわやと思われたところへ、顔が真っ赤なアントニ男がバルコニーから人が降ってきたと訴えて、場面はヘンテコな五重唱に変わっていた。飛び降りたのは俺だとフィガ郎が言いつくろうが、この落ちていた書類は何だとまた大難題。女二人の機転で、フィガ郎は何とか言い逃れたが、伯爵はカンカンでおさまらない。



そこへやっとマルチエ里奈一行が登場して、三人は個別に殿様に契約の履行を迫る賑やかな七重唱となった。伯爵は上機嫌で裁くのは私だと「静まれ」と大声を上げて盛り上がっていたが、この場は伯爵側が優勢のうちに、長い長い第二幕が終了となっていた。



第三幕は語り部アントニ男の解説で始まり、しきりに考え込んでいる機嫌の悪い伯爵に、スザ女が気付け薬を口実にして近づき、「殿の望みは私の義務です」と調子よく答えたことから話が弾み、二人の二重唱になっていた。「庭に来てくれるか」という伯爵の誘いにスザ女はイエスと答え、その後で伯爵をじらせながらノーと答えたりして伯爵をその気にさせていた。そして別れてからすれ違ったフィガ郎に、スザ女が「裁判に勝ったわよ」と漏らしたのを聞いた伯爵が、騙されたかと疑って怒りながらアリアを歌い出した。「私が溜息をついているのに、召使いが幸福になっていいものか」と歌う伯爵の烈しいアリアが朗々と歌われて、賑やかな拍手があった。



そこへ狂っちゃ男(クルツイオ)が「判決が出た」と言いながら登場し、フィガ郎が金を返すか結婚するかとなって攻められていたが、マルチェ里奈や伯爵の前で、フィガ郎が一人だけ反発し「盗まれた貴族の子供だ」と言って笑われ、一人で親の承諾が要ると言い張っていた。そして証拠があるかと言われて皆に見せた右腕のアザがきっかけとなり、マルチェ里奈が我が子のラファエロだと悲鳴を上げた。そこで面白おかしい親子対面となり、フィガ郎がマルチェ里奈と抱き合って六重唱が始まった。そこへスザ女がお金を持って登場し、抱き合った二人を見てフィガ郎に見事な平手打ち。その後は、事情が分かって何とも珍妙なマードレ、パードレの六重唱が続いて、4人は二組の結婚式を挙げようと決心していた。



  続いて伯爵夫人が登場し「スザ女がまだ来ない」とレチタティーヴォを歌ってから「あの幸せな日は何処に」と美しいアリアが歌われ、それが余りにもの哀しく生真面目に歌われていたが、後半になって夫人の伯爵へ仕返しようという強い意志が現れたように見えていた。場面が変わって、伯爵夫人はスザ女から伯爵との約束を確認し、合う場所を指定する手紙を書こうとして、夫人のいう言葉をスザ女が書きながら歌う「手紙の二重唱」が始まった。松の木の下でと同じセリフを繰り返す二重唱は実に美しく、ピンで封をして、このピンを返すようにと念入りであった。



そこへ村の娘たちが花束を持って伯爵夫人に献げようと登場して来たが、一人見慣れぬ顔がいた。アントニ男が駆けつけてきて、その娘を伯爵に引き渡すと、その娘は何と女装したケルビーノ。バルバ里奈が皆の前で伯爵との秘密を明るみにしてケルビーノをもらい受け、ケルビーノは全てを伯爵に白状していた。



そこへフィガ郎がお祝いの踊りだと駆けつけるが、伯爵がフィガ郎にびっこで踊るのかと皮肉を言い、ケルビーノが白状したとフィガロに迫って、二人は爆発寸前になっていたが、結婚式の行進曲に救われていた。そこで踊りの音楽が始まり、フィナーレが始まって、二人の村娘の二重唱で大勢が入場し、二組の花嫁に伯爵がヴェールを被せてお祝いがなされていた。



その踊りの間に、スザ女が手紙を伯爵に渡して、伯爵がピンで指を刺す一幕があったが、兎に角、全員の踊りとお祝いの合唱が始まり、伯爵の挨拶があってから、全員で写真を撮るという一幕があって、賑やかな婚礼の儀式が盛大に終了し、第三幕が賑やかに閉幕していた。



第四幕に入ってバルバ里奈が薄暗い舞台の上でピンを探しながら美しいアリアを歌い出すが、ピンが見つからずに泣きながら歌っていた。そこへフィガ郎が登場し、探していたピンだと手渡すと、バルバ里奈は大喜びで、フィガ郎に伯爵が「これが松の木の封だ」と言ってスザ女に渡せと語ったことを全て話してしまう。スザ女の伯爵との逢い引きの計画を知ったフィガ郎は、新婚の夜にと怒りが頂点に達していた。そして、[全ての用意が整った」とレチタティーヴォを歌ってから、この結婚式の夜なのにとスザ女を怨むアリアを「目を見開け、無関心で愚かな 男たちよ」と元気よく歌い出した。このアリアも良いテンポで歌われ、フィガ郎の大アリアになって、さすがフィガ郎と大拍手であった。



続いて、スザ女と伯爵夫人がお互いに衣裳を変えて登場し、スザ女が「ついにその時がきた」とレチタティーヴォに始まり、美しいピッチカートに乗ってオーボエとフルートの伴奏で、スザ女のアリアが歌われた。陰で隠れて心配しそうに見守っているフィガ郎の前で「どうか直ぐに来て、素晴らしい喜びよ」と歌われたこのアリアは、後半には装飾音符を着けながら見事に歌われて、万雷の拍手を浴びていた。



