(最新のクラシカJのオペラから;2015年ザルツ音楽祭の「フィガロ」速報!)
15-12-3、ダン・エッテインガー指揮、ウイーンフイルとウイーンフイルハーモニア合唱団、スヴェン=エリック・ベヒトルフ演出による「フィガロの結婚」K.492、
2015年8月、モーツァルト劇場、ザルツブルグ音楽祭2015、

−この映像はクラシカ・ジャパンの特別の緊急放送として、今年2015年8月のザルツブルグ音楽祭から、メインのオペラ公演の「フィガロの結婚」をライブ収録して放送してくれたものであり、このように8月の音楽祭の公演記録をその同じ月のうちに、ハイビジョン映像で日本語字幕付きで見られることは実に初めての画期的ケースであり、永年エア・チェックに努力してきたものにとっては、驚くべき成果として高く評価したい。今回の指揮者のダン・エッテインガーは日本ではお馴染みの方であり、演出者のベヒトルフも「フィガロ」では二回目の演出で、実績のある方が揃い、背広姿のモダンな演出ではあるが、劇の進め方は伝統的なものを重んずる演出であり、出演者も顔なじみが多く、安心して見ておられたとても親しみやすい舞台であった−

(最新のクラシカJのオペラから;2015年ザルツ音楽祭の「フィガロ」速報!)
15-12-3、ダン・エッテインガー指揮、ウイーンフイルとウイーンフイルハーモニア合唱団、スヴェン=エリック・ベヒトルフ演出による「フィガロの結婚」K.492、
2015年8月、モーツァルト劇場、ザルツブルグ音楽祭2015、
(配役)伯爵;ルカ・ピサローニ、伯爵夫人;アネット・フリッチュ、フィガロ;アダム・プラチェッカ、スザンナ;マルテイーナ・ヤンコヴァー、ケルビーノ;マルガリータ・グリシュコヴァ、マルチェリーナ;アン・マレー、バルトロ;カルロス・ショーソン、バルバリーナ、ステイーナ・ガンシュ、
(2015/8/30、クラシカJの特別ライブ放送をHDD-1に収録)

       この映像はクラシカ・ジャパンの特別の緊急放送として、今年2015年8月のザルツブルグ音楽祭から、メインのオペラ公演であるこの「フィガロの結婚」と「フィデリオ」の二つのオペラのライブ収録を放送してくれたものである。このように8月の音楽祭の公演記録をその同じ月のうちに、ハイビジョン映像で日本語字幕付きで見られることは実に初めてのケースであり、永年エア・チェックに努力してきたものにとっては、時代の変化や技術の急速な進歩に驚いてしまう。
       今回の映像では、指揮者のダン・エッテインガーはこのHPで初めての方であるが、演出者のベヒトルフが同じ「フィガロ」で二回目(9-7-2)の演出で、ダ・ポンテ・オペラでは既にチューリヒ劇場でお馴染みの方であり、背広姿のモダンな演出ではあるが、劇の進め方は伝統的なものを重んずる演出の筈なので期待が大きい。また、前回のベヒトルフ演出で、ピサローニとヤンコヴァーがフィガロとスザンナであったが、今回はピサローニが伯爵にまわり、ヤンコヴァーは続投ということになっていたが、見ている方は、どうやら安心して見ておれる舞台であろうと思い込んでいた。


       この映像は、恐らくライブ中継そのままの未編集の記録なのであろうか。映像では初めからオーケストラ・ピットの様子が写し出されていたが、なかなか始まらずいらいら仕掛けたときに、やっと中央のフォルテピアノが明るく写し出され、やがて拍手とともに金髪の指揮者が足早に登場していた。そして観衆に対し挨拶をしてから、ピアノの前に腰をかけ全体を見渡し両手を挙げるといきなり序曲が開始されていた。序曲は威勢良く始まり、第一主題の後半や第二主題の始まりなど力の入るところでは立ち上がって指揮をしていたが、映像はオーケストラ・ピットのまま。序曲は後半になって次第に盛り上がり、指揮者は立ち上がって指揮を続け、勢いよく終結しようとしていた。この金髪の指揮者がダン・エッテインガーで、1971年イスラエル生まれの気鋭の指揮者で、新国立劇場や東京フイルなどでもお馴染みの方であったが、今回のザルツブルグでは初舞台のようであった。


