(最新のN響録画より;マリナーのオール・モーツァルト・コンサート)
14-6-1、ネヴィル・マリナー指揮NHK交響楽団、交響曲第35番ニ長調「ハフナー」K.385、ピアノ協奏曲第22番変ホ長調K.482、ピアノ;テイル・フェルナー、交響曲第39番変ホ長調K.4543サントリー・ホール、第1777回定期公演、2014年5月、

−マリナーは90歳を超えているが、指揮を取る姿は禀としており、背筋が伸び動きは少ないが、短い指揮棒をこまめに動かす指揮振りであった。彼の演奏する音楽は整然としてバランスが良く、暖かみのある演奏であり、N響を振っていてもいつもと変わらぬ指揮振りなのであろう。ピアノ協奏曲では、ピアニストを導くように落ち着いたテンポでしっかりとリードしていたし、二つの交響曲では、余り格式張らずに自然体の雰囲気で、軽やかに穏やかなペースで指揮をしていた−


(最新のN響録画より;マリナーのオール・モーツァルト・コンサート)
14-6-1、ネヴィル・マリナー指揮NHK交響楽団、交響曲第35番ニ長調「ハフナー」K.385、ピアノ協奏曲第22番変ホ長調K.482、ピアノ;テイル・フェルナー、交響曲第39番変ホ長調K.543、
サントリー・ホール、第1777回定期公演、2014年5月、 (2014/05/18、NHKクラシック音楽館、N響定期公演録をHDD3に録画、)

6月号の第一曲目は、ネヴィル・マリナー(1924〜)指揮のNHK交響楽団による第1777回定期、2014年2月19日サントリー・ホールでの公演の最新番組であり、最近珍しいモール・モーツァルト・プログラムであった。 マリナーは2011年11月のNHK音楽祭においてN響を客演指揮していた(12-6-1)が、今回も同じ趣向であり、交響曲第35番ニ長調「ハフナー」、ピアノ協奏曲第22番変ホ長調、および交響曲第39番変ホ長調である。ピアノ協奏曲のピアニストは、このHP初登場の1974年ウイーン生まれの若いティル・フェルナーであり、90歳になるマリナーと対照的に若さを発揮したピアノ演奏であった。マリナーはCDでアカデミー室内楽団と交響曲全集を録音している指揮者であるが、 今回の第35番と第39番はこのHPでは2度目の映像となっており、恐らく彼が最も得意にしている思い入れの濃い交響曲であろうと思われる。




マリナーの最初の「ハフナー」の映像は、99年5月にルガーノでスイス・イタリア語放送管弦楽団との演奏(4-8-3)であり、マリナーは当時まだ76歳と若く、とても元気な指揮振りを見せてくれていた。今回はNHKの招きによるN響定期公演の第5回目の客演指揮者として来日したものであり、91歳の高齢であるが、立って指揮が出来るお元気な姿を見せていた。マリナーは、初期のCDでアカデミー室内管弦楽団とともにシンフォニー全集、セレナード全集、ブレンデルとのピアノ協奏曲全集で良く聴いて来たが、映像では全くご無沙汰しており、最近では殆ど記録が残されていなかった。




  冒頭のサントリー・ホールの第一曲目のハフナー交響曲K.385では、N響はコントラバスが4台と中規模の二管編成であったが、冒頭からテインパニーやトランペットがよく響き、華やかなテンポで始まるとても明るい響きであり、マリナーの落ち着いた指揮振りが映し出されると、安心して浸れるモーツアルトであると直ぐ感じて、流れに沿って聞き流してしまう。マリナーは早すぎない穏当なテンポでしっかりと指揮をしており、腰もピンとしてきめ細かくリズムを取って、几帳面にタクトで細かく指示をしていたが、これでは後半は疲れてしまうのではないかと心配であった。この第一楽章では少し離れて右奥にいるテインパニーの音が良く目立ち、この曲で重要な低弦のぶ厚いリズムの刻みが明瞭であった。曲は良く流れて、展開部では冒頭の主題が繰り返し変化しながら展開され、ここのオーボエとファゴットの合奏が印象的であった。再現部に入り冒頭の第一主題が、再びユニゾンで鋭く立ちあがり、二オクターブの跳躍する部分と、続いて行進曲調のリズムからなる部分で勢いよく進行しており、ここでも実に華やかに力強いファンファーレを示していた。




