(古い2つのシンフォニー;鈴木秀美の古楽演奏とN響の定期演奏)
14-12-1、鈴木秀美とリベラ・クラシカによる交響曲第29番イ長調K.201、2002/5/17、浜離宮朝日ホールおよびイルジー・ビエロフラーヴェク指揮NHK交響楽団による交響曲第36番ハ長調K.425、
1997/1/23、第1311回N響定期、NHKホール、

−鈴木秀美と彼のオーケストラの交響曲第29番は、第一・第四楽章に見られた極めて小人数による早いテンポの弦楽合奏が颯爽として気持ちが良く、またゆっくりしたテンポで進行する第二楽章では、弦と管の豊かな合奏が聴け、このアンサンブルの良い響きは、このホールだからそしてこの団体だから得られたものと評価したいが、この映像は肝心の第一楽章が途中から入るという不手際があり、後半の印象が良かっただけに残念に思った。また、ビエロフラーヴェクがN響を指揮する「リンツ」交響曲は、この曲が持っている一気に作曲された迷いのないストレートなアレグロ感覚を巧みに表現しており、指揮者を中心にしてオーケストラ全員が一体となって、スピード感溢れる瑞々しく躍動する演奏で、とても好感が持てた−


(古い2つのシンフォニー;鈴木秀美の古楽演奏とN響の定期演奏)
14-12-1、鈴木秀美とリベラ・クラシカによる交響曲第29番イ長調K.201、2002/5/17、浜離宮朝日ホールおよびイルジー・ビエロフラーヴェク指揮NHK交響楽団による交響曲第36番ハ長調K.425、
1997/1/23、第1311回N響定期、NHKホール、
(2002/08/23、BS3の放送をS-VHSにデジタル録画および1997/01/23、NHKBモードをS-VHS-213.2に収録)

      12月号の最初の曲は、鈴木秀美とリベラ・クラシカという東京の古楽器集団による交響曲第29番イ長調K.201である。チェロリストとしても名高い鈴木秀美氏が2001年に結成させたこの楽団のこのHPへの初登場であり、この頃からNHKが始めたクラシック倶楽部という55分のハイビジョン音楽番組からの収録であった。鈴木氏によると古楽器オーケストラの特徴は、作曲された年代の楽器を使うと、弦と管の音が良く溶け合うことにあると言い、フォルテピアノなどの鍵盤楽器の音とも良く溶け合い、音がぶつかり合うモダン楽器と異なって聞こえるはずだという。今回は始めにこの古楽器集団による交響曲をまず聴いて、続いてN響定期第1311回で演奏されたイルジー・ビエロフラーヴェク指揮の交響曲第36番ハ長調K.425「リンツ」(1997/1/23、NHKホール)の逞しい演奏を聴いて、2つのオーケストラの感触の違いを確かめてみたいと思う。


       鈴木秀美は、ピリオド楽器によるチェロのスペシャリストとして、欧州で優れた演奏家たちと共演を重ねており、お馴染みの18世紀オーケストラやラ・プテイット・バンドのメンバーを重ねてきた。日本では、兄の主宰するバッハ・コレギウム・ジャパンの首席チェロとして活動し、自らはオリジナル楽器のオーケストラ、リベラ・クラシカと定期的に演奏するなど活躍を続けており、その指揮者としての活動も注目されてきた。今回の映像は、リベラ・クラシカの創設間もない頃の演奏であり、指揮者自身の風貌も若く、ヴァイオリン・ヴィオラの弦楽器が若い女性ばかりというオーケストラを率いて、ピリオド演奏風のモーツァルトの交響曲を演奏したものである。しかし、どうしたものか、一時間近くあるクラシック倶楽部が二部に分かれ、コンサートとしてではなく、この交響曲イ長調(第29番)K.201(186a)、1曲のみが取り上げられていた。


