(懐かしいLDより;リヨン歌劇場におけるオペラ「ミトリダーテ」の初映像)
14-4-1、テオドル・グシュルバウアー指揮、ジャン・クロード・ファル演出による歌劇「ポントの王ミトリダーテ」K.87(74a)、
リヨンオペラ座歌劇場O&CHO、1986年リヨンオペラ座ライブ収録、

−このリヨンオペラの映像は、このオペラの最初の映像であり、省略曲が第15番の1曲しかないリブレットに忠実な映像であったが、写真でお分かりの通り、画像の質が非常に悪く、ミトリダーテやアスパージャが存在感のある映像であったにも拘わらず、残念ながらとても推薦できる映像とはならなかった−



(懐かしいLDより;リヨン歌劇場におけるオペラ「ミトリダーテ」の初映像)
14-4-1、テオドル・グシュルバウアー指揮、ジャン・クロード・ファル演出による歌劇「ポントの王ミトリダーテ」K.87(74a)、
リヨンオペラ座歌劇場O&CHO、1986年リヨンオペラ座ライブ収録、
(配役)ミトリダーテ;ロックウエル・ブレイク、アスパジア;イヴォンヌ・ケニー、シファーレ;アシュリ・バトナム、ファルナーチェ;フレンダ・ブーザー、イズメーネ;パトリシア・ロザリオ、アルバーテ、カトリーヌ・デュポスク他、
(1991/06/25、BGMビクターのLD、BVLO-14〜15)

  去る2月14日に左目の白内障の手術をしたので、14-2-3に予定していたこのグシュルバウアーの「ミトリダーテ」のLDのアップロードが二月中に出来なくなり、さらにパソコン禁止令が出てしまった。そのため、3月分は初めての休養月となったので、この曲を4月分の第一曲14-4-1として改めてアップするものである。この映像は、グシュルバウアー指揮ファル演出によるリヨン歌劇場のオペラ「ポントの王ミトリダーテ」K.87(74a)であり、リヨンオペラ座歌劇場O&CHOによる1986年にオペラ座でライブ収録されたものである。この映像は、このオペラの最初の映像であり、これまでハーガー指揮のCDで聴いて来たが、ミトリダーテとマルツイオ以外の5人が女性歌手で区別が付かず、レーザーデイスクの映像によりこのオペラの楽しみを初めて味わせてくれた記念すべき映像との記憶がある懐かしいものである。
   アスパージャのイヴォンヌ・ケニー以外は無名の歌手たちであり、地味な演出で省略が少ない真面目な舞台であったが、初期のLDのせいか画像も音声も水準が低く、魅力に乏しい映像という印象を持っていた。しかし、他の3映像は省略が多く、ある意味で演出者の裁量が多いため、この映像を改めて見直して、全体を評価し直す必要に迫られていた。



   映像は二段式のような舞台で、人影が写し出されていたが、グシュルバウアーの姿が映り、序曲が颯爽としたアレグロで開始されて、出演者などが紹介されていた。イヴォンヌ・ケニーの名前しか知っている人はいなかったが、紹介が終わると舞台では人の動きが始まっていた。やがてアンダンテのピッチカートの美しい第二楽章に入ると、指揮者が写し出され、続いて主役のアスパージャのケニーが、二階で憂鬱そうな表情で姿を現し、腰をかけていた。フィナーレに入ると、プレストのオーケストラが軽快に鳴り響き、アラビアンスタイルの衣裳の二人の男が久しぶりの再会を喜んでいるように見えていた。早速、レチタテイーボが始まり、声で女性役のニンフェアの総督アルバーテとミトリダーテ王の次男のシーファレであることが分かり、二人が再会をしたが、兄のファルナーチェと王権を巡って、さらに、王妃のアスパージャを巡って、争いが始まろうとしていた。シーファレは、アルバーテが自分に好意的であることを知って安堵していた。



   そこへミトリダーテ王の婚約者アスパージャがシーファレにお願いがあるとして登場した。「妻になる前に寡婦になった私は」と語り出した王妃は、ミトリダーテの死が知らされてから、兄のファルナーチェが自分に愛を強要するのでシーファレに助けて欲しいとお願いした。第1曲のアリアで、「私の魂を脅かす運命から」解放させてくれとコロラチューラで歌うこのアリアはダ・カーポ・アリアで、アスパージャはほぼ静止状態で技巧的なカデンツアまで歌っていた。そしてシーファレに好意を持っていることを匂わせていたが、どうやら二階にいたファルナーチェが二人のやり取りに気がついていたようであった。
    アスパージャが好きなシーファレは、伴奏付きのレチタテイーボで、兄がローマ軍と近いこととギリシャからのこの王妃に愛を迫っているのではないかとかねて心配しており、この依頼を嬉しく思って第2曲のアリア「僕の心は静かに耐える」を元気よく歌っていた。



