(最新の市販DVDから;2013ブレゲンツ音楽祭の湖上劇場の「魔笛」)
14-5-3、パトリック・サマーズ指揮、ウイーン交響楽団およびプラーグフイル合唱団による「魔笛」K.620、デヴィッド・パウントニー演出、2013年ブレゲンツ音楽祭、2013年7月収録、

−この「魔笛」は、これまでと全く異なる巨大な湖上空間の舞台であり、野外で子供たちが喜ぶようなメルヒェン風のキャラクターを登場させて大暴れさせ、スペキュタキュラーな舞台や美しい音楽と娯楽性とをアウトドアで大雑把に楽しむ「魔笛」のように見えた。従って、丁寧に筋を追って批判的にその印象を語っても余り意味がないと思われるので、ここでは、好きなようにやっている演出家の珍しい舞台について、写真を中心に大まかに紹介したいと思う−


(最新の市販DVDから;2013ブレゲンツ音楽祭の湖上劇場の「魔笛」)
14-5-3、パトリック・サマーズ指揮、ウイーン交響楽団およびプラーグフイル合唱団による「魔笛」K.620、
デヴィッド・パウントニー演出、2013年ブレゲンツ音楽祭、2013年7月収録、
(配役);ザラストロ;Alfred Reiter、タミーノ;Norman Reinhardt、夜の女王;Ana Dorlovsky、パミーナ;Bernarda Bobro、パパゲーノ;Daniel Schmutzhard、パパゲーナ;Denise Beck、
(2014/01/27、2013Unitel Classica DVD 713708 )

   5月号の第3曲目は、これも最新の市販DVDから2013年のブレゲンツ音楽祭の湖上劇場の野外の「魔笛」の公演であり、パトリック・サマーズ指揮、ウイーン交響楽団およびプラーグフイル合唱団による「魔笛」のライブ映像である。この特殊な劇場で成功を収めてきたデヴィッド・パウントニーによる大掛かりな湖上劇場の「魔笛」の演出であり、2013年の7月に収録された最新のDVDであった。湖上での魔笛のパフォーマンスと言われてもピンと来ないが、さすがこの野外劇場の立地条件を生かしたスペクタキュラーな舞台を作り、堂々と「魔笛」なるものを上演していた。



   映像をよく見ると、どうやら序曲が開始されており、写真のように、湖上には明るい緑色の丘のような半球体状の舞台が設置され、周囲には巨大な3体のドラゴン像が湖上より聳え立ち、吊り橋のように繋がれて、そこも舞台の花道のように使われていた。中央の舞台上を派手な衣裳のモノスタトスの一行に追いかけられキャーキャー叫びながら逃げ惑う少女パミーナの姿を序曲の音楽で写し出していた。そしてタミーノは巨大な手の船に乗って登場し、3人の侍女の一人が湖に投げ入れた蛇が、湖で巨大な蛇にふくれ上がってタミーノを襲って、タミーノは「助けてくれ」と歌い出し、船の上で気絶していた。この魔笛の物語が始まるまでは、この巨大な舞台と装置がどうなるのか分からないまま映像が始まっていた。3つの巨大な怪鳥に乗った人形の三人の侍女たちが気高い美しさのタミーノを見付け、声高く三重唱を歌いながら言い争いをして、女王様に報告に出かけ、湖上の巨大な空間が描く第一曲の嵐のようなイントロダクションが終了していた。



   これは、これまで見た「魔笛」の舞台とは全く異なる巨大な空間の魔笛であり、野外で子供たちが喜ぶようなメルヒェン風のキャラクターを登場させて大暴れさせ、スペキュタキュラーな舞台や魔笛の美しい音楽と娯楽性とをアウトドアで大雑把に楽しむ「魔笛」のように見えた。スペキュタキュラーな代表舞台として先にケネス・プラナーの映画「魔笛」で、戦場における驚異のビジュアルマジックの「魔笛」を紹介(11-11-2)しているが、この映画では原作を余り歪めずに、戦争を嫌う平和への願いが込められた感動的な作品に仕上げられており、このHPでは、他の映像と同様に真面目に取り上げていた。しかし、今回のこの湖上の「魔笛」は、丁寧に筋を追って批判的にその印象を語っても余り意味がないと思われる。従って、好きなようにやっている演出家の珍しい舞台について、写真を中心に大まかに紹介しながら、ご報告にかえたいと思う。なお、リブレットも多少、都合の良いように変更されているようであるが、日本語字幕がないため、詳しくチェックすることはあきらめた。



