(最新の市販BDから;ダルカンジェロとレミージョの「ドン・ジョヴァンニ」)
15-1-3、リッカルド・フリッツア指揮、ピエール・ルイージ・ピッツイ演出、マルケ州管弦楽団によるオペラ「ドン・ジョヴァンニ」K.527、ラウロ・ロッシ劇場、2009/07/30、2009スフェリステリオ・オペラ・フェスティヴァル、

−この映像は、やたらにベッドシーンが出てくる色ごと好きな変なドン・ジョヴァンニであるという印象で、だらだらと地獄落ちまで来ていたのであるが、この場面でドン・ジョヴァンニが、4~5人の裸の男女にまとわりつかれて絶叫を上げながら沈んでいく姿を見て、これまでの変なドン・ジョヴァンニの話が、単なる男女の関係ばかりでなく、男同士もあったり、組合せを変えたりする複雑な現代のグループ・セックス・パーテイの姿を、この物語を借りて描こうとした演出者の気持ちに気がついた。余り下品な演出ではないので救われるが、ローカルな劇場で立派な舞台を作り上げるイタリアの実力には、凄いものがあると思った−


(最新の市販BDから;ダルカンジェロとレミージョの「ドン・ジョヴァンニ」)
15-1-3、リッカルド・フリッツア指揮、ピエール・ルイージ・ピッツイ演出、マルケ州管弦楽団によるオペラ「ドン・ジョヴァンニ」K.527、
ラウロ・ロッシ劇場、2009/07/30、2009スフェリステリオ・オペラ・フェスティヴァル、
(配役)ドン・ジョヴァンニ;Ildebrando D’Arcangelo、ドンナ・アンナ;Myrto Papatanasiu、 レポレロ;Andrea Concetti、エルヴィーラ;Carmela Remigio、オッターヴィオ;Martin Miller、騎士長;Enrico Iori、ツエルリーナ;Manuela Bisceglie、マゼット、William Corro、
(2014/10/11、市販BD購入、ユニテル・クラシカ14337-01175)

  最後の新年のオペラ部門では、つい最近買って12月号でアップしたヘンゲルブロックの「ドン・ジョヴァンニ」(14-12-3)と同時に購入した「ドン・ジョヴァンニ」のBD輸入盤であるが、日本語字幕がついていたので、ダルカンジェロが主題役を歌い、レミージョがエルヴィーラを歌っていることを確認しただけで、即座に喜んで購入したものであった。後で調べてみると、ラウロ・ロッシ劇場で、リッカルド・フリッツア指揮、ピエール・ルイージ・ピッツイ演出、マルケ州管弦楽団によるオペラ「ドン・ジョヴァンニ」K.527であり、収録年月は新しく2009年07月30日収録となっていた。私は残念ながら、指揮者も演出者も劇場名も知らない、いかにもイタリアらしい地方都市のオペラ劇場の産物であった。調べてみるとどうやらマチェラータ(Macerata)というマルケ州にある都市にある古いオペラ劇場のライブのようであった。全く予備知識のないオペラ劇場の上演は珍しいが、日本語字幕もあり、イタリアの地方都市なのでドイツのような変な演出はなかろうと、ダルカンジェロやレミージョに期待して、我が家のお正月の出し物として、腰を据えて見ることにしたいと考えていた。
BD添付の三カ国語の解説にはこの音楽祭について何も書かれていなかったが、ウイキペディアによると「マチェラータ音楽祭」として、良く解説されているので、参照して頂きたいと思う。



1989年に改装されたというラウロ・ロッシ劇場は、ボックス・シートが4段もある偉容を誇るオペラ劇場で、指揮者リッカルド・フリッツアが入場すると直ちに序曲が始まった。ブルーレイの良い音で三和音が響き、よく見るとコントラバスが2台の中規模のオーケストラによる序奏部が堂々と進んで、早いテンポの弦楽器の第一主題が走り出すと、幕が開き、中央には大きなベッドと鏡が置かれた舞台が現れ、上半身が裸の男がベッドから飛び起きて、手伝いの男の手を借りて、鏡を覗き込みながら盛んに身支度をしていた。軽快に序曲が進み、初めて聴くマルケ州管弦楽団はまずまずの響きを聴かせて一安心。目隠しをしてガウンを着て身支度が終わると序曲が終結していたが、序曲の最後の終止形で二度一休みするのと、第一曲の序奏から、レポレロがブツブツとふて腐れながら歌うアリアの始まりまで、特別にゆっくりしたテンポで進行するのが珍しかった。



