(最新のBSプレミアムのオペラから;2014年ザルツブルグ音楽祭の「ドン」)
15-11-3、クリストフ・エッシェンバッハ指揮、ウイーンフイルとウイーンフイルハーモニア合唱団、スヴェン・エリック・ベヒトルク演出による「ドン・ジョヴァン」K.527、
2014年8月、モーツァルト劇場、ザルツブルグ音楽祭2014、

−このベヒトルク演出の最新影像は、明るい二階建てのホテル内の出入り自由なロビーなどをイメージした華やかな現代風のモダンな演出であるが、第二幕の石像の姿と地獄落ちの場面をどう描くかが問題であり、二度目の今回の演出では、工夫が見られ理解しやすい形で品良く纏められていた。この舞台の主従コンビにはかねて定評がある二人であり、一・二幕のフィナーレ全体も迫力があって、エッシェンバッハのオペラの指揮振りは、まずまずの出来映えと感心させられた−

(最新のBSプレミアムのオペラから;2014年ザルツブルグ音楽祭の「ドン」)
15-11-3、クリストフ・エッシェンバッハ指揮、ウイーンフイルとウイーンフイルハーモニア合唱団、スヴェン・エリック・ベヒトルク演出による「ドン・ジョヴァン」K.527、
2014年8月、モーツァルト劇場、ザルツブルグ音楽祭2014、
(配役)ドン・ジョヴァンニ;イルデブランド・ダルカンジェロ、騎士長;トマシュ・コニェチュニ、ドンナ・アンナ;レネケ・ルイテン、オッターヴィオ;アンドルー・ステープルス、エルヴィーラ;アネット・フリッチュ、レポレロ;ルーカ・ピサローニ、ツエルリーナ;ヴァレンティア・ナフォルニツア、マゼット;アレッシオ・アルドウイーニ、
(2015/06/22、NHKBSプレミアムの放送をBS-2にHV録画、)

         この映像は、2015年6月22日NHKのBSプレミアムで放送された2014年ザルツブルグ音楽祭の「ドン・ジョヴァンニ」の映像であり、大変な成功であったと伝えられている。このベヒトルク演出のオペラは、このHPでは二度目の登場であり、前回はウエザー・メストと組んだ2006年チューリヒ劇場の映像(9-4-3)であった。今回は劇場がモーツアルト・ハウスであり、巨大な二階建ての豪華なホテルのロビーを装った固定舞台となっており、右手にミニバー、左手にソファー、中央に上階の客室に向かう階段が左右に分かれていた。登場人物たちはホテルの宿泊客か従業員かメイドのように装い、大勢の人々がロビーをウロウロしていた。


字幕で「・・・主人公のドン・ジョヴァンニが素性を隠してドンナ・アンナに近づくが、彼女に激しく拒まれ、救出に来た騎士長を殺してしまう・・・」というあらすじが紹介されると、いきなり序曲の二つの和音が始まり、出演者たちの紹介があったあと、画面はモダンなホテルのロビーの姿が映し出されていた。序曲は早いテンポの主題が現れてグイグイと進行していたが、大勢の人々が写し出されており、やがてレポレロ風の男や、ドン・ジョヴァンニ風の男の姿が見えかくれしていた。序曲が最後の場面になると指揮者のエッシェンバッハが姿を見せ、佳境のうちに終了してそのまま第一曲の序奏に移行すると、再び大ホテルのフロントが現れていた。


レポレロがフロントのミニバーの前にたむろして「召使いなんか真っ平だ」と第一曲を歌い出していると、そこへ正面の客室から顔に墨を塗った男と赤いドレスの女性が階段から駆け下りてきて争いながら勢いよく登場していた。女はミニバーのナイフを持って男に抵抗していたが、女性の手ではなかなか捕まらない。そこへ娘の一大事とばかりに大男の白髪の父親の騎士長が駆けつけ、剣を抜いて娘を助けようとするので決闘となっていた。ドン・ジョヴァンニはナイフを持つ娘の腕をつかみ、騎士長に近寄って娘の腕を父親に突き出すと、これが胸に命中して勝負はあっと言う間についてしまった。騎士長は椅子の上に倒れ込み、死の三重唱になって息を引き取ってしまった。


