(最新のDVDから;ラルフ・オヴェ・アンスネスのバッハとモーツァルト)
14-1-2、ラルフ・オヴェ・アンスネスのピアノとノルウエー室内管弦楽団によるバッハとモーツァルト、ピアノ協奏曲第18番変ロ長調K.456より第三楽章アレグロ、バッハ、ピアノ協奏曲第5番ヘ短調BWV1056より第二・第三楽章、ピアノ協奏曲第9番変ホ長調K.271より第三楽章、ピアノ協奏曲第20番に短調より第二・第三楽章、
2004年9月30日、オスロー郵便局ホールにおけるライブ・レコーデイング、
 

−まるでジャズクラブで即興演奏を聴いているような雰囲気の中で、アンスネスがお得意のモーツァルトやバッハの協奏曲のお好みの楽章を単独で弾いており、仲間内のノルウエー室内楽団とアンサンブルを楽しんでいる様子がうかがえて、明らかに風変わりなクラシック・コンサートであるが、こういうこれまでにない新しい楽しみ方もあるなと教えられたコンサートであった−




(最新のDVDから;ラルフ・オヴェ・アンスネスのバッハとモーツァルト)
14-1-2、ラルフ・オヴェ・アンスネスのピアノとノルウエー室内管弦楽団によるバッハとモーツァルト、ピアノ協奏曲第18番変ロ長調K.456より第三楽章アレグロ、バッハ、ピアノ協奏曲第5番ヘ短調BWV1056より第二・第三楽章、ピアノ協奏曲第9番変ホ長調K.271より第三楽章、ピアノ協奏曲第20番に短調より第二・第三楽章、
2004年9月30日、オスロー郵便局ホールにおけるライブ・レコーデイング、
(2013/11/25、新宿タワーレコードにて、EMI-Glassics DVD、)


新年の第2曲目は、ラルフ・オヴェ・アンスネスのピアノとノルウエー室内管弦楽団による「バッハとモーツァルト」というタイトルの最新DVDであり、曲目をさっと見てこれは凄いと思って即座に購入した。しかし、帰りの電車の中で良く曲目を見ると、「ピアノ協奏曲第18番変ロ長調K.456より第三楽章アレグロ、バッハのピアノ協奏曲第5番ヘ短調BWV1056より第二・第三楽章、ピアノ協奏曲第9番変ホ長調K.271「ジュノム」より第三楽章、ピアノ協奏曲第20番に短調より第二・第三楽章」とあった。演奏会場は2004年9月30日、オスロー郵便局ホールにおけるライブ・レコーデイングとされていた。この時は、一瞬、しまったと思った。全曲演奏ではないじゃないかと。こんなコンサートは初めてだと思った。家に帰って、早速、聴いてみると、確かに楽章単位の風変わりなコンサートで驚いたが、またある意味で安心もした。アンスネスと彼のオーケストラが普段着で、いつもの弾き慣れたホールで、普段着のモーツァルトやバッハを、仲良く楽しく弾いているではないか。こんな暖かいライブ・レコーデイングも、確かに一興ではあるなと、その時、即座にそう思った。しかし、改まって、繰り返し見たらどう感ずるであろうか。







  映像は北欧の切り立った崖っぷちの海が写されてから、ピアノ協奏曲第18番変ロ長調の第三楽章が、軽快な独奏ピアノによるロンド主題で輝くように始まっていた。速いテンポのアレグロ・ヴィヴァーチェであり、独奏ピアノのアンスネスは普段着のシャツ姿でこれも普段着のオーケストラと一緒になって、楽しげに弾むピアノにフルートやオーボエたちがしっかりと答えて、弾けるようにアンサンブルを楽しんでいる姿があった。
    曲は続いて第一クープレとなり、その前半が独奏ピアノで現れてオーケストラとピアノに引き継いでから、暫くして後半に別の踊るような新しい旋律がピアノソロで現れて、今度は管楽器が引き継いで景気を付けて、最後には独奏ピアノが颯爽と仕上げをしていた。フェルマータでピアノの短いアインガングから、再び冒頭のロンド主題が独奏ピアノで颯爽と始まりオーケストラで再現してから、今度は第二クープレが独奏ピアノで華々しく開始されていた。これはまさにピアノソロの独壇場の世界であり、アンスネスが軽快に疾走しているうちにいつの間にか第一クープレの二つの旋律も顔を出してカデンツアとなっていた。カデンツアは新全集記載のものとは異なるアンスネスのオリジナルか、技巧を凝らした早いテンポの明るく力強いものであり、最後は独奏ピアノのロンド主題により勢いよくこのアレグロ・ヴィヴァーチェのフィナーレが結ばれていた。アンスネスが最も気易く弾き振りが楽しめる疾走するアレグロ楽章がこの第一曲だったのであろう。暗くてホール全体がよく見えなかったが、恐らくお馴染みのホールにおける親しい仲間内のコンサートの楽しい始まりという印象を受けた。







