(最新の市販DVDより、ヘレヴェッヘの典礼付き「レクイエム」K.626)
15-9-1、フイリップ・ヘレヴェッヘ指揮シャンゼリゼ管弦楽団、コレギウム・ヴォカーレ・ヘント合唱団による「レクイエム」ニ短調K.626、
ショパン生誕200年の命日の典礼付き追悼ミサ、聖十字架教会、2010年10月17日、ワルシャワ、ポーランド、

−古楽器演奏で名高いヘレヴェツヘの演奏は、穏やかな荘厳な響きの中で、しっかりした安心出来るテンポで着実に進行しており、合唱団も良く揃った深みのある合唱を繰り広げていた。また、ソリストたちも付属の資料を見ると素晴らしい経歴の方たちであり、オーケストラが指揮者と一体となって、コントラバス3本の深い響きと古楽器特有の澄んだ音を出しており、教会内の実用音楽としては、最高の出来映えであったと思われる−

(最新の市販DVDより、ヘレヴェッヘの典礼付き「レクイエム」K.626)
15-9-1、フイリップ・ヘレヴェッヘ指揮シャンゼリゼ管弦楽団、コレギウム・ヴォカーレ・ヘント合唱団による「レクイエム」ニ短調K.626、
ショパン生誕200年の命日の典礼付き追悼ミサ、聖十字架教会、2010年10月17日、ワルシャワ、ポーランド、
ソリスト;クリスティーナ・ランドシャーマー(S)、インゲボルク・ダンツ(A)、ロバート・ゲッチェル(T)、マシュー・ブルック(B)、
(2015/05/11、新宿タワーレコード、Tokyo M-Plus NIFCDVD-001J)

       最初の15-9-1のDVDは、ヘレヴェツヘ指揮、シャンゼリゼ管弦楽団による「レクイエム」であり、入手したのは2015年なので最新DVDとしたが、録音は2010年10月17日のショパンの命日に、そしてショパン・コンクールの最中に、ワルシャワの聖十字架教会で演奏されたものである。DVDの翻訳者矢沢氏はこのくだりを次のように解説している。「ショパンが愛したモーツァルトのレクイエムは、遺言に従いマドレーヌ教会での葬儀の際、演奏された。その曲がショパン生誕200年、没後161年の年命日に、故郷で追悼ミサの一部として演奏される。この記録はぜひともDVDという映像媒体によってなされなければならなかった。」 レクイエムの演奏と典礼が交互に行われ、追悼ミサの様子が実によく示され、典礼も日本語訳が付されているので、非常に分かりやすかったが、DVDの値段も4000円と高めであった。 聖十字架教会の客席には、折しもショパンコンクールの最中だったので、審査員の先生方の顔ぶれが写されて、日本からは小山実稚恵さんの姿があった。




       レクイエムの典礼付きの教会における映像には、かって1991年の没後200年のモーツァルト・イヤーにおいて、聖シュテファン寺院におけるショルテイ指揮ウイーンフイルによるコンサート記録(8-9-2)および、カラヤン指揮のローマ法王による戴冠ミサ曲の式典記録(8-10-2)などがあるが、今回のDVDはそれらに続くショパンの生誕200年における命日の追悼式典記録である。しかし、今回の典礼記録は司教さんがなかなか良い声で歌うようにやっているのが救いであった。お葬式で僧侶のお経の合唱の見事な合奏に思わぬ感動を覚えるのと同じであろうか。




レクイエムの演奏としては、教会のためかオーケストラの規模は小ぶりであり、合唱団の数も少なめであったが、祭壇の奥に合唱団が、手前にオーケストラが横広に配置され、通路中央に指揮者、祭壇の奥の高い席に大司教が配置されていた。全体の様子を映像が示してからヘレヴェツヘが大きく写し出されて、その一振りでバセットホルンの小さなくすんだ響きにファゴットが重なり、やがてトロンボーンが鳴り響いて厳かにイントロイトウスが開始されていた。



この前奏は古楽器調でやや早めのテンポで進んでから、やがて合唱が始まった。強弱が激しい古楽器演奏特有の響きの伴奏で、大合唱が厳かに進行しているうちに、ソプラノが明るい声で「神よ!」とやや細めの声で歌い出し、緊張感を和らげていた。続く合唱のそれぞれの声部の重なり合いがとても美しく水準の高さを感じさせながらイントロイトウスが静かに休息していた。


                 典礼は「序典礼」で始まり、ここで大司教のお祈りとオルガンと教会の聖歌隊の合唱を合図に、お祈りの言葉が続き、付属の訳文を見るとこの日の追悼式典の意味について触れられていたようだった。続いて音楽は、キリエの大合唱に入り、バスに始まるキリエ・エリースンとアルトで始まるクリステ・エリースンとが一小節遅れの二重フーガで開始され、やがてソプラノとテナーもこれに加わって、四声による二重フーガに壮大に発展していた。そして「憐れみたまえ」の四声の大合唱がアレグロで繰り返し、波を打つようにフーガの形で進行し、最後には厳かなアダージョになって静かに休息していた。


         続いて「栄光誦、朗読」となり、大司教の神を讃える祈りの言葉が歌うように続き、教会の聖歌隊の合唱も加わって美しい響きを聴かせ、最後には聖書の朗読もあって、敬虔な瞑想的な雰囲気が作られていた。続いて音楽はセクエンツイアに入って、ここでは「怒りの日」から「ラクリモサ」まで、連続して切れ目なしに演奏されていた。