レポレロが「誰かが来た」と身を隠しながらアリアを歌っていると、奥の幕が開いて、そこのベッドの上では、白い下着姿のドンナ・アンナが胸毛が見えるドン・ジョヴァンニを組み敷いていたが、激しい取っ組み合いが始まって、立ち上がって互いに争いながら二重唱となり、レポレロも途中から加わって三重唱になっていた。そこへ「娘を離せ」と父親風の男が刀を抜いて登場したため、ドン・ジョヴァンニは娘を突き放して身を固め、二人は剣を抜いて争っていたが、直ぐに結末がついてしまい、二人はあわてて逃げ出していた。舞台は暗くてよく見えないのであるが、背の高い鏡と大きなベッドがあるだけの飾り気なしの簡素なもので、時代は現代風、場所は特定できず、舞台の奥の壁の間から出演者が自由に出入りしていた。



壁の影からドンナ・アンナとオッターヴィオが登場し、倒れている父親の前でドンナ・アンナは気を失うが、オッターヴィオに助けられて気がつくと、ドンナ・アンナは気丈にも父親の復讐を求めるレチタティーボから激しいアリアを歌い出した。オッターヴィオもその激しさに応えて、終わりにはともに復讐を誓い合う生きの良い二重唱になっていた。場面が変わって、暗闇の中でレポレロがドン・ジョヴァンニと言い争いをしながら登場していたが、「女の臭いがする」というドン・ジョヴァンニの言葉とともに、二人が隠れて見ていると、大きな帽子を被ったエルヴィーラが一人で登場し、何やら「心臓をえぐり取ってやる」などと酷い恨みのアリアを歌っていた。そして近づいてきたドン・ジョヴァンニに驚いて、ここぞとばかり長い恨み言葉で攻撃を始めたので、さあ大変。彼に逃げられてしまって、ここでレポレロが手帳を取り出して「カタログの歌」が始まっていた。



レポレロは、上半身を裸のスタイルでアレグロのアリアを早口で歌い出したのは良いが、アンダンテになってからエルヴィーラの様子を探りながら何と愛撫を始め、驚いたことに彼女がそれを受け入れており、終わりには二人は抱き合ってしまう有様にビックリ。冒頭のベッドシーンといい、このエルヴィーラの男好きの様子といい、この舞台はどうやら男女のエロテイックな様子を売り物にした演出のように思われて、注意しなければいけないと考え始めたが、会場ではお笑いの拍手で収まっていた。



自在に動く奥の壁の陰から大勢の農民たちが男女でペアーになってお祝い事の続きか、いちゃついているところへ、ドン・ジョヴァンニとレポレロの二人が登場した。花嫁のツエルリーナがドン・ジョヴァンニに、早速、狙われるが、彼女はマゼットに「心配しないで」と強がりを言ったためマゼットは、カンカンになって「抵抗のアリア」を歌って反抗して、皆に連れ出されてしまっていた。



二人になったドン・ジョヴァンニは、レチタテイーボでツエルリーナを甘い言葉で口説きだし、その気になってきたところで「手を取り合って」の見事な二重唱を美しく歌い合って、暗がりの中へ「行きましょう!」とその気になっていた。そこへエルヴィーラが、突然、現れて「お逃げなさい」とアリアを歌い始めて二人の邪魔をして、引き離してしまい、ツエルリーナは逃げ出して事なきを得た。



ドン・ジョヴァンニが「今日は何て運の悪い日だ」とぼやいている所へドンナ・アンナとオッターヴィオに出合ってしまい、ドンナ・アンナから頼まれごとに答えていると、そこに再びエルヴィーラが登場して、二人に「彼を信じてはなりません」と警告をする四重唱を歌い出した。二人はどちらを信用して良いか迷いながら歌う不可思議な四重唱となっていたが、その別れ際にドン・ジョヴァンニがドンナ・アンナに「アミーチ・アデイオ」と囁いたことから、彼女は自分を襲い父を殺した男は彼だと気が付いた。



