(最新の市販DVDから;オーストラリア、シドニーOPの「ドン・ジョヴァンニ」)
14-7-3、マーク・ウイッグルスワース指揮、オーストラリア・オペラ&バレエ管弦楽団ゴラン・ヤルフェルト演出による「ドン・ジョヴァンニ」、
2011年シドニー・オペラハウス、

−最後の巨大な石像が登場するシーンが、この映像ならではの音と動きの饗宴で素晴らしく迫力があり、全体として実に充実感のあるオペラ「ドン・ジョヴァンニ」を見たという実感があった。舞台は一貫して最初から最後まで同じ広場であったが、豪華な衣裳や小道具などは、さすが永年にわたってこの劇場で用意されてきたものであり、伝統的な演出に沿ってリブレットに忠実で分かり易い舞台であった。この劇場の古き良さを蓄えた伝統的なものを大事にしている姿勢が、新味を出そうと競争している他の有名劇場と違った印象を与え、初めて見るものには、安心して見ていれる映像となっていた−


(最新の市販DVDから;オーストラリア、シドニーOPの「ドン・ジョヴァンニ」)
14-7-3、マーク・ウイッグルスワース指揮、オーストラリア・オペラ&バレエ管弦楽団ゴラン・ヤルフェルト演出による「ドン・ジョヴァンニ」、
2011年シドニー・オペラハウス、
(配役);ドン・ジョヴァンニ;テデイ・タフ・ローズ、レポレロ;コーナル・コード、ドンナ・アンナ;ラシェル・ダーキン、騎士長;ダニエル・スメギ、ドン・オッターヴィオ;ヘンリー・チョー、エルヴィーラ;ジャクリーヌ・ダーク、ツエルリーナ;タリン・フィービッグ、マゼット;アンドリュー・ジョーンズ、
(2014/05/13、Sydney Opera House OPOZ560230DVD)

   7月分の第三曲目はオーストラリアのシドニー・オペラハウスによる「ドン・ジョヴァンニ」の2011年のライブ収録である。このオペラ劇場のオペラは初めてのものであったが、一見した限りでは、簡素な舞台でありながら正統的な生真面目な取り組みをしており、とても好感が持てた。舞台の面々は初めての方々ばかりであるが、ドン・ジョヴァンニをはじめ各歌手は役柄に良く合っており、歌も演技も優れていたので、他のオペラ劇場に匹敵するような舞台になっていたように思われた。ウイーン追加曲のうち二重唱を除く二曲が加わった版が用いられていた。ドンナ・エルヴィーラが召使いを連れてカゴに乗って現れたり、食卓の場に管楽アンサンブルが現れたり、最近は見かけない古い伝統的なこのオペラの名場面が時々あらためて出てくるので、楽しみな面も多いので、もう少し丁寧に見てアップしたいと考えている。

   オーストラリアのシドニーのオペラ劇場については、NHKのプレミアム・シアターという4時間のオペラ番組の余白で、世界のオペラ劇場をシリーズで紹介する番組があり、一度見た記憶があるが、残念ながら、港に近い奇抜な建物のオペラ劇場という印象しか残っていない。しかし、高校生の孫娘が修学旅行にオーストラリアに行ってきて、オペラ好きのお爺ちゃんに買ってきたお土産が、何とこのシドニー劇場の誇張された建物の飾りの置物であった。私は、不幸にしてオーストラリアに行っていないので知識はないのであるが、この劇場は、シドニーのお土産にもなっている自慢すべき観光の名所の一つになっているのであろう。
   この映像は2011年10月の上演のものであるが、この舞台のシドニーオペラ劇場としての最初のプレミエは1991年1月とされているので、このオペラ劇場の伝統的な出し物と考えて良かろう。歌手陣は、知らない方ばかりでブックレットにも経歴紹介がないので、兎に角、ぶっつけ本番で、早速、DVDを見ることにした。





   映像はチューニング中のオーケストラと奥行きのある舞台が暗く写されていたが、指揮者の姿が写されて、早速、序曲が開始された。二つの和音は重苦しく響き、石像の現れるシーンの音楽がやや早めのテンポで不気味に進み出すと、幕が下りて出演者の紹介が字幕で始められた。序曲が一転して主部のアレグロとなり弦が早いテンポで軽快に進み出すと、指揮者の姿と字幕とが交互に写されていたが、序曲が終わりに近づくと幕が開いてオーケストラはそのまま第1曲の序奏に入っており、素晴らしいオペラの開始を予感させていた。