二人が逃げ出してから、ドンナ・アンナが恋人のオッターヴィオを連れて駆けつけたが父は既に死んでおり、嘆き悲しみの二重唱となるが、後半では手についた父の血に賭けてオッターヴィオに父の仇討ちを誓わせていた。ここまで舞台は一気に進んだが、ここのホテルは現代風の造りで、登場人物たちも現代風。このホテルのこのフロントで、このドン・ジョヴァンニの物語が,素晴らしいオーケストラの伴奏で順を追って進行していた。


        今度はガウン姿で登場したドン・ジョヴァンニは、ホテルのロビーで女性が近づく臭いを嗅ぎ付け、隠れて様子を見ていると、そこにはかって捨てた女性のドンナ・エルヴィーラが召使いと一緒に登場し、「あの人は今何処にいるかしら」とロビーで歌いながら探していた。エルヴィーラと気づかずに近寄って顔を合わせたドン・ジョヴァンニは、気丈な彼女に鉄砲玉のような早口で悪口を言われて、さあ大変。レポレロに「カタログの歌」を歌わせて、ご本人は召使いを追っかけてさっさと逃げ出してしまった。レポレロがエルヴィーラに、あなただけではないと説明し、「スペインでは1003人」と歌い出すととても素直なエルヴィーラは驚いてしまい、階段で倒れてしまっていた。彼女はかくも優しい心を持った女性のようであったが、起き上がると酷い仕打ちをされたので復讐してやると覚悟を決めて立ち去っていた。


  素晴らしい音楽と共に、ホテルのフロントでは、結婚式を向かえるツエルリーナとマゼットが友人達と賑やかに歌ったり踊ったりしていた。そこへドン・ジョヴァンニとレポレロが通りかかり、ドン・ジョヴァンニはツエルリーナに目を付ける。そこでレポレロに命じてマゼットを仲間たちと別室に招待しようとして、マゼットが反発して反骨の激しいアリアを歌うが、ドン・ジョヴァンニはナイフをちらつかせて、マゼットを脅して服従させていた。




やっと二人きりになって、ドン・ジョヴァンニはツエルリーナを甘い言葉でその気にさせ、結婚しようと美しい二重唱になっていたが、そこへエルヴィーラが遠くから様子を見ており、やがてアリアを歌ってツエルリーナを悪魔の手から救おうとした。ツエルリーナは初めは半信半疑であったが、彼女の剣幕と真剣さに驚いて、やがて逃げ出してしまった。




       「今日はついていない」とドン・ジョヴァンニがぼやいていると、ドンナ・アンナがオッターヴィオを連れて登場し、友人として父への復讐を援助して欲しいと依頼された。「ばれていない」と喜んだところに、そこへ再びエルヴィーラが登場して、二人にこの男を信用するなと告げて激しい四重唱となっていた。ドン・ジョヴァンニはエルヴィーラを宥めようとするが、彼女も必死であり、結局、ドンナ・アンナと彼の二人は、様子を見てエルヴィーラの方に同情をして、彼女の方が正しいと信ずるようになっていた。




そこでドンナ・アンナが、ドン・ジョヴァンニの別れ際に発した「アデユー」の言葉尻と雰囲気から、父親殺しは彼だと初めて気がついた。彼女はオッターヴィオに伴奏付きのレチタティーヴォで激しく事情を説明し、続いて怨みのアリアを歌ったが、その激しさに驚くほどのアリアで、会場から拍手が沸いていた。オッターヴィオもウイーン版での追加アリア「彼女の願いはわが願い」を歌い、迷いながらも彼女に尽くしたいと素晴らしい声で歌って会場から祝福されていた。


         ホテルのフロントで、レポレロがドン・ジョヴァンニに会って、分かれてから若者達を別室に上手く連れ込んで彼らをもてなした話を得意げに報告すると、ドン・ジョヴァンニはすこぶるご機嫌で有頂天になって歌う「シャンペンのアリア」を早口で歌い、満場の拍手があった。一方、マゼットは身勝手なツエルリーナを許さない。しかし、ツエルリーナが「ぶってよマゼット」と歌いながら色っぽく泣いて謝ると、マゼットも機嫌を直して、第一幕のフィナーレに突入していた。