   続いて中央の舞台では、巨大な草がもくもくと生え始め、その草の間からパパゲーノのパンの音が聞こえ、やがて面白い衣裳のパパゲーノが登場して、勢いよく第二番の「俺は鳥刺し」のアリアを歌っていた。クローズアップで見るとコンタクトマイクを付けており、4000席を超えるこの湖上劇場ではマイクの音で会場を満たしたのであろう。その歌を聴きつけて目覚めたタミーノが手の船から島に上陸し、パパゲーノと出遭って、長い会話を交わす。そして草から姿を出して第三曲「何て美しい姿」と絵姿のアリアを朗々と歌っていたが、彼の視線の先には写真のように船に乗ったパミーナが透明な囲いの中に捕らわれた姿が映っていた。タミーノは船の上では望遠鏡を持っていたが、それを使ったのだろうか。初めて目にする不思議な光景であった。



   タミーノが歌い終わると、巨大なドラゴンの吊り橋の上で三人の侍女が、タミーノにパミーナがザラストロに浚われた話をし、夜の女王があなたを気に入ったので、直ぐに姿を見せると声を掛けてきた。大音響がこだまし、第四曲の夜の女王のアリアのオーケストラの激しい前奏が響いて、夜の女王が舞台中央に登場した。クローズアップで見ると、その姿は鎧と甲に包まれてはいたが、娘を失った母親の苦しみを歌うものであり、日がすっかり沈んだ暗闇の中で、リンとした声で美しいコロラチューラを聞かせる素晴らしいアリアとなっていた。ライブではオペラグラスが必要であったろう。

   続いて第五曲の「ムムム」の五重唱では、中央の草むらの舞台でパパゲーノは三人の侍女に、女王の許しが出たと口をきくことが許された。タミーノに女王様からの贈り物として「魔法の笛」が渡されていた。それを見てパパゲーノがザラストロは怖いからと言って帰ろうとするが、怪鳥に腕を噛まれて引き戻され、女王様からだと「銀の鈴」を渡されて機嫌を戻し、二人は元気に出発する事になった。ザラストロの城にはどうして行くかの問いには、三人の童子が案内すると答えていたが、パパゲーノはそのまま草むらの舞台に残り、タミーノは侍女の一人と船に乗って出発していたのが、他の演出とは異なっていた。



   草むらの舞台では一変して明るくなり、モノスタトスの一行が草むらの中でパミーナを探しており、大きな悲鳴とともにパミーナがモノスタトスに捉えられ、モノスタトスの三重唱が始まっていた。そして黒い怪獣のモノスタトスとそこへ駆けつけて来た、鳥の化け物のパパゲーノが対面し、お互いに腰を抜かして逃げ出してしまっていた。一人になったパミーノに恐る恐るパパゲーノが近づき、絵姿で顔かたちを確かめてから、二人は打ち解けて、やがてパミーナとパパゲーノの美しい二重唱が始まった。このアリアは二人の呼吸が見事に合って実に素晴らしい。どうやら、この「魔笛」の世界にはまってしまったような気持ちになってきた。





   フィナーレに入って船に乗ったタミーノが三人のお人形の童子に導かれ、ザラストロのお城に向かっており、童子たちより男らしく勇気を持ってと励まされていた。タミーノは僂領咾貌って入り口を探すが、そのたびに退けられる。しかし、パミーナを救おうと決心して、最後に林に立ち入ると、ザラストロの配下の弁者に出会い、そこで禅問答を繰り返していた。弁者に女に騙されたなと言われ、逆にパミーナの生死は語れないという返事を聞いて、タミーノは林の中でただ一人、途方に暮れていた。