        舞台は豪華な騎士長の館の前で、ガウン姿の太ったレポレロが、窓に掛けられたハシゴの近くでウロウロしながらぼやいていると、突然、女の悲鳴が聞こえ、黒縁メガネのドン・ジョヴァンニがハシゴを伝って逃げてきて、追いかけてきた白装束のドンナ・アンナと大声でもみ合い騒ぎになっていた。そこへ騒ぎを聞きつけて剣を持った父親の騎士長が駆けつけて、娘を離せと怒鳴りながら剣を突きつけ、ドン・ジョヴァンニと向き合って、いきなり決闘の場面となった。しかし、ドン・ジョヴァンニの動きは素速く、あっと言う間に勝負は付いてしまい、騎士長は大の字にになって倒れてしまって虫の息。ドン・ジョヴァンニはレポレロを呼んで騎士長の死を確かめ、二人はこそこそと逃げ出してしまった。ドン・ジョヴァンニのローズは逞しく俊敏であり、精悍な顔つきで悪役を演じ、レポレロのコードはおとぼけ顔で冗談も板に付いていた。




   そこへ、ドンナ・アンナとオッターヴィオが駆けつけるが、父は既に息を引き取っており、見つけたドンナ・アンナは驚きの余り気を失ってしまう。しかし、気がつくと二人の二重唱が始まり、気丈なドンナ・アンナは父の血に賭けてもとオッターヴィオに父の復讐を誓わせていた。ドンナ・アンナのダーキンは動きが速く、オッターヴィオのチョーは異色の東洋人の元気の良いテノールであり、二人は二重唱で仇討ちをしようと歌い上げ、二人は大変な拍手を浴びていた。

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   場面は路上の明け方に変わり、ドン・ジョヴァンニとレポレロは互いに言い争いをしていたが、ドン・ジョヴァンニは、突然、「女の匂いがする」と言い出した。良く見ると一人の貴婦人が古いカゴから降りて来て、旅姿で登場しており、「あのひどい男はどこかしら」と歌い出していた。それは第3曲目のドンナ・エルヴィーラのアリアであり、「会ったら八つ裂きにしてやる」という恨みの怒りのアリアであった。様子を見てドン・ジョヴァンニがシニョーレと近づくと、何と彼女は自分を追ってきたエルヴィーラであり、彼女は男が探していたドン・ジョヴァンニだと知ると、長年の怨みをここぞと訴えて手に負えない。

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ドン・ジョヴァンニは、彼女の相手をレポレロに任せて、彼女が乗ってきたカゴに乗って逃げ出してしまった。レポレロは手製の一冊のカタログを彼女に見せながら「カタログの歌」を歌い出すと、エルヴィーラも始めは呆れていたが、次第に驚きだして手帳を覗き込み、手帳を取り上げて怒りだし、最後には彼女は裏切られたとばかりに復讐を誓っていた。レポレロのコードのアリアは堂々としてドスが効いており、彼女に同情して慰めるように歌っており、観衆から大拍手を受けていた。





  場面は変わって屋敷の広場に大勢の若者たちの歌に混じって、派手な姿のツエルリーナが歌い出し、格好の良い若者のマゼットがこれに答えて歌いながらお祭り騒ぎをしていると、ドン・ジョヴァンニが先ほどのカゴから降りてきてとレポレロと様子を見ていた。ツエルリーナに目をつけたドン・ジョヴァンニは、挨拶もそこそこに身分の高さを示して、皆を私の屋敷に案内してご馳走をと言いだして、私はツエルリーナと二人で後から行こうと言い出した。マゼットには命令調でドスの効いた脅しも行って、不満顔のマゼットは反抗しながらも「分かりました」と歌い出し、ツエルリーナに精一杯の嫌味と皮肉を歌って皆と一緒に姿を消した。




