(最新のDVDオペラから;カンブルラン指揮マドリード王立劇場の「コシ」)
15-5-3、シルヴァン・カンブルラン指揮、ミチャエル・ハネケ演出によるマドリード王立劇場、インテルメッツオ合唱団によるオペラ「コシ・ファン・トウッテ」K.588、
2013年3月収録、
(配役)フィオルデリージ;アネット・フリッチュ、ドラベラ;パオラ・ガルデイーナ、フェランド;ファン・フランシスコ・ガテルマウロ、グリエルモ;アンドレアス・ヴォルフ、デスピーナ;カーステイン・アヴェモ、アルフォンゾ;ウイリアム・シメル、

−この舞台は、時代は現代の、場所も今様の避暑地の別荘での出来事であり、この別荘の主人がアルフォンゾ、女主人公がデスピーナというひと味変わった背景で、ストーリ−が進められた。そのためか、6人の人間関係が、リブレット通りに進行するのであるが、演出や出演の皆さんの巧さもあって、より新鮮に、より鋭く人間劇が描かれていた。新しい演出には矛盾が多くて辟易することが多いのであるが、今回のハネケ演出には、大部屋の味気ない舞台にもかかわらず、この劇で初めて見る場面も多く、新しい深みのある舞台を築き上げ、最後には6人が皆バラバラで被害者になるという驚くべき結末を見せて、その目新しさに大いに感心させられた −

(最新のDVDオペラから;カンブルラン指揮マドリード王立劇場の「コシ」)
15-5-3、シルヴァン・カンブルラン指揮、ミチャエル・ハネケ演出によるマドリード王立劇場、インテルメッツオ合唱団によるオペラ「コシ・ファン・トウッテ」K.588、
2013年3月収録、
(配役)フィオルデリージ;アネット・フリッチュ、ドラベラ;パオラ・ガルデイーナ、フェランド;ファン・フランシスコ・ガテルマウロ、グリエルモ;アンドレアス・ヴォルフ、デスピーナ;カーステイン・アヴェモ、アルフォンゾ;ウイリアム・シメル、
(2014、新宿タワー・レコードで市販DVDを入手、Euro Arts 714508)

     この映像は、男女間の微妙な心理描写を狙ったミヒャエル・ハネケという映画畑の演出家による物語であり、このHPの最も苦手とする抽象的な深い読みを必要とする映像に見え、しかも日本語字幕がないので最初から理解が極めて困難なものに見えていた。



  場所はどうやら海岸のレゾート地の別荘での出来事であり、序曲が始まって幕が開くと、大勢の訪問客とその対応に追われている女主人とご亭主がワインパーテイを取り仕切っており、パーテイには、どうやら、われわれの若い主人公フェランドとドラベラ、グリエルモとフィオルデリージたちの恋人同士も姿を見せていた。女主人は白いドレスのデスピーナであり、その連れ合いが白髪のアルフォンゾのように見えた。



  序曲が終わると、パーテイが一段落し、これら6人が抜け出して、恋人たちを前にした若い男二人とご亭主とが第一曲の三重唱を勢いよく開始していた。どうやら男二人が恋人たちの悪口を言われてカンカンになり、レチタティーヴォで言い争いを始めて、ふざけて決闘だという騒ぎになっていた。続いてアルフォンゾが第二曲の「女の貞節なんて、不死鳥のようなもの」と歌いだし、再び三重唱が始まっていた。そして恋人たちの貞操が堅固かどうか、証拠はあるかと言った話しに発展しており、女二人と立ち聞きをしていたデスピーナが居たたまれなくなり退場すると、男三人は「賭けようか」という話になっていた。そこで、早速、第三曲の三重唱が始まり、それぞれはもう賭に勝ったつもりで陽気なセレナードで「愛の神様」に捧げる三重唱になっていた。