       ここで舞台の準備が出来たのか、舞台が眼前に広がるが、そこにはオヤと驚く大きな二階建てのセットが開け、第一曲の序奏とともに、人の姿も見えて舞台は動き出していた。全体を見渡すと、建物の一・二階とも部屋がつながっており、部屋の中が透けて見える構造の舞台となっていて、よく見ると時代を現すのか、木造の古い建物であり、調度品も一昔まえの古い木製のもののように見えた。序曲が終了し、第一曲目の序奏が始まると、一階中央の大きな椅子のある部屋がクローズアップされていた。
       フィガロらしき男が大きな椅子に座って、何やら寸法を測り始めて第一曲が開始されており、その間に二階右奥の自分の部屋からスザンナが階段から下りてきて顔を出し、二人の二重唱が始まっていた。スザンナが飾りの付いたお手製の帽子を被って「見てよ」とフィガロに催促し、二人は仲良く抱き合って上機嫌で軽いキス。しかし、伯爵が下さるベッドの話が出てからスザンナが怒りだしてさあ大変。第二曲目に移行して間抜けなフィガロがこの部屋が便利だと歌い出すと、スザンナに「デインデインで旦那はひとっ飛び」と言われてフィガロはやっと気がついた。


         スザンナの話を聞いて次第に真剣に怒りだし、第三曲のチェロとフォルテピアノの伴奏付きのレチタティーヴォが始まって、フィガロは反骨精神のカヴァテイーナをピッチカートに乗って激しく歌い出した。間抜けの面があるが、考えるフィガロ・行動力あるフィガロを示しながら、第三曲目を「ご主人様よ」と堂々と元気よく歌っていたが、三拍子のアレグレットからプレスト、再び三拍子に戻って威勢良く歌っていた。
          続いてマルチェリーナが登場するが、何とこれが昔ながらの懐かしいアン・マレイ。やや大袈裟な身振りでバルトロをそそのかして、二人は仲良く協力を約束していた。やがてバルトロの威勢の良い復讐のアリアが始まって、彼は気持ちよさそうにバスのブッファ・アリアを歌っていたが、そのバルトロもよく見ると、いろいろな歌劇場で歌っていた懐かしいカルロス・ショーソンで、凄いキャストが揃っていた。


          そこへスザンナが顔を出したので、マルチェリーナとの口喧嘩の二重唱が始まった。この二人は実に威勢が良く、スペインの奥様も伯爵のお気に入りも互いに負けていなかったが、最後にお年の話になってカッカしたマルチェリーナの負け。スザンナはマルチェリーナを追い出してホットしたところに、ケルビーノが飛び込んできて、伯爵を怒らせたのでに奥様に取りなしをと頼んできた。背広姿に蝶ネクタイのケルビーノは、男っぽくとても格好が良く、勢いよくスザンナから奥様のリボンを取り上げて、お城中の女性の名を挙げて、狂ったように「自分が自分で分からない」と歌っていた。


            そこへ隣の部屋から鍵を開けて、伯爵が突然に顔を出したのでさあ大変。ケルビーノがベッドの中に隠れていたのに、伯爵は大きな声でスザンナを口説き出すが、バジリオが入ってきたので、伯爵も身を隠そうとして大笑い。バジリオがスザンナに、ケルビーノの奥方を見る目がおかしいと言い出すので、伯爵は思わず声を出して立ち上がって鉢合わせ。さあ、大変だとばかりにおかしな三重唱が始まり、驚いたスザンナが気を失って倒れてしまうが、挙げ句の果てにケルビーノが見つかってしまって、ここでも大笑い。バジリオに「コシ・ファン・トウッテ」と歌われて、実に楽しい演出が続き、スザンナが伯爵に弁明していると、二階では、フィガロを先頭に、大勢の村人たちの合唱が始まっていた。


           フィガロがスザンナとの結婚を伯爵に認めさせようとする作戦であったが、領主権の撤廃は認めるとして喝采をあびたものの、二人の結婚の承認は今でなくともよいということになって、折角の威勢の良い合唱は残念ながらカラ振り。一方、そこにいたケルビーノは伯爵に連隊の士官に命ぜられ、それを聞いたフィガロから「さらば少年時代のケルビーノ」とばかりに荒々しく手厳しい激励のアリアが始まった。「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」と歌われるこのアリアには、勇ましい行進曲の応援があったりしてテインパニーの響きがこの行進曲を盛んに盛り上げていた。しかし、この演出では「立派な兵士になれ」というアリアであったのに、肝心のケルビーノが不在で残念であったが、これで第一幕は賑やかに終了していた。