  第二楽章はゆったりと第一ヴァイオリンが歌い出し、それにオーボエとファゴットが加わって伴奏しながら進行するが、マリナーの指揮振りは優雅そのものである。やがてチッチッチッチと弦で登場する第二主題が、弦同志が互いに絡み合って、この上なく美しい。このように上品に歌わせるのがマリナーのうまさであろうか。マリナーはこの提示部をスコア通りに繰り返していたが、繰り返しではヴァイオリンや特に木管が自由に動いていた。短い展開部では雰囲気を変えぬように弦楽器と管楽器の推移的な合奏が続いていたが、再現部では再び優雅な第一ヴァイオリンの旋律が続き、優美なアンダンテ楽章となっていた。
       この感じは次のメヌエットにも引き継がれ、やや早めのテンポでウイーン風の典雅な響きをしっかりと聴かせていた。トリオの穏やかなオーボエとファゴットとが合奏するリート的な響きが印象的に聞こえていた。




フィナーレでは一転して力強いロンド主題が登場し、変化しながら急速に展開していく。ロンド形式の上にソナタ形式の力強い展開部が重なったような複雑な形式のように聞こえる。これも後期のシンフォニーの特徴であろうか。マリナーは終始ゆとりを持ってこのプレストを指揮しており、 N響という生真面目なオーケストラを動かして、この曲の華やかな持ち味を十分に引きだしていた。このお年でも楽しみながら指揮をするマリナーの姿を見ていると、指揮をすること自体がご自分の頭の体操や手足の運動になって、健康を維持しているように見受けられた。




第二曲目のピアノ協奏曲は、第22番変ホ長調K482 であったが、このHPで初めてのピアニストのテイル・フェルナーは、リハーサル直後の渡辺佐和子のインタビューに答えて、N響はトップレベルの水準の素晴らしいオーケストラであり、共演することを光栄に思っていると語っていた。室内楽的な気分で演奏できたと語っており、続くこの曲の特徴はと言う質問には、次のように明快に答えていた。第一はクラリネトが入った最初の曲で、木管楽器との調和が大切であると言い、第二には、第二楽章が異色の幻想曲風の変奏曲となっており、やはり木管楽器との対話が重要と言っていた。第三に第三楽章の中間部に現れるアンダンテイーノ・カンタービレが面白く、第9番の「ジュノム」と似ているが異なった扱いが必要と、丁寧に答えていた。




   この曲の第一楽章は、トウッテイで堂々と現れる行進曲調の響きで開始され、後半が木管群が高らかに美しく鳴り響く第一主題と、弦楽器のカンタービレが美しい第二主題から出来ているが、マリナーはコントラバスを2台に減らし、クラリネット中心の木管部のオーケストラによる主題提示部を軽快に進めていた。フェルナーの独奏ピアノは、長いアインガングにより明るく登場して、直ちにピアノが細かいリズムを刻みながら第一主題を奏し、さらにピアノが華やかにパッセージを繰り広げ、独奏ピアノ用の第二主題的な新しい主題も続いていた。フェルナーのピアノは、タッチが明快で早いパッセージでもまだゆとりが感じられ、独奏ピアノを主体にして堂々と提示部を終えていた。展開部でもピアノが華やかに動き回っており、再現部では、フルオーケストラの第一主題の冒頭部の後はピアノが主導権を取って賑やかに見事な変奏を加えながら進行し、提示部のオーケストラの第二主題が初めて独奏ピアノで現れるなど、変化を加えた再現部となっていた。カデンツアは自作のものか、第二主題を回想するものであった。