ドンナ・アンナは、激しいレチタテイーボで怪しい男に襲われたことを話し、アリアで必死になって逃げ出して駆けつけた父があの男に反対に殺されてしまったと歌って、オッターヴィオに復讐を強く要求していた。続いてオッターヴィオが一人で残されて「彼女の幸福は我が身の幸福だ」と第10番aの追加アリアを歌っていたが、あの騎士がそんな卑怯なことをと強く疑っており、声が悲壮感に溢れた素晴らしいアリアになっていたが、ベッドの上で恋人を思いもだえるように歌っていたのが気になった。



  続いてレポレロの報告を聞いてご機嫌になったドン・ジョヴァンニが、レポレロを相手にベッドの上で、酒を飲みながら有頂天になって歌う「シャンペンのアリア」が威勢よく歌われ、大拍手を浴びていた。また、ツエルリーナが機嫌の悪いマゼットに対しコケットリーに歌うアリア「ぶってよマゼット」も上出来で、二人は最後には抱き合ってしまい、やっと仲直りしてフィナーレに突入していた。



  フィナーレでは、ドン・ジョヴァンニが大勢の若者たちに囲まれて、ソファーに座り、「酒も食事もふんだんに用意しろ」と叫びながら、威勢良く始まっていた。しかし、隠れていたツエルリーナが直ぐにドン・ジョヴァンニに捕まって、ソファーで口説かれていたが、監視していたマゼットが現れて事なきを得ていた。



三人の「白い仮面の人」が登場し、ドン・ジョヴァンニとレポレロに舞踏会への入場を許されて、冒頭に歌われた「正義の神よ、守りたまえ」の三重唱が三人のそれぞれの声の持ち味がよく出て素晴らしかった。「酒だ、コーヒーだ」とドン・ジョヴァンニが大騒ぎして、舞踏会の用意が出来、三人が登場すると、どうぞご自由にとの案内があって、ドン・ジョヴァンニの格好の良い「自由万歳!」のご挨拶があって、素晴らしいメヌエットが始まった。次第に踊りが賑やかになり、やがて音楽が高調してコントルダンスやドイツ舞曲を皆が踊り出していると、いつの間にかツエルリーナが連れ去られ、やがて彼女の「助けて!」の叫び声が聞こえて、皆が集まってきて大騒動。



レポレロを犯人に仕立てようとするドン・ジョヴァンニに対して、見張っていたオッターヴィオやマスクの皆さんが凄い剣幕でそんな茶番で騙されないぞと詰め寄り、大混乱になり、収拾がつかなくなったドン・ジョヴァンニが最後に逃げ出して第一幕の終幕となっていた。このオペラの始めの部分で、エロテイックな場面が出てきたり、ふざけすぎたりして、私には好ましくない部分がいろいろあったが、進むに連れてドン・ジョヴァンニとレポレロがしっかりしており、他の歌手たちの歌唱力も個性的で優れており、次第にオーケストラによる生き生きして音楽面が充実してきており、尻上がりに舞台が活性化しているのに気が付いた。



 第二幕はレポレロとドン・ジョヴァンニとの速いテンポで互いに言い争う二重唱で始まっていたが、この二人だけの世界はいつもベッドの上の裸のシーン。金貨4枚でレポレロは機嫌を直してしまった。そしてドン・ジョヴァンニがエルヴィーラの召使いを狙いたいと言いだして、お互いの洋服まで交換してしまった。ドン・ジョヴァンニがエルヴィーラの信じ易い心を利用して、甘い歌を歌って泣き落としてしまい、可笑しい三重唱の後に、主人の衣裳を着たレポレロとエルヴィーラのペアが出来て、ドン・ジョヴァンニの大声で、追い払われていた。