             第二幕が始まると、美しいオーケストラの前奏が始まり、一階の中央の部屋は伯爵夫人の豪華なベッドが置かれ、左の部屋が衣裳室。伯爵夫人が哀しげな表情で現れ、「愛の神よ、安らぎを下さい」とベッドの上でゆっくりしたテンポでカヴァテイーナが歌われて、大きな拍手を浴びていた。スザンナと夫人が話をしていると、陽気なフィガロが歌いながら現れ、フィガロが伯爵を懲らしめる作戦を練っていたが、フィガロの提案でケルビーノを女装させることが女二人の気に入って、早速、ケルビーノを呼ぶことになった。軍服姿のケルビーノがやって来ると、早速、スザンナはギターを持って伴奏を始め、ケルビーノは奥様の前で恥ずかしそうにこのアリエッタ「恋とはどんなものかしら」を歌い出した。そして後半には次第に図々しくなり、伸び伸びと声を張り上げて出して元気よく歌って、夫人から「ブラボー」の声を頂いたが、ケルビーノばかりでなく夫人の方も満更でなく、二人の目線が心配であった。


            続いてスザンナの着せ替えのアリアが無邪気に始まり、ケルビーノは夫人の見ている前でスザンナに着物や帽子や靴まで替えられて、何とか女装したケルビーノの姿にさせられた。しかし、夫人の前に出てきて腕にまいたリボンの話から、夫人が優しく親切にしたため、ケルビーノは「もう出発前の最後だ」と言いだして、そこで二人があわやとなりかけたところで、伯爵の声が聞こえて来たので「さあ大変」となった。



             夫人が慌ててケルビーノを衣裳室に隠してドアを開けると、伯爵が勢い込んで登場し、夫人が慌てている様子から、スザンナを巡る三重唱となっていた。そして伯爵と夫人はけんか腰となり、部屋で大きな物音がしたので伯爵は疑いを強め、「誰かいるな!」と大ケンカとなっていた。夫人が必死で伯爵のほほを叩いて反抗し、伯爵の銃を向けて抵抗するので、伯爵は力ずくではなく、夫人と一緒にドアを開ける道具を取りに出かけた。その一瞬の間に、スザンナは、衣裳室のドアを力尽くでこじ開け、ケルビーノと大慌ての「早く、早く」の小二重唱となり、見つかったら最後だとばかりケルビーノが窓から飛び下りた。この時の一瞬のフォルテピアノの動きが見事で、スザンナがレチタティーヴォを歌いながら衣裳室に隠れたところで、道具を持った二人が登場した。




            夫人の抵抗が尋常ではないので、中にいるのはスザンナではないなと伯爵が気がついたところでフィナーレが始まり、夫人がケルビーノの話をし始めた途端に伯爵はカンカンになって怒りだし、二人の二重唱が始まった。伯爵の怒りも尋常でなく「出てこい、無礼な小僧よ」と歌い出し、剣でドアを突き刺す有様。ケルビーノを女装させていたと釈明する夫人は全く分が悪い二重唱であったが、そこへスザンナが「シニョーレ!」と言って出てきたのでアッと驚く伯爵と夫人。伯爵が平謝りの場面に変わったが、こうなると女二人は強く、女性優位の三重唱になっていた。夫人が許しを与えぬまま、逆に伯爵がスザンナに助けを求める始末であったが、夫人がとうとう許す気になったところで、フィガロが登場してきたので伯爵は一息ついた。




     伯爵は早速、フィガロに手紙を持ち出して四重唱になっていたが、フィガロは女二人がバレていることを伝えても、頑固に「知らぬ存ぜぬ」を押し通し、逆にフィガロは二人の結婚を伯爵に認めてくれと陳情する有様であった。そこへ酔っぱらったアントニオが登場して五重唱になり、フィガロはアントニオの攻撃に対し自分が飛び下りたと嘘をつき、落とした辞令の伯爵の追求にも女二人の機転で何とか窮地をかわしてホッとしていた。