   三重唱が終わると男三人はアルフォンゾを中心に長椅子に腰をかけて雑談していたが、そこで美しい第4曲の前奏が始まり、フィオルデリージとドラベラが登場して、二重唱を歌い出した。フィオルデリージは、何と座っていたグリエルモに抱きつくようにして「妹よ、こんな美しい口もとがあるかしら」と絵でなく本物の顔をいじくり回して歌っており、続いてドラベラも負けじとフェランドを相手に歌い始めたので、その恋人たちの熱い姿に、アルフォンゾもこれを見ていた女主人も呆れて席を外していた。アレグロになって、恋人たちはますます熱を上げていたが、どうやらこのような始まりは初めて見る光景の舞台であり、そう言えば、このDVDのカバー写真は、この場面の6人の姿を描いたものであった。



   赤いドレスのフィオルデリージと黒のツーピースで固めたドラベラは、ふざけながら、これで心変わりしたら愛の神様の罰が当たると冗談を言いながら、手相を見て占ったりして、姉妹はやや、はしゃぎ過ぎ。二人は何かが起こりそう、心がうずくなどと浮ついていた所へアルフォンゾが姿を表し、「酷い運命だ」と大袈裟に第5曲を歌い出した。女二人はほろ酔い気分が一変に醒め、心配で質問攻めにするが、「国王の命令で急に戦場に行くことになった」との返事に複雑な表情。アルフォンゾが声を掛けると、第6曲の前奏と共に男二人が青い軍服姿で恐る恐る現れ、「どうしても、この足は進まない」と歌い出し、涙の別れの五重唱が始まった。恋人たちに近づくと、女二人は行かないでと喚きだし、剣で胸を刺してから行ってと言われて、男二人は喜びながら、泣かないでと慰めつつ、悲しい五重唱になっていた。ここで第7番の男二人の二重唱が省略され、アルフォンゾが合図をすると、遠くから太鼓の音が聞こえてきて第8番の「軍隊万歳!」の合唱が威勢良く始まっていた。



        ここで合唱団はポーチにいた大勢のお客さんたちが歌っていた。続いて姉妹は悲しくて死にそうとピッチカートの伴奏で「手紙を下さいね」の第9番の五重唱が美しく始まり、男二人も笑いを押さえながら姉妹を慰めていた。アルフォンゾ一人が可笑しそうに笑っていたが、女主人のデスピーナが心配そうに見守っていたのがこの映像の特徴であった。再び合唱が始まり、暗くなって男二人が出発し、女二人が残されていた。全てが別荘のポーチのある大部屋で劇が進行していた。残された姉妹を、元気を出してとアルフォンゾが慰めていると、ポーチから船が去るのを見て「風よ、穏やかに」と飛びきり美しい第10番の三重唱がピッチカートの伴奏で始まっていたが、実に美しい見事な三重唱が歌われていた。ここでも、女主人のデスピーナが三人の様子を心配そうに見守っていた。



         アルフォンゾは一人になると、奥さんであるデスピーナに「わしも役者だな」とほくそ笑み、「女の心を信じて100も金を賭けるなんて」と小アリア風に歌っており、デスピーナを怒らせていたが、これもこの映像だけの光景。そして、場面が続いて、デスピーナが「小間使いなんて最低!」とアルフォンゾに語りかけ、チョコレートを作り始めて「何て美味しい」と舌なめずりしているところに、「お下がり!」とドラベラが、突然、現れた。そして、ヒステリックに一人にさせてと言いながら、早口で第11番の半狂乱のアリアを歌い出した。早いテンポで気が狂ったように歌い続けて、フィオルデリージに抱きかかえられ一休みしていると、デスピーナが「一体何が起こったの」と聞き出し、「兵士なら直ぐに元気で帰ってきますよ」と平気な顔。あの二人が居なくても男は沢山いるので、むしろ浮気して楽しむべきよと言いだした。そして第12番の「兵士に貞節を期待するなんて」とふざけたアリアを歌い出し、「男なんて浮気者で皆同じ」とからかうので、姉妹は呆れて居なくなってしまった。