フィナーレに入って、悪戯っ子のケルビーノが登場して、スザ女に変装している伯爵夫人をからかってまとわりつき、夫人はケルビーノを持て余していたが、そこへ伯爵が登場する。伯爵もスザンナだと思い込み近づくが、ケルビーノが邪魔で、追い払おうとして平手打ちするが、それが隠れていたフィガ郎に大当たりして大災難。しかし、伯爵はやっと目指すスザ女の手を掴まえて口説き始め、素直なスザ女にご機嫌になって、気前よくダイヤの指輪まで渡してしまっていた。フィガ郎が通行人の振りをして音を立てたので、スザ女の伯爵夫人は逃げ出してしまっていた。



一方のフィガ郎は暗闇の中で伯爵夫人を見つけ出すが、話しているうちに声でそれがスザ女であることを知り、腹いせにスザ女をからかって、伯爵夫人を口説きはじめた。スザ女は次第にフィガ郎が熱してくるので、ついに腹を立てフィガ郎を平手打ちにし今度は足蹴りまでして怒りを表すが、フィガ郎がからかったのだと白状したため、二人は仲直りしてしまう。そこへ伯爵がスザ女を捜して現れたので、二人は伯爵を懲らしめようと、そのままの姿で伯爵夫人とフィガ郎の大袈裟な逢い引きの演技をして見せた。



伯爵はそれを見て驚き、大声で「皆、武器を持て」と大騒ぎして皆を集めてしまった。そして謝る二人に対し、皆の前で「許さぬ」と大声を上げてしまったが、そこへ後ろから伯爵夫人が声を出しながら現れたので、さあ大変。



音楽はアンダンテとなって、伯爵は二人の伯爵夫人を見較べ、どうしてそうなったのか分からないままに、直ぐに自分の間違いに気付き、皆の前で伯爵夫人に膝をついて心からの詫びを入れた。ここで伯爵夫人も素直に夫を許したので、見ていた一同も安心して一段落となった。



音楽が変わって、最後は一同10人が舞台の前に一列に並び、対立は全て消えてこれで満足だと、全員が喜びの歌を歌って長いアルマヴィーヴァ伯爵家の「たわけた一日」の大団円が始まっていたが、伯爵夫人がそこにあった銃を取り上げて、一発、打って、憂さを晴らしてから、全員が大喜びの大団円になっていた。



最後の伯爵の一段とテンポを落とした見事な赦しを請う演技で、舞台はとても引き締まり、大変な歓声の中でカーテンコールが始まっていた。その順番は、始めに合唱団が入り、続いて声楽と演劇のアンサンブルの方々が8人ずつ挨拶をしてから、存在感を示した進行役のアントニ男、バルバ里奈、狂っちゃ男、走り男と続き、バルト郎とマルチェ里奈、ケルビーノとなり、伯爵夫人と伯爵が続き、最後にスザ女とフィガ郎が挨拶していた。そして、一列になって観衆に応えていたが、会場の観衆の熱狂振りに応えて井上監督と最後には演出の野田監督も加わって挨拶をしていた。観衆に支えられて劇場と一体になったオペラブッファの良さをしみじみと感じさせ、この公演は大成功であることを如実に示していたように思う。


  今回の和洋折衷のオペラ「庭師はみた!−てんやわんやの一日−」は、西洋の貴族文化の物語を東洋の開国時に外国人を出迎えた異文化風俗の驚きの世界に読み替えたものであり、3人の外国人と8人の日本人が実に生き生きとしてそれぞれの役割を良くこなしており、歌もセリフも演技も良く飛びかい、イタリア語も生きた日本語もよく響き、時代劇風の舞台上でのオペラ劇が、実に新鮮に見えた。ここまで和洋折衷を徹底し舞台劇としてこなされると、見る側は二つの異文化を受け入れて違いを楽しんで見て居れるようになる。野田演出・編集者のアイデアにも、それを受け入れてオペラに仕上げた井上総監督の力量に深く敬意を表したいし、日本の演劇界の底の広さを深く感じさせた成功例の第1号として位置づけておこう。

          この成功には、主役のフィガ郎とスザ女、伯爵と伯爵夫人のペアーの好演によるものであるが、それを支えたケルビーノとバルバ里奈、バルト郎とマルチェ里奈のペアーの活躍も見逃せず、進行役としても活躍した庭師アントニ男のベテランぶりなどにも敬意を表したいと思う。そればかりか、新国立合唱団や、声楽・演劇アンサンブルの皆さんが、一つの舞台でベッドや花壇など小道具の全てを人海戦術でこの日本風時代劇に仕立てた知恵と行動にも敬意を表したいと思った。

         アリアの日本語も翻訳調でなく、日本語の会話が生き生きとしており、進行役の紹介の言葉も新鮮であったし、和洋を強調した衣裳なども素晴らしく、特に第4幕フィナーレの分かり易い着せ替え劇の衣裳などは特筆すべきで、各所でのきめ細かな配慮が、日本的とでも言うべきか、行き届いていた。私は高橋英郎元フェライン会長の日本語オペラを見てきていたが、ソプラノの声が聞き取れず、日本語で歌わせるには、ここまで徹底して日本語を吟味しなければならないことを始めて知った。言葉の問題はオペラにおいては一つの壁であるが、先人のご苦労を知っているだけに、このオペラは特別なものだと、深く評価しておきたい。

(以上)(2016/01/20)



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