    終わると熱心な拍手で迎えられていたが、映像は一端途切れて、アンスネスの続いて弾くバッハの協奏曲への語りが簡単にあって、静かに始まるピッチカートに乗って独奏ピアノによるモノローグが始まった。まるで呟くようなピアノで一音一音が語られるように弾かれた透明感の溢れるバッハならではの美しい曲。このラルゴは彼が11歳の時に初めてオーケストラと一緒に弾いた曲だそうだ。ピッチカートの柔らかく弾むような静かな伴奏も美しく、心に滲みるようなピアノの音が響いていた。そして続くプレストは、夢見心地から突然冷めたように、速いテンポで踊るような曲がオーケストラで広がり、ピアノがそれを追いかけるように激しく動き出した。バッハのクラヴィーア協奏曲第5番ヘ短調の第二楽章ラルゴと続く第三楽章のプレストであった。アンスネスがスイングしながら弾くピアノとオーケストラとがぴったりと合って、チェンバロで聴くよりもアンスネスのようにピアノで聴いた方が音色が明快で楽しく聞こえていた。この曲も彼に寛ぎを与える昔からの大切にしている曲であり、バッハにしては、いろいろな編曲で聴き慣れた親しみやすい曲として、仲間内のコンサートに相応しいと取り上げたものと思われた。



    第三曲目は、ピアノ協奏曲第9番変ホ長調K.271より第三楽章であった。この曲はロンドと書かれたプレストの楽章であるが、形式はロンド形式の中間部に何とも美しいメヌエットを挟んだ大ロンド形式で作曲されている。最初は独奏ピアノによる軽快なロンド主題でプレストで始まるが、ソロピアノが34小節も続き、それ以降はオーケストラを従えて、早いパッセージが続いていた。アンスネスは実に速いテンポで軽やかに一気に弾き進み、後半の美しいパッセージもなめらかに粒ぞろいに弾かれていた。続いて右手と左手が交錯する主題がピアノソロで早いテンポで始まりオーケストラとも協奏されていくが、終わりに短い第一のアインガングが入り一呼吸した。そして、独奏ピアノによるロンド主題が始めと同じスタイルで始まった。オーケストラとピアノで早いテンポでロンド主題が展開されて終息したところで、突然、ゆっくりとしたメヌエットが始まった。これが何とカンタービレの美しいメヌエットで、美しい主題がアンスネスの独奏ピアノで息をのむように流れ出し、やがてピッチカートのオーケストラを従えてゆっくりとピアノが進行するが、このメヌエットではピアノが変奏曲のように弾かれて、しばしの安らぎのように表情豊かに響いていた。ここでも一区切りを示すような短い第二のアインガンクが弾かれてから、再び最初のロンド主題に戻っていたが、ここでもアンスネスのピアノが良く動き回ってフイナーレを盛り上げてからさり気なく終息していた。
   この曲も中間部にハッとする格別に美しいメヌエットがあって、疾走するロンドとの実に鮮やかな対照の妙があり、恐らく彼の最も得意とする弾き慣れた十八番の曲に相違なく、単独で取り上げても格好が付く軽快なロンドであった。



    続いてこのコンサートでは、ピアノ協奏曲第20番ニ短調K.466の第一楽章が直ちに開始されていた。喘ぐような不安な情調を示す第一主題が弦全体のシンコペーションのリズムで静かに始まるが、何とアンスネスは初めからピアノに座って両手で指揮をしていたが、途中からは起ち上がると、オーボエとフルートが美しい副主題を奏でだし、オーケストラは淀みなく進行し、テインパニーやトランペットも力強く響いて盛り上がりを見せてから提示部が終了していた。そして独奏ピアノの美しい明快なアインガングがゆっくりと始まる。アンスネスはこの主題を丁寧にクリアに弾き進み、続いて冒頭の重々しい第一主題を勢いよく弾き始め、不気味なリズムに支えられてピアノが細やかなパッセージで鍵盤上を駆けだした。続く副主題ではオーボエにピアノが美しく答えて繰り返し、やがて独奏ピアノが晴れやかな第二主題を初めて弾き始める。そしてピアノソロから木管に受けつがれてから、独奏ピアノは軽快に走り出し、技巧的なパッセージを繰り返しながら進行していた。アンスネスのピアノはしっかりと弾かれておりオーケストラとも良く馴染んで明快であった。展開部ではアインガングの主題に始まり、第一主題の冒頭部が独奏ピアノにより力強く展開され盛り上がってから、再現部へと突入していた。再現部ではアンスネスのペースで、終始、独奏ピアノが軽快なパッセージを示しつつオーケストラを従えて一気に進んおり、第二主題のピアノと木管の対話がことさら美しく響いていた。カデンツアはいつものベートーヴェンのものを弾いており、続くコーダへと進んで、力強い響きを見せてから静かにこの楽章を閉じていた。