         アルフォンゾが利口なデスピーナが心配だと、贈り物とお金で味方にしようと協力を持ちかけていたが、デスピーナは協力的であり、悲しんでいる姉妹を慰めようと、早速、二人の外国人を紹介したいと持ちかけた。デスピーナは、会ってみたいと言いだしたので、アルフォンゾはかねて用意していた二人のアルバニア人に引き合わせると、彼女は「変な人?」と大声を上げて驚いて、二人の二重唱から第13番のふざけた六重唱が始まった。しかし、幸いにもデスピーナは二人の変装には気がつかず、男三人は一安心。そこへ「何という騒ぎです!」と姉妹がデスピーナをたしなめ、見知らぬ外国人を追い払おうとしていた。そこで二人の男は姉妹にキッスをしようとしたので平手打ちを食い、姉妹を怒らせてしまった。ここで本来なら姉妹は変装を見破るはずであるが、リブレット通りに気づかずに進行していた。



          六重唱が終わって、レチタテイーヴォになって、アルフォンゾが男二人に初めて会ったように大袈裟に驚いて見せ、無二の親友たちだと改めて姉妹に紹介したので、男二人は図に乗って、アモールと愛を歌い出した。フィオルデリージは、「帰って!」とばかりに相手にしなかったが、デスピーナは満更でもない様子。しかし、男二人が余りにもしつこいので、フィオルデリージが遂に「無礼者!」と大声を上げ、毅然として、激しい怒りの伴奏付きのレチタテイーヴォに続いて第14番の「岩のように微動だにしない」とアリアを歌い出していた。彼女は毅然とした態度で激しくアリアを歌い、そしてアリアの後半では、自分たちは愛に忠実だとコロラトウーラのアリアとなって大きな拍手を浴びていた。



          アルフォンゾが姉妹に親友なのだからもう少し優しくしてやってくれと頼み、続いてグリエルモがフィオルデリージに「愛らしい瞳よ」と第15番のアリアで「こちらにも目を向けてくれ」と歌い出すが、姉妹は危険を察してか、たまりかねて逃げ出してしまい、男二人は大笑い。アルフォンゾが怒りだして「なぜ笑うか」と第16番の男三人の三重唱となっていた。しかし、アルフォンゾは作戦はこれからだと言い聞かせるが、フェランドは第17番で「恋人の愛の息吹は、心に安らぎを与えてくれる」とドラベラへの愛を優しく歌っていた。姉妹がかたくななので心配になったアルフォンゾが、別れ際にデスピーナに意見を聞くと、彼女は姉妹が愛されていることが分かれば、きっかけさえ作れば上手くいくので任せてくれと自信ありげに語っていた。



        第18番のフィナーレが美しい前奏で始まって、広間に出てきた姉妹が「たった一時で運命が変わってしまった」と大いに嘆きながら二重唱が始まった。おどけた伴奏のついたこの二重唱はとても美しく響いて繰り返されていたが、そこへ突然に男二人が広間に現れて冷蔵庫の前に進入し、制止する間もなく、毒入りの飲み物を飲み込んで倒れてしまった。駆けつけたアルフォンゾが、砒素の入った飲み物だと言い、苦しむ二人を介抱して欲しいと姉妹に頼んでいた。さあ大変。姉妹はそれを見て、早速、デスピーナを呼んで大騒ぎ。駆けつけたデスピーナは、さすがは女主人。落ち着いて判断し、私は医者を呼びに行くから、姉妹には二人を介抱していてくれと頼んでいた。姉妹は慣れぬ手つきで、脈を測ったり熱があるか触ってみたりして次第に優しくなってきたが、ここで恋人たちの相手が変わって、ドラベラがグリエルモを、フィオルデリージがフェランドを介抱しており、それに気が付いた男二人は驚いて倒れ直していた。



         デスピーナが黒い背広を着て、黒カバンを持って、お医者さんの振りをして登場し、男二人のYシャツを引き下ろして裸にして心音を確かめ、黒カバンから今はやりのターブレット型の新兵器のメスマー器を取り出して、音楽に合わせて二人の胸に当てると、二人は飛び上がって目が覚めたよう。凄い効き目で、音楽が変わると二人はゆっくりと動き出して、少しづつ元気が出てきたようだった。音楽がアンダンテになって、やがて目を覚まして気が付いた男二人は、直ぐ傍で介抱してくれた恋人の手を取って「僕の女神様」と囁いていたが、その相手は新しいカップルになっていた。それから男二人はやっと元気になって次第にしつこく愛を求め出したので、女二人はビックリし、更に体に触れたりキスをしようとしたので、遂に怒りが爆発した。音楽が早いテンポに変わり、攻勢がさらに激しくなると、女二人は遂に逃げ出して大騒ぎとなり、やり過ぎのドタバタ劇となって、大きな拍手と共に幕がおりて終幕となっていた。