  ドン・ジョヴァンニに怯えるツエルリーナにマゼットが怪しいと怒り出した所に、ドン・ジョヴァンニが登場して、賑やかにみんなで踊ろうと挨拶をし、壮麗な音楽が始まっていた。ツエルリーナが隠れようとしていたが、ドン・ジョヴァンニに直ぐ捕まってしまい、直ぐに口説かれていたが、隠れていたマゼットが現れて三人の間の悪いおかしな光景があって大笑い。三人が踊りに出掛けると、入れ替わりに黒マスクの三人の人たちがこわごわ登場し、音楽がメヌエットとなってレポレロが出迎え挨拶をしていた。そして三人が並んで「神様へのご加護を」と歌う美しい三重唱となったが、何と三人の後ろに鬼の仮面を付けた怪しい変な男が現れて、ドリンクを作ってサービスするおかしな光景があった。正体不明のこの男は、これからしばしば、この舞台に登場することになる。




やがて皆で「踊れ、騒げ」の場面に変わったところで、黒マスクの三人が登場し皆から歓迎されて、「自由万歳」・「無礼講だ」のファンファーレが鳴り響いていた。楽団員がメヌエットから弾き始め、順番にコントルダンスに続いて、ドイツ舞曲の三つ目の早い踊りになったところで次第に雰囲気がおかしくなり、ツエルリーナの悲鳴が聞こえてきて、気がついてみるとドン・ジョヴァンニがレポレロにナイフを突きつけていた。


しかし、ここに駆けつけた皆には、ドン・ジョヴァンニの茶番劇であることが見え見えであって、オッターヴィオがドン・ジョヴァンニにピストルを突きつけて改心を迫っていた。ドン・ジョヴァンニとレポレロは下を向き小さくなってしまったところで、先ほどの鬼の面を付けた変な男が現れてドン・ジョヴァンニの窮地を救っていたが、舞台は全員合唱の賑やかな場面の中で、第一幕が閉幕となっていた。



  さて第二幕に入って、場面は再び大勢の人がいるホテルのロビー風の場所、ドン・ジョヴァンニとレポレロが二重唱を歌いながら何かしら言い争っていた。しかし、ドン・ジョヴァンニが金貨を取り出したことから二人は仲直りし、エルヴィーラの小間使いを口説くために、二人は洋服まで交換してしまっていた。そして二階の部屋で休んでいたエルヴィーラに対し、ドン・ジョヴァンニは、改心したかのように許しのアリアを歌い出すと、人の良い優しいエルヴィーラは次第にその気になってしまい、レポレロも加わって三重唱に発展していた。エルヴィーラは、白いガウンに変装したレポレロに騙されて、ドン・ジョヴァンニと思い込み、二人だけのカップルになっていたが、頃合いを見てドン・ジョヴァンニに脅されて、二人は暗闇の中に逃げ込んでしまっていた。


  一人になったドン・ジョヴァンニは、ホテルのフロントに積んであった荷物の上に乗って、召使いのいる二階の部屋をめがけて、マンドリンとチェロのピッチカートの伴奏で、気持ちよく愛のセレナードを優しく歌って拍手を浴びていた。しかし、そこへマゼット一行が駆けつけ、人影を見つけるが、変装のためドン・ジョッヴァンニであるとは気がつかない。彼等はこのレポレロにいいように操られ、17番のアリアでドン・ジョヴァンニを探しに退場していた。そしてマゼットと二人になってから、マゼットの意気込みを確かめ、持っていた武器を出させて、マゼットを半殺しに殴りつけて姿を隠していた。



    マゼットが悲鳴を上げていると、それを聞きつけたツエルリーナが登場して様子を訊き、「薬屋のアリア」を歌いながら介抱してしまう。このツエルリーナのアリアでは、彼女は後半に下着姿になってマゼットを誘っていたが、かなり濃厚な甘い演技であったが、上品な演出で特別に盛んな拍手が多かった。




  一方、エルーヴィーラとレポレロが暗闇の中で迷い込んでいると、喪服姿のアンナとオッターヴィオが登場して六重唱が始まった。出口を探しているレポレロをマゼットとツエルリーナが捕まえて、四人がドン・ジョヴァンニの上着のレポレロを懲らしめていると、エルヴィーラが私の夫ですと飛び出してきた。四人が拒否すると遂にレポレロがガウンを脱ぎ捨てて、お許し下さいと素顔を出して白状するので、エルヴィーラも含めて一同はビックリ。そしてレポレロを攻める六重唱が続いていた。皆に虐められてレポレロは早口のアリアで、旦那が無理に衣裳を替えさせたと言い訳をしながら一人一人に謝り続け、隙を見て脱兎のごとくに逃げ出してしまった。