   そこへ声なき声が「パミーナは生きている」と知らせてくれた。その声に心から感謝して笛を吹き出すと、何と美しい笛の音か。林の中では目玉のようなものが見えて、何かがいそうであったが、他の演出で出てくる動物たちは出てこなかった。一方、魔笛の美しい声にパパゲーノの笛が反応し、二人は次第に近づいてきて、やがてパパゲーノとパミーナが現れた。しかし、直ぐに二人はモノスタトス一行に捕まるが、パパゲーノが「銀の鈴」を鳴らしてみると、美しい旋律とともに彼らは踊り出してどこかへ行ってしまった。





   ホットしたのも束の間、テインパニーとトランペットの強奏による行進曲に乗って「ザラストロ万歳」の合唱の声とともにザラストロが登場する。真っ赤な衣裳のザラストロの声は凛として声量があり堂々と響き渡り貫禄十分。パミーナの母を助けての訴えは退けられてザラストロのもとに収まり、モノスタトスに捉まったタミーノとパパゲーノは、目隠しをされて、試練を受けるために浄められることになった。この演出では、ザラストロの褒美として、モノスタトスが足の裏の鞭打ちの刑に処せられている場面が続き、これは初めて見る珍しい演出であった。






  このモノスタトスの悲鳴を聞きながら、舞台は引き続き第二幕に入り、僧侶たちの行進の音楽が始まっていたが、僧侶たちはザラストロの周辺の数人であり、続いて僧侶たちとの対話が繰り返されていた。そして、厳かに響き渡る三つの和音が繰り返されてから、ザラストロがイシスとオリシスの神に祈るアリアを歌い出していたが、敬虔で格調高く歌われ、合唱も厳かで非常に感動的であった。二人の僧侶が登場し、タミーノに試練を受けさせることを確認し、パパゲーノにもザラストロが用意した若いパパゲーナに会えることを条件に、試練を受けさせることになった。





   暗い闇の中の林の中で、タミーノとパパゲーノの試練が始まり、早速、怪鳥に乗っ た三人の侍女がうるさくつきまとってきたが、タミーノが口うるさいパパゲーノを黙らせて、何とか三人の侍女を雷鳴とともに奈落に追い払い次の試練へと進んでいた。
   そこへ鞭打ちの刑で足を痛めたモノスタトスが松葉杖をついて登場し、星空のもとで横になって寝ているパミーナを見つけ、彼唯一のアリアを早口で歌っていた。そこへ雷鳴とともに夜の女王が突然に現れて、パミーナに短剣を渡して死と絶望のザラストロへの復讐のアリアを歌う。このアリアはコロラチューラも良く決まって後半もほぼ完璧な出来であり、ザラストロを刺さねば私の娘でないという激しい見事なアリアであった。





   一方、パミーナに纏わり付くモノスタトスをザラストロが追い払い、パミーナを前にしてザラストロが歌う15番のアリアは堂々として厳かに響き快調であった。しかし、パミーナは、ザラストロの「この神殿には復讐はない」と歌う言葉を信用せずに、ザラストロから離れて立ち去っていた。
  場面が変わって、次の試練を待っているタミーノとパパゲーノ。パパゲーノが喉が渇いても水一つ無いとこぼしていると、思いがけず、おかしなメガネの婆さんが現れた。パパゲーノがからかっていると、婆さんは年が「18歳と2分」だと言う。恋人はと聞くと、パパゲーノだと言う。危くなりかけた二人に、突然、雷鳴が響いて婆さんは姿を消した。






 三人の童子が湖上から船に乗って、タミーノとパパゲーノに「魔笛」と「銀の鈴」を届けてくれ、しきりに試練に当たっては「口を訊くな」と注意を呼びかける第16番の三重唱が歌われていたが、とても透明な声に聞こえて美しかった。タミーノが吹く笛の音を聞きつけてパミーナが現れるが、タミーノとは話が出来ず、パミーナはタミーノを前にして第17番の絶望の悲しみのアリアを歌っていた。「無視されることは死に値する」と嘆くパミーナは、寂しく立ち去っていた。
  続く第18番の僧侶たちの合唱は、全く意味不明のまま推移し、さらに第19番の三重唱が省略されていた。続くワインを片手にグロッケンシュピールを伴奏にして歌うパパゲーノの第20番のアリアが楽しく三度も繰り返され、握手した途端に婆さんが若いパパゲーノに変身するさまがとても楽しく、大笑いとなっていた。