         第二幕に入ってデスピーナが姉妹のところに来て、今はあの男達は毒も消えて、二人とも控えめで礼儀正しくしていると話して、第19番のアリア「女も十五歳にもなれば」を魅力たっぷりに歌い、気晴らしに浮気の奨めをするので、姉妹はあきれ顔。二人はデスピーナの話をどう思うと話し合っていたが、突然、ドラベラが「私はあの黒髪さんがいいわ」と第20番の二重唱を明るく歌い出し、フィオルデリージも「私は金髪さんね」と仲の良い二重唱となり、やっと二人は気が晴れたような明るい声を出していた。



         そこでアルフォンゾが姉妹に声を掛けて誘うと、木管の甘いセレナーデが聞こえてきて何かが始まりそうであった。そのうちに男二人の「微風よ、聞いておくれ」という第21番の二重唱が始まり、「愛の神様よ、どうか味方をしてくれ」と歌っており、合唱も始まっていた。しかし、4人が顔を合わせても、男二人は声が出ない。甘い前奏とともにアルフォンゾが男二人の手を取り、デスピーナが女二人の手を取って第22番の四重唱が始まったが、4人を引き合わせても声が出ない。たまりかねてデスピーナが過去のことは忘れようと指導していたが、ここで4人はカップルの組み合わせが変わったことを認識していた。



         お互いに馴れぬ相手のせいか矢張り言葉が出なかったが、フィオルデリージが思い切ってフェランドに少し歩こうと、手を繋いで散歩に出かけていた。それを見てグリエルモは気が気でなくなり、死にそうだと頭を抱えても、ドラベラが「またからかうのね」と相手にしない。しかし、グリエルモがドラベラに贈り物を見せると思わぬ反応があり、山が動き出したと感じさせた。ハートを下さい、望んでも駄目ですと言い合ううちに第23番の甘い二重唱になり、歌いながらその気になって、いつしかドラベラはハートのペンダントを受け取ってしまった。そしてそれに夢中になっているうちに、フェランドの絵顔のついたシャツを脱がされ、グリエルモは着ていたYシャツを脱ぎ捨てて、次第に夢中になってしまい、終わりには二人はしっかりと抱き合ってしまっていた。



           一方のフィオルデリージは、大蛇だ、トカゲだと言って追いかけるフェランドから逃げてきたが、フェランドが真剣になればなるほど、彼女は心の平安を乱さないでと訴え、何処かへ行ってと叫んでいた。ここで第24番のフェランドのアリアが省略され、フェランドが立ち去ると、フィオルデリージは、フェランドが居ない方が気が休まると伴奏付きのレチタテイーヴォを一人になって歌いながら、ホルンの伴奏とともに「愛しい人よ、お許し下さい」と第25番のロンドを歌い出した。いつの間にかフェランドを好きになり始めた心の過ちを罰してくれと愛の神様に願うこのアリアは、珍しいホルンのオブリガートとともに真剣な表情で歌われ、後半は早いテンポになり、素晴らしいアリアになって、拍手を浴びていた。



        「我々は勝ったぞ」とフェランドが、フィオルデリージが逃げ出したことをグリエルモに語って、ドラベラはと聞いた返事に自分の顔のついたシャツを見せられて半狂乱。男二人は取っ組み合いになって騒いでいたが、グリエルモがフェランドを慰めようと、タンテイア、タンテイアと第26番の「女は男をいつも悩ませる」と歌っていた。一方のフェランドは「裏切られ、踏みにじられても」それでも僕は彼女を愛していると半狂乱で第27番のアリアを歌っていた。男二人の驚きと悲しみには、真剣な表情が現れており、アルフォンゾは「勝負はこれからだ」とうそぶいていた。