   第二楽章では静かな弦4部だけで始まるアンダンテ主題がゆっくりと始まり一通り演奏されるが、この曲は変奏曲となっており、これが主題提示部分。続いて独奏ピアノによる再現と後半に変化が加えられ第一変奏となってもう一度繰り返されていた。続いてクラリネットが主体の木管だけの優雅な第二変奏が行われるが、ここでは別の主題が用いられていた。次いで力強いピアノで始まり弦が伴奏する第三変奏が続いた。フルートとファゴットの二重奏に弦が伴奏する第四変奏はまるでデイヴェルテイメントのような錯覚さえ起こさせ、続くフルオーケストラとピアノによる堂々たる第五変奏が楽章全体を盛り上げていた。ピアノがひとしきり技巧的なパッセージを続けた後に、結びの形でファゴットとピアノと弦楽合奏による夢のように美しい豊かなアンサンブルの世界が顔を出して楽章が結ばれていた。マリナーは終始、美しくオーケストラを響かせており、フェルナーは独奏ピアノの主体性を堅持しつつも木管とのアンサンブルを丁寧に共演しており、この曲の素晴らしさを醸し出していた。変奏曲と言いながらまるで幻想曲のようなこの楽章が、ブルグ劇場の初演時にアンコールされたというが、当時の観客は非常にレベルが高かったものと思われる。




   フィナーレの軽やかにステップを踏むようなピアノと弦楽合奏で始まる八分の六拍子のロンド主題は実に生き生きとしており、続いてホルンや木管の合奏も加わって、輝くような早いピアノのパッセージが美しい。独奏ピアノによるパッセージの連発から、続く第一クプレの旋律が独奏ピアノで始まり、クラリネットや木管や弦に渡されピアノで再現されてから、再び始めのゆっくりしたロンド主題が現れた。独奏ピアノのフェルマータの後に現れる第二中間部は、クラリネットが奏するゆっくりしたメヌエット風のアンダンテイーノ・カンタービレであり、ここでもピアノの響きのもとにセレナードのような和やかな雰囲気を醸し出す。そしてピアノと第一ヴァイオリン、クラリネットと木管アンサンブル、さらにピアノと弦楽器のピッチカートという順番に穏やかなカンタービレが繰り広げられていた。この楽章を特徴づける第二クプレの美しさは、フェルナーも指摘していたが、彼は実に丁寧に木管や弦とのアンサンブルを楽しむように弾いていた。再びロンド主題がピアノで現れて、短いカデンツアとなっていたが、彼はロンド主題と第一クプレの主題を回想風に弾いていた。そして再びロンド主題となってフィナーレが終了したが、実に生き生きとした楽章であり、サービス満点な賑やかな楽章であった。
   この曲もマリナーの落ち着いた指揮とフェルナーの若々しいピアノに対し、大変な拍手が寄せられていたが、フェルナーはマリナーのお陰と言うような様子や仕草でマリナーをたてていた。アンコールは、リストの「巡礼の年」第一年から「クレンシュタットの湖で」という曲をサラリと弾いて、休憩に入っていた。






  第三曲目は交響曲第39番変ホ長調K.543 である。マリナーは冒頭の付点リズムの付いた和音で始まる序奏部をゆっくりと開始するが、32分音符の弦の下降部分は急速に一息でさらりと演奏するマリナー独自の進め方で、整然と力強く進行していた。これは マリナーがスイス・イタリア語管弦楽団と演奏したスイス・ルガーノの国際会議場における2005年のオール・モーツアルト・コンサート(8-7-1)でも同様であった。続くアレグロの第一主題ではテンポを余り早めず落ち着いて進行し、有名なファンファーレ以降になってキビキビとした軽快なアレグロが続いていた。N響は、休憩後はコントラバスが4台とハフナーと同じ規模になり、ファンファーレではテイパニーもトランペットもよく響き、柔らかな弦で始まる第二主題は優雅そのもので、ヴァイオリンと管との対話が美しく力強く響くピッチカートのリズムがとても軽快であった。提示部は繰り返して演奏していたが、繰り返し以降は一層滑らかに進行していた。
  展開部では結尾主題が何回も執拗に繰り返され力強く展開されて再現部へと移行していた。マリナーは再現部においても、終始、軽快さと堂々とした力強さを持って型通り進んでいたが、この曲のダイナミックな迫力を強調させた緩急自在な力強い演奏を見せてこの楽章を収束していた。淡々とした穏やかな指揮振りのもとで、整然とした落ち着きのある軽快な響きが、老指揮者マリナーの持ち味であることを強く感じさせ、「91歳の巨匠、いまだ健在」であることを示していた。