           そこへ伯爵が待っていたマルチェリーナとバジリオとバルトロが揃って登場して伯爵を喜ばす七重唱となった。マルチェリーナとの結婚の契約書を見せられてフィガロは呆然となり、バルトロは弁護士として、バジリオは証人として出頭していた。そこへ召使いが飲み物を用意したため、伯爵はこれを審理しようと言い出すとシャンペンの乾杯のようになって伯爵側の勝ちのように盛り上がって、長くて可笑しいふざけた場面の多い第二幕はやっと終結していた。そして長い休憩に入っていた。




        休憩が終わって第三幕が開くと、一階の伯爵の部屋では、伯爵が第二幕で生じたいろいろな事件について考え事をしていたが、二階の方では伯爵夫人がスザンナに頼み事をしていた。スザンナが伯爵の前に現れて、しおらしい様子をしているので、伯爵はこの時とばかりに口説き始め、やがて二重唱になっていた。伯爵はスザンナが素直に逢い引きの約束をするので大いに喜んでいたが、しかし、別れ際にスザンナがフィガロに漏らした「これで弁護士なしで裁判に勝ったわ」と言う言葉を伯爵が聞き止めて、騙されたかと気がついた。そして、召使いの分際でと伴奏付きのレチタティーヴォで怒りを表し、裏切り者は罰しようとばかりに、伯爵の存在感を示す堂々たるアリアを歌い出した。このアリアは、歌っているうちに怒りがこみ上げてくるように「私の不幸を笑うものには復讐を」と激しく歌われていた。




        場面が変わって二階では「判決が出た」とクルツイオを先頭に皆が登場して、結果は「支払うか結婚するかだ」であり、立派な判決だとよろこんでいた。フィガロだけが不服であり、私は貴族の出だと言いだし、子供の頃にお城で誘拐されたと言う話が始まった。その証拠に腕に刻印があると言いだしたところ、マルチェリーナがそれは右腕かと問い質すと、マルチェリーナが悲鳴を上げ、何とそれは息子のラファエロであるという。






        意外な事実の判明に、伯爵はじめ皆が戸惑っているところに、スザンナが伯爵のところへお金を持って登場した。しかし、フィガロがマルチェリーナと抱き合って、これが実の母親でこれが実の父親でと騒いでいるのを見て、さあ大変。年増女が勝つなんてと怒るスザンナは、説明しようとするフィガロの頬を思いっきって平手打ちし、それを見て皆が大笑い。何とも可笑しい六重唱が続き、伯爵らが退場してから、残された二組の男女が、一緒に結婚式を挙げようと話し合っていた。そしてスザンナが「私ほどの幸せ者は他にいるかしら」と呟くと、フォルテピアノの伴奏で「おれもだ」[私も]という四重唱になって喜び合っていた。




             一方、この間に地下室で、バルバリーナとケルビーノが密かに会い、二人は女装して伯爵夫人に花束を捧げようと秘かに話し合っていた。その上の部屋では、伯爵夫人が登場し、スザンナへの伯爵の返事がどうなったかを気にしながら、第20番のアリアとなっていた。衣装をあらためて登場した伯爵夫人は、伯爵への復讐とは言いながら、召使いと衣装を替えねばならぬ我が身の切なさを伴奏付きのレチタティーヴォで激しく歌っていた。そしてオーボエの美しい伴奏で「あの美しい時は何処に」と言うあの有名なアリアを正調で朗々と歌って、会場からひときわ大きな拍手を浴びていた。
             続いてスザンナが現れると、彼女の伯爵とのやり取りを確かめて、逢い引きの場所を伝える手紙が必要と思いつき、カンツォネッタが始まっていた。伯爵夫人の言う言葉をスザンナが手紙に書き留めていたが、二人は途中からその言葉をお互いに復唱する二重唱となって声を揃えて歌い出し、「松の木の下で」と実に美しく歌っていた。そして最後に手紙をピンで留めて、「返事の代わりにピンを返して」と添えられた。