      今回のリベラ・クラシカの編成は、第一・第二ヴァイロリンが8人、ヴィオラとチェロが4人、ベースが一人で、それにオーボエ2、ホルン2の合計17人の構成となっており、これはこれまで聞いて最小の編成だったコープマンのオーケストラよりも少ない編成であると思われる。映像は、浜離宮朝日ホールでのこのオーケストラの定期的なコンサートの第一回であるとして、始めに鈴木秀美の経歴などを紹介した後に、鈴木秀美が写されて、ピリオド演奏の特徴を解説していた。彼は18世紀時代の楽器は管楽器相互での音の溶け合いを強調しており、それが管楽器と弦楽器、あるいは管楽器と鍵盤楽器などにも及んでおり、19世紀以降それぞれの楽器が独自に進歩したため、楽器相互の溶け合いが薄れてしまったと解説していた。そして時間の都合からか、解説の途中から演奏が聞こえてきて、それはどうやら第一楽章の提示部の後半であり、暫くして展開部が始まっていた。





      どうやらこの曲の一番重要な第一楽章の前半がカットされたようであるが、展開部では第一主題の上下降するオクターヴ動機の変形がフーガ風に各声部で取り上げられ、シンコペーションのリズムに乗って威勢良く展開されていた。暫くして、再現部に入り、やっと第一ヴァイオリンが小刻みに上昇を続ける軽快な第一主題が始まって、シンコペーションのリズムに乗って心地よく進行し始めた。続いて弦だけによる第二主題は対照的に穏やかな曲調で、第一ヴァイオリンが優雅な旋律を奏で出しひとしきり進行した後に、第一ヴァイオリンが新しい第三主題を提示し始めて小さな盛り上がりを見せて再現部を結んでいた。再現部での繰り返しは省略されて、曲はコーダに入っていたが、ここでは第一主題がフーガ風に扱われて、力強く堂々と結ばれていた。肝心のこの楽章の前半が聴けず残念であったが、この楽章は弦楽器中心で鈴木秀美の熱意ある指揮振りで実に軽快に進められており、小編成の弦楽器による軽やかなアレグロの快さが伝わってきた。





    第二楽章はアンダンテであり、第一ヴァイオリンが優雅な第一主題を提示し始め、第二ヴァイオリンがこの主題を引き継ぐと第一ヴァイオリンがオブリガート旋律に回り、管楽器が加わると息を呑むように美しく全体が響いていた。続けて第二主題を第一ヴァイオリンが優美に弾きだしてひとしきり進んでから、オーボエとホルンが加わって総仕上げし、続いて第三の主題も第一ヴァイオリンで登場し、オーボエがこれを引き継いで弦・管の見事な合奏となっていた。これが鈴木秀美の強調する弦・管の音の溶け合い出であると気付かされた。鈴木秀美は、ここで丁寧に始めから繰り返しを行って、再び美しいアンダンテが始まっていたが、ここでは強・弱の変化を強めながら、歌うように優美な主題を高らかに進めていた。展開部では新たに登場した三連符の主題が執拗に繰り返されて、ホルンのファンファーレで展開部らしさを強調してから、再び再現部のアンダンテに移行していた。ここでは第一主題の後半が拡大されていたり、第二主題がホルンで反復されたり、第三主題も加わって賑やかに進行し、鈴木秀美は興に乗ったのか、珍しくここでも繰り返しを行い、展開部・再現部と続いてから、最後には独立したコーダで堂々と結ばれていた。

     第三楽章は付点音符が多いリズミックな行進曲調のメヌエット。弦楽器中心で進行するが結びが管楽器のファンファーレのように響いていた。繰り返されてからトリオになっていたが、トリオでは対照的にしなやかに流れる優美なものであった。トリオの後に、再び、メヌエットが開始され、最後に管楽器で明るく結ばれていたが、余り印象に残らない風変わりなメヌエットのような気がした。



       フィナーレはアレグロ・コン・スピリートであり、前の二つの楽章と同様に、途中に二つの繰り返しと末尾に独立したコーダを持つソナタ形式であった。オクターヴの跳躍からなる威勢の良い第一主題は典型的なウイーンスタイルの古典交響曲の軽快なフィナーレのようであり、第一楽章の第一主題の軽快さに似て明るく進行していた。鈴木秀美とリベラ・クラシカが奏でる繊細で軽やかな弦楽合奏が快く響き、経過部の後に続いて登場する第二主題は、旋律的で第二ヴァイオリンで提示され、第一ヴァイオリンが飾りをつけていたが、その後は互いに協力し合ってコーダとなり提示部を終えていた。鈴木秀美はここでも最初の提示部の繰り返しを行ってから展開部に入っていたが、ここの主題は第一主題の動機を執拗に反復するものであった。再現部は全く型通りであったが、鈴木秀美はこの軽快なフィナーレをリズミカルに疾走していたが、最後の繰り返しでも丁寧に反復し、最後には一気にこの軽快な交響曲を収束させていた。