   映像が一端途切れてアンスネスが一言、この第二楽章のロマンスについて語ってから、独奏ピアノが美しく始まった。アンスネスはこの甘いロマンスを淡々として弾き進み、オーケストラに移っても早めのテンポで淡々と進んでいた。やがて第二主題が独奏ピアノで現れるが、アンスネスはここでも甘えずしかし一音一音丁寧に弾いており、繰り返し調になってから軽く装飾を付けて変化を見せていた。一転して中間部の一撃で始まる独奏ピアノによる嵐の部分では、木管の巧みな伴奏で独奏ピアノが鍵盤上を駆けめぐるが、映像では見事なピアノ技巧の見せ場になっており、迫力あるピアノが捉えられていた。嵐が治まって第一部の再現が始まると再び独奏ピアノは淡々としたペースに戻り、静かに終結していた。アンスネスの演奏は、楽しく美しいピアノの世界を感じさせていたが、ここで拍手や歓声が起こるのは意外に感じさせた。
   フィナーレ楽章がなく、途中で途切れたような印象を受けたコンサートで、何となく不自然な終わり方に感じたが、これに拍手とアンコールを加えたりすれば、上手く収まるのであろうと思われた。しかし、今回のコンサートは、あくまでも多楽章の一貫した曲を聴くのではなく、楽章単位で一曲一曲聴くように仕組まれたコンサートであるので、やむを得ないと思われた。



アンスネスは、このHPでは二度目の登場で、 最初のDVDは、メスト指揮クリーブランド響とのカーネギー・ライブ(9-12-1)で、この時にはピアノ協奏曲第17番ト長調K.453を弾いていたが、センスに溢れた正統的なしっかりしたピアニストであるという印象を持っていた。今回図らずも、彼のホームグラウンドで、彼を取り巻くファンたちと、彼のお得意のモーツァルトとバッハの名曲を、リラックスして演奏する姿を見て、とても好ましいピアニストでアルト確信を持つようになった。
     終わりに、このDVDの中に挟まれていた記名入りの解説には、このDVDの成り立ちについて次のような言葉が英文で紹介されていたので、その一部を翻訳しておこう。

「2004年9月末にアンスネスが昔の郵便局跡の建物で行われたコンサートで、彼はモーツァルトのピアノ協奏曲第9番変ホ長調K.271と第18番変ロ長調K.456を弾き振りし録音していたが、このコンサートは実に風変わりなコンサートであった。この印象的な古い建物の内部には本物の大理石の柱が残されており、沢山のビデオカメラと照明器具に囲まれ、直ぐ傍に多くの親しい聴衆たちに囲まれて、ピアニストもオーケストラも、この普通でない環境下で、優れた仕事をしていた。実際、アンスネスは聴衆に語りかけ、同時にオーケストラの指揮をしており、さらに彼の見事なカデンツアを聞かされて、まるでジャズクラブで即興演奏を聴いているような、明らかに風変わりなクラシック・コンサートであった。 アンスネスは、モーツァルト自身が、彼のオリジナルの協奏曲から勝手に好きな楽章を取りだして、それを次から次へとこのDVDのように弾きこなすことを認めているという。モーツァルトの時代のコンサートでは、余り形式にはこだわらず、もし聴衆が好むなら、一つの楽章を繰り返して演奏することも珍しくなかったという。アンスネスは彼の通常のコンサートでも、彼を讃える雰囲気を楽しみながら、多少、羽目を外して聴衆たちと一緒に彼の好きな曲を楽しんでいたようだ。




    アンスネスがこの古い郵便局の会場で二つのコンサートを実施したのを見て、来年もこのコンサートやって、是非、録画しようと考えたのは、EMIのノルウエーの制作マネージャーだったエスペン・スカウ(Espen Dyring Skau)だった。彼はモーツァルトの音楽が、アンスネスの直ぐ傍で、しかも彼のお好みの楽章を選んで聴くと、何と魅力的に聞こえるかを発見し、より多くの人にアンスネスを楽しんでもらおうと考えたのだった。    スカウは、これまではジャズのポップアーテイストたちを担当していたが、アンスネスの宣伝にもなると、ロックスターたちがやっているようなPR番組を企画した。スカウはアンスネスのテレビ番組用のコンサートを行って、その演奏がノルウエー中のガソリンスタンドでも、どこのレコードショップでも聴けるようにした。すなわち、2003年に収録したピアノ協奏曲変ロ長調K.456の第三楽章の抜粋をTVコマーシャル一部としてリリースしたところ、大成功となり、その年の末には、アンスネスとノルウエー室内楽団の録音は5倍も売れて、その筋の国際的な評価を高め、2004年のニューヨーク・タイムズ誌の最優秀録音の一つにまでなるほどであった。その結果、彼の古い郵便局での演奏からその雰囲気を良く伝えるものを編集したものがこのDVDである。」

   このような楽章単位のコンサートは珍しいが、良い曲と良い演奏がセットになったジャズクラブのような仲間うち同士のコンサートであったので、自由に曲目が選定され、寛ぎながら演奏を楽しめる素晴らしいライブであった。アンスネスにはピアノ協奏曲の全曲演奏を、是非、心掛けて欲しいと感じさせられた。

(以上)(2014/01/15)


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