      村の娘たちが合唱で伯爵夫人に花を捧げに登場するが、そこに女装したケルビーノがおり夫人に花束を手渡したところで、探していたアントニオに遂に捕まってしまった。ケルビーノをもらい受けるためにバルバリーナが殿様に皆の前で良からぬことを白状してしまい大笑い。一方、結婚式だと急ぐフィガロが現れると、殿様からケルビーノが白状したと詰め寄られ、二人は再び顔を付き合わせて、あわやの状態になっていたが、折からの行進曲の始まりによって、二人は睨み合ったままで事なきを得た。




             二人の村娘たちの合唱により、二組の夫婦が登場し、伯爵と夫人により結婚を祝うヴェールが新妻に贈られる儀式が行われ、記念写真なども撮影された後に、全員による踊りが始まっていたが、その最中にスザンナから殿様に手紙が渡されていた。喜ぶ伯爵がピンを刺して痛がる様子が写され、それを見ているフィガロなども写されて、この演出は細かな細部の辻褄が実に良く出来ていると感心させられた。大勢の踊りが賑やかに続けられ、伯爵は夜の逢い引きの手紙を手に入れて、ご機嫌で威厳を保ちつつ「今晩は皆で盛大に祝おう」と大きな声で挨拶をして、最後には殿様を讃える合唱が続いて第三幕は終了していた。




              舞台の準備のせいか少し待たされてから、第四幕が始まって、バルバリーナがピンを探しながら舞台に登場し、続けて彼女のアリアが始まっていた。元気のある彼女は声量もあり立派なアリアであった。そこへフィガロとマルチェリーナが登場し、フィガロがピンを見つけた振りをして、バルバリーナからスザンナが伯爵に手紙を渡したことを知り、二人の密会があると信じ込み腹を立てていたが、母親役のマルチェリーナが何か理由がある筈と慰められていた。ここで残念ながらマルチェリーナのアリアは省略されていた。腹を立てたフィガロは、現場を押さえようと苛立ってバルトロやバジリオに持ちかけていたが、ここで歌われるバジリオのアリアも省略されていた。




             続いて暗闇の茂みの中でフィガロがスザンナの裏切りを懲らしめるため、何とピストルを持って現れ「さあ、用意が出来た」と伴奏付きのレチタティーヴォから第27番のアリアを歌い出し、「目を開けるんだ、男たちよ」と歌いながら、伯爵とスザンナを待ち受けていた。このフィガロのアリアは名調子で、アルコールの瓶を手にして歌っていた。一方の結婚式の姿をしたスザンナは、自分を疑うフィガロをからかうため「いよいよ時がきた」とこれも美しいレチタティーヴォと第28番のアリアを歌い出した。この曲はオーボエのオブリガートとピッチカートの伴奏がソプラノの声に合って美しく実にゆっくりと歌われ、スザンナのヤンコヴァーの本日最高のアリアとなり、会場から大きな拍手を浴びていた。




            フィナーレになってスザンナの白い結婚衣裳をまとった伯爵夫人が現れるが、暗闇でケルビーノがスザンナと思いこんでからかい始め、しつこいので夫人が追い払おうとするが、直ぐにまとわりついてくる。そこへ伯爵がスザンナを見つけて現れるが、ケルビーノが邪魔なので、両手で追い払ったら、それが隠れていたフィガロに当たって悲鳴をあげていた。ケルビーノを追い払った伯爵は、首尾良く夫人扮するスザンナに会って、早速、口説き始めていたが、調子に乗って、遂にダイヤの指輪までプレゼントしてしまっていた。二人の密会を見ていたフィガロが驚いて思わず声を上げてしまい、通行人のフリをしたので、スザンナに扮した伯爵夫人は伯爵から逃げ出すことに成功した。




             一方、フィガロは、暗がりで狩の服装の赤い衣裳の伯爵夫人を見つけるが、声で直ぐスザンナであることに気づく。フィガロはスザンナを懲らしめようとして伯爵夫人を口説き始めたが、スザンナが怒りだしてフィガロに平手打ちから足蹴り。フィガロはうれしい悲鳴を上げて、声で分かっていたと謝って、二人は直ぐ仲直り。そこに伯爵が現れ、スザンナを探してウロウロしているのを見つけ、二人は大声でフィガロと夫人の浮気のゼスチャーをすると、伯爵は二人を見つけ、フィガロにピストルを突きつけて「皆のもの、武器を取れ!」と大声を上げてしまった。