ドン・ジョヴァンニとツエルリーナは「やっと二人になれた」と語り合い、彼は早速「君には私のような貴族がふさわしい」と口説きだし、その美しい唇、白い指などと誉めながら、直ぐ近くの私の家で結婚しようと誘っていた。そして甘い声で「手と手を取り合いながら」と二重唱が始まったが、ツエルリーナは心配そう。しかし「人生を変えよう」などと言われ、「行こう」と言われて次第に度胸が付いて、段々と大胆になって、最後には「行きましょう」になってしまい、抱き合って倒れ込んでしまった。そこへ貴婦人姿のドンナ・エルヴィーラが「お待ちなさい」と言って声を掛け、鋭い声で「彼の口も目も偽りよ」と言って歌い出し、呆然と驚いて立ちすくむツエルリーナに「逃げなさい」と歌いながら、一緒に連れ出してしまった。




   ドン・ジョヴァンニがふてくされて「今日はついていない」とこぼしている所へ、喪服姿がよく似合うドンナ・アンナとオッターヴィオが現れ、ご相談したいと彼女が近づいた。ドン・ジョヴァンニがドンナ・アンナに「なぜ泣いているの」と声を掛けて手を取ったところへ、そこに再び突然にエルヴィーラが現れて「この人を信じないで」と四重唱が始まった。エルヴィーラが「この悪人が私を裏切った」と言えば、ドン・ジョヴァンニは「彼女は頭がおかしい」と言い返していたが、見ていた二人はそれを信じないようで、不思議な四重唱になっていた。エルヴィーラがどうしても黙らないので「二人だけになりたい」とドン・ジョヴァンニがドンナ・アンナに「アミーチ・アデイオ」と挨拶して立ち去った途端に、彼女はハッと気がついて「死にそうよ」と叫びだし、「あの男が犯人よ」とオッターヴィオに語り出した。



ドンナ・アンナの語りは激しく、レチタテイーボからオーケストラが伴奏するアッコンパニアートに転じて彼女が襲われた状況を語り出し、父が助けに来てくれたと説明して「これで分かったでしょう」と激しく歌い出した。このアリアは彼女の復讐を誓うアリアであり、オッターヴィオに父の仇を取ってくれと願う激しいアリアであった。
   オッターヴィオは、あの騎士が「信じられない」という面持ちであったが、ドンナ・アンナの激しい様子に「彼女が安らげば、私も」と、慣例通りこのウイーン追加曲を歌っていたが、静かな口調で歌っており、最後には「彼女の喜びは、わが喜び」とばかりに自分に言い聞かせるように一人で歌って、盛んに拍手を受けていた。




   場面が変わって、「何としても暇をもらおう」とレポレロがぼやいていると、ドン・ジョヴァンニが屋敷での様子はどうだったと尋ね、レポレロの答えを褒めちぎってブラボー・ブラボーを連発するので、レポレロも反論できず、そのうちに今度はパーテイでやろうとドン・ジョヴァンニが張り切って、「シャンペンのアリア」を威勢よく歌い出した。短いアリアであるが、有頂天になって歌うこのアリアに観客は大喜びで、万雷の拍手を浴びていた。一方、ツエルリーナが口論しながらマゼットと登場するが、彼のご機嫌を取ろうとして、甘い言葉で「ぶってよマゼット」と歌い始めた。このアリアも親しみやすい有名な曲でツエルリーナの仕草も可愛いので、怒っていたマゼットも次第に機嫌を直し、最後にはやっと笑顔を見せて二人は抱き合ってしまったので、お客さんは大喜びであった。




   舞台裏での「さあ支度だ」というドン・ジョヴァンニの声が聞こえて、フィナーレが始まった。マゼットの「隠れていよう」の歌を合図に怯えるツエルリーナと二人は再び口論をしながら隠れていたが、ドン・ジョヴァンニが始めに挨拶をしてパーテイが始まると、隠れていたツエルリーナがドン・ジョヴァンニに直ぐ捕まってしまうが、今度はマゼットがそばで監視していたので事なきを得た。そこへ三人の目隠しマスクのガウンを着た仮面の人が登場し、直ぐにレポレロが三人を見つけ出し、何かが起こりそうであった。しかし、メヌエットの音楽が始まり、ドン・ジョヴァンニが三人に舞踏会へどうぞと声を掛けたので、敵地に乗り込んで不安そうな三人は、ここで「正義の神よ、守り給え」と歌い出した。これが素晴らしく美しいアダージョの三重唱となり、目隠しマスクを外しながらゆっくりと歌われたので、途中であったが大拍手。この変装した正義の三人はドンナ・アンナ、ドン・オッターヴィオ、ドンナ・エルヴィーラの上品な貴族たちであった。