ここでオッターヴィオが、ドン・ジョヴァンニが殺人犯なので仇討ちに出掛けるから、留守中に私の大事な人を慰めてやってくれと朗々と歌い出し、声が良くその姿が非常に格好が良かったのか、場内で大きな拍手を浴びていた。ここでホテルの従業員たちが首だけの騎士長の白い石像をロビー中央に持ち込み祭壇風に飾っていた。そこへエルヴィーラが登場し、伴奏付きのレチタティーヴォで「あの人は何と恐ろしいことをしたのだろう」と天罰が降りかかるのが見えるようだと歌い,アリアでは「復讐したいが、胸騒ぎする」とドン・ジョヴァンニにお慈悲を与えてくれと祈るように歌っていたのが印象的であった。




    ホテルのフロントに現れたドン・ジョヴァンニが「何と明るい晩だろう」と上機嫌で登場し、そこに逃げてきたレポレロに自分の女の手柄話をして大声で高笑いをしていると、「その声も朝までだ」という恐ろしい大きな声が聞こえてきた。仰天する二人に更に怖い声が響いていた。驚いて振り向くとそこに騎士長の白い石像の祭壇があり、祭壇の後ろには、二人には見えない騎士長がおり、大声を上げていた。ドン・ジョヴァンニは、レポレロに食事の招待をしろと命じて、おかしな二重唱が始まっていたが、レポレロは石像が頷いたという。驚いたドン・ジョヴァンニが、石像に来るかと問いかけると、石像は「行こう」と返事をしていた。怖くなった二人は、「支度に帰ろう」とコソコソと逃げ出してしまっていた。二人の目には見えない白い頭の騎士長が大声で活躍していた。


そこへドンナ・アンアがオッターヴィオと登場し、騎士長の祭壇を見つけてお参りをしていたが、オッターヴィオが「むごい人だ]ともらしたのを聞いて、ドンナ・アンナが伴奏付きレチタティーヴォで激しく「違いますわ」と反論していた。そして続くロンドと記されたアリアで「不親切だなどと思わないで」と歌い、後半のラルゲットでは「いつの日か,神が微笑んで下さるでしょう」と優しく歌っていた。このアリアにも盛大な拍手が贈られていた。




  フィナーレに入って、威勢のようオーケストラの序奏が響き出すと、ホテルのフロントに大勢の人々がテーブルや椅子を運んで、にわか作りの食卓に座って、ドン・ジョヴァンニが盛んに食事を始めようと言っていた。楽しい音楽も始まって、第一曲が「コーサ・ラーラ」の音楽で食事を始め、続いて始まった「漁夫の利」の音楽では、マルツイミーノ酒で乾杯をしていた。続いて「もう飛ぶまいぞ」の一節が聞こえて来て、ドン・ジョヴァンニが上機嫌で節を付けて「レポレロ」と呼びつけていた。






音楽が変わって、そこへエルヴィーラが登場し、ドン・ジョヴァンニが心配だから来たという。「生き方を変えて」と真面目に訴える彼女に「いやだ」と拒絶をして、せせら笑って悪ふざけをしていた。すると、呆れかえって逃げ出した彼女の大きな悲鳴が聞こえてきた。驚いて見に行ったレポレロも悲鳴を上げて、訳の分らぬことを呟いていた。




そこで序曲の大音響が響きわたり、「ドン・ジョヴァンニ」と大声で叫ぶ騎士長の声が聞こえ、「招待されたからやって来た」と正面から登場して来た。そこには堂々とした白い石像の頭をした騎士長の姿があり、恐ろしい声が朗々と聞こえていた。しかし、ドン・ジョヴァンニも怯まずに答えていたが、やがて「私の招待を受けるか」と聞かれたドン・ジョヴァンニは、レポレロの反対を押し切って「行こう」と返事をしてその約束に握手をすると、何かしら目には見えない強烈な衝撃がドン・ジョヴァンニに伝わり、突然に体を捻って苦しみだした。




