(二つの交響曲;マゼールのプラハ交響曲K.504とラトルのジュピター交響曲K.551)
14-9-1、ロリン・マゼール指揮NHK交響楽団による交響曲第38番ニ長調「プラハ」K.504、2012年10月24日、サントリーホール、およびサイモン・ラトル指揮ベルリンフイルによる交響曲第41番ハ長調「ジュピター」K.551、
2013年8月23日、フィルハーモニー・ホール、ベルリン、

−マゼールのプラハ交響曲は、ゆっくりしたテンポで整然とした落ち着きのある格調が高い響きがしており、基本的には繰り返しを省略した伝統的なタイプの演奏であった。一方のラトルのジュピター交響曲は、最初から堂々として力で押すタイプを見せ、早めのテンポ感で引き締まった壮麗で豊かな感じが溢れた「ジュピター」であり、伝統あるベルリンフイルの響きを聴かせていた。さらに、三大交響曲の連続演奏のフィナーレとしての総仕上げを意識した壮大で豊かな演奏のように思われた−

(二つの交響曲;マゼールのプラハ交響曲K.504とラトルのジュピター交響曲K.551)
14-9-1、ロリン・マゼール指揮NHK交響楽団による交響曲第38番ニ長調「プラハ」K.504、2012年10月24日、サントリーホール、およびサイモン・ラトル指揮ベルリンフイルによる交響曲第41番ハ長調「ジュピター」K.551、
2013年8月23日、フィルハーモニー・ホール、ベルリン、
(2014/7/28、BS103プレミアムシアターをHDD2に録画およびレコード芸術8月号特別付録DVDより)

     8月に急逝された指揮者ロリン・マゼールのNHKの追悼番組があり、彼の2012年10月24日のサントリー・ホールにおけるNHK交響楽団とのコンサートライブが放送されて、彼の最初で最後のNHK交響楽団との演奏記録として交響曲第38番ニ長調K.504「プラハ」が、急遽、9月号の交響曲の部分の第一曲となるように組み替えを行なった。このコンサートでは、マゼールは、スクリヤビンの「法悦の詩」作品54、およびチャイコフスキーの交響曲第4番ヘ短調作品36が演奏されていた。交響曲の第二曲には、「レコード芸術」8月号の付録として添付されていたベルリンフイルの最新のDVDのラトルの「ジュピター」交響曲をペアーでご報告することにした。このDVDは、14-9-2)で述べている、ベルリンフイルの「デジタル・コンサートホール」のPR用のサンプラーであるが、この「ジュピター」交響曲は、彼の2013年のルッツエルン音楽祭で演奏した三大交響曲(14-1-1)とほぼ同じ時期の演奏であった。





    ロリン・マゼール(1930〜2014)はフランス生まれであるが、国籍はアメリカ人であり、幼児からヴァイオリンと指揮を学んでいずれも神童と言われるほどの才能を発揮してきた人で、10歳前後からNBCやNYフイルなどを指揮して話題になってきた人である。演奏の前にマゼールのインタビューの画像があって、年を取ると共に音楽への情熱と愛が深まっていることに自分自身で驚いていると穏やかで優しい表情で語っていたのが印象的であった。この人のモーツァルトは、 LDの初期にロージー監督の映画「ドン・ジョヴァンニ」の指揮をしていたこと(10-6-2)、およびヴァイオリン協奏曲第3番K.216を弾き振りしていた沸き頃の白黒の映像(5-1-1)しか残念ながら記憶が無い。しかし、ウイーンフイルとのニューイヤーコンサートなどの記憶は鮮明であり、最近では殆どアメリカで活躍する長老格の指揮者と考えていた。





     映像では、交響曲第38番ニ長調「プラーハ」K.504の字幕と共に、いきなりマゼールが指揮台に登場するところから始まるが、N響の布陣は、コンサートマスターがマゼールのお付きの人であり、右奥にコントラバス三台が目に入り、どうやら中規模のオーケストラによる「プラーハ」に見えた。マゼールは、当時82歳で、全くかくしゃくとしたご様子で指揮台に大股で向かい、両手を広げてフォルテの序奏部が厳かな和音で開始された。マゼールのテンポは実にゆっくりとしており、一音一音階段を上がるように進行していたが、うねるような第一ヴァイオリンの明るい上昇旋律に乗って進み、悠然とフルオーケストラの頂点に達してから、テインパニーとトランペットの輝かしいリズムに乗って堂々と行進曲風にリズミックに進行し高まりを見せていた。このマゼールのゆっくりとしたテンポの序奏は、長老の割には意外に良く腕を細かく動かす指揮振りであったが、顔の表情は非常に厳しく、むしろ怖い表情で、やや柔らかい弦の響きがする伝統的な奏法で進行する序奏部であった。