   踊りの広場では軽快に音楽が流れ出し、ドン・ジョヴァンニとレポレロは、コーヒーだ、チョコレートだと忙しく、マゼットは浮気なツエルリーナを怒って監視していた。そこへ三人の仮面の人が登場すると場面は急に改まり、ドン・ジョヴァンニは自由に振る舞ってくださいと挨拶して自由万歳の解放宣言をし、盛り上がって音楽が始まった。楽士たちが大勢舞台に登場しており、マスクの人も一緒になって上品なメヌエットを踊り出したが、レポレロはマゼットを連れ出し、ドン・ジョヴァンニはツエルリーナを狙っていた。音楽が二拍子のコントルダンスが加わり、三拍子の早いドイツ舞曲も始まって、踊りは大勢の人が踊り出し、ドン・ジョヴァンニは上手くツエルリーナを連れ出した。やがて場面は佳境に入りかけていたが、ツエルリーナの「助けて」の声で大騒ぎとなり、皆が集まってきた。
    そこへドン・ジョヴァンニが呆れた顔の嫌がるレポレロに刀を振りかざし、「無礼な男はこいつだ」とシラを切ろうとしたが、三人のマスクの人の一人がドン・ジョヴァンニにピストルを突きつけて、「お芝居は止めよ」と見破り、他の二人もガウンとマスクを脱ぎ捨てて詰め寄ったので、ドン・ジョヴァンニは手出しが出来なくなって、遂に皆に頭を下げてしまった。雷鳴が鳴り響き、音楽が早いテンポに変わって、大混乱の中でドン・ジョヴァンニとレポレロの二人は、皆に責められて頭が混乱して訳が分からなくなり、足早に逃げ出してブッファならではのお笑いの中で第一幕が賑やかに終了し、大拍手となっていた。



    第二幕は同じ広場で、レポレロがドン・ジョヴァンニに、「今度ばかりは殺されそうになった」と文句をつけて早口の二重唱で始まっており、レポレロの怒りが収まらないので、気前よく金貨を数枚見せるとその勢いはコロリと変わっていた。ドン・ジョヴァンニがエルヴィーラの召使いに目をつけ、彼女の家のバルコニーの下で、彼女を騙そうとして、三重唱が始まっていた。ドン・ジョヴァンニが改心した素振りの歌を歌うと、信じやすいエルヴィーラは迷いながらも騙されてしまい家から会いに降りてきた。そこで二人は、衣裳を交換して、降りてきたエルヴィーラに、レポレロが改心したと語りかけ、エルヴィーラに抱きつくと、彼女は本当に騙されてしまっていた。二人が抱き合っているところに、ドン・ジョヴァンニが後ろで大声で脅すと、二人は慌てて逃げ出してしまっていた。



    ドン・ジョヴァンニは二階の窓辺に向かい、抜け目なくマンドリンを取り出して「愛しい人よ」とカンツオネッタを歌い出すが、このアリアは最高の出来映え。その努力が実って終わり頃にはエルヴィーラの召使いが下着姿で窓辺に現れていた。しかし、残念ながら、そこで大勢の人声がして、突然に、マゼット一行がドン・ジョヴァンニを探しにやって来た。ドン・ジョヴァンニは、レポレロの格好で皆を安心させ、第17番のアリアを歌ってマゼット以外を追い払い、最後に残ったマゼットを思い切り叩きのめして姿を消した。マゼットが一人で痛さを堪えていると、そこへツエルリーナが悲鳴を聞いて駆けつけてどこが痛いと「薬屋のアリア」を歌って、例のお色気でマゼットの機嫌を直してしまう。有名なアリアが続いて、場内は笑いで賑やかであった。



  一方、逃げ出したレポレロとエルヴィーラは、暗い物陰をウロウロし、彼女の「一人でいると恐ろしい」という歌で長い六重唱が始まった。レポレロは隙があれば逃げ出そうとしていたが、ドンナ・アンナとオッターヴィオが柩を運んでいるところに出会い、そこで怪しまれ、声を聞いてマゼットとツエルリーナも駆けつけて、レポレロが捕まってしまった。4人に許さないと言われ、エルヴィーラが「私の主人です」と謝って賑やかな六重唱になり、レポレロは主人の衣裳を脱いで正体を現し、平謝りの六重唱が続いた。そしてレポレロは、「どうかお慈悲を」と歌い出し、一人ひとりに主人の命令でこうなったと謝って、隙を見て脱兎のごとく逃げ出してしまっていた。
  ドン・ジョヴァンニが悪いと悟ったドン・オッターヴィオは、私が当局に訴えますと言い出したが、ここで歌われる第21番のアリアは、第10番aの振り替えで省略されていた。