            謝るフィガロばかりか、東屋に逃げ込んだ浮気のスザンナ扮する伯爵夫人も「ペルドーノ」と平謝りであったが、伯爵は「いや、許しはせん」といきり立っていた。しかし、別のサイドから白のスザンナの姿の伯爵夫人が現れたので、さあ大変。半信半疑の伯爵の前に、レースを取って素顔を表した夫人とスザンナ。





伯爵はキョロキョロと二人を見較べながら、自分の間違いに初めて気がつき、さすがの伯爵も大勢が見ている前で、夫人に腰を低めて平謝りとなった。この場面では、音楽が実にゆっくりと丁寧に歌われており感動もひとしおで、大勢が注視する中で、伯爵夫人が伯爵の面子を立てるように、素直に受け入れたので、その寛大さに全員がホット一安心する素晴らしい場面が続いていた。


最後に音楽が高まりを見せて、全員の喜びの合唱となっていたが、この最後の場面ではこの演出ではシャンペンがふるまわれ、全員がグラスを手にして、この賑やかな喜びのアンサンブルとなって大騒ぎの中で、長い茶番劇が終了となっていた。舞台は引き続きカーテンコールとなって、拍手のうちに出演者全員が挨拶を繰り返し、指揮者も舞台に上がって、盛り上がる観衆の拍手に応えていた。


           このエッティンガー指揮とベヒトルフ演出の「フィガロ」は、現代風に読み替えられていた演出であったが、音楽性が豊かであり、上品でリブレットに忠実な演出でありながら新鮮できめの細かさが優れており、オペラ・ブッファとしての笑いも非常に多く、安心して見ていれる演出であった。知っている歌手は、伯爵のピサローニを始め二度目のスザンナのヤンコヴァーやアン・マレイやショーソンなどのヴェテラン歌手陣に恵まれて、生き生きとしたブッファの楽しさを味わせてくれた。
         指揮のエッテインガーは、フォルテピアノが巧みでレチタティーヴォが生き生きとしており、アリアも各歌手を充分に伸び伸びと歌わせており、第4幕の二つのアリアの省略は残念であったが、最後の赦しの場面では、充分に間を取って、実にゆっくりと進行させて、見守っていた一同を安心させてから、大団円の乾杯の場面になっていたのが珍しく面白かった。
          またベヒトルフ演出お得意の二階建ての大きな建物は、上下や両隣りの部屋が見通しで、衣裳室に隠れている姿が見えていたり、二階からの行き来が良く分り面白かった。マグネシウムを焚く写真撮影や手回しの蓄音機などで、20世紀前半の時代を予想させ、また衣裳は一時代前の背広姿であったり、大勢の召使いたちが実に生き生きと動き回って目を見張らせ、喜劇性を高める配慮などがなされていた

          配役もフィガロとスザンナ、伯爵と伯爵夫人、ケルビーノに適材を得ており充分に楽しめた。フィガロ役のブラチェッカは初めてであったが元気が良く行動力のあるフィガロでスザンナ一筋のフィガロを良く演じていたし、スザンナ役のヤンコヴァーは2度目であり、ヴェテランらしくフィガロと良く合わせておキャンな役を見事にこなしていた。伯爵のピサローニは、レポレロやフィガロを卒業してダンデイでおしゃれであり、高貴さと好色さ、貫禄と間抜けのバランスを巧みに演じていた。また、伯爵夫人のフリッチュは、初めてのせいか必死の演技をしているのが良く分かり、二つのアリアもヴィブラートを良く効かせて、声量をカバーして良く歌っていた。ケルビーノのグリシュコヴァは役がよく似合い元気があってピッタリであった。

            ブッファ性を強めるマルチェリーナ、バルトロ、バジリオ、バルバリーナ、バジリオ、アントニオなどの役も人材を得ており、特にかってのスターだったアン・マレイやショーソンなどのヴェテランが活躍したりして、彼等の活きの良い動きが、この演出の喜劇性を非常に高めていたように思った。中でも飛び抜けていたのは、アン・マレイのマルチェリーナであり、彼女には、是非、第4幕のアリアを歌って欲しいと思った。終わりに、最近の新しいオペラ演出には超モダンなものが多くいつも心配であったが、この演出は時代は新しく背広姿であっても、実に安心できる優れた演出であったし、むしろ新鮮さを与えた目新しい雰囲気を持っていた。


  (以上)(2015/12/20)



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