     続いてマゼールの一振りで、アレグロの第一主題が第一ヴァイオリンのシンコペーションで颯爽と走り出し、管のフォルテで主題後半が引き継がれ、それからこの主題が全ての楽器により歌われて、形を変え楽器を変えながら対位法的に展開され力強く進行していった。やがて弦楽器で何回も孤を描くように弾かれる軽やかな第二主題が提示され、それに木管群やピッチカートも加わって管と弦の対話が何回も繰り返され、次第に素晴らしい提示部の後半へと盛り上がりを示していた。マゼールは最近では珍しくここで提示部を終え、直ぐに長い展開部へと突入していた。この展開部では、第一主題の前半と後半の主題断片が次ぎつぎに対位法的な変化をしながら繰り返され、マゼールは実に力強く充実した長大な展開部に発展させていた。再現部では、やや型どおりに再現されていたが、第一主題も第二主題も管楽器群による応答が一段と賑やかになっているように聞こえていた。マゼールは、古いタイプの指揮者のように終わりの繰り返し記号による展開部からの繰り返しは当然に省略しており、一言でまとめると、整然とした落ち着きのあるやや格調が高い第一楽章とでも言えるだろうか。





     第二楽章のアンダンテでは、弦楽器がゆっくりしたテンポで第一主題を穏やかに美しく歌い出し、木管が同じ主題を弦に応えるように高く奏でていたが、美しい動機が重なってやや激しい経過部が続いていた。マゼールは実に良く歌わせており、やがてより穏やかで軽やかな第二主題が弦により提示されると、フルートやオーボエでも繰り返されて穏やかに美しく進行し、弦から管へ、管から弦へと応答が続いて見事な提示部を作り上げていた。マゼールはここでも繰り返しを省略し、そのまま展開部に入っていたが、ここでは第一主題のスタッカートの動機がカノン風に複雑に激しさを増して展開されており、これが実に印象的で素晴らしい展開部となっていた。再現部では、第一主題も第二主題も丁寧に再現されていたが、後半では管楽器がより一層の存在感を増して華やかな効果をあげていた。とても落ち着いたテンポの響きが柔らかで良く整った感じのするアンダンテであった。









     フィナーレでは、冒頭の主題Aが「フィガロ」の第二幕の中頃のスザンナとケルビーノの二重唱「早く、早く」の旋律にとても良く似ており、ロンド主題のような形で舞台同様に素早く小刻みに進行する。続く第二主題Bは、弦の提示に対し管が応える対話が続き、特にフルートが目覚ましい活躍をしていた。このフィナーレの構造は、大雑把に捉えると、全体がABA:||CABA:||の形をしており、Cを展開部と見なすとソナタ形式のようであり、中央と最後の繰り返しを省略するとロンド形式になってしまう。最近の古楽器指揮者はソナタ形式であり、ワルターやビーチャムなど古い指揮者はロンド形式のように繰り返しを省略して演奏していた。今回のマゼールは前半の繰り返しは丁寧に行い、最後の繰り返しを省略するスタイルのオーソドックスなソナタ形式による演奏をしており、ベームやクーベリックや最近のプレヴィンなどと同様であった。いずれにせよこのフィナーレは、終始軽快なテンポで進行し、「早く、早く」の主題がいつでもどこででも耳に響いており、後半の最後では力強い終わり方をして曲は結ばれていた。非常にリズミックで軽快な感じで疾走するフィナーレで、全体としては、落ち着いて安心して聴けたプラハ交響曲であった。