    続いてエルヴィーラもドン・ジョヴァンニに天罰が下って当然と怒りをぶつけて、激しいレチタの後に「彼は私を不幸にした」とアリアを力強く歌っていたが、彼の身を絶えず心配する優しい心も見せる複雑な曲であった。この曲はウイーン追加曲第21番bであったが、素晴らしいアリアで、客席は喜んでいた。
  場面が変わって月夜の夜か、いつもの広場にドン・ジョヴァンニはたどり着き、レポレロとも再会して、いつも以上の調子でレポレロをからかって高笑いしていると突然に「その声も今夜限りだ」と言う声が響いた。



その声がそこにある騎士長の石像だと分かって、驚いた二人は、二重唱となって石像に夕食に招待するがどうかと尋ねると、レポレロが石像が頷いたと驚いて腰を抜かした。ドン・ジョヴァンニも再び確かめるとはっきり頷いて「行こう」という声が聞こえてきた。驚いた二人は、気味が悪くなり這う這うの体で逃げ出してしまっていた。
  一方、ドンナ・アンナが騎士長の柩に花を添えて悲しんでいると、オッターヴィオがドンナ・アンナを見つけて、「何時まで私を苦しめるのか。つれない女よ」と言い出したので、彼女は「私だって辛いのよ」とレチタテイーボを歌い出し、更にアッコンパニアートになって「私の信念を揺るがせないで」と歌い出した。アリアはゆっくりと朗々と歌われ、後半にはアレグロのコロラチューラが連続する技巧的なロンドになって声が良く伸び、本日最高のドンナ・アンナのアリアとなって、拍手を浴びていた。



  いつもの広場がドン・ジョヴァンニの館に早変わりして、騎士長の柩が食卓の代わりになり、そこにはチェロを含んだ木管グループが陣取ってまず「コーサ・ラーラ」の音楽が始まった。そしてドン・ジョヴァンニが元気よく、レポレロが運ぶご馳走を上機嫌で食べ始めていた。続いて音楽が「イ・リテイガンテイ」となり、マルツイミーノ酒が注がれて、ドン・ジョヴァンニはますます元気になり、旺盛な食欲を見せていた。続いてフィガロの「もう飛ぶまいぞ」が始まると、ドン・ジョヴァンニは起ち上がり、音楽に合わせて「レポレロ!」と呼び掛けてからかっていた。
     そこへエルヴィーラが飛び込んできて、ドン・ジョヴァンニに最後のお願いに来たといい、説教をし始めた。



ドン・ジョヴァンニは驚くが、「生活を変えろ」という話なので相手にせず、始めから「女性万歳」「ワイン万歳」とからかって、最後には彼女を組み敷いて乱暴をしようとした。驚いて逃げ出したエルヴィーラが入口で大きな悲鳴を上げ、それを見に行ったレポレロも「石像が...」と言って、口がきけないほど怖がっており、ダンダンダンと床を叩いていた。そこでドン・ジョヴァンニが立ち上がって玄関に向かうと、そこには真っ白な騎士長の石像が現れており、もの凄い大きなオーケストラの響きと共に玄関のドア柱が倒されて、大きな石像が入り込み、あの序曲の激しい音楽が鳴り響いて「来たぞ」と叫んでいた。



    ドン・ジョヴァンニも負けずに食事を用意しようとすると、重大な話があると言い、「私の晩餐に来るか」と呼び掛けた。臆病だと思われたくないドン・ジョヴァンニは、勇気を振り絞って「行こう」と返事をし、その約束の握手をした途端に、「何と冷たい手だ」と震え上がり、苦しみだした。石像は「悔い改めよ」と叫び、ドン・ジョヴァンニは「いやだ」と言う。何回か拒絶を繰り返すうちに、苦しくて倒れ込み、そのうちに黒子が多数現れて、大暴れする彼を柩に縛り付けようと格闘しており、もの凄いシーンになっていたが、やがて「ああー」という大絶叫と共に、彼は地下深くに吸い込まれてしまっていた。