    フィナーレに入って三人の童子が吊り橋で歌い出し、遠くにいる様子がおかしいパミーナを見付けて心配していた。パミーナは、タミーノと話が出来ず、ナイフを手にして絶望的になっていたが、童子たちの誘いでタミーノに会おうと気を取り戻していた。





  一方、場面が変わって、厳かな雰囲気の中で、一角獣のような獣に跨がった二人の鎧をつけた衛兵が登場してきた。彼らのコラール風の二重唱の伴奏で、タミーノが登場し、試練を受けようと男らしく前へ進もうとしていた。そこへパミーナが遠くから駆けつけて来た。










  二人は会話も再会も許され、「私のタミーノ」「私のパミーナ」と互いに呼び合って確かめ合い、二人は一緒に、二人の愛と魔法の笛の音楽とによって、恐ろしい次の試練を乗り越えようと決心していた。火の試練は、燃え盛る吊り橋の上を通って再会するもので、水の試練は、島から湖の方に歩き、水中を歩き続けるものであったが、二人は困難を克服して、この試練を乗り切って二人は成功し、大きな祝福を浴びていた。一方、パパゲーノも、若いパパゲーナを必死になって探していたが、銀の鈴を鳴らすことを三人の童子から教わって、首吊りを免れて「パパパ」の音楽とともに、パパゲーナとの劇的な再会に成功していた。

   舞台は最後の場面となり、夜の女王とモノストタス一行が大勢で集まっていたが、ザラストロ一行も登場しており、雷鳴とともに舞台は暗闇となり互いに戦闘状態になっていた。しかし、明るくなって、両軍の様子を見ると、ケンカ両成敗か、全員が共倒れになってしまっており、争いはすっかり終わったように見えていた。



  音楽が最後の大合唱の場面となり、湖の中に若いタミーノとパミーノが、二人の時代が到来したとばかりに両手を挙げて歓声に応えており、一方の若いパパゲーノとパパゲーナのカップルは、島の入り口の大きな卵の中におり、二人の世界が訪れたかのように、互いにキスを交わしていた。非常にものものしい大仕掛けの湖上の「魔笛」であったが、終わってみれば、古い時代が過ぎ去って、新しい世代が誕生したことを告げる物語となっており、タミーノとパミーナ、パパゲーノとパパゲーナが明るい大合唱の中で祝福され、厳かな盛大な合唱とともに大団円となっていた。

   夜の女王側もザラストロ側も共倒れになるという思いがけぬ結末に終わるメルヘン的な「魔笛」であったが、当初からフリーメースン的な色彩が弱く、若いタミーノとパミーナ、人間味溢れる庶民的なパパゲーノとパパゲーナのカップルの世界になるという新しい構図の「魔笛」であった。この巨大な舞台を支える特別なキャラクターとしては、怪鳥に乗った三人の侍女、天使のようなお人形の三人の童子、一角獣に跨がった鎧を着けた二人の衛兵などが珍しく、子供たちを驚かせ喜ばせたであろう。中央の島の舞台が僂領咾砲覆辰燭蝓広場になったり、色彩が一変したりと自在に変化が多く、また、船を使って登場する場面も多く、その都度、目を驚かせたが、何と言っても湖上に聳える3体のドラゴン像が全体を支えており、スペクタクルな湖上オペラを成功に導いていた。何とも大雑把な巨大仕掛けのオペラであったが、レジャーの一環として、良い音楽があって楽しければ良いとすべきものと理解したい。過去においても演出家パウントニーがナブッコ・フィデリオなどいろいろなオペラを手掛けているようであり、ウイーン交響楽団がこの音楽祭のレジデンツ・オーケストラとして活躍しており、今や伝統的な出し物になっているようである。


   野外の湖上オペラとしては、私はメルビッシュ音楽祭のオペレッタ上演しか体験したことはないが、日暮れとともに始まり、夏でも涼しく、爽やかな気分でオペラを楽しく観劇する独特の雰囲気があるが、周囲がざわついて落ち着かず、内容も大味なオペラとしての印象しか残されていない。天気に左右されるという心配もあった。このブレゲンツ音楽祭も4000人を超える大劇場となっているので、世界有数のリゾート地における夏の風物詩として、最近では欠かせない出し物になって来たものと思われる。


(以上)(2014/05/22)



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