    そこに現れたファルナーチェは、二階で歌いながらアスパージャを脅しており、彼女がシーファレに助けを求めると、一階のシーファレと二階のファルナーチェが互いにの兄弟で剣を抜いた喧嘩になって、大騒ぎとなっていた。そこに総督アルバーテが部下を連れて現れ、何とミトリダーテ王が生きてニンフェアに戻ってきたという。そしてアルバーテは二人に仲直りせよと諌めて、第3曲を歌っていたが、なかなかしっかりした曲であった。アスパージャは王の婚約者だけに非常に驚き、兄弟を含めて三人が三様のあわて方となり、王の帰国は、三人の複雑な人間模様を映し出していた。



    続いて場面は王宮の中、シーファレを愛するアスパージャは、帰還したミトリダーテ王に対する許婚の約束を思うと胸が病み、第4曲のアリア「心は悲しみに震えています」を歌う。このアリアは、ト短調で激しく歌われるアレグロ・アジタートの不安に満ちたアリアで「もうここにはいられない」と悲しみを歌う素晴らしいアリアであった。 ファルナーチェは、父との再会を前にして、アスパージャを巡るお互いの秘密は隠そうと弟に持ちかけて、二人は約束をしていた。彼はかねて父に対し反骨的であり、真面目なシーファレは、父に従い兄にも尽くす良い弟でありたいと第5曲のアリア「私は行く」とアダージョで歌い出し、後半にはアレグロで「この危機を乗り越えようと」と歌っていた。続いてファルナーチェは、アスパージャを得て、仲の良いローマの護民官マルツイオと手を結んで父の後を継ごうとする彼の計画が水の泡になって大慌て。しかし、マルツイオが顔を出して彼を励ますと、彼は第6曲で「和解の望みがない父が帰っても、自分はあくまで抵抗する」と決意の速いアリアを勢いよく歌っていた。そして後半では「来るなら来い。非情な父よ」と強い気持ちを歌っていた。



   場面が変わって威勢のいいテインパニーとともに第7曲の行進曲がゆっくりと進行し、舞台は迎えの大勢のアルバーテの部下たちが騒々しい様子だったが、行進曲の最後にミトリダーテが大勢の部下と、ファルナーチェの許嫁のイズメーネとともに帰還した。そして第8曲のカヴァータ「勝利の月桂冠を飾ることは出来なかったが、恥さらしの帰還ではない」と堂々と歌い上げて、国王の威厳を示していた。カヴァータとされていたが、曲の内容は気品を持った堂々たる国王のアリアであった。 そこへ二人の兄弟が遅れて駆けつけて、親子が対面していたが、父は何故遅れてきたかと怒っていた。ファルナーチェは、父君の不幸な戦死を悲しんでいたからと答えていたが、イズメーネが再会しても冷ややかなファルナーチェを気にして、第9曲のアリア「愛する方を目の前にして」と歌い出していた。彼女はファルナーチェを見ながら「あなたに恋心を燃やしてきたが、この心配は何か」と不安げにこのアリアを歌っていた。カデンツアも入る長大なダ・カーポ・アリアで、終わると全員が引き上げていた。



    ミトリダーテ王が最も心配していたのは、留守中の愛する婚約者のアスパージャと二人の息子たちの様子であり、皆を宮廷に行かせた後て、ミトリダーテは、早速、不在の間の二人の息子の行動をアルバーテに聞き質していた。彼は三人の様子を探るため、わざとアルバーテに死の誤報を流したのだと告げると、アルバーテは驚いて、正直にファルナーチェがローマ軍と仲が良く、父を裏切ってしつこくアスパージャに言い寄ったことと、シーファレは父に忠実であったことを正直に報告していた。ミトリダーテは、ここでそれを単純に信じ込み、伴奏付きレチタテイーボで「これでほっと出来るぞ」と一息入れ、ファルナーチェは昔からローマの賛美者であったと思い出し、第10番のアリア「叛逆した忘恩の息子よ」とファルナーチェに対する怒りを爆発させて、アルバーテに「彼を監視せよ」と忠告して第一幕は終わりとなっていた。