 第二楽章は二部分形式の穏やかなアンダンテであるが、弦の合奏による素朴な主題がマリナーにより静かに提示され、次第に穏やかなトーンで展開されていく。曲は三つの主題から構成されており、譜面を見ると提示部の前段に繰り返しが二つあり第一の主題を構成しているが、マリナーはこの二つの繰り返しを丁寧に演奏していた。続いて木管の導入に導かれて弦4部が第二の主題を波を打つように力強く提示していき、管と低弦との見事な対話がひとしきり繰り返されて頂点に達してから、ファゴット、クラリネット、フルートが互いに重なり合って第三の主題を提示して、前半の第一部を形成していた。後半でもマリナーのゆっくりしたペースで進んでいたが、特に木管により導かれる中間部での木管と部厚い弦楽器との対話が素晴らしく、さらにカノン風の木管の深遠な合奏の響きが印象的であった。マリナーの落ち着いた指揮振りがここでも淡々と進められ、モーツアルトの諦めに似た楽想の変化や高揚が見られるような気がした。






続くメヌエット楽章では、堂々としたメヌエット主題が力強い響きで始まるが、マリナーは整然と抑え気味に進行させていた。このメヌエット部の壮麗さに対し、トリオの二つのクラリネットによる優美なデユオはと実に美しく、それに答えるフルートが絶妙であり、楽しさを深めていた。マリナーはここでも体を殆ど動かさず、短い指揮棒を上下に振るだけの手慣れた落ち着いた指揮振りで、堂々とメヌエットを進行させていた。




  フィナーレのマリナーによる軽やかな早い出だしは、一転して軽快であり、進行するにつれフルオーケストラによって躍動する素晴らしい音の世界を作り出していた。この楽章には第二主題でのフルートとファゴットの美しい対話、展開部における高弦と低弦との鋭い対立など聴かせどころが散在しているが、マリナーは余りメリハリを付けずに穏やかなペースでこの軽快なアレグロの華麗な響きを引き出していた。
     演奏が終わると、大変な拍手で指揮者を讃えていたが、二度目にマリナーが舞台に現れると、直ぐにクラリネット奏者を立たせて挨拶をさせていた。オーケストラも指揮者を讃えて会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれていたが、困ったマリナーは、最後にコンサート・マスターと手を繋いで退場をし始め、これを機にさすがの拍手づけも終焉となっていた。

このコンサートは2時間弱で終了したが、マリナーは90歳を超えているが、指揮を取る姿は整然として背筋が伸び、動きは少ないが短い指揮棒をこまめに動かす指揮振りであった。彼の演奏する音楽は整然としてバランスが良く、暖かみのある演奏であり、N響を振っていてもいつもと変わらぬ指揮振りなのであろう。ピアノ協奏曲では、ピアニストを導くように落ち着いたテンポでしっかりとリードしていたし、二つの交響曲では、余り格式張らずに自然体の雰囲気で、軽やかに穏やかなペースで指揮をしていた。91歳でもまだお元気のようなので、長寿を楽しみつつ今後のご活躍を期待したいものである。
    マリナーのこのHPでの過去の記録を整理していなかったので、直ぐ参照できるように検索リストを作ってみたが、残念ながら 客演指揮者としての演奏記録しかないようであった。しかし、それでも期間は1991年から2014年まで網羅されており、長い指揮活動の一端を伝えることになるのであろう。

     このNHKクラシック音楽館では、2時間の番組のようであるが、コンサートが早く終わると空き時間を利用して、気の利いた番組で埋めてくれるようである。今回は10分くらいの空き時間を アンドレア・ロストのソプラノで、「フィガロの結婚」から伯爵夫人のアリア(13-11-2)が歌われていたが、これは既にアップロード済みであった。変なコマーシャルの類いで埋められるよりも、なかなか良い趣向なので、大いに頑張っていただきたいと考えている。

(以上)(2014/06/13)


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