「怒りの日」では、キリエと対照的に金管が激しく吼え、弦が鋭くうねり、女声と男声が交互に激しくぶつかるように素早く進行していた。続いて「トウーバ・ミルム」では、一転して古楽器のトロンボーンのソロが厳かに響き、バスがゆっくりとしっかり歌い上げる。この動から靜への一転したコントラストの見事さには、素晴らしいものがあった。次いでテノール、アルトとの順に続き、最後にソプラノがノンビブラートで透き通るような声で歌い上げ、続く四重唱もゆっくりと豊かに歌われて、聴くものに救われたような感覚をもたらしていた。




         続いて「恐るべき大王よ」では、激しいオーケストラとトロンボーンの響きに導かれ、レックスの三度の大合唱が始まるが、指揮者ヘレヴェツヘも全身で叫びながら指揮をしており、力に溢れ迫力十分な大合唱であり、やがて祈るような静かな合唱の終わりが実に鮮やかで、良くコントロールされた合唱が印象的であった。「リコーダーレ」では、管と弦の絡みあった美しい前奏に続いて、ソリストのアルトとバス、ソプラノとテノールとが順に厳かにゆっくりと歌い出し、やがて中間部から非常に深みのある四重唱となり、ソリストたちの素晴らしい二重唱・四重唱に安らぎの気持ちを感じさせていた。





「コンフュータテイス」では、男声合唱の激しさと、悲鳴のように聞こえる女声合唱の切なさが繰り返され、映画「アマデウス」のこのシーンを思い出させ、死の悲しみがひしひしと心に迫るように感じさせていた。最後に「ラクリモサ」がヴァイオリンの切々たる音で静かに始まり、合唱により次第に高まりを見せながら、終盤にバセットホルンとトロンボーンが厳かに響いて高みに達し、終わりのアーメンの合唱で結ばれ、「セクエンツイア」全体が締めくくられた。 「涙の日」がアーメンとともに静かに終わっても、典礼は続けて行われていた。




         続く「福音・使徒信教」では司祭の福音の言葉で始まるが、全員が起立して司祭の聖ルカによる福音の言葉の朗読が行われていた。司祭のアーメンの言葉と共に、「オッフェトリウム」では、初めに「ドミネ・イエス」が早めのテンポの大合唱で始まり、やがてソリストたちの四重唱となって、明るさを取り戻したあと、再び合唱のトゥッテイに戻っていた。「ホステイアス」では、アンダンテの安らかな合唱が続いたあと、再び早いテンポの合唱に戻っていた。



         次は「捧げ物の祈祷・祈り・序誦」であり、再び大司教のお祈りの言葉と共に聖歌隊がオルガン伴奏で美しく歌い出し、続いて大司教がドミノの歌を歌い出し、美しい声で歌われ、聖歌隊とも交互に歌われていた。大司教の音楽的なセンスの良さに驚かされ、聖歌隊の澄んだ歌声が、ミサには重要であると感じさせられた。
         続いてサンクトウスのアダージョの大合唱が始まり、続いてホザンナではアレグロの大合唱となり、ベネデイクトウスに入ると第一ヴァイオリンに先導されてアルトから始まってソリストたちの四重唱が続き、しばし安らぎの歌が続いていた。そしてホザンナの大合唱を経て収束していた。



         最後の「感謝の祈り」では、大司教のお祈りの言葉に続いて、聖歌が流れてから、大司教がパンと杯を用意して祈りを捧げ、途中で全員が起立して、敬虔な雰囲気の中で深くお祈りを捧げていた。長い典礼の儀式に続いて、「アニュス・デイ」の合唱が始まり、厳粛な合唱が死せる者の安息を祈願して静かに歌っていた。
         最後の「コンムニオ」では、冒頭のイントロイトウスのソプラノの独唱から始まって、続くキリエ全体が再現されており、実に厳粛に進行し、最後のアダージョでは、テンポを緩めて「慈悲深くおられる神よ」で厳かが全体が結ばれていた。



                  典礼では、最後の「聖体拝領」に続いて「祈り・祝福・見送り」が行われて、大司教の言葉と聖歌隊のドミノが続き、全員が起立してミサは終了していたが、ヘレヴェツヘが会場で礼をして退場しても、教会では人々がオーケストラや合唱団に対していつまでも拍手が続いていた。

         今回はショパンとモーツアルトの二人の楽聖に対する追悼ミサであったので、大司教の主催する式典と音楽とを理解しながら、ミサの順序に従って、その全体の様子を記載してみた。私はキリスト教信者ではないので、余りミサのことは知らないが、ザルツブルグで日曜日に通った大聖堂などのミサと内容は余り変わっていないと思われた。ただ、今回の典礼では、大司教が美しい声で自ら歌っており、聖歌隊もオルガンもその美しさが抜群であり、今まで体験したミサとは音楽的な出来映えが異なっていた。調べてみると、大司教は、カジミエシュ司祭というショパン音楽大学の教授であり、朗々とグレゴリア聖歌を歌う司祭や澄んだ透明な声を出す聖歌隊の水準の高さに敬意を表したいと思う。

          古楽器演奏で名高いヘレヴェツヘの演奏は、これまで良く聴いてきたアーノンクールの異様さとも言えるテンポのゆれや強弱の激しい指揮ぶりとは異なって、穏やかな荘厳な響きの中で、しっかりした安心出来るテンポで着実に進行しており、合唱団も良く揃った深みのある合唱を繰り広げていた。また、ソリストたちも付属の資料を見ると素晴らしい経歴の方たちであり、オーケストラが指揮者と一体となって、コントラバス3本の深い響きと古楽器特有の澄んだ音を出しており、教会内の実用音楽としては、最高の出来映えであったと思われる。当初は音楽が合体した実用音楽として何回か聴いてみたが、このDVDでは典礼部分をカットして先の音楽に進むことが出来るので、通常の「レクイエム」として他の演奏と比較しながら聞くことが出来て便利であった。


(以上)(2015/09/07)



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