    映像は沢山の拍手によって終了していたが、時間切れか直ぐに途切れてしまったが、非常に爽やかな印象が残り、もっと続けて聴きたい気がしていた。第一・第四楽章に見られた極めて小人数による早いテンポの弦楽合奏は、颯爽として気持ちが良く、またゆっくりしたテンポで進行する第二楽章では、弦と管の豊かな合奏が聴け、このアンサンブルの良い響きは、このホールだからそしてこの団体だから得られた、楽しいのどかな雰囲気のような気がしていた。この団体の映像は、ハイドンの交響曲が多いように思っていたが、評判の割にはモーツァルトの映像が少なく残念に思った。今回の映像は、第一楽章が途中から入るという不手際があり、後半の印象が良かっただけに残念に思った。



       続くN響定期公演を収録した映像は、第1311回定期であり、1997年1月25日NHKホールで収録されていた。指揮者は、イルジー・ビエロフラーヴェクであり、この日のプログラムの第一曲目が今回の交響曲ハ長調(第36番)K.425「リンツ」であった。この日のプログラムは、この後、ツエルムンスキーの叙情交響曲という新曲が演奏されていた。舞台を見るとコントラバスが3台配置され、テインパニー、2トランペットを含む標準的な中規模の編成のオーケストラとなっていた。この曲を聴くと私は冒頭の序奏の荘厳さを思い出すが、この序奏はハイドンを始めとする当時のウイーンの作曲家たちに流行していたスタイルを、モーツァルトが初めて取り入れたものであろう。



        プラハ生まれの指揮者のイルジー・ビエロフラーヴェクは、このHPでは初登場であり、沢山の拍手とともに入場してきて、全体を良く見渡してからおもむろに、アダージョの序奏をゆっくりと開始した。ユニゾンの荘重な付点リズムの序奏であり、続いて第一ヴァイオリンが美しい旋律を出すが、直ぐにファゴットとオーボエに渡されて静かに推移した後に盛り上がりを見せてユニゾンの和音の強打で終了していた。
       続いて第一楽章の軽快なアレグロ・スピリトーソの第一主題が明るく晴れやかに開始されるが、この晴朗な主題の明るさとリズム感が実に快い。続いて現れる行進曲風のリズムにのってぐいぐいと軽快に進む推移部も軽やかであり、テインパニーやトランペットの響きも晴れやかであり、ビエロフラーヴェクは快調に主題を伸びやかに進めていた。続いて優雅な第二主題がオーボエと弦楽器により走り出すが、この後は溢れるばかりの旋律がとうとうと流れるように進行し、主題提示部の盛り上がりを見せていた。ビエロフラーヴェクは再び冒頭の明るいアレグロを繰り返していたが、今度はこの軽快さと明るさを一層推し進めながら緊張感を持って展開部へと突入していた。
      ここでは新しい明るい主題が弦楽器で登場しオーボエなどにより交互に現れながら堂々と進んで、充実した力強い音を響かせていた。続いて再現部では、やや型どおりに第一主題に続き第二主題と軽快に再現されていたが、ビエロフラーヴェクはテンポ良くリズミカルに全体を一気に進めていた。最後のコーダでは展開部の主題が再現されるなど新たな試みも見られ、この楽章全体としては、淀みのない晴朗とした明るさを保ちつつ一気に収束していた。