  まだ煙が漂っている舞台で、レポレロが一人、何も分からずに取り残され、やがて嵐が去って五人が駆けつけて、レポレロにドン・ジョヴァンニはどこへ行ったかと尋ねるがさっぱり要領を得ない。やがて合唱は六重唱となり、ドン・ジョヴァンニが天罰でいなくなったことが知らされた。オッターヴィオがこれ以上悩ませないでというと、ドンナ・アンナは1年待ってくれとのつれない返事。エルヴィーラ、マゼットとツエルリーナ、レポレロは、それぞれの道を歩もうと決意し、最後に明るい六重唱となって、やっと平和が戻ったことを喜んで、賑やかに終幕となっていた。

  最後の巨大な石像の登場のシーンが、映像ならではの音と動きの饗宴で素晴らしく迫力があり、全体として実に充実感のあるオペラ「ドン・ジョヴァンニ」を見たという実感があった。舞台は一貫して最初から最後まで同じ広場であったが、豪華な衣裳や小道具などは、さすが永年にわたってこの劇場で用意されてきたものであり、伝統的な演出に沿ってリブレットに忠実で分かり易く、ゴラン・ヤルフェフェルトという方の演出であるが、実に立派な舞台であった。舞台のいろいろな工夫が目につき、オーケストラが第一幕のフィナーレでも第二幕のフィナーレでも舞台に上がっていたり、エルヴィーラがカゴで登場したり、彼女の侍女が顔を出したりと、どこかで見たシーンがとても楽しかった。

また、流れてくる音楽が早めのテンポであったがすっきりとしており、指揮者ウイッグルスワースが場面に合ったしっかりした音作りを行っていた。特に第一幕のフィナーレの後半や、第二幕のフィナーレの石像の登場では、これまで蓄えてきたエネルギーを一気に爆発させるような迫力あるシーンを作り出しており、感心させられた。また、選び抜かれた歌手陣がそれぞれ演技と歌に持ち味を発揮して実に楽しめたが、これは指揮者・演出者たちの包容力あるチームワークのお陰であり、歌手陣もこれに充分に応えていた。

   歌手陣も主役のドン・ジョヴァンニ、レポレロ、ドンナ・アンナの三人が十分に実力を発揮していたことが挙げられる。ドン・ジョヴァンニのローズは、歌も動きもともに良く、堂々と類い希な悪役振りと女性を口説く格好の良さの両面を持っていた。レポレロのコーナル・コードは、とぼけた姿と容姿でこの役にピタリとはまっており、ドン・ジョヴァンニを見事に支えていた。また、ドンナ・アンナのラシェル・ダーキンは、最初は神経質そうで心配であったが、顔を出すごと歌に演技に次第に力を見せており、最後のアリアでは、見事な歌いぶりを見せていた。エルヴィーラのジャクリーヌ・ダークもいろいろな場面で良い声で歌っていたが、動きが鈍いところがあり目立たなかった。最後の石像を演じた騎士長のダニエル・スメギは、巧みな演出に助けられていたが、堂々たる風情はさすがと思わせるものがあり、この映像ではドン・ジョヴァンニとともに、印象に残った配役であったと思われる。

  この映像は、舞台は固定されてむしろ18世紀に戻ったような印象であったが、舞台の使い方が巧みであり、中劇場さながらのアンサンブルの良い場面を作り出していた。シドニー・オペラ・ハウスという、初めて見るオペラ劇場、最初のオーストラリアの歌手陣の面々、指揮者・演出者・オーケストラも初めてであり、しかも日本語字幕がない状態で、非常に心配しながらこの初めてづくしのDVDを見出したのであるが、結果的には、優れた歌手陣の歌や演技と支える合唱団の面々と言い、地獄落ちの場面の迫力と言い、落ち着いたテンポで歌手を朗々と歌わせる非常に見応えのある「ドン・ジョヴァンニ」であった。この劇場の古き良さを蓄えた伝統的なものを大事にしている姿勢が、新味を出そうと競争している他の有名劇場と違った印象を与え、初めて見るものには、安心して見ていれる映像で、これが良い印象を与えたのかも知れない。

(以上)(2014/07/24)


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