一人になったドン・ジョヴァンニは、暗闇の中、マンドリンの伴奏でカンツオネッタを歌い出していたが、これがなかなかの熱唱で、曲の最後には窓辺に女性の姿が現れていた。これは成功かと思わせていたが、そこへマゼット一行が乱入してきたので、残念ながら、この劇は中断されてしまった。暗闇の中で、マゼット一行がドン・ジョヴァンニのアリアにより二手に分かれて立ち去った後に、マゼットがレポレロの格好をした怪しい男に殴り倒され、悲鳴をあげているところにツエルリーナが駆けつけ、「薬屋の歌」を歌って慰める。これが舞台の陰から出てきたベッドの上でのきわどいシーンとなって、お客さんを喜ばせていたが、伴奏の音楽が実に良くこのシーンを描いていた。



逃げ出したレポレロとエルヴィーラが暗闇の中で出口を探しているところに、ドンナ・アンナとオッターヴィオと鉢合わせしそうになり、逃げ出したレポレロがマゼットとツエルリーナに捕まって六重唱が始まった。エルヴィーラが「夫を許してください」と助けを求めるが、「許さない」と言われて正体を現したレポレロが責められる六重唱が続いていた。そしてレポレロが驚く皆の前でドン・ジョヴァンニの服装を示しながら、改めて一人一人に平謝りのアリアを歌って詫びた後に、素早く逃げ出してしまっていた。



ここでオッターヴィオが、ドン・ジョヴァンニを訴えて来るので、留守の間、彼女を慰めてくれとツエルリーナとマゼットに頼みながら、第21番の美しいアリアを歌い出し、声がピタリで格好も良く、まずまずの出来で一安心。続いてエルヴィーラがこの映像がお得意のベッドの上で第21番bのレチタテイーボとアリアを歌っていたが、憎し恋しの矛盾した気持ちを歌うこのアリアをレミージョが実に表情豊かに歌っていた。



  場面が変わって真夜中の月夜の夜。ドン・ジョヴァンニがレポレロと墓場で出合って、洋服を交換しながらレポレロをからかって高笑いしていると、どこからか、突然、アダージョで「お前の笑いも今夜限りだ」という厳粛な声が聞こえてきた。驚く二人が振り向くと、そこには騎士長の石像があり、レポレロが主人の命令で石像を食事に誘うと石像が頷いたのでビックリ仰天していた。驚いたドン・ジョヴァンニが「話すことが出来れば返事して欲しい」と石像に頼むと「行こう」と返事をしてまたビックリ。二人は不気味になって食事の支度あると言ってコソコソと逃げだしてしまっていた。



そこへドンナ・アンナとオッターヴィオが登場し、結婚を遅らせて酷いと攻めるオッターヴィオに対し、ドンナ・アンナはレチタテイーボで「つれないなんて言わないで」と応え、ロンドに入ってラルゲットでは「不親切な女と思わないで」と歌い、コロラチューラが入るアレグレットでは「またいつの日か」と彼女の精一杯の気持ちを歌っていた。



  威勢の良いオーケストラの前奏でフィナーレが始まるが、舞台は殺風景のドン・ジョヴァンニ邸。机の上にはレポレロが運んできたスープが一皿で、ドン・ジョヴァンニが椅子に座って、早速、第一曲目の「コザ・コーラ」が始まる。ドン・ジョヴァンニはスープにありつくと、前掛け姿のボーイが次の料理とお酒を運び、ドン・ジョヴァンニは第二曲目の「漁夫の利」でワインのマルツイミーノ酒をがぶ飲みしていた。第三曲目の「もう飛ぶまいぞ」に入って、レポレロの盗み食いを咎めていると、突然、エルヴィーラが入ってきて「生活を変えてください」とドン・ジョヴァンニにしつこく迫っていた。女万歳!・ワイン万歳と相手にしなかったドン・ジョヴァンニも、逃げ出したエルヴィーラの悲鳴に驚き、レポレロに調べさせる。



「白い石像が」とレポレロが訳の分からぬことを叫んでいるうちに、あの序曲の冒頭の大和音が響き渡り、白い石像が地響きの大音響とともに登場し「来たぞ」と叫んでいた。石像は重大な話があると迫り、俺の招待に応ずるかどうか、今度はお前の番だ、回答せよと迫っていた。ドン・ジョヴァンニが、臆病ではない、恐ろしくない、行こうと返事をし、石像が約束の印に握手をしようと言って握手をした途端にドン・ジョヴァンニは悲鳴を上げて苦しみだした。石像は改心せよと迫るが、ドン・ジョヴァンニも嫌だと言って必死に反抗し、お互いにこれを何回も繰り返していた。