「悔い改めよ」の声に対し最後まで「いやだ」と拒絶を重ねたので、石像の声は「時間がない」と言って立ち去った。しかし、ドン・ジョヴァンニは「亡霊に襲われている」と苦しげにもがき始め、「地獄へ来い」という悪魔たちの合唱の声に抵抗していたが、次第に体が引き裂かれると苦痛を露わにし、「アアー」という大声で悲鳴を上げて倒れ込んで動かなくなってしまった。あの鬼の面の悪魔たちの合唱で、ドン・ジョヴァンニは倒され、地獄行きとなっていた。






       画面が明るくなって、フロント正面の二階の手摺りには、階下のもの凄い騒ぎに駆けつけた5人が「悪者はどこに」と歌いながら二階から降りてきて、レポレロを助け出して、「ドン・ジョヴァンニがどうしたか」を尋ねるがさっぱり要領を得ない。やがてオッターヴィオが「神様が復讐してくれました」と歌いだし、ドンナ・アンナが答える美しい二重唱が始まって、「結婚は1年待ってくれ」といわれていた。エルヴィーラも修道尼姿で自分の道を語り出し、それぞれがこれからどうしようと語り合っていた。 そして、最後に、急にテンポが変わって、一同六人で平和が到来したことを喜び合い、「悪行の末路はこの通り」と歌いながら幕となっていた。しかし、よく見ると倒れていたドン・ジョヴァンニが起ち上がり、ホテルの従業員の中にまぎれて、健在な姿を見せていたのが面白かった。


   このオペラは、明るいホテル内の出入り自由なロビーなどをイメージした賑やかな現代風のモダンで真面目な「ドン・ジョヴァンニ」劇のように見えていた。このオペラの演出の難しさは、第二幕第11場の墓場の石像をどう描くかと、第15場の石像の姿と地獄落ちの場面をどう描くかにあるが、モダンな演出であると、いずれもやはり筋を知っている観客に類推して助けてもらう抽象化の道を採択せざるを得なくなる。この演出においてもドン・ジョヴァンニやレポレロには見えない顔面白塗りの石像に化けた騎士長の助けを借りたり、鬼の面を被った地獄の男たちの助けを借りていた。これをどう受け取るかは、個々人の評価によらざるを得ないが、今回の演出では、観客に厭味を押しつける演出ではなく、むしろ共感を呼ばせようとする品の良い演出であったと言えよう。

   ベヒトルク演出は、実は二回目の登場であり、前回も現代のホテルを使った人の出入りの多い場を利用した舞台であったが、この問題の抽象化のやり方は、前回は一度見ただけでは理解が得られない戸惑う部分があり、やや無理筋になって興ざめする場合が見られたが、今回はとても理解しやすく、墓場の石像も、地獄落ちの場面も、目で見ながら納得させられる品の良い演出であった。ホテルのフロントのイメージは、全体として良く似ていたが、重要な部分は考え方を新たにして、理解しやすい説得力ある演出に振り替えたものと思われる。

  舞台は以上のように前回よりも改善された点が多い演出であったが、出演者はそれぞれが歌にも演技にも、それぞれの力を発揮していた。ダルカンジェロとピサローニの主従コンビは、今回で三回目くらいであろうか。実に場馴れしており、充分な歌唱力を発揮して充分な演技を行なっていて、この二人のお陰で安心して見ていれる舞台となっていた。若い三人の女性歌手たちは、このHP初めての方々であるが、ドンナ・アンナのレネケ・ルイテンは気が強そうきつい感じのドンナ・アンナを演じていたが、声がとても芯がありしっかり歌っていた。エルヴィーラのアネット・フリッチュは修道尼の衣裳がよく似合うお嬢さんタイプであったが、歌も演技も良くこれからが楽しみに思えた。ツエルリーナのヴァレンティア・ナフォルニツアは、花嫁衣装がよく似合う若さ溢れる役柄を上手く演じていたが、まだ色気不足の感じがした。オッターヴィオのアンドルー・ステープルスは声がとても澄んで美しく、ドンナ・アンナを良く助けていたように思う。

  しかし、このオペラで一番力を発揮したのは、指揮者のクリストフ・エッシェンバッハであり、彼は序曲の始めから無難な音響造りに専念し、この演出にも協力しているように見えており、安心して劇が進行するように務めていた。特に感じたのは、第一幕と第二幕のフィナーレであり、舞台上のモダンな演出に戸惑いながらも音楽的には常に堂々と進行しており、安心して舞台を見ておれたのはこの安定した音楽の良さであったと思われる。


(以上)(2015/11/20)



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