   第二幕が始まると、ファルナーチェと許婚であるイズメーネが登場し、レチタテイーボでファルナーチェの自分への愛が消え失せていることを知って口争いになり、イズメーネはファルナーチェに、この屈辱を父王に話すと告げていた。それを聞いてファルナーチェは、怒りながら第11番のアリア「行って私の過ちを父に明かせ」と憎々しげに歌って、「王に告げても私の気持ちは変わらない」と歌って立ち去った。そこへミトリダーテが現れ、悲しんでいるイズメーネに「ファルナーチェの裏切りに復讐できるだろう」と語り、「彼は死罪に値する」と告げていた。ミトリダーテは留守中にファルナーチェとアスパージャが結ばれ、二人が自分を裏切ったと単純に誤解していた。死罪と聞いて驚くイズメーネに「彼のことは忘れるのだ」と言い聞かせていた。
    ミトリダーテは、アスパージャを呼び寄せ、彼女の意思を確かめると、彼女が「私は、あなた様の御意のままです」と答えるので、王は「犠牲を余儀なくされた者のように、わしの祭壇に来るのだな」と急に怒りだし、王は「非情な女だ、今こそ分かった」と呆然としているアスパージャを責め始めた。そして「息子の一人がそなたを誘惑し、そなたもそれを受け入れた。恩知らずめが」と語り、シーファレを呼び寄せた。驚いているアスパージャの前で、王はシーファレに「ファルナーチェがアスパージアを誘惑し、彼女も同意している」と語り、罪の重さをアスパージャに教えてやれと言って立ち去った。何たることか。ここで歌われるミトリダーテの第12番のアリアは実に激しい二面性を持ったアリアで、シーファレには「お前はわしに忠実だ」と受け入れて、アスパージャには「恩知らずめ。これ以上、わしを怒らすな」と歌う独り合点の誤解に満ちた厳しいアリアとなっていた。


   何というミトリダーテの誤解。驚くシーファレとアスパージャ。二人きりになって、シーファレは、本当に兄を愛しているのかアスパージャに問うと、彼女は自分が本当に愛しているのは、「シーファレ、あなたよ」と告白していた。しかし、二人はお互いに愛し合っていても、自分たちの義務と本分を守って愛を諦め、別れなければならないと決意していた。そしてシーファレはホルンのオブリガートを持つ有名な別れの第13番のアリア「愛しい人よ、君から遠く離れて私は行きます」と歌っていた。このアリアは、自分も彼女を愛していたが故に、二人は別れて合わないようにしようという決意の悲しい歌で、ホルンのオブリガートが哀調を帯びて美しく響き、ホルン伴奏のカアデンツアも見事で、彼は静かに立ち去った。一方、アスパージャも義務と愛のはざまで激しく気持ちが揺れて、自分を欺かなければならない苦しみをレチタテイーボで訴えて、第14番のアリア「ひどい苦しみの中で」を歌っていたが、アンダンテと激しいアレグロが繰り返される悲しみのアリアであった。


   続く第15番のイズメーネのアリアは省略され、舞台は大広間でミトリダーテが登場し、全員が集まって戦略会議が始まっていた。ミトリダーテが全員に、わが軍が目指すのはローマのカンピドーリオだと言い出した。そしてファルナーチェはイズメーネと結婚して、この王国を継いでこの土地を守るのだと命じていた。しかし、ファルナーチェはローマと戦うのは無謀だと反論し、シーファレは兄が反対なら私が先陣でローマに攻撃をすると意見が割れていた。ファルナーチェはローマとの和平を提案すると主張したところ、遠くからローマの護民官マルツイオが姿を見せて応援したので、ミトリダーテは「ここにローマ人がいる」と怒りだし、「帰れ」と追い返してファルナーチェを逮捕してしまった。
   鎖で繋がれたファルナーチェは、続く第16番のアリア「私は罪人です。過ちを認めましょう」と歌って自分の罪を潔く認めていたが、そのお返しに「アスパージャの愛を得たのは私でなくシーファレだ」と腹いせに暴露したので、改めて王の怒りを増幅させていた。シーファレが反論しようとすると、ミトリダーテはアスパージャが来るから本当のことを聞き出そうとし、シーファレを隠して「自分はもう年なので結婚はしない。だから若いそなたは息子のどちらかを選べ」と試してみた。アスパージャはかたくなにミトリダーテに忠誠を誓っていたが、問いつめられ騙されて遂にシーファレへの愛を告白してしまった。さあ大変。ミトリダーテは大いに怒り、第17番のアリア「もう哀れみなど持たぬぞ」と歌い、裏切った三人を宮殿に呼び出して、皆殺しにすると復讐を誓っていた。