そこで時間がないと言って石像が立ち去ろうとすると、ドン・ジョヴァンニは地べたに突き落とされて、大声で悲鳴を上げて騒いでいたが、よく見ると裸の男女が苦しみもがくドン・ジョヴァンニの体につきまとい、あたかもセックスシーンのように絶叫させており、やがて大音響とともに地下深く消え去ってしまっていた。レポレロは何が起こっているか分からぬまま、悲鳴を上げながら傍にいて、震え上がるばかりであった。このような新しい演出に驚いているうちに、ドン・ジョヴァンニの絶叫とともに地獄落ちは終わって、舞台は明るくなっていた。



  明るい歌声とともに合唱が始まり、呆然と残されていたレポレロが他の5人に経過を説明しようとしていたが、何を言っているか分からないままに場面は進み、リブレットの六重唱の通りに、それぞれがこれからの行き方を語り合っていた。合唱団もこれに加わって、全員が舞台の上で重なり合うように座り込んで大合唱の中で結びとなっていた。


    この映像は最初にサラリと見たときの印象と、繰り返して見た後の印象とでは大いに違いがある映像であった。遠目の席でライブでサラリと見たときには、細かな演出上の配慮が良く分からずに、不思議に思ったり疑問を持ちながら、不消化のまま不満な気持ちで劇場を後にすることが良くある。このDVDは日本語字幕があっても、貧弱な数葉の英/独/仏の解説書しか添付していないので、まさに、一切の予備知識を持たずに、しかも全く未知のオペラ劇場の中に飛び込んだような感じで、DVDを見ていた。その時の印象は、やたらにベッドシーンが出てくる色ごと好きな変なドン・ジョヴァンニであるという印象でだらだらと地獄落ちまで来ていたのであるが、この場面でドン・ジョヴァンニが、4~5人の裸の男女にまとわりつかれて絶叫を上げながら沈んでいく姿を見て、これまでの変なドン・ジョヴァンニの話が、単なる男女の関係ばかりでなく、男同士もあったり、組合せを変えたりする複雑な現代のグループ・セックス・パーテイの姿を、この物語を借りて描こうとした演出者の気持ちにハッと気がつき、序曲や第一曲から始まるベッドシーンの姿が、糸をたぐるように良く見えてきた。

実際、この映像には幾つのベッドシーンがあったろうか。冒頭の序曲の裸の男二人のベッドでの着せ替え劇は誰しもがどうしてと思う変な演出であった。続く第一曲目のドンナ・アンナとのベッドシーンの始まりは、何とこのBDの表紙の看板となっている写真にもあり、この姿は彼女が恋人以外の男に犯されたことを示すもので、この姿から色事師ドン・ジョヴァンニの長い物語が始まっていた。驚かされたのは第四曲の「カタログの歌」のベッドシーンであり、その気になっているエルヴィーラのお相手は何とレポレロで、これはこの映像で初めて目にする光景で、この先はどうなるのかと本当に驚かされた。

第5曲のツエルリーナ登場の合唱では、まさにグループセックスそのものと思わせる光景を目にし、第7曲のツエルリーナとの二重唱は「行きましょう」で二人は抱き合っており、生真面目なドンナ・アンアの第10曲の告白のアリアでもベッドが置いてあり、続くオッターヴィオの第10a曲のアリアは、そのベッドの上で、彼が恋人を思ってもだえるようなアリアであった。レポレロの報告を聞いて有頂天になった「シャンペンのアリア」でも、第二幕冒頭のレポレロとの二重唱においても、男二人の時は必ずベッドの上の裸のシーンが重要であった。