       第二楽章のアンダンテでは、優美で荘重感を持った第一主題が厳かにゆっくりと登場し、ピッチカートによる低弦の響きが豊かな気持ちにさせてくれ、ビエロフラーヴェクは、ゆったりとした身振りでオーケストラに任せるように優雅な指揮ぶりをして、美しい弦の響きが心地よく進行していた。続いて現れる第二主題でも弦楽器主体で厳かに進行していたが、このアンダンテ楽章でも耳に入るトランペットやテインパニーの静かな響きが珍しく、全体に音の厚みが加わっていた。展開部では低弦とファゴットで繰り返し現れる上昇旋律が深く響き、それが第一・第二ヴァイオリンにも移行して、極めて充実した展開部の印象をもたらしていた。再現部は型通り順序よく進行していたが、優美で厳かな雰囲気が持続された淀みのないアンダンテ楽章であった。



       第三楽章は、フォルテで始まる明るく威勢の良い堂々とした感じのメヌエットであり、金管やテインパニーが威勢良く、繰り返された後にその後半に現れる明るい旋律が、厳かに響きわたって舞曲的な性格のメヌエットであった。ビエロフラーヴェクの指揮振りは、体を振って軽やかにリズムを取りながら指揮をしており、N響と溶け合った楽しげな雰囲気を感じさせていた。一方のトリオではややくすんだオーボエと第一ヴァイオリンとの二重奏で印象深く始まり、後半では弦に支えられてファゴットとオーボエとの二重奏となり、明るく木管が導いていく優雅なもので、力感溢れる堂々としたメヌエットとの対比が鮮明な素晴らしいメヌエット楽章であった。

     フィナーレは曲全体を締めくくる急速なプレストであり、繰り返しを含むソナタ形式となっていた。曲は整然とした快活な第一主題と、それに密接に関連する第二主題が現れ、続いて次々と新しい関連主題が出て急速に進み、目まぐるしく変化しながら一気に進行しており、盛大に提示部を盛り上げていた。ビエロフラーヴェクはきめ細かく指揮棒を振り、明るくスピード感を持って軽快に躍動するように進み、オーケストラは息の合った疾走ぶりを示していた。提示部は改めて繰り返され、再び冒頭から疾風のように勢いよく進んでから、長い展開部も推移主題が使われて急速に進行していた。続いて再現部に入ってもその勢いは止まらず、終結部ではトランペットとテインパニーも加わった総奏のフォルテッシモで一気呵成に輝かしく終結していた。



     このN響の映像を見ていると、ここにはオーケストラ全体が一体となって躍動していくエネルギッシュなスピード感があり、N響は恐らく古楽器指揮者以外の方となら、どんな指揮者でも上手く追従して、その指揮者の良いところを素直に表現する実力を持っているのであろう。指揮者ビエロフラーヴェクは、この「リンツ」交響曲が持っている一気に作曲された迷いのないストレートなアレグロ感覚を巧みに表現しており、映像を見ていると、指揮者を中心にしてオーケストラ全員が一体となって、スピード感溢れる瑞々しく躍動する音楽を作り上げており好感が持てた。N響の「リンツ」交響曲には、この演奏とアンドレ・プレヴィンが指揮をした演奏(8-4-1)(2007)とがあるが、この演奏はいかにもプレヴィンらしい優雅な心暖まる悠然としたものであり、この2つには10年のタイムラグがあった。

        なおこの演奏のアップロードにより、この交響曲第36番ハ長調「リンツ」の9種類の映像の全てをアップしたことになる。ミンシュ・ボストン(1958)、ベーム・ウイーンフイル(1975)に始まり、91年モーツァルトイヤーにおけるクライバー・ウイーンフイル、テイト・イギリスCO、コープマン・アムスの三演奏に続いて、世紀末の今回のビエロフラーヴェク・N響(1997)、ムーテイ・ウイーンフイル(1999)があり、06年モーツァルトイヤーのバレンボイム・ベルリン、プレヴィン・N響と続いているが、残念ながらごく最近の映像はない。こうして並べてみると、それぞれが指揮者やオーケストラに合った立派な映像が残されており、いずれも思い出が深く、この曲が私は大好きなので、やっと完成したという達成感を強く感ずる。こうしてリストアップして見ると、ピリオド演奏は1種類だけなので、今回聴いた鈴木秀美や、アーノンクール、ノリントンなどの指揮者による映像が揃っておればという今後の期待を残して、感想としたいと思う。

(以上)(2014/12/07)


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