    ここでシーファレがアスパージャに父に謝って王位を継いでくれと結婚するように勧めるが、彼女は伴奏付きレチタテイーボで「こんな卑怯で残酷な人とは結婚できない」と激しく拒み、結局、二人はともに死のうと覚悟を決めた。そこで美しい前奏が始まり、第18曲の二人の愛の二重唱「もし私が生きるべきではないなら」がシーファレのソロで始まり、アスパージャのソロが綿々と続いて、二人のソプラノの二重唱となり、最後のカデンツアも二人で劇的に歌われていた。この二人の劇的な二重唱には拍手と歓声が湧き起こり、悲しみの中で感動に満ちた美しい場面で第二幕が終了していた。


    第三幕に入って、ミトリダーテが怒りの余り三人とも亡き者にしようと考えていると、イズメーネが登場し、怒りを諌めて、愛を大切にして欲しいと涙ながらに第19番のアリアを歌い出した。彼女は「愛のためにどれだけ心を痛めたか」と歌い、侮辱されても怒らないように復讐しないようにと、ミトリダーテに必死に訴えていた。アスパージャが白装束で姿を見せ、死を覚悟でミトリダーテに「シーファレの運命は」と問うと、ミトリダーテはアスパージャに「彼はまだ生きている。結婚するなら二人とも許すがどうか」と答えた。しかし、アスパージャが拒否したため、「二人とも同罪で死だ」と告げていた。 そこへアルバーテが突然に現れ、ローマ軍が来襲して味方は敗走中だと告げた。ミトリダーテは、アスパージャを前にして急いで出陣をきめ、「不実な女よ、さらば」と第20番のアリア「私は最後の運命に立ち向かって行こう」を歌い出し、過酷な運命との対決を覚悟するが、この歌は厳しい声を要求する激しいアリアであった。この最中に、王はアスパージャに対して、自分よりも先に死ぬことになろうと、死を宣告して戦場に向かった。



   一人残されたアスパージャは、死の覚悟を定めていると、毒瓶が既に用意されていた。アスパージャは、白装束で恐れおののきつつ、第21番の伴奏付きのレチタテイーボとアリア「思った通りになってしまった」を歌い「死が平安をもたらす」と毒杯を飲もう決意した。白装束で別れを歌う彼女の姿は清らかで美しく印象的であった。
    しかし、そこへイズメーネに足枷を外されたシーファレが駆けつけて、アスパージャの手にしていた毒瓶を奪ってたたき砕いてしまった。そして第22番のアリア「情け容赦ない運命が過酷におそうが」と歌って、英雄として死にたいと、死を覚悟して自分の出陣を決意し、父への忠誠を必死に示そうと健気に出陣していった。



   一方、城壁の中で鎖につながれたファルナーチェは、戦の騒ぎを耳にしながら心配していると、そこへ支援の約束をしたローマの使者マルツイオが登場し、勇気を出せと足枷を刀で断ち切って、ファルナーチェに部下とともに約束を果たしに来たと言い、第23番の彼のアリアを威勢良く歌っていた。ファルナーチェにその気があるなら王座を用意しようというものであり、威勢良く堂々と歌われて、立ち去って行った。

   一人残されたファルナーチェは、そこで父上は?と迷っていたが、ここに来て良心の強い呵責に悩まされ、「自分はそこまで悪人ではない」と悔悟の念で一杯になり、長い伴奏付きレチタティーボで「僕は矢張り裏切れない」、王座も、アスパージャも、ローマ人たちも、何もかも捨て去ろうと決意した。欲を捨てると目の曇りが消え、生き返ったように目が覚めて、第24番のアリア「もう目の前のヴェールが取り去られた」を歌いだし、最後に「栄光と名誉の道を進もう」と決意を固め、ローマ軍と改めて戦う決心をして、生まれ変わったように戦場へと向かって行った。