ツエルリーナとマゼットは、第12曲でも第18曲でも、二人は仲の良い夫婦そのものであり、奥の壁が開くと直ぐにベッドが現れる舞台なので、二人は充分に楽しんでいた。エルヴィーラが一人で表情豊かにベッドで歌う第21番bのアリアも、下着姿のような胸が見えそうな素振りが気になったし、オッターヴィオにつれないと言われて彼の機嫌を取るドンナ・アンナの歌うコロラチューラが素晴らしい第23番のロンドも、色気たっぷりでオッターヴィオを惹き付けており、これら三人の女性陣の歌も演技も素晴らしく、この映像でなければ味わえぬ色っぽいサービス振りであった。

そして白い石像と握手をした途端に悪寒がはしり、悔い改めよと言われても「嫌だ」と拒否を続け、仕舞いには地下から出てきた亡霊のような裸の男女に魂も臓腑も引きちぎられて絶叫しながら地獄落ちしたドン・ジョヴァンニには、永遠に続く大勢のセックスパーテイで、どんな地獄の責め苦が待っているのであろうか。想像を逞しくして考えて見ると、世紀の色事師であるドン・ジョヴァンニであるから、無限にセックスが出来るパーテイは快楽の天国であろうと思われるが、改心しないドン・ジョヴァンニに石像が下した地獄の乱行パーテイでは、恐らく休むことなく続く快楽のセックス地獄となって、ドン・ジョヴァンニは責められて、体の全ての精気を吸い取られ、やがて骨と皮になって絶叫しながら死に至るような怖いところではないかと思われるが、いかがなものであろうか。

演出者でありこの音楽祭の芸術監督を2006年以降続けているイタリアの重鎮の舞台美術家ピエール・ルイージ・ピッツイ(1930〜)は、大きなベッドと背の高い鏡のある単純な舞台の上で、何とエロティックなベッドシーンを見世物にするという新たな切り口で天下の色事師・ドン・ジョヴァンニの物語を描いており、見事に「罰を受けた放蕩者」の姿を描いて見せた。石像が下した地獄の乱行パーテイでは、ドン・ジョヴァンニがどんな責め苦を受けるか気になるほど、舞台を見た後でも後日談が残されそうな興味が続く舞台を作り上げてくれた。DVDではクローズアップで良く見えていたが、ライブでは近い席でない限りよく見えず、どれだけその真意が伝わったかどうか、気になるところであった。

指揮者のリッカルド・フリッツアは、余り馴染みのないマルケ州管弦楽団を良く引率しており、フェルマータで一呼吸おくクセや、状況や場面に応じてテンポを微妙に変えるテクニックを持っていたが、このオペラのアリアを実に良く歌わせてくれて、まずまずの出来映えであり、今後に期待できそうな指揮振りを見せてくれた。

主題役のイルデブランド・ダルカンジェロ(1955〜)は、このHPでは何度も顔を見せている大ヴェテランで、実はこのオペラのレポレロ役に三度も登場しており、全てを知り尽くした上でのドン・ジョヴァンニの初舞台であって、ピッツイのベッドシーンの演出に合わせて、実に堂々たる肉体美と歌唱力を示していた。また、エルヴィーラのカルメラ・レミージョは、ドウダメル指揮のミラノ・スカラ座の06年モーツアルト・イヤーのドン・ジョヴァンニの公演(8-3-3)においてレポレロのダルカンジェロとともにドンナ・アンナを歌っており、今回のエルヴィーラにおいても表情豊かでベッドシーンが上手な色っぽくて声が良く出るしたたかなドンナ・エルヴィーラを演じていた。そのほか、ドンナ・アンナのパパタナスウやツエルリーナのビスチェグリも歌も演技も合格であり、レポレロ役・ドン・オッターヴィオ役もまずまずの出来映えで、イタリアの地方都市における若い歌手陣の層の厚さや競争の激しさの結果を思わせていた。

今回の「マチェラータ音楽祭」またの名を1820年代に建設されたアレーナに因んで名付けられた「スフェリステリオ・オペラ・フェスト(音楽祭)」は、このDVDで始めて知ったマルケ州の地方都市マチェラータの音楽祭であるが、主役にさえ著名な実力者を迎えれば、イタリアの主要都市の大オペラ劇場にも負けないような素晴らしい内容を持っていたことに感心するとともに、さすがオペラの国イタリアのオペラ水準が高いことを示す例として、長く記憶に留めておきたい公演であった。

(以上)(2015/01/15)


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