     大変な拍手で演奏が終了し、マゼールはいかにも巨匠らしくゆっくりと二度、三度と拍手と歓声に応えていたが、姿勢がピンとしており、大家の印象を崩さないような落ち着いたゆったりとした態度で舞台を上下していた。マゼールの意識では、この曲は、コンサート最初のN響との調子合わせの第一曲のような感覚であったかも知れないが、思ったよりも落ち着いたテンポでじっくりと進めるタイプであり、基本的には繰り返しを省略する年齢的にも古いタイプの指揮者に属する演奏と感じさせた。なお、アンコールにラヴェルのボレロが演奏されていたが、これは非常に色彩的な感覚のボレロであり、オーケストラの規模が全く異なっていたが、N響を思い切ってフル稼働させたような威勢の良いものであった。


     9月号の交響曲の第2曲目は、サイモン・ラトル指揮ベルリンフイルによる交響曲第41番ハ長調「ジュピター」K.551であり、秋のシーズンの初日とも言える2013年8月23日に、本拠地のフィルハーモニー・ホールで演奏されたものである。この演奏は、既に14-9-2)で紹介済みの第6曲目に相当しており、ベルリンフイルのデジタルコンサートホールというレーベルの発売曲の中の一演奏で、このレーベルのPRとして、レコード芸術8月号の付録のDVDがこの映像のソースとなっているが、実際に収録された3曲の中の1曲だけがDVD化されていた。しかし、ラトルとベルリンフイルの交響曲3曲は、2013年8月28日のルッツエルン音楽祭の初日に収録されたものと同じプログラムであり、この音楽祭で録音されたものは、既にクラシカジャパンより放映済み(14-1-1)であった。この音楽祭でお馴染みになったコンヴェンション・ホールの広い舞台には、コントラバスが3台をベースに構成された二管編成の中規模なベルリンフイルが横長に配置されていたが、アバドがよく演奏するルッツエルン祝祭管弦楽団とは規模においてかなり縮小されていた。この2つの演奏は、演奏日(5日違い)とホールが違っているだけで、一方がベルリンフイルの本拠地で、一方は音楽祭の本拠地のルッツエルンのコンヴェンション・ホールでと言うことのようである。しかし、このようなケースは極めて珍しいので、今回はこの付録のDVDをチェックする比較の意味を兼ねてアップすることにしたものである。


     このラトルの交響曲第41番ハ長調「ジュピター」は、これまで第39番、第40番と続けて聴いて、休憩を挟んで、第41番を聴いたのであるが、第40番の演奏とは少し異なって、最初から堂々として、力で押すタイプの仕上がりを見せた「ジュピター」で、さすが伝統あるベルリンフイルの響きであると思わせる壮大で、さらに三大交響曲の連続演奏のフィナーレとしての総仕上げを意識した演奏のように思われた。







    ベルリンフイルの本拠地フイルハーモニイホールでは、3台のコントラバスで中規模のオーケストラでは、余裕がありすぎ、後段の後ろには椅子が置かれて客席化されていた。ラトルが元気よく階段を駆け上がるように入場し、いきなり、フルオーケストラによる堂々たる三つの和音で、第一楽章が開始されていた。この出だしのオーケストラの響きは、広いホールの隅々まで響きわたり、低い音から高い音まで厚みのある響きを持ったオーソドックスな始まりであり、これは音楽祭のホールよりも遙かによく響いていた。アレグロ・ヴィヴァーチェの第一主題は実に力強く進行しており、ひとしきり進行した後、フェルマータのあと、フルートとオーボエが二重奏で主題を変形しながら軽快に繰り返され、躍動するように進行し、これが「ジュピター」であると感じさせる堂々たる経過部が続いていた。続いて第一ヴァイオリンが第二主題を軽快に提示して、繰り返しながら進んでから小休止の後、突如として大音響とともに激しくオーケストラが爆発するが、ラトルは悠然として先へ先へと進めていた。そしてピッチカートに導かれて軽快に楽しく流れる副主題が流れ出し、提示部全体を収めるように終息していたが、ラトルは再び冒頭から、厚みのある音で「ジュピター」らしさを示そうとばかりに提示部の繰り返しを行っていた。