   そこへ戦場に出陣していたミトリダーテが城門から、重傷を負った姿でただ一人て帰還し、城内の大広間の椅子にやっとたどり着いた。それを見付けたシーファレが真っ先に駆けつけて父親を抱きすくめ、父から忠誠と勇気を讃えられた。アスパージャも生きて下さいと声を掛けると、ミトリダーテは二人に王冠を受け取ってくれとシーファレとアスパージャに言葉少なに語っていた。「わしはここで死んでいくが、闘いに負けたのでなく、自らの手で勝利者として死ぬのだ」と語り、そこへ二階にいたイズメーネがローマ軍の燃えている火はファルナーチェによるものだと叫んでいた。見上げると二階の空は赤く染まっており、ミトリダーテは「何と嬉しいことか」と喜んで、駆けつけて来たファルナーチェに「ここに来い」と声を掛けていた。しかし、ミトリダーテはここで遂に力尽き、立ち上がってから、よろめきながら倒れてしまい再び起き上がることはなかった。ミトリダーテは、家族全員を許し、全員を見届けてから、満足げに目をつぶり、全員に囲まれて潔く死んでいった。ここでは全てレチタテイーボで順序よく進行しており、一・二階の広い舞台を利用して大勢の動きを説明していたが、やはりまだ急速で説明不足の感が否めなかった。



  続いて、亡くなったミトリダーテを全員が担ぎ上げて、4人の男女とアルバーテとその部下たちにより第25曲の五重唱は、全員による力強い合唱曲となって「カンピドーリオなどに負けるものか」と歌われ、これから団結して全員でローマへの支配への抵抗をしようと固く誓い合って終幕となっていた。この演出では、ミトリダーテがシーファレ、アスパージャ、イズメーネ全員に見送られながら、幸せそうに息を引き取ったので、最もリブレットに近い形で進行しており、ローマ軍が赤く染まっているという演出まで見せていたが、やはり傷ついて息を引き取るまでアリアもなく、レチタテイーボだけで進行しているため、あっけなく見せ場がないまま収束していた。これは演出の問題と言うよりも、むしろ終結を急いだ原作のリブレットの方に問題があるように思われる。第一幕から第三幕まで冗長な形で進行してきたが、最後の幕切れまで2人の息子と許嫁を死罪だと考えてきたミトリダーテが、戦場で傷ついて変身したかのように、急にハッピーな形で死を迎えるという急速な展開が、どうしても説明不足になりがちになり、残念に思われた。

    この演出においては、全体として省略アリアがイズメーネの第15番1曲だけであり、4つの映像の中では最もリブレットに忠実に演奏されていた。また、舞台が上下の一・二階で広く設定されていたのが特徴であり、主役の7人以外にアルバーテの部下などが多用されて舞台に活気を与えていたが、その反面、舞台が広すぎてカメラワークが上手く追従しない場面も散見された。このオペラの最大の弱点は、第24曲でファルナーチェがローマから父に味方するという急変振りと、続くレチタテイーボだけで描かれるミトリダーテが全員を許して満足して死を迎える場面が、説明不足になりがちであるが、この映像では4つの映像の中では、演出と広い舞台によりかなりカバーしていた。しかし、この映像が暗くて画質が劣悪であり、クローズアップなどの技術面での物足りなさもあって、出演者が気の毒になるくらい、画像に魅力がなく残念であった。これはLD初期のフランスの映像に共通して見られる問題のようである。

   この映像では、アスパージャのイヴォンヌ・ケニーとミトリダーテのロックウエル・ブレイクが歌唱力でも演技面でも際立った存在感を示していた。二人の息子とアルバーテが男声役の女性の新人であり、中でもシーファレのアシュリ・パトナムが有望なソプラノであると思われた。また、イズメーネ役が目立たぬ役でありながら、良く声を張り上げて健闘していたように思われた。

   今回、この映像を再確認して、これで4映像を見較べたことになるが、この映像は省略が1曲しかないリブレットに忠実で優れているが、如何せん写真でお分かりの通り、画像の質が悪く、とても推薦できる映像とは思えなかった。従って、オペラ「ミトリダーテ」は、これまでの4映像の中では、前回にご紹介したコヴェントガーデンのコヴァルスキーが歌っていた映像が、最も分かりやすく、全体のバランスが取れたものとして総括しておきたいと思う。また、アーノンクール・ポネルの映像も、他の映像にない豪華な舞台と演出で他の演出を寄せ付けないレベルの高さを見せつけていたが、やはり最後のエンデイングの物足りなさが気になるところであった。また、最新の映像であるM22のミンコフスキーの映像は、現代風の奇抜な演出がなじめず省略が多く、必ずしも好きになれない映像であった。

    (以上)(2014/04/03)


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