          ドラベラが新しいペンダントを見せびらかしてデスピーナに自慢していると、フィオルデリージが現れて、あの外国人を好きになりかけて困っていると本音を話してしまった。ドラベラは大いに喜んだが、フィオルデリージが余りにも真剣なので、ドラベラは私のように早く降参した方が楽よと奨めていた。ここで第28番のドラベラのアリア「恋は盗人」は省略されていた。しかし、フィオルデリージは真面目人間。それでは納まらず「皆が私をそそのかす」と悩んでいたが、ふと思いついて、そこにあったグリエルモのバーバリーを着て戦場に会いに行こうと考えた。そして「もう少しの辛抱で彼に会える」と歌い出していた。これが第29番の陥落の二重唱であり、そこへフェランドが現れて、「それでは私は死んでしまう」と応戦し、激しい二重唱になって殺してから行ってくれと歌うフェランドに根負けしてしまった。そしてフィオルデリージは断り切れず、遂に「神様、助けて」と陥落し、オーボエの悲しげな音とともにフェランドを許してしまい、最後には皆が見ている前で、しっかりと抱き合ってしまっていた。軍服もなく、剣もないこの場であったが、二人の真剣さには本物の愛そのものに見えていたが、この場面は最後に、6人がバラバラになってしまう前触れとなっていた。



         この場面を見ていたグリエルモは半狂乱。フェランドにもからかわれて仕返しだと息巻いていたが、やはり恋人たちを愛している男二人は結婚式だとアルフォンゾに言われて力なく従い、最後には三人で「コシ・ファン・トッテ」と合唱していた。ここでその様子を見ていたデスピーナも、「コシ・ファン・トウッテ」と口ずさんでいた。そしてデスピーナは、結婚式だとはしゃいでいる女二人と、喜ばない男二人を見て、初めて「自分も騙されている」と気がついたようだった。



            フィナーレの軽快な音楽が始まって結婚式の準備が開始され、デスピーナが大活躍しており、二人の新郎に祝福をと合唱も始まって、4人は着席していた。アルフォンゾがグラスを4人に手渡して、フィオルデリージがこのグラスの中に全ての思いを沈めましょうと美しく歌い出し、フェランドやドラベラも続いていたが、ピッチカートの伴奏でグリエルモ一人が毒づく面白い四重唱になっていた。



          そこへ突然に公証人を装った格好良いデスピーナが登場し、アルフォンゾが皆にサインをさせて進んでいたが、その時にあの「軍隊万歳!」の音楽が聞こえてきて、一同は顔を見合わせて不吉な予感。姉妹の恋人たちが帰って来たという。さあ、大変。二人のアルバニア人に隠れてもらい、どうしたらよいか考えているうちに恋人たちが元気よく帰ってきたが、一言も口がきけず何か様子が変。デスピーナの公証人も結婚証明書も全て見つかって、「どうか死を」と謝るばかりの姉妹の前に、あの音楽と共に、再びアルバニアの男二人が現れた。アッと驚く姉妹の表情。



         これでアルフォンゾが全て姉妹を騙していたことが分かり、アルフォンゾはこれで恋人たちは利口になったから、元の鞘に戻ればもっと幸せになれると語っていた。しかし、騙された方はこんな言葉で済むだろうか。まず、女主人としても、お手伝いさんとしても協力してきたデスピーナが、アルフォンゾに騙されていたことを知り、アルフォンゾを平手打ち。するとアルフォンゾも居直って、デスピーナを平手打ちしたため二人は決裂し、デスピーナは姿を見せなくなってしまった。騙されていた女二人も、また都合良く使われた男二人も、恋には真剣だったため素直に元に戻れない。古い組合せでも、新しい組合せでも、顔を見ただけで腹が立ってくる有様であった。



          最後の合唱になって、デスピーナを除く5人が早いテンポで歌っていたが、5人は手を繋いでいたものの、心や体はバラバラのままで、どうやらハッピイな様子にはなれずに、このままでは劇に参加していた6人は元の鞘に戻れずに、新しい相手でも上手くいかず、てんでんバラバラな様子で終幕となっていた。