    展開部では前半が先の軽快な副主題が様々な形で展開され、後半では冒頭の主題が弦と木管が交互に主題を変形しながら繰り返し展開され、分厚い音の響きが非常に頼もしく聞こえていた。続く再現部では、ほぼ型通りに第一主題・第二主題と再現されていたが、一呼吸をおいた小休止の後の大爆発では、提示部よりも堂々と激しく再現されており、ラトルは後半が盛り上がる「ジュピター」らしさを、ここで発揮しようとしているかのように思われた。映像もカメラワークもやはり本拠地の手慣れた場所の方が、落ち着いて見られる感じがしていた。



   第二楽章では、厳かな感じの美しい主題が第一ヴァイオリンで静かに提示され淡々と進むが、オーケストラの流れが厚くて重厚な響きのアンダンテ・カンタービレとなっており、木管群も弦楽器に応えるように対等に音を響かせていた。続く第二主題も重々しく弦がうねるように進行するが、木管も負けじとこれに参加しフルートもファゴットも存在感を示すように歌っていた。ラトルは珍しく提示部の繰り返しを省略し、展開部では第一主題の後半の副主題が展開の対象となり、弦がこだまするように繰り返し展開されていた。再現部では第一主題の冒頭が第一ヴァイオリンで呈示された後、突然に低弦が32分音符のうねるような流れを示し、これが第一ヴァイオリンに移行してから、第一・第二ヴァイオリンが、続いてヴィオラと低弦が唸りだし、交互にうねるように変奏されていた。続く第二主題も第一ヴァイオリンから木管も加わって提示部と異なる変奏を見せていたが、楽想の豊かさが見事に反映された例として印象深かった。ラトルは、この再現部の弦の豊麗な32分音符の流れとフルート・オーボエ・ファゴットなどとの対話の部分を、第二の展開部のように重厚に進めていたが、スコアを追いながらこのジュピター交響曲ならではの凄さを感ずることが出来た。



 一方の第三楽章のメヌエットでは、ラトルは比較的早めのテンポでメヌエット主題をリズミックに颯爽と進め、木管が一頻り歌い出しホルンやトランペットが鳴り響く場面もあって、ここでも壮麗なメヌエットの世界が繰り広げられていた。トリオでも同じような早いテンポで、フルートの出だしのあとにオーボエと弦が合奏するユーモラスな場面が繰り返された。そのあとに第一ヴァイオリンと木管や金管全体が和音を合奏しながら流して趣を変えてから、再びリズミックなメヌエット主題に戻っていた。



   フィナーレはド・レ・ファ・ミの四つの音から作られるモルト・アレグロの堂々たるフーガ主題に始まり、続く威勢の良い主題が繰り返されていくごとに、次第に元気良く高められていき、壮大なドラマが造り上げられていた。ラトルはこのフィナーレではテンポを一層早め、全身を使ってこのオーケストラを盛り上げるように力を込めて指揮をしており、オーケストラもこれに応えるように堂々たる響きを聴かせていた。展開部では冒頭主題によるフーガ的展開が、丁寧に、繰り返し繰り返し行われ、壮大さを次第に高めていた。再現部では、この壮大なフィナーレの主題がオーケストラ全体の圧倒的な力で盛り上がりを見せて、高揚しながら高らかに終結していた。そこでは大変なかけ声とともに、もの凄い拍手が湧き起こり、フイルハーモニーホールは拍手の渦で湧き上がるような様子であった。ラトルは何回も呼び出され、その都度客席に向かって挨拶を繰り返していた。これは本拠地でのラトルの人気の高さを印象づけるとともに、熱演の余韻が残るようなコンサートであったことを如実に示していた。

    全楽章を通して聴いてラトルの演奏は、早めのテンポ感で引き締まった壮麗で豊かな感じが溢れた「ジュピター」であり、ベルリンフイルがしっかりとラトルを支えた素晴らしい演奏であると思った。この印象は本拠地での演奏も音楽祭での演奏も変わらないと感じたので、余り文章にも手を加えなかった。ただし、付録のDVDは、私の装置では、パソコンから取り入れたデジタルコンサートホールよりも、映像も音質も低レベルにあることをお伝えしておかなければならない。なお、今後、ベルリンフイルのデジタルコンサートホールで紹介した6番目の三大シンフォニーのアップロードは、この「ジュピター交響曲だけで、他は省略したいと考えるのでご了解いただきたい。


(以上)(2014/09/03)



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