       この舞台は、時代は現代の、場所も今様の避暑地の別荘での出来事のようであるが、この別荘の主人がアルフォンゾであり、女主人公がデスピーナであって、姉妹のお手伝いさんでもあり、名医や公証人まで演ずるというひと味変わった背景で、ストーリ−が進められた。そのためか、6人の人間関係が、リブレット通りに進行するのであるが、演出や出演の皆さんの巧さもあって、より新鮮に、より鋭く人間劇が描かれていた。新しい演出には矛盾が多くて辟易することが多いのであるが、今回のハネケ演出には、大部屋の味気ない舞台ではあるが、この劇で初めて見る場面も多く、新しい深みのある舞台を築き上げ、6人が皆バラバラで被害者になるという驚くべき結末を見せて、その目新しさに大いに感心させられた。

       そして、劇を終えて改めて思うのであるが、時代を超えても変わらぬこのオペラの原作の凄さが、こうした現代でも生き生きとした新鮮な舞台を生み出し、美しい音楽が連続しており、音楽の力で物語るこのオペラの魅力には尽きないものがあるとしみじみと感じさせた。舞台の動きに合った音楽の素晴らしさ、休止とか一呼吸おくカンブルランの指揮は、時には冗長な印象を与えたかもしれないが、他の演奏には少ない意識的な沈黙を利用したり、兎に角、アリアを伴奏する心得に巧みな指揮者であると感じさせていた。演出面での意表を突いた展開と、音楽の熟達した運び、出演者の巧さなどが、このDVDの成功の源泉であろうと思われる。

        この演出は、新しい演出につきものの、海が見えず、背広姿で、重要な変装もろくにせず、小道具で重要な軍服も剣も見当たらず、「コシ」の象徴が抽象化されていたが、リブレットにほぼ忠実であり、新演出でありながら、リブレットとの矛盾を感じさせる嫌味は少なく、新演出としては受け入れられ易いと思われたが、いかがであろうか。二人の女性を試すという賭は若い4人をズタズタにし、別荘の主人と女主人公までも離反させるという思わぬ6人全体の悲劇にまで発展した、最後の結末には驚かされた。しかし、このような運びで、最後にはハッピーエンドなどと別のやり方もありうると思われ、結果的に何が受けるかという読みが演出には重要であると言うことが理解出来た。

        この「コシ」は、6人全員が主役であると感じさせたが、中でもアルフォンゾの老練な動きや歌がひときわ目立っていた。他の演出にはないデスピーナの活躍振りには驚くものがあり、最新のターブレット・パソコンを使いこなして名医を演じたり、黒の背広姿の公証人はチャップリンの姿であり、演技面でもアリア面でもそつなくこなす凄い人材を得たと感じさせた。彼女は付属のブックレットには名前しか紹介されていないが、カーステイン・アヴェモ(Kerstin Avemo)という。また、フィオルデリージも動きが良く、演技派でありながら歌も上手であり、生き生きした行動派の役を演じ切っており、この演出には欠かせなく、感心させられた。彼女は、アネット・フリッチュ(Anett Fritsch)であり、赤のドレスが印象的であった。

        映像の最後に、カーテンコールで避暑地の裕福な人々を演じていた合唱団の挨拶があり、続いて主役の6人が手を繋いで出てきて、カーテンコールが繰り返されていた。ここで、フリッチュが指揮者のカンブルランを呼びに行き、カンブルランは7人目の手つなぎのメンバーになっていたが、彼は直ぐに舞台の右奥から、演出者のミカエル・ハネケを呼びに行き、最後にはこれら8人の手つなぎで、カーテンコールに答えていた。この演出者は映画陣のヴェテラン監督のようであるが、カンブルランが一目置いた実力者であることが想像できた光景であった。
        カンブルランは、日本にも何度も来て振っている指揮者であるが、オペラでは最初の「女庭師」の古いLD(1989、10-2-2)に始まり、最近の「テイト」(2005、11-10-2)あるいは「フィガロ」(2006、9-11-2)でも新演出の新鮮な舞台を指揮していた。彼はこれでモーツァルトオペラは4作目であり、このHPではお馴染みとなってきたので、彼の指揮した演奏を調べ上げて、データベース化したいと考えている。


(以